腎機能検査の種類と基準値
腎機能検査は、腎臓の健康状態を評価するための重要な医学的検査です。腎臓は体内の老廃物を排出し、水分やミネラルのバランスを調整する重要な臓器であり、その機能低下は全身に影響を及ぼします。腎機能検査は主に血液検査と尿検査の2つに大別され、それぞれが腎臓の異なる側面を評価します。
腎機能検査における血液検査の種類と意義
血液検査は腎機能を評価する上で最も基本的な検査方法です。主な検査項目には以下のようなものがあります。
- クレアチニン:筋肉のエネルギー代謝の最終産物で、腎臓から排泄されます。腎機能が低下すると血中濃度が上昇します。
- 基準値:男性 0.6〜1.2mg/dL、女性 0.5〜1.0mg/dL
- 注意点:筋肉量の多い人は高値になることがあり、高齢者や筋肉量の少ない人では腎機能が低下していても正常範囲内に見えることがあります。
- 血中尿素窒素(BUN):タンパク質代謝の最終産物で、腎臓から排泄されます。
- 基準値:8〜20mg/dL
- 注意点:高タンパク食、脱水状態、消化管出血などでも上昇することがあります。
- eGFR(推算糸球体濾過量):クレアチニン値から計算される腎機能の指標です。
- 基準値:90mL/分/1.73m²以上が正常
- ステージ分類。
- G1:≧90(正常または高値)
- G2:60-89(軽度低下)
- G3a:45-59(軽度〜中等度低下)
- G3b:30-44(中等度〜高度低下)
- G4:15-29(高度低下)
- G5:<15(末期腎不全)
- シスタチンC:全身の有核細胞から産生される低分子タンパク質で、筋肉量の影響を受けにくい腎機能マーカーです。
- 基準値:0.5〜0.9mg/L
- 特徴:高齢者や筋肉量の少ない人の腎機能評価に有用です。
腎機能を評価する尿検査の項目と基準値
尿検査は腎臓の濾過機能や尿細管機能を評価するために重要です。主な検査項目には以下のようなものがあります。
- 尿蛋白:健康な腎臓ではタンパク質はほとんど尿中に排泄されません。
- 基準値:陰性(−)
- 意義:糸球体の濾過機能障害を示唆し、腎炎やネフローゼ症候群などで陽性になります。
- 尿中アルブミン:微量のタンパク質漏出を検出できる鋭敏な検査です。
- 基準値:30mg/日未満
- 意義:糖尿病性腎症の早期発見に特に有用です。
- 尿潜血:尿中に血液が混入しているかを調べます。
- 基準値:陰性(−)
- 意義:IgA腎症などの糸球体腎炎で陽性になることが多いです。
- 尿中NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ):尿細管障害の指標です。
- 基準値:〜10 U/L
- 特徴:尿細管障害の早期発見に有用ですが、日内変動があります。
- 尿中β2マイクログロブリン:低分子量蛋白で、尿細管機能を評価します。
- 基準値:230μg/L以下
- 意義:近位尿細管障害で上昇します。
腎機能検査のクレアチニン・クリアランスとeGFRの違い
腎機能を評価する上で重要な2つの指標、クレアチニン・クリアランス(Ccr)とeGFRの違いを理解することは重要です。
クレアチニン・クリアランス(Ccr)。
- 定義:単位時間あたりに腎臓がクレアチニンを除去する血漿量を表します。
- 測定方法:24時間(または2時間)蓄尿と血液検査が必要です。
- 計算式:Ccr = (尿中クレアチニン濃度 × 尿量) ÷ (血中クレアチニン濃度 × 時間)
- 特徴:実測値であり、より正確ですが、蓄尿が必要で患者の負担が大きいです。
eGFR(推算糸球体濾過量)。
- 定義:血清クレアチニン値から計算される推定値です。
- 計算式:eGFR = 194 × 血清クレアチニン^(-1.094) × 年齢^(-0.287) × 0.739(女性の場合)
- 特徴。
- 採血のみで済み、患者負担が少ない
- 年齢・性別による筋肉量の違いを考慮している
- 日本人向けに調整された計算式がある
- あくまで推算値であり、個人差がある
両者の使い分け。
- スクリーニングや経過観察にはeGFRが便利
- 正確な腎機能評価や薬剤投与量決定にはCcrが有用
- 高齢者や筋肉量の少ない人ではeGFRの方が実態に近いことがある
日本腎臓学会のガイドラインでは、CKDの診断にはeGFRを用いることが推奨されています
腎機能検査における電解質検査の重要性
腎臓は体内の電解質バランスを調整する重要な役割を担っているため、電解質検査も腎機能評価の重要な一部です。
- ナトリウム(Na)
- カリウム(K)
- 基準値:3.5〜5.0mEq/L
- 意義:腎機能が低下すると排泄が減少し、高K血症を起こしやすくなります。
- 危険性:高K血症は不整脈や心停止の原因となり得るため、特に注意が必要です。
- カルシウム(Ca)・リン(P)
- 基準値:Ca 8.5〜10.5mg/dL、P 2.5〜4.5mg/dL
- 意義:腎機能低下に伴い、活性型ビタミンDの産生低下によりCa低下、P排泄低下によりP上昇が起こります。
- 合併症:骨ミネラル代謝異常(CKDMBDgaidoraintaishaijounoshinryou/”>CKD-MBD)の原因となります。
- 重炭酸イオン(HCO3-)
- 基準値:22〜26mEq/L
- 意義:腎機能低下に伴い、代謝性アシドーシスが生じると低下します。
これらの電解質バランスの異常は、腎機能障害の進行度を反映するだけでなく、治療方針の決定にも重要な情報を提供します。特に、腎機能が低下している患者では、電解質異常が生命を脅かす合併症を引き起こす可能性があるため、定期的なモニタリングが必要です。
日本透析医学会のガイドラインでは、CKD患者の電解質管理の重要性が強調されています
腎機能検査の結果に影響を与える生活習慣因子
腎機能検査の結果は、検査前の生活習慣や身体状態によって変動することがあります。正確な評価のためには、これらの影響因子を理解しておくことが重要です。
- 食事の影響
- 高タンパク食:BUN値が一時的に上昇することがあります。検査前日の夕食は高タンパク食を避けることが望ましいでしょう。
- 塩分摂取:過剰な塩分摂取は尿中ナトリウム排泄量に影響します。
- 水分摂取:脱水状態ではBUNやクレアチニンが見かけ上高値になることがあります。
- 運動の影響
- 激しい運動後:筋肉からのクレアチニン放出が増加し、一時的に血清クレアチニン値が上昇することがあります。
- 筋肉量:筋肉量の多い人(アスリートなど)は、クレアチニン値が基準値より高くなる傾向があります。
- 薬剤の影響
- 検査前の状態
- 採血時間:クレアチニンには日内変動があり、午前中が最も低値となる傾向があります。
- 尿検査のタイミング:早朝第一尿が最も濃縮されており、蛋白尿などの検出に適しています。
- 女性の場合:月経期間中は尿潜血が偽陽性になることがあります。
- その他の影響因子
検査前の注意点。
- 検査前12時間は過度な運動を避ける
- 検査前日は極端な食事(高タンパク、高塩分)を避ける
- 適切な水分摂取を心がける
- 服用中の薬剤について医師に相談する
腎機能検査の結果を正確に評価するためには、これらの影響因子を考慮した上で、経時的な変化を追跡することが重要です。単回の検査結果だけでなく、定期的な検査による推移を見ることで、より正確な腎機能評価が可能になります。
腎機能検査は、腎臓の健康状態を評価するための重要なツールです。血液検査と尿検査を組み合わせることで、腎臓の様々な側面を総合的に評価することができます。検査結果の解釈には、年齢、性別、筋肉量、基礎疾患などの個人差を考慮する必要があります。また、定期的な検査による経時的変化の観察が、腎機能の正確な評価につながります。腎機能低下の早期発見と適切な管理は、慢性腎臓病の進行を遅らせ、合併症を予防するために非常に重要です。