アロマターゼと副作用の関係性と対処法

アロマターゼ阻害薬の副作用と対処法

アロマターゼ阻害薬の主な副作用
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ホットフラッシュ・更年期様症状

エストロゲン減少により体温調節機能が低下し、顔面や全身の熱感、発汗が出現

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骨粗鬆症・関節痛

エストロゲンの骨保護作用の消失により骨密度低下と関節症状が発現

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重篤な副作用

血栓症、肝機能障害、心血管疾患リスクの増加など生命に関わる合併症

アロマターゼ阻害薬による更年期様症状の発現機序

アロマターゼ阻害薬の作用により体内のエストロゲン濃度が著明に低下し、更年期障害と類似した症状が発現する。最も頻度が高い症状はホットフラッシュ(ほてり・多汗)で、発生頻度は4~16%とされている。

参考)https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/010/pamph/breast_cancer/090/index.html

エストロゲンは体温調節中枢である視床下部の機能に深く関与しており、その減少により体温調節機能が障害される。患者は突然の顔面紅潮、全身の熱感、大量発汗を経験し、これらの症状は日中・夜間を問わず発現する。

参考)https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/pdf/AI.pdf

通常、アロマターゼ阻害薬開始後数ヶ月を経過すると症状は次第に軽減する傾向にあるため、軽度の症状であれば経過観察で対応可能である。しかし症状が強い場合は、薬剤変更や対症療法の検討が必要となる。

参考)https://www.nyugan-infonavi.jp/interview/osakanationalhospital_3.html

アロマターゼ阻害薬の骨関節系副作用の病態

アロマターゼ阻害薬治療における骨関節系副作用は、エストロゲンの骨保護作用の消失が主要な機序である。エストロゲンは破骨細胞の活性抑制と骨芽細胞の活性促進により骨密度を維持する重要な役割を担っている。

参考)https://www.minatoyokohama.com/blog/aromatase-inhibitor/

関節痛は1~3%の頻度で発現し、特に朝のこわばりとして認められることが多い。症状は指関節に最も多く出現し、肩、肘、膝関節にも及ぶ。指関節では「ばね指」と呼ばれる関節ロック現象が生じることもある。

参考)https://www.yokohama.jrc.or.jp/breast-surgery/breast-info/treatment/hormone-03.html

骨粗鬆症については、治療開始前の骨密度測定と治療中の年1回の定期的な骨密度評価が推奨される。骨密度低下が認められた場合は、ビスフォスフォネート系薬剤などの骨吸収抑制薬の併用を検討する。

アロマターゼ阻害薬の重篤な副作用とその対策

アロマターゼ阻害薬には生命に関わる重篤な副作用が報告されており、医療従事者による注意深い監視が必要である。主要な重篤副作用として、血栓症・塞栓症、肝機能障害・黄疸、心血管疾患が挙げられる。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065329.pdf

血栓症・塞栓症は頻度不明ながら、肺塞栓症脳梗塞、動脈血栓症、血栓性静脈炎、心筋梗塞として発現する可能性がある。特に長時間の同一姿勢や脱水は血栓形成リスクを高めるため、患者への適切な指導が重要である。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065315.pdf

肝機能障害については、AST・ALT・ALP・γ-GTPの著明な上昇を伴う肝機能障害や黄疸が報告されている。定期的な肝機能検査の実施と、異常値検出時の迅速な対応が求められる。

参考)https://labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=15746

アロマターゼ阻害薬の心血管系副作用の最新知見

近年の研究により、アロマターゼ阻害薬治療が心血管系に与える影響が明らかになってきている。2016年のサンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された研究では、アロマターゼ阻害薬投与患者において血管内皮機能の低下が確認された。

参考)https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-53353.html

アロマターゼ阻害薬投与群では、コントロール群と比較して収縮期血圧の上昇(128.3 mmHg vs 114.5 mmHg)、炎症マーカーであるD-ダイマー値の有意な上昇(21,135ng/ml vs 6,365ng/ml)が観察された。また、血管弾性の指標であるlarge-artery elasticity(12.9 vs 14.6 ml/mmHg)とsmall-artery elasticity(5.2 vs 7.0 ml/mmHg)の低下も認められた。
エストロゲンは本来心血管保護作用を有しており、その減少により冠動脈アテローム性硬化が促進される可能性が示唆されている。早期乳がん女性の多くは、乳がんよりも心血管疾患による死亡リスクが高いため、長期的な心血管系監視の重要性が強調されている。

参考)https://www.cancercardio.net/news_from_ecancer/0041/index.html

アロマターゼ阻害薬の薬剤選択と個別化医療における考慮点

現在臨床使用されているアロマターゼ阻害薬には、非ステロイド系(アナストロゾールレトロゾール)とステロイド系(エキセメスタン)があり、それぞれ異なる作用特性を有している。非ステロイド系は競合的阻害作用により用量依存性の効果を示すのに対し、ステロイド系は不可逆的結合により恒久的な阻害作用を発現する。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo1958/50/2/50_2_118/_pdf/-char/ja

最近のFATA-GIM3試験では、3つのアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール)間で有効性に差がないことが確認されており、薬剤選択は患者の副作用耐性、経済的事情、個人的嗜好を考慮して決定するべきとされている。

参考)https://oncolo.jp/news/180418y01

副作用発現時の対応として、同じアロマターゼ阻害薬間での薬剤変更や、閉経前女性では副作用プロファイルの異なるタモキシフェンへの変更も選択肢となる。特に関節痛については、症状が強い場合は整形外科での精査やステロイド注射による局所治療も考慮される。

参考)https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g7/q53/

国立がん研究センター中央病院 – アロマターゼ阻害薬による副作用の詳細情報と患者向け説明資料
日本乳癌学会診療ガイドライン – 内分泌療法によるホットフラッシュ・関節痛の対策に関する最新推奨事項
がんサポート情報センター – アロマターゼ阻害薬による心血管系副作用に関する最新研究報告