C-ANCAと血管炎の関連性
C-ANCAの基本的な定義と特徴
C-ANCA(細胞質性抗好中球細胞質抗体)は、好中球の細胞質内に存在する酵素に対する自己抗体です。間接蛍光抗体法による染色パターンで、細胞質がびまん性顆粒状に染まることが特徴です。C-ANCAの主要な対応抗原はプロテイナーゼ3(PR3)であることが判明しており、現在ではPR3-ANCAとも呼ばれています。
C-ANCAは1982年にDaviesらによって初めて報告され、分節状壊死性糸球体腎炎の患者血清中に検出されました。その後の研究により、特定の血管炎疾患との強い関連性が明らかになり、現在では診断マーカーとして広く活用されています。
C-ANCAの検査は、主にFEIA法(蛍光酵素免疫測定法)で行われ、基準値は2.0 IU/mL未満とされています。2.0以上3.0以下は判定保留(±)、3.0を超える場合は陽性(+)と判定されます。検査には血清0.3mLが必要で、冷蔵保存が推奨されています。
C-ANCAとP-ANCAの違いと臨床的意義
ANCA(抗好中球細胞質抗体)には、染色パターンによりC-ANCA(細胞質型)とP-ANCA(核周囲型)の2種類があります。この違いは単なる染色パターンの違いだけでなく、対応抗原や関連疾患にも重要な違いがあります。
C-ANCAの主な対応抗原はプロテイナーゼ3(PR3)であるのに対し、P-ANCAの主な対応抗原はミエロペルオキシダーゼ(MPO)です。このため、それぞれPR3-ANCA、MPO-ANCAとも呼ばれています。
臨床的意義としては、C-ANCA(PR3-ANCA)は多発血管炎性肉芽腫症(旧名:ウェゲナー肉芽腫症)の80~90%に検出され、疾患活動性を反映するマーカーとして有用です。一方、P-ANCA(MPO-ANCA)は顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧名:チャーグ・ストラウス症候群)に多く認められます。
この違いは診断の際に重要な手がかりとなりますが、両方とも陰性の症例も存在し、また他の疾患でもANCAが陽性になることがあるため、臨床症状や他の検査結果と合わせた総合的な判断が必要です。
C-ANCAが関連するANCA関連血管炎の種類
ANCA関連血管炎(AAV)は、小型から中型の血管に炎症を起こす自己免疫疾患の一群です。C-ANCAが関連する主なANCA関連血管炎には以下の種類があります。
- 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)。
- 旧名:ウェゲナー肉芽腫症
- C-ANCA(PR3-ANCA)陽性率:80~90%
- 特徴:上気道・肺・腎臓を主に侵す肉芽腫性血管炎
- 症状:鼻出血、鞍鼻、肺結節、糸球体腎炎など
- 顕微鏡的多発血管炎(MPA)。
- 主にP-ANCA(MPO-ANCA)が陽性だが、一部でC-ANCAも陽性
- 特徴:肺腎症候群を呈することが多い
- 症状:急速進行性糸球体腎炎、肺胞出血など
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)。
これらの疾患は2012年に名称が変更され、病態生理学的特徴に基づいた名称となりました。C-ANCAは特に多発血管炎性肉芽腫症(GPA)との関連が強く、診断基準の重要な要素となっています。また、C-ANCAの値は疾患活動性と相関することが多く、治療効果の判定や再燃の予測にも有用です。
C-ANCA検査の臨床応用と測定方法
C-ANCA検査は、ANCA関連血管炎の診断や経過観察において重要な役割を果たしています。臨床現場での応用と具体的な測定方法について解説します。
検査の適応(Gating Strategy)
2017年の国際合意によると、以下の臨床状況ではANCA検査が推奨されています。
- 糸球体腎炎(特に急速進行性糸球体腎炎)
- 肺胞出血(特に肺腎症候群)
- 全身症状を伴う皮膚血管炎
- 多発性肺結節
- 上気道の気道閉塞性疾患
- 長期間の副鼻腔炎または中耳炎
- 多発性単神経炎あるいはその他の末梢神経障害
測定方法
C-ANCAの測定には主に2つの方法があります。
- 間接蛍光抗体法(IIF)。
- 好中球を固定したスライドに患者血清を反応させる
- C-ANCAは細胞質がびまん性顆粒状に染色される
- スクリーニング検査として有用
- 酵素免疫測定法(ELISA/FEIA法)。
- 精製PR3蛋白を抗原として用いる
- 血中のIgGクラスのPR3-ANCAを定量的に測定
- 基準値:2.0 IU/mL未満(陰性)
- 判定基準:2.0未満(−)、2.0以上3.0以下(±)、3.0超(+)
検査結果の解釈
C-ANCA検査の結果は、臨床症状や他の検査結果と合わせて総合的に判断する必要があります。陽性結果は多発血管炎性肉芽腫症(GPA)を強く示唆しますが、確定診断には組織生検などの追加検査が必要です。また、C-ANCAの値は疾患活動性と相関することが多く、治療効果の判定や再燃の予測にも有用です。
検査の所要日数は2~3日程度で、保険点数は252点(判断料:免疫学的検査144点)となっています。
C-ANCAと感染性心内膜炎の意外な関連性
C-ANCAは通常ANCA関連血管炎との関連で議論されますが、近年の研究では感染性心内膜炎(IE)との意外な関連性が明らかになっています。この関連性は臨床診断において重要な意味を持ちます。
感染性心内膜炎におけるC-ANCA陽性例
感染性心内膜炎、特に亜急性細菌性心内膜炎の患者において、C-ANCA(PR3-ANCA)が陽性になることがあります。2020年に報告された症例では、Streptococcus cristatus感染による心内膜炎患者がC-ANCA/PR3-ANCA陽性を示し、免疫複合体性糸球体腎炎を合併していました。
診断的混乱と治療の課題
この現象は臨床的に重要な意味を持ちます。なぜなら、ANCA関連血管炎と感染性心内膜炎は治療方針が大きく異なるからです。
誤診断による不適切な免疫抑制療法は、感染性心内膜炎患者の状態を悪化させる可能性があります。
鑑別のポイント
以下の特徴は感染性心内膜炎を疑うきっかけとなります。
57歳の男性患者の症例報告では、僧帽弁逸脱があり、腎不全、片側性難聴、めまい、全身倦怠感、溶血性貧血、血小板減少などの症状を呈し、C-ANCA/PR3-ANCA陽性、混合型クリオグロブリン血症、補体C3低下が認められました。当初はANCA関連血管炎が疑われましたが、最終的にStreptococcus cristatus感染による心内膜炎と診断され、抗生物質治療と弁修復手術により改善しました。
この症例は、C-ANCA陽性患者の診断において、感染性心内膜炎も鑑別診断に含めることの重要性を示しています。特に、弁膜症の既往がある患者では、血液培養や心エコー検査を積極的に行うべきでしょう。
C-ANCAの病態生理学とNETs-ANCA悪循環
C-ANCAを含むANCAの病態生理学的メカニズムについては、近年「NETs-ANCA悪循環」という概念が注目されています。これはANCA関連血管炎の発症・進展メカニズムを説明する重要な理論です。
NETsとは
NETosis(Neutrophil Extracellular Traps)は、好中球が自身のDNAと抗菌タンパク質を放出して網目状の構造を形成する現象です。本来は病原体を捕捉する防御機構ですが、過剰に起こると自己免疫反応を引き起こす可能性があります。
NETs-ANCA悪循環のメカニズム
ANCAはこのNETsの放出を過剰に促進することで血管炎を引き起こすと考えられています。その具体的なプロセスは以下の通りです。
- 感染などの誘因により炎症性サイトカイン(TNFなど)やアナフィラトキシン(C5a)が産生される
- 炎症性サイトカインが好中球を刺激し、ANCAの対応抗原(PR3やMPO)を細胞膜表面に表出させる
- ANCAが好中球に結合し、好中球の過剰な活性化を誘導する
- 活性化された好中球からNETsや活性酸素種が放出され、血管内皮細胞が障害される
- 放出されたNETsがさらにANCAの産生を促進する
- 3~5のサイクルが繰り返される(悪循環)
この悪循環は、ANCA関連血管炎の持続的な炎症と組織障害を説明するモデルとして広く受け入れられています。
治療への応用
NETs-ANCA悪循環の理解は、新たな治療アプローチの開発につながっています。例えば。
- NETosis阻害薬の開発
- 補体系(特にC5a)を標的とした治療
- サイトカインシグナル伝達阻害薬
従来のステロイドや免疫抑制剤による非特異的な免疫抑制に加え、より特異的な分子標的治療の開発が進められています。例えば、リツキシマブ(抗CD20抗体)はB細胞を標的としてANCA産生を抑制し、ANCA関連血管炎の治療に用いられています。
C-ANCAの病態生理学的理解は、診断だけでなく治療戦略の開発にも重要な役割を果たしています。NETs-ANCA悪循環の詳細な解明により、より効果的で副作用の少ない治療法の開発が期待されています。
以上の内容から、C-ANCAは単なる診断マーカーではなく、ANCA関連血管炎の病態形成に直接関与する重要な因子であることがわかります。その測定と解釈は、適切な診断と治療方針の決定に不可欠です。
C-ANCA陽性患者の入院率と予後因子
ANCA関連血管炎(AAV)患者、特にC-ANCA(PR3-ANCA)陽性患者の入院率や予後に関する研究データは、臨床管理において重要な指針となります。2023年に発表された大規模なイタリアの全国コホート研究のデータを中心に解説します。
入院率と特徴
ANCA関連血管炎患者の入院に関する主な特徴は以下の通りです。
- 635人のAAV患者(19.4%がMPA、34.6%がGPA、46.0%がEGPA)において、12年間の観察期間中に610件の入院が記録された
- 初回入院までの中央値期間は504日(25-75%IQR:95-1497日)
- 入院の19.8%は生命を脅かす状態によるもので、2.3%は死亡に至った
- 入院期間の中央値は8日(25-75%IQR:8-14日)
- 2018年の標準化入院率(SHR)は全AAVで1.14(95%CI:0.91-1.43)、MPAで1.13(0.68-1.76)、GPAで1.48(1.02-2.08)だった