頭蓋内圧基準値と測定方法
頭蓋内圧基準値の定義と正常範囲
頭蓋内圧の基準値は成人において5~15mmHgが正常範囲とされており、この値は脳実質(87%)、脳血液(9%)、髄液(4%)の3つの要素が頭蓋内で均衡を保つことで維持されています。頭蓋内圧が15mmHg以上の状態が持続する場合、頭蓋内圧亢進と診断され、20mmHgを超えると治療介入が必要となります。別の表現では、頭蓋内圧の正常値は8~15mmHg(10~15cmH2O)とされ、常に30mmHgを超えるようになると、さらなる圧上昇を招く危険な病態に陥ります。
頭蓋内圧の測定において、健常人では100~180mmH2O(≒8~13mmHg)に維持される仕組みになっており、この圧力は外気圧に対して一定に保たれています。頭蓋内圧の基準値を理解することは、脳損傷や脳血管障害の患者管理において極めて重要です。特に意識レベルがGlasgow Coma Scale(GCS)8点以下の最重症例では、頭蓋内圧センサーの留置を行うべきとされており、適切なモニタリングが転帰を左右します。
臨床現場では、頭蓋内圧を20mmHg以下に保ち、脳灌流圧を60mmHg以上にコントロールすることが治療目標となります。転帰を決定する頭蓋内圧の閾値は35mmHgといわれ、この値を超えると有意に予後が悪化するため、早期発見と適切な介入が求められます。
参考)集中治療が必要な患者のモニタリングおよび検査 – 21. 救…
頭蓋内圧測定方法の種類と特徴
頭蓋内圧の測定方法には主に脳室内圧測定法と硬膜外圧測定法の2種類があり、それぞれ異なる特徴と適応があります。脳室ドレナージ(EVD)は最も有用な方法とされ、頭蓋骨を経由してカテーテルを脳室に位置させることで、頭蓋内圧のモニタリングと同時に髄液のドレナージが可能です。この方法は閉塞が起こりにくく、局所麻酔で簡単に施行できる利点がありますが、感染の危険性があるため通常7~10日間の留置が限度となります。
参考)https://www.umin.ac.jp/kagoshima/jgopher/8/N0870.txt
硬膜外圧測定法は、頭蓋骨上にバーホールを設けて圧トランスデューサーを埋め込む方法で、感染の機会が少ないという利点があります。ただし、高価な機械を必要とし、圧が不正確となることがある欠点も指摘されています。脳室ドレナージシステムでは、サイフォンの原理を利用して過剰な髄液を排除し、適切な頭蓋内圧にコントロールすることが可能です。
参考)https://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1985/s6009036.pdf
頭蓋内圧測定における基準値と正常圧の詳細について
測定時には通常、外耳孔をゼロ点として高さを調節し、ベッドの高さやベッドアップの角度変更は設定圧に影響を与えるため厳密な管理が必要です。頭蓋内圧モニタリングは非開放性重度頭部損傷の患者には標準的であり、時に水頭症や特発性頭蓋内圧亢進症の症例にも使用されます。
参考)脳室ドレナージ|「部位別」ドレーン管理はここを見る!①
頭蓋内圧と脳灌流圧の関係性
脳灌流圧(CPP)は平均動脈血圧(MAP)から頭蓋内圧(ICP)を減じた値として計算され、脳血流量を調節する重要な指標です。脳灌流圧の計算式は「CPP = MAP – ICP」で表され、頭蓋内圧が上昇すると脳灌流圧は低下し、脳虚血を引き起こす危険性があります。一般的に脳灌流圧は60mmHgを上回るよう維持されるべきであり、50~70mmHgを目安に管理することが推奨されています。
参考)頭蓋内圧亢進の看護|原因・メカニズム、観察項目、ケア、注意点…
脳灌流圧が成人で55mmHg以下、小児で43~45mmHg以下になると有意に転帰が悪化することが知られており、適切な管理が患者の予後を大きく左右します。頭蓋内圧が亢進すると灌流圧が低下し脳血流が減少し、さらに亢進して血圧よりも高くなった場合には血液が頭蓋内に入らなくなります。このため頭蓋内圧亢進時には、脳灌流圧の低下を回避して60~70mmHg以上を維持することが目標となります。
頭蓋内圧亢進の病態理解における基礎知識
臨床現場では、70mmHgを超えるとARDS(急性呼吸窮迫症候群)の発生増加のリスクとなるため、過度の脳灌流圧上昇も避ける必要があります。頭蓋内圧モニタリングは、頭蓋内圧を監視しながら脳灌流圧を最適化する目的で用いられ、日米の重症頭部外傷治療ガイドラインでもその重要性が指摘されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/36/5/36_626/_pdf
頭蓋内圧亢進の原因とメカニズム
頭蓋内圧亢進は、脳腫瘍、脳膿瘍、頭蓋内血腫といった頭蓋内占拠性病変や脳浮腫によって引き起こされ、病変の容積が増大すると頭蓋内圧に変動をもたらします。水頭症などによる髄液の通過・吸収障害、髄液の過剰産生、二酸化炭素分圧(PaCO2)上昇による血管拡張や脳静脈の閉塞などの頭蓋内血液量の増大によっても頭蓋内圧亢進が生じます。一定の範囲内であれば頭蓋内容積の変化に対して頭蓋内圧は大きく変動しませんが、調整できる範囲を超えるとわずかな容積の増加でも著しく亢進するようになります。
頭部外傷患者が死に至る最大の要因は、コントロール不能な頭蓋内圧亢進といわれており、出血性の脳血管障害においても頭蓋内圧亢進は死亡の原因となります。特発性頭蓋内圧亢進症では、脳から血液を排出する太い静脈(静脈洞)が細いために発症することが知られており、肥満女性に多く見られる傾向があります。頭蓋内圧亢進に続発して脳ヘルニアを認めると、呼吸停止や意識障害をきたし、救命困難な状態に陥る危険性があります。
参考)特発性頭蓋内圧亢進症 – 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 …
大後頭孔ヘルニアやテント切痕ヘルニアが生じた場合は、脳実質が脳幹部を圧迫し死に至るおそれがあるため、早期の診断と治療介入が極めて重要です。また、頭蓋内圧亢進の原因として、テトラサイクリン系抗菌薬やビタミンAなどの薬剤やビタミンの影響も報告されています。
参考)肥満女性に多い特発性頭蓋内圧亢進症:症状・原因・治療法を徹底…
頭蓋内圧低下症の症状と鑑別診断
頭蓋内圧低下症(低髄液圧症候群)は、脳脊髄液が硬膜の外に漏れだすことにより頭蓋内圧を維持できずに低下する病態で、起立性頭痛を特徴とします。主な症状は頭痛で、寝た状態から急に起き上がったときなどには悪化し、立っていると頭蓋内圧が維持できずに頭痛が生じるため寝た状態を好むようになります。その他の症状として、めまい、吐き気、全身倦怠感や脱力などが現れ、仕事中の事故やスポーツ外傷を負った後3時間以内にこれらの症状が出現することがあります。
参考)脳脊髄液減少(漏出)症
原因として、交通事故、スポーツ外傷、転倒などが挙げられ、特殊なケースとしては出産、腰椎穿刺検査、脱水などもあり、原因不明のこともしばしばあります。脳脊髄液の減少と頭蓋内圧の低下とは必ずしも一致せず、頭蓋内圧は必ず低いわけではないため、診断には注意が必要です。リザーバーを通して頭蓋内圧を測定する場合、正常な脳圧であれば10~15cmH2O程度となり、これ以上の脳圧であれば水頭症や腫瘍の再発により脳圧が上昇している可能性があります。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/4412/
頭蓋内圧低下症の診断では、起立性頭痛の特徴的なパターンと画像診断が重要であり、MRI検査で硬膜の造影効果や脳の下垂などの所見が認められることがあります。また、腰椎穿刺時の髄液圧測定では、患者の姿勢によって穿刺部位の圧力が変化するため、標準的な体位での測定が必要です。
頭蓋内圧モニタリングの臨床適応と管理目標
頭蓋内圧モニタリングは、Glasgow Coma Scale(GCS)8点以下の意識障害患者、低血圧(収縮期血圧<90mmHg)を伴う症例、正中偏位や脳槽消失などのCT所見がある患者に推奨されています。米国のガイドラインでは、GCS 8点以下でCTで脳挫傷、血腫、脳浮腫、脳ヘルニアのような所見がある場合にICP測定が推奨されており、国内外で同様の基準が採用されています。頭蓋内圧モニタリングが活用される最多の病態は頭部外傷であり、脳卒中や炎症・腫瘍に伴う脳腫脹例にも使用されています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12938
管理目標として、頭蓋内圧を20mmHg以下に保ち、脳灌流圧を60mmHg以上にコントロールすることが基本となります。治療では浸透圧利尿薬の投与を行い、難治性の頭蓋内圧上昇に対してはバルビツレート療法なども考慮されます。穿通性脳損傷などでは、GCS 9~13の中等症外傷性脳損傷であっても、ICPモニタリングを含めた神経集中治療を積極的に開始すべきとされています。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/3226/
集中治療におけるモニタリング方法の詳細
看護においては、20~30度ほどの頭部ギャッチアップを行い脳灌流を保つことが必要で、刺激を与えることで血圧を上昇させてしまう要因にもなるため丁寧なケアが求められます。管の屈曲や凝血により閉塞した場合、頭蓋内圧亢進症状が出現する場合があるため、カテーテルの不注意な抜去を防ぎ、排液の性状・量・拍動を経時的に観察記録することが重要です。創部を清潔に保ち感染防止に留意しながら、適切な頭蓋内圧管理を継続することが患者の予後改善につながります。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/1817/