象牙質知覚過敏症の症状と診断
象牙質知覚過敏症の典型的な症状
象牙質知覚過敏症は、知覚過敏への歯科医師の対応|公益社団法人神奈川県歯科医師会
最も特徴的な症状は、冷たい飲食物を摂取したときに生じる瞬間的な痛みですよ。冷水や氷を口に含んだ際にキーンとしみる感覚が数秒間続きますが、刺激がなくなれば速やかに痛みは消失します。この「一過性」という特徴が診断上非常に重要なポイントなんです。
温度刺激以外にも、チョコレートなどの甘いもの、レモンや酢などの酸っぱいもの、歯ブラシの毛先が当たる機械的刺激、さらには冷たい空気を吸い込んだときにも痛みを感じることがあります。痛みの程度は「少ししみる」程度から「ズキン」と痛むケースまで幅があり、重度になると息を吸っただけで痛みを感じる場合もあるんです。
参考)歯がしみる~原因と対処法~|公益社団法人神奈川県歯科医師会
大規模な疫学調査によると、成人の約3人に1人が象牙質知覚過敏症の症状を経験しており、特に30~40代では発症率のピークを迎えます。欧州7か国で実施された調査では、冷刺激に対して参加者の半数以上が知覚過敏症状を感じており、38~47歳の年齢層に多く見られました。
参考)象牙質知覚過敏のScience&Art-欧州7か国大規模疫学…
公益社団法人神奈川県歯科医師会 – 歯がしみる~原因と対処法~
歯科医師による象牙質知覚過敏症の症状と対処法の詳しい解説が掲載されています。
象牙質知覚過敏症の発症メカニズム
象牙質知覚過敏症の発症には、象牙質の露出と象牙細管の開口が深く関与しています。
参考)歯と医療の健康講話
歯の構造において、エナメル質やセメント質で覆われているべき象牙質が、何らかの原因で口腔内に露出することで知覚過敏が発症します。象牙質には歯髄からエナメル質に向かって無数の象牙細管が放射状に通っており、その内部には神経細胞の枝と象牙細管内組織液が満たされているんです。
参考)象牙質知覚過敏症
現在、最も広く受け入れられているのは動水力学説(Brännström理論)です。この理論によれば、象牙質表面が冷却されると象牙細管内の組織液が温度低下により収縮し、象牙細管内液の移動が生じます。この液体の移動が刺激となって、象牙質・歯髄境界付近に分布する感覚神経線維に活動電位が発生し、痛みとして知覚されるわけです。
参考)知覚過敏用の歯磨剤
興味深いことに、象牙質が露出したすべてのケースで知覚過敏が発症するわけではありません。心理的ストレスを引き金としたブラキシズム(歯ぎしりや噛み締め)が起きることで歯に強い力のストレスがかかり発症することが多く、原因がなければ症状は出ないという可逆的な側面も持っています。
象牙質知覚過敏症と歯髄炎の鑑別診断
臨床現場において、象牙質知覚過敏症と歯髄炎を正確に鑑別することは極めて重要です。
参考)https://medical-b.jp/c01-01-036/c01-01-036-search/?hospital=c01-01-036amp;slug=d00-k0380-01
象牙質知覚過敏症の診断基準として最も重要なのは、「疼痛が一過性で自発痛がない」という点です。刺激をした時だけ痛みを感じ、ほとんどの場合30秒以内に症状が消失するのが典型的なパターンなんですよ。
参考)知覚過敏の症状について
一方、歯髄炎では刺激が持続しなくても痛みが継続し、自発痛が出現することが特徴的です。冷たいものだけでなく温かいものでもしみる場合や、咬合時に痛みを生じる場合、耐えられない痛みが持続する場合は歯髄炎への移行を疑う必要があります。
診断プロセスでは、まず象牙質知覚過敏症が疑われる部位に対して様々な診査を行い、普段の食生活や歯ぎしりの有無などの生活習慣も詳しく聴取します。問診や視診、X線検査によって虫歯や歯周病など他の病変がないかを確認し、歯や神経、歯肉などに何も異常が見つからない場合にのみ象牙質知覚過敏症と診断されるんです。
参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/wp-od/wp-content/uploads/2019/07/sakura47.pdf
咬合時の痛みの有無も重要な鑑別点です。知覚過敏では噛んで痛くなることはないのに対し、歯髄炎では咬合痛を伴うことがあります。また、経時的に知覚過敏症から歯髄炎へと移行する場合も一定の割合で存在するため、継続的な観察が必要ですよ。
滋賀県立総合病院 – 象牙質知覚過敏症の診断と治療
象牙質知覚過敏症の診断プロセスと検査方法について詳しく解説されています。
象牙質知覚過敏症の原因と発症部位
象牙質知覚過敏症の原因は多岐にわたり、生活習慣病の一つとして捉えることができます。
原因分類 | 具体的な要因 | メカニズム |
---|---|---|
歯周病 | 歯肉の退縮 | エナメル質に覆われていない歯根面が露出 |
機械的摩耗 | 強すぎる歯磨き | エナメル質がすり減って象牙質が露出 |
咬耗 | 歯ぎしり・食いしばり | エナメル質の摩耗による象牙質露出 |
酸蝕 | 酸性飲食物の過剰摂取 | エナメル質の化学的溶解 |
歯科治療 | 歯の切削、ホワイトニング | 象牙質の露出や一時的な過敏化 |
最も頻度が高い発症部位は歯と歯茎の境目の部分であり、特に上顎犬歯と下顎前歯で発生率が高いとされています。大規模疫学調査では、頬側が最も一般的な発症部位でしたが、舌側および口蓋側で痛みを感じる患者も認められました。
参考)象牙質知覚過敏の Sciencehref=”https://academy.doctorbook.jp/events/3586″ target=”_blank”>https://academy.doctorbook.jp/events/3586amp;Art~欧州7か国大規模疫…
くさび状欠損(歯の根元に生じるくさび形の欠損)では象牙質知覚過敏症の発生率が特に高く、その約7割が症状を有していると報告されているんです。これは歯頸部に強い力が集中することでエナメル質が剥離し、象牙質が露出しやすいためですよ。
近年、健康ブームによる黒酢などの酸性飲食物の頻繁な摂取や、不適切な咬み合わせ、ストレス、歯ぎしりなどの生活習慣も影響しており、象牙質知覚過敏症は生活習慣病の一つとして考えられるようになりました。
参考)https://www.hotetsu.com/s/doc/irai2015_2_15.pdf
象牙質知覚過敏症の治療方法
象牙質知覚過敏症の治療は、症状の程度に応じて段階的にアプローチします。
参考)知覚過敏で歯医者受診を検討している人へ|治療法や費用・予防す…
軽度の場合、知覚過敏用の薬剤を塗布して象牙細管を封鎖する方法が第一選択となります。シュウ酸カリウムやフッ化物を主剤とする薬剤が用いられ、象牙細管内にシュウ酸カルシウムの結晶を形成して開口部を封鎖するんです。
参考)https://www.osakadent-dousou.jp/wp-content/uploads/2022/03/rep191_2.pdf
治療法 | 使用薬剤・材料 | 作用機序 |
---|---|---|
鈍麻作用 | 硝酸カリウム(メルサージュヒスケア等) | 神経への刺激伝達を鈍らせる |
象牙細管封鎖 | シュウ酸系(MSコートONE等) | 象牙細管内に結晶を形成して封鎖 |
象牙細管封鎖 | ハイドロキシアパタイト系 | 管にふたをして刺激を遮断 |
表面被覆 | レジンコーティング材 | 露出象牙質を薄い膜で被覆 |
中等度の症例では、露出した歯根面にコンポジットレジン(プラスチック)を詰める方法が選択されます。外部からの刺激を物理的に遮断することで、軽い症状の場合はほとんど治癒するんですよ。
高度な症例や、上記の治療で効果が得られない場合には、最終的に神経処置(抜髄)を行うこともあります。一度の治療だけでは症状が治まらない場合、複数回行ったり、異なる方法で治療したりすることが必要です。
家庭で行える対策としては、知覚過敏防止の歯磨剤の使用が効果的です。象牙細管を封鎖してくれる成分が含まれていますが、即効性があるわけではないので1~2週間は継続して使用する必要があります。
参考)象牙質知覚過敏症とは
知覚過敏治療に使用される各種薬剤の種類と作用機序について詳しく解説されています。
象牙質知覚過敏症の予防と生活指導
象牙質知覚過敏症の予防には、原因となる生活習慣の改善が不可欠です。
参考)【知覚過敏の患者さん対策】象牙質知覚過敏症(知覚過敏)になり…
適切なブラッシング圧の習得は最も重要な予防策の一つですよ。歯ブラシを使うときは、強く歯に押し付けないようにすることが大切で、適正なブラッシング圧は150g~200gとされています。これは歯ブラシを歯に当てたときに毛先が広がらない程度の力なんです。ペンを持つように歯ブラシを握って歯に軽く当て、やさしく小刻みにブラッシングするよう指導します。
酸性飲食物の摂取に関しても注意が必要です。筆者らの調査によると、市販飲料の73%がエナメル質臨界pH値(pH 5.5)を下回る値を示しており、日常的に酸蝕のリスクにさらされています。特に黒酢やコーラ飲料、柑橘系果物などを頻繁に摂取する場合は、その飲み方にも配慮が必要なんです。
口腔内の清掃状態を良好に保つことも重要です。プラークコントロールが不適切だと、象牙質露出部のプラーク付着や不適切なブラッシングの繰り返しが知覚過敏症を発症するリスクを増やします。専門家の指導による適切なプラークコントロールを行うことで、軽微な症状はなくなることも多いんですよ。
歯ぎしりや食いしばりがある患者さんには、ナイトガードの使用を推奨します。夜間の無意識な歯ぎしりによる歯の摩耗や歯茎への負担を軽減し、顎関節の負担も和らげる効果があります。
全国で2000人を対象に行われたアンケート調査によると、約7割の人が象牙質知覚過敏症の症状があると答えていますが、その中で約7割の人が歯科受診をせずに「痛みを感じない側で飲食をする」「痛みを感じるものを飲食しない」などその場しのぎの対策をとっているんです。定期的な歯科医院受診により原因を探り、適切な対応をすることが重要ですよ。
鹿児島大学病院 – 象牙質知覚過敏症のいま ~生活習慣病として考える~
象牙質知覚過敏症を生活習慣病として捉え、予防から治療までを包括的に解説した資料です。