前置胎盤の症状
前置胎盤の初期症状と無痛性出血
前置胎盤は妊娠初期から中期にかけては多くの場合無症状で、妊婦健診の経腟超音波検査でたまたま発見されるケースがほとんどなんです。最も特徴的な症状は、妊娠28週頃を過ぎた時期に起こる「警告出血」と呼ばれる突然の無痛性出血です。
警告出血は腹痛を伴わない鮮紅色の性器出血として現れ、最初は少量で自然に止まることが多いですよ。しかし不規則的に繰り返し起こり、妊娠末期になるほど出血量が増加して大量出血するリスクも高まります。
参考)【産婦人科医監修】前置胎盤・低置胎盤とは?出血する?治る確率…
子宮の収縮や子宮下部の伸展、子宮口の開大によって子宮胎盤血管が断裂することで出血が起きるため、お腹が大きくなって張りやすくなる妊娠28週以降に症状があらわれやすいんです。
参考)https://www.ymghp.jp/syusanki/wp-content/uploads/2020/07/dayori2020.07.pdf
前置胎盤の症状が出やすい妊娠週数
前置胎盤における警告出血の発生頻度は妊娠週数とともに徐々に増加し、特に妊娠28週以降に出血リスクが高くなることが報告されています。妊娠初期から中期(妊娠20週未満)では、超音波検査で前置胎盤と診断される頻度は1.2〜4.9%ありますが、実際に分娩時に前置胎盤であるのは0.17〜0.37%に過ぎず、多くは自然に解消されます。
これは妊娠子宮の増大に伴って子宮下部が伸展し、胎盤と見かけの子宮口との位置が離れる「migration(移動)」があるためなんです。そのため前置胎盤の確定診断は妊娠31週末までに行うことが推奨されています。
警告出血が出現した症例では、約70%が緊急帝王切開になり、約50%が4週以内に再出血するとされており、出血の有無が管理方針に大きく影響します。前置胎盤の平均分娩週数は34〜35週と報告されており、早産症状や出血のリスクを考慮した慎重な管理が求められますよ。
前置胎盤の症状における常位胎盤早期剥離との鑑別
前置胎盤と常位胎盤早期剥離は、妊娠後期の性器出血をきたす代表的な病態ですが、臨床症状には重要な違いがあります。前置胎盤では痛みを伴わない出血が起こる可能性が高いのに対し、常位胎盤早期剥離では激しい腹痛を伴うことが特徴的なんです。
参考)前置胎盤 – 18. 婦人科および産科 – MSDマニュアル…
しかし臨床的な鑑別のみでは不可能なケースもあり、これらを鑑別するために超音波検査が頻繁に必要となります。前置胎盤における出血源は母体であり、子宮下部の胎盤付着部から出血が起こりますよ。
参考)26. 前置胎盤 href=”https://www.jaog.or.jp/lecture/26-%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4/” target=”_blank”>https://www.jaog.or.jp/lecture/26-%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4/amp;#8211; 日本産婦人科医会
妊娠20週以降に性器出血を認める全ての妊婦で前置胎盤を考慮する必要があり、前置胎盤がある場合には内診(特に指による子宮頸部の診察)によって出血が増加し、時に突然の大量出血を引き起こすため禁忌とされています。そのため性器出血が妊娠20週以降に生じた場合は、超音波検査によって前置胎盤の可能性をまず除外しない限り内診は行ってはいけません。
前置胎盤の診断における経腟超音波検査
前置胎盤の診断は経腟超音波検査で行われ、胎盤が内子宮口またはその付近を覆うように付着している状態を確認します。日本では妊娠24週頃に健診妊婦全例に経腟超音波を施行する方法がとられていることが多く、欧米では経腹超音波で胎盤が低い場合にのみ経腟超音波検査を行うスクリーニングが実施されていますよ。
診断の際には経腟プローブを腟内に挿入し、ゆっくりと前腟円蓋まで進め、頸管が屈曲しないように気をつけながら観察します。プローブを少し引き気味にしてきれいに描写できる場所を探すことが重要なんです。
誤診を避けるためには、頸管をプローブで強く押しすぎると前壁と後壁が近づき前置胎盤であるかのように描出されることがあるため注意が必要です。特に後壁の胎盤付着の場合、この誤認が起こりやすいため、プローブを少し引いたり動かして観察する必要があります。
日本産科婦人科学会による前置胎盤の正しい診断方法
前置胎盤診断における子宮下節の評価
前置胎盤の正確な診断には、子宮頸管と子宮下節を区別して観察することが極めて重要です。組織学的内子宮口と考えられる真の内子宮口上に胎盤を確認できれば前置胎盤と診断できますよ。
真の内子宮口は、leaf like様に描出される頸管腺領域が終わる上端を指します。頸管腺領域よりも上の内腔が閉じている場合は子宮下節が閉じている状態(時期)であり、この時期には前置胎盤の判断を行うべきではありません。
子宮下節の開大の時期は個人差がありますが、必ず開大後に前置胎盤の診断を行うことを心がけるとmigrationによって診断が変わることを少なくできるんです。児頭が内子宮口に近い時は下腹部を軽く挙上したり、プローブで軽く児頭を押し上げることでなるべく見やすい状態にすることも診断精度向上に役立ちますよ。
前置胎盤のリスク因子と原因
前置胎盤の発生頻度は分娩1000例当たり約5例と報告されており、近年増加傾向にあります。リスク因子として疫学的には高齢妊娠、多胎妊娠、帝王切開術既往妊娠、喫煙妊婦に前置胎盤の頻度が高いことが報告されているんです。
参考)妊娠中の異常~①前置胎盤
前置胎盤の成因リスク因子は大きく3つに整理されます。第一に、帝王切開術既往、流産手術既往、子宮筋腫核出術既往、経産・多産、不妊治療既往、子宮内膜炎既往などによる子宮内瘢痕形成による着床部位異常です。
参考)https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63%2F59%2F12%2FKJ00005050142.pdf
第二に、母体高齢、喫煙、子宮内膜炎既往などによる子宮内膜萎縮による着床部位異常があります。第三に、多胎妊娠、子宮筋腫合併、奇形子宮などによる子宮腔の変形・制限による着床部位異常が挙げられますよ。
特に帝王切開歴のある妊婦では、前回の手術による子宮内膜の瘢痕が着床部位に影響を与え、前置胎盤のリスクが高まることが知られています。
参考)前置胎盤 – 22. 女性の健康上の問題 – MSDマニュア…
前置胎盤に合併する癒着胎盤のリスク
前置胎盤のうち5〜10%は癒着胎盤を合併する可能性があり、これは母体死亡の原因ともなり得る非常に危険な合併症なんです。癒着胎盤とは、胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着して剥離が困難なものを指しますよ。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4/contents/151111-000026-SDIRHQ
癒着胎盤の発生頻度は年々増加しており、最大の要因は帝王切開症例の増加によるものです。この50年で発生頻度は10倍になり、およそ2500分娩に1例と報告され、最近ではそれ以上の頻度との報告もあります。
癒着胎盤は、癒着した胎盤の一部が剥がれたり分娩後に胎盤を取り出す際に大量出血を起こす可能性が高く、分娩時に生命にかかわる大量出血を起こした場合は動脈血流遮断や子宮摘出の処置をとることもあるんです。前置胎盤で特に帝王切開既往がある場合は、癒着胎盤のリスクが高いことを念頭に置いた管理が必要ですよ。
前置胎盤の治療管理と帝王切開のタイミング
前置胎盤は妊娠中に急な出血によって緊急帝王切開が必要となるだけでなく、帝王切開時にも癒着胎盤の合併が明らかになることや、出血多量のために子宮全摘を含めた集学的治療を要する場合があります。そのため多くのマンパワーを含めた医療資源が必要なんです。
前置胎盤の帝王切開時の出血量は他の合併症時の帝王切開に比較して有意に多く中央値1280mL、輸血は14%に必要であることが報告されています。前置胎盤をもつ妊婦は、夜間や休日でも緊急帝王切開ができ、早産児や低出生体重児でも管理ができる高次病院での妊娠管理・分娩とし、診断後はなるべく早期に紹介することが推奨されていますよ。
参考)前置癒着胎盤に対する安全な帝王切開術の開発(子宮底部横切開法…
無症状の前置胎盤をもつ妊婦に対しての入院管理、子宮収縮抑制薬、子宮頸管縫縮術が予後を改善するというエビデンスは乏しいですが、警告出血があった場合は入院管理とします。前置癒着胎盤が強く疑われる場合は、突然の大量出血による緊急手術を回避するため、警告出血がなくても妊娠34〜35週末に計画的に帝王切開を予定することが一般的なんです。
前置胎盤妊婦の生活管理と注意点
前置胎盤と診断された妊婦には、過度な運動や性交渉を避け、出血やお腹の張り、痛みに十分な注意を払う必要があることを指導します。マタニティスイミングやマタニティヨガなどは控えた方が良く、運動により子宮が収縮することが出血の引き金になり得るためなんです。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4/contents/151111-000024-VTNLCQ
前置胎盤で一番怖いのが出血であり、出血の主な原因である「お腹の張り」を起こさないような生活を送ることが大切です。お腹が張らないためには、できるだけ安静に過ごすのがポイントですよ。
参考)前置胎盤とは?原因・症状について知っておきたいこと【医師監修…
前置胎盤の警告出血は突然起こるため、出血があってもまずは慌てずにすぐに病院に連絡することを指導します。出血の量が少量でも、この後に大量に出血する可能性があるため、量の程度に関わらず出血したらすぐに病院に連絡する必要があるんです。
仕事を続ける場合でも、立ち仕事や重量物を扱う作業は子宮収縮を促しお腹の張りや出血のリスクが高まるため、職場と相談しながら業務内容を調整することが重要です。母子健康手帳にある母性健康管理指導事項連絡カードを活用することで、医師が必要と判断した措置を会社に取ってもらうことができますよ。
参考)前置胎盤になる原因は?リスクや症状、出血したときの対応を詳し…
前置胎盤診断におけるMRI検査の役割
前置胎盤、特に癒着胎盤の診断においてMRI検査は超音波検査を補完する有用な検査法として位置づけられています。MRI検査で癒着胎盤の可能性があると診断された症例のうち約64%が実際に癒着胎盤であり、超音波検査とほぼ同等の陽性的中率を示すんです。
参考)https://www.ne.jp/asahi/araki/clinic/yuchakutaibann.html
特にMRI検査は子宮後壁前置胎盤の症例の場合、超音波検査より有用である可能性が指摘されています。これは経腟超音波では後壁の観察が困難な場合があり、MRIによる矢状断・冠状断での評価が診断精度向上に寄与するためですよ。
超音波検査で癒着胎盤を疑う所見として、胎盤と膀胱の間の低エコー域の消失、胎盤内の血管湖の存在、カラードップラーによる異常血流などがあります。前壁の前置癒着胎盤では、これら3つの所見全部を認めた場合の陽性的中率は100%と報告されており、疑わしい症例を抽出することは可能なんです。
前置癒着胎盤が疑われる症例では、妊娠27週頃にMRI検査を追加することで、癒着の程度や範囲を詳細に評価し、手術計画の立案に役立てることができます。麻酔科や新生児集中治療室(NICU)などの設備が整っている大学病院での妊娠管理が望ましく、事前の十分な準備が母児の予後改善に繋がりますよ。
参考)https://jsog-k.jp/journal/lfx-journal_detail-id-19262.htm
それでは、医療従事者向けブログ記事を作成いたします。