ザヌブルチニブ日本承認の背景と適応
初回治療からBTK阻害薬を使えると思っていませんでしたか?
ザヌブルチニブの日本承認までの経緯と現状
2024年12月27日、ザヌブルチニブ(商品名:ブルキンザカプセル80mg)は厚生労働省より製造販売承認を取得し、2025年3月19日に薬価収載と同時に発売されました。これはBTK阻害薬として日本で4番目の承認となります。薬価は1カプセル80mg当たり6,636.10円で、標準的な1日投与量(320mg:1回160mgを1日2回)では1日薬価26,544.40円となります。
本剤の承認は国際共同治験の結果に基づくものです。つまり国内だけでなく海外臨床試験データが評価されたということですね。慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)に対してはALPINE試験とSEQUOIA試験、原発性マクログロブリン血症(WM)およびリンパ形質細胞リンパ腫(LPL)に対してはASPEN試験という3つの第III相国際共同試験の有効性・安全性データが承認の根拠となりました。
海外では既に70カ国以上で承認されており、世界で10万人を超える患者が治療を受けています。特筆すべきは、ザヌブルチニブが中国で開発され、2019年に米国FDAから「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)」の指定を受けて承認された中国発の革新的新薬として初めての事例であることです。開発元のBeiGene(現BeOne Medicines)は創業から15年で世界規模の製薬企業に成長し、2024年のグローバル売上高は前年比55%増の38億ドル(約5,700億円)に達しています。
PMDAの審議結果報告書では、本剤の有効性・安全性評価の詳細なデータが確認できます
ザヌブルチニブの適応症と対象患者
本剤の承認された効能・効果は以下の3つです。
📌 承認された適応症
- 慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)
- 原発性マクログロブリン血症
- リンパ形質細胞リンパ腫
重要なのは、これらの疾患に対して初回治療から使用可能である点です。既存のBTK阻害薬であるイブルチニブ(イムブルビカ)やアカラブルチニブ(カルケンス)も初回治療から使用できますが、ザヌブルチニブが新たな選択肢として加わったことで、患者個々の状態や合併症に応じた治療選択の幅が広がりました。
慢性リンパ性白血病は日本では比較的まれな疾患ですが、欧米では最も頻度の高い白血病です。CD5陽性・CD23陽性のB細胞が骨髄や末梢血、リンパ節で増殖する疾患で、小リンパ球性リンパ腫(SLL)は同じ病態のリンパ節病変主体型と考えられています。2024年版の造血器腫瘍診療ガイドラインでは、CLL/SLLの初回治療としてBTK阻害薬を用いることが推奨されており、ザヌブルチニブはこの推奨に合致した選択肢となります。
原発性マクログロブリン血症は、IgM型の異常免疫グロブリンを産生するリンパ形質細胞が増殖する疾患です。WHOのリンパ系腫瘍分類ではリンパ形質細胞リンパ腫(LPL)のカテゴリーに含まれますが、骨髄浸潤を主体とする場合を特にWMと呼びます。これらの疾患に対してもBTK阻害薬は有効な治療選択肢とされています。
ザヌブルチニブと既承認BTK阻害薬との比較
日本で承認されているBTK阻害薬は現在4剤あります。イブルチニブ(イムブルビカ)が第一世代、アカラブルチニブ(カルケンス)とザヌブルチニブ(ブルキンザ)が第二世代、そしてピルトブルチニブ(ジャイパーカ)が非共有結合型の新規BTK阻害薬です。
第一世代のイブルチニブは高い有効性を示す一方で、オフターゲット効果による副作用が課題でした。具体的には心房細動や心房粗動などの不整脈、高血圧、出血傾向などの心血管系有害事象が報告されています。これらの副作用は、イブルチニブがBTK以外のキナーゼ(TEC、EGFR、ITKなど)も阻害してしまうことに起因すると考えられています。
ザヌブルチニブは第二世代BTK阻害薬として、BTKへの選択性を高めるよう設計されました。342種類のキナーゼパネルに対する選択性試験では、329種類のキナーゼに対する阻害率が50%未満であり、高い選択性が確認されています。この高い選択性により、オフターゲット効果が低減され、心血管系有害事象のリスクが軽減されることが期待されます。
再発・難治性CLL/SLL患者を対象としたALPINE試験では、ザヌブルチニブとイブルチニブを直接比較しました。主要評価項目である全奏効率(ORR)は、ザヌブルチニブ群78.3%、イブルチニブ群62.5%で、ザヌブルチニブの優越性が示されています。また、心房細動・心房粗動の発生率はザヌブルチニブ群2.5%、イブルチニブ群10.1%で、ザヌブルチニブ群で有意に低い結果でした。
アカラブルチニブとの直接比較試験は行われていませんが、両者とも第二世代BTK阻害薬として高い選択性と安全性プロファイルを有しています。ザヌブルチニブの特徴は1日2回投与(1回160mg)により、24時間にわたって持続的なBTK阻害を達成する点です。薬物動態試験では、ザヌブルチニブ160mgを1日2回投与した場合、イブルチニブ1日1回投与やアカラブルチニブ1日2回投与と比較して、より持続的かつ完全なBTK阻害が得られることが示されています。
つまり持続的阻害が鍵です。
ザヌブルチニブの臨床試験成績と有効性
ザヌブルチニブの承認根拠となった主要な臨床試験について詳しく見ていきます。
ALPINE試験(再発・難治性CLL/SLL)
ALPINE試験は、1種類以上の前治療を受けた再発・難治性CLL/SLL患者652例を対象とした国際共同第III相試験です。ザヌブルチニブ群(415例)とイブルチニブ群(237例)を比較しました。主要評価項目である全奏効率は、ザヌブルチニブ群78.3%、イブルチニブ群62.5%で、ザヌブルチニブの優越性が示されました(p<0.0001)。
無増悪生存期間(PFS)の中央値は両群とも未到達でしたが、36カ月PFS率はザヌブルチニブ群78.4%、イブルチニブ群67.6%でした。17p欠失を有する高リスク患者においても、ザヌブルチニブ群で良好な結果が得られています。
安全性面では、グレード3以上の有害事象発現率はザヌブルチニブ群71.3%、イブルチニブ群79.3%でした。心房細動・心房粗動の発生率はザヌブルチニブ群2.5%、イブルチニブ群10.1%で、ザヌブルチニブ群で有意に低い結果でした。
SEQUOIA試験(未治療CLL/SLL)
SEQUOIA試験は、未治療のCLL/SLL患者479例を対象とした国際共同第III相試験です。17p欠失のない患者に対してザヌブルチニブ群(241例)とベンダムスチン+リツキシマブ併用療法群(238例)を比較しました。主要評価項目である無増悪生存期間で、ザヌブルチニブ群の優越性が示されました。24カ月PFS率はザヌブルチニブ群85.5%、ベンダムスチン+リツキシマブ群69.5%でした(ハザード比0.42、p<0.0001)。
全奏効率もザヌブルチニブ群94.6%、ベンダムスチン+リツキシマブ群85.3%で、ザヌブルチニブ群が優れていました。これにより、初回治療からBTK阻害薬を使用する意義が明確に示されたわけです。
ASPEN試験(WM/LPL)
ASPEN試験は、原発性マクログロブリン血症およびリンパ形質細胞リンパ腫患者201例(未治療および再発・難治性の両方を含む)を対象とした国際共同第III相試験です。ザヌブルチニブ群(164例)とイブルチニブ群(37例)を比較しました。主要評価項目であるMYD88変異を有する未治療患者における完全奏効率・最良部分奏効率以上の達成率で、ザヌブルチニブ群の非劣性が示されました(ザヌブルチニブ群28.4%、イブルチニブ群19.2%)。
安全性面では、心房細動の発生率はザヌブルチニブ群2%、イブルチニブ群14%で、ザヌブルチニブ群で低い結果でした。WM/LPLという疾患特性上、過粘稠症候群のリスクがありますが、両群とも管理可能な範囲でした。
日経メディカルの新薬解説記事では、臨床試験データの詳細な分析が掲載されています
ザヌブルチニブの安全性プロファイルと副作用管理における独自視点
ザヌブルチニブの副作用プロファイルを理解することは、適切な患者選択と継続的な治療管理において極めて重要です。臨床試験における主な副作用発現率を見ると、国内外の試験データから特徴的なパターンが見えてきます。
国内臨床試験(BGB-3111-211試験)で報告された主な副作用は以下の通りです。好中球減少症15.4%、上気道感染10.3%、下痢7.7%、挫傷5.1%、血小板減少症5.1%、貧血5.1%、発疹5.1%などです。海外臨床試験と比較すると、国内試験では心房細動の報告がなかったことが注目されます。
重大な副作用として添付文書に記載されているのは以下の項目です。
🩺 重大な副作用(頻度)
- 間質性肺疾患(0.1%)
- 骨髄抑制:好中球減少症(15.4%)、血小板減少症(6.4%)、貧血(5.9%)
- 感染症:肺炎(3.9%)、敗血症(1.0%)など
- 不整脈:心房細動(3.0%)、心房粗動(0.3%)
- 心臓障害:心筋梗塞(0.3%)、心筋炎(0.1%)、心不全(0.1%未満)
- 出血(頻度不明だが重要な注意喚起項目)
既存のBTK阻害薬と比較して注