遊離アミノ酸の種類
遊離アミノ酸の基本構成種類
遊離アミノ酸として存在する成分は、大きく分けてタンパク質構成アミノ酸20種類と、非タンパク質性アミノ酸約20種類の合計40種類以上が確認されています 。タンパク質を構成する基本の20種類のアミノ酸は、体内でタンパク質に結合せずに単体で存在している状態を遊離アミノ酸と呼びます 。
参考)味に関わるおいしい話③ アミノ酸(タンパク質構成アミノ酸と遊…
これらの遊離アミノ酸は、栄養学的観点から必須アミノ酸9種類と非必須アミノ酸11種類に分類されます 。必須アミノ酸には、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンが含まれ、体内で十分な量を合成できないため食物から摂取する必要があります 。
参考)アミノ酸の分類と特徴
遊離状態では、グルタミン(37%)とタウリン(33%)が最も多く存在し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)は全体の約1%程度と少量ですが、重要な生理機能を担っています 。
参考)https://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/gastro/img/kyouiku_kouen_07.pdf
遊離アミノ酸の味覚特性による分類
遊離アミノ酸は、その種類によって異なる味覚特性を示すことが特徴です。この呈味特性により、甘味系、苦味系、うま味・酸味系の3つのグループに大別されます 。
参考)味に関わるおいしい話④ 遊離アミノ酸と味について
甘味を呈する遊離アミノ酸には、グリシン、アラニン、トレオニン、プロリン、セリンが含まれます。これらは食品の甘みやコクの形成に寄与しており、特にグリシンは最も甘味の強いアミノ酸として知られています 。
参考)おいしさの成分「グルタミン」「グルタミン酸」と遊離アミノ酸の…
苦味を呈する遊離アミノ酸には、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、リジンが含まれます。これらは食品の風味や後味に影響を与える重要な成分です 。
興味深いことに、L体とD体で味覚が異なる現象も確認されています。例えば、L-アラニンは甘味を示しますが、D-アラニンはより強い甘味を示し、L-ロイシンは苦味ですがD-ロイシンは強い甘味を呈します 。
参考)D-アミノ酸と味覚
遊離アミノ酸の特殊機能性成分
タンパク質を構成しない機能性遊離アミノ酸として、GABA(γ-アミノ酪酸)、オルニチン、シトルリン、タウリンなどが重要な役割を果たしています 。
参考)https://nara-wu.repo.nii.ac.jp/record/2002632/files/thesisk651.pdf
GABAは哺乳類の抑制性神経伝達物質として中枢神経系の制御に関与し、血圧上昇抑制作用が認められ特定保健用食品の成分として認可されています。また、塩味増強効果により減塩対策への応用も期待されています 。
オルニチンは肝臓の尿素回路における中間代謝物として、アンモニアの無毒化に重要な役割を果たします。機能が低下した肝臓の保護や肝臓でのタンパク質合成を高める働きがあり、疲労回復効果をもたらすことが確認されています 。
参考)遊離アミノ酸オルニチン|キリングループ 協和発酵バイオの健康…
シトルリンも同様に尿素回路の中間代謝物であり、血管拡張作用や運動パフォーマンス向上効果が報告されています。これらの機能性アミノ酸は、遊離状態での摂取により特有の生理作用を発揮することが明らかになっています 。
参考)http://www.hyoyaku.org/cntnt.php?cnt=806
遊離アミノ酸の分析と測定技術
現代の遊離アミノ酸分析は、高感度質量分析装置(LC/MS/MS)を用いて40項目以上の成分を精密に定量することが可能です 。分析対象には、基本のアミノ酸20種類に加えて、α-アミノ-n-酪酸、β-アミノイソ酪酸、アンセリン、カルノシン、キヌレニン、サルコシンなどの特殊成分も含まれます 。
参考)遊離アミノ酸分析 – NDTS特殊分析(LC LC/MS L…
遊離アミノ酸分析と総アミノ酸分析は異なる手法であり、前者は元々独立して存在している遊離アミノ酸のみを測定し、後者はタンパク質を酸加水分解してから測定する方法です 。この違いにより、食品の機能性や呈味特性を正確に評価することができます。
参考)「アミノ酸検査」と「遊離アミノ酸検査」の違い
血漿中遊離アミノ酸濃度の測定は、バイオマーカーとしてのポテンシャルが高く、肝機能不全の重症度判定や治療指標として活用されています。フィッシャー比(分岐鎖アミノ酸対芳香族アミノ酸の比)は、肝疾患の診断および予測のための有用な指標となっています 。
参考)https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2019/201902kaisetsu.pdf
分析技術の進歩により、採血から除タンパクまでのアミノ酸安定性、アミノ酸標準物質の整備、プレカラム誘導体化LC/MSによる分析バリデーションが確立され、日本人の健常人における血漿中遊離アミノ酸の基準範囲も設定されています 。
遊離アミノ酸の代謝機能と医療応用
遊離アミノ酸はアミノ酸プールとして体内に一定量蓄えられ、タンパク質合成の材料やエネルギー源として利用されます 。食事により取り込まれたタンパク質から生成された遊離アミノ酸は、必要に応じて体タンパク質の合成に使用されたり、過剰分はエネルギー源として代謝されます 。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)であるロイシン、イソロイシン、バリンは、アミノ酸センサーであるmTORを介してタンパク質合成を促進し、筋肉量維持や疲労回復に重要な役割を果たします 。BCAAは肝疾患患者の栄養療法においても重要で、タンパク質代謝やアンモニア代謝の改善に寄与します 。
医療分野では、尿素回路異常症の治療において、シトルリンやアルギニンの投与により尿素回路反応を促進する治療法が確立されています 。また、血中グルタミン濃度の測定は、慢性的なアンモニア排泄不良の管理指標として活用されています 。
参考)https://www.ncchd.go.jp/scholar/research/section/screening/aaanalysys3.pdf
遊離アミノ酸の代謝特性を活かした機能性食品やサプリメントの開発も進んでおり、疲労回復、集中力向上、脂肪燃焼促進などの効果が期待されています 。特に高齢者の低栄養改善やQOL向上を目的とした遊離グルタミン酸の消化吸収促進作用の研究も進められています 。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000024045.html