ユーパスタとイソジンシュガーの違いとは?作用機序と効果・薬価を比較解説

ユーパスタとイソジンシュガーの違い

ユーパスタ vs イソジンシュガー 早わかり比較
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主成分

どちらも「精製白糖」と「ポビドンヨード」 。基本的な構成は同じです。

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作用機序

白糖の浸透圧で滲出液を吸収し、ポビドンヨードが殺菌作用を発揮 。肉芽形成と感染制御を同時に行います。

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最大の違い

ユーパスタが「先発医薬品」 、イソジンシュガーは「後発医薬品(ジェネリック)」 であり、薬価や添加物が異なります。

ユーパスタの有効成分「白糖・ポビドンヨード」の作用機序と効果

 

ユーパスタやイソジンシュガーは、褥瘡や皮膚潰瘍の治療に広く用いられる外用薬です 。これらの薬剤の有効成分は、「精製白糖」と「ポビドンヨード」の2つです 。一見すると単純な組み合わせに思えますが、それぞれが創傷治癒過程において非常に重要な役割を担っています。

まず、「精製白糖」の役割から見ていきましょう。白糖は高濃度で配合されており、その主な作用は「浸透圧」を利用したものです 。創傷面、特に褥瘡の黄色期など滲出液が多い時期には、この滲出液が細菌の温床となり、治癒を妨げる一因となります 。ユーパスタを塗布すると、白糖が創傷面の水分(滲出液)を強力に吸収します。これにより、以下の2つの効果が期待できます。

  • 浮腫の軽減: 局所の余分な水分が除去されることで、創周辺の浮腫(むくみ)が軽減されます 。
  • 線維芽細胞の活性化: 創傷治癒に必要な肉芽組織を形成する「線維芽細胞」は、適度な湿潤環境下で活性化しますが、過剰な滲出液は逆にその活動を阻害します。白糖が余分な水分をコントロールすることで、線維芽細胞が働きやすい環境を整え、良好な肉芽形成を促進します 。

次に、「ポビドンヨード」の役割です。ポビドンヨードは、一般的に「イソジン」として知られる成分で、強力な殺菌作用を持つことで有名です 。創傷面は細菌感染のリスクが非常に高く、感染が起きると治癒が著しく遅れたり、重篤な場合には敗血症を引き起こしたりする可能性があります。ポビドンヨードは、グラム陽性菌・陰性菌、真菌、ウイルスなど幅広い微生物に対して殺菌効果を発揮し、創傷面の感染を制御・予防します 。

興味深いのは、この2つの成分の相互作用です。白糖が滲出液を吸収する過程で、ポビドンヨードが徐々に放出される(徐放性)と考えられています 。これにより、急激なヨウ素放出による細胞毒性を抑えつつ、持続的な殺菌効果を期待できるのです 。つまり、ユーパスタやイソジンシュガーは、「滲出液のコントロール」「肉芽形成の促進」「感染の制御」という、創傷治癒の異なるフェーズで求められる複数の作用を同時に発揮する、非常に合理的な設計の薬剤であると言えます 。臨床試験では、肉芽形成や膿性分泌物の改善において80%以上の高い改善率が報告されています 。

ユーパスタとイソジンシュガーの使い分けと適応疾患の違い

ユーパスタとイソジンシュガーは、どちらも有効成分が「精製白糖・ポビドンヨード」であり、効能・効果は「褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)」とされています 。したがって、適応疾患に明確な違いはありません。では、臨床現場ではどのように使い分けが考えられるのでしょうか。その最大のポイントは、「先発医薬品」と「後発医薬品(ジェネリック)」という立場と、それに伴う薬価の違いにあります 。

ユーパスタ:先発医薬品としての信頼性

ユーパスタは、興和株式会社が開発し、現在はテイカ製薬が製造販売する先発医薬品です 。長年にわたる豊富な臨床使用実績があり、その効果や安全性に関するデータが多数蓄積されています 。品質や製剤の安定性に対する信頼感から、主治医の判断や施設の採用方針としてユーパスタが指定されるケースがあります。特に治療の初期段階や、治療効果が思うように得られない難治性の潰瘍など、薬剤の性能を最大限に引き出したい場面で選択される傾向があるかもしれません。

イソジンシュガー:後発医薬品としての経済性

イソジンシュガーは、複数のメーカーから販売されている後発医薬品です 。先発医薬品であるユーパスタと有効成分は同じであり、生物学的同等性試験によって同等の効果が得られることが確認されています。後発品であるため、薬価がユーパスタよりも安価に設定されているのが最大の特徴です 。

具体的な使い分けのシナリオとしては、以下のようなケースが考えられます。

表:ユーパスタとイソジンシュガーの使い分けのポイント

薬剤 分類 適した場面 考慮すべき点
ユーパスタ 先発医薬品 ✅ 長期にわたる治療実績を重視する場合
✅ 医師が使い慣れている場合
✅ 難治例で、まずは標準的な治療を行いたい場合
薬価が比較的高いため、医療費への配慮が必要
イソジンシュガー 後発医薬品 ✅ 医療費の削減が求められる場合
✅ 長期にわたる継続的な使用が見込まれる場合
✅ 院内の採用薬として後発品が推奨されている場合
メーカーによって添加物や使用感がわずかに異なる可能性がある

滲出液が多い感染創、特にポケット(深い空洞)を伴うような褥瘡では、これらの薬剤が選択されることが多いです 。軟膏が創の隅々まで充填され、効果を発揮しやすいためです。ただし、滲出液の量に応じて交換頻度を調整する必要があります。滲出液が極端に多い場合は、より吸水性の高いカデキソマー・ヨウ素製剤(カデックスなど)が選択され、滲出液が減少してきたらイソジンシュガーやユーパスタに切り替える、といった段階的な治療戦略もとられます 。

ユーパスタ使用時の注意点とイソジンシュガーとの副作用比較

ユーパスタとイソジンシュガーは有効成分が同じであるため、基本的な注意点や副作用は共通しています 。しかし、その内容を正しく理解し、患者さんの状態を注意深く観察することが極めて重要です。特にポビドンヨードを含有するため、ヨウ素に関連する副作用には十分な注意が必要です。

主な副作用と注意点

添付文書によると、報告されている主な副作用は以下の通りです 。

  • 皮膚症状: 最も頻度が高いのは、塗布部位の疼痛(痛み)、発赤、刺激感、皮膚炎、そう痒感(かゆみ)などです 。特に、創傷やその周辺の皮膚が敏感になっている患者さんでは、塗布時にしみるような痛みを感じることがあります。これは薬剤の浸透圧ポビドンヨードの刺激によるものと考えられます。痛みが強い場合は、患者さんの苦痛を軽減するために、他の薬剤への変更を検討する必要があります。
  • 過敏症: ヨード過敏症の既往歴がある患者さんには禁忌です 。ヨード疹などのアレルギー反応が起こる可能性があります。使用前に必ず患者さんのアレルギー歴を確認することが不可欠です。
  • 甲状腺機能への影響: ポビドンヨードは皮膚から吸収され、血中ヨウ素値を上昇させる可能性があります。特に、広範囲の傷や深い潰瘍に長期間、大量に使用する場合、甲状腺機能に影響を及ぼすことがあります 。具体的には、血中の甲状腺ホルモン(T3, T4)値が上昇または低下するなど、甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症を引き起こすリスクが報告されています 。腎機能が低下している患者さんや新生児、乳幼児は特に注意が必要です。

意外と知られていない注意点:糖尿病との関連

「シュガー(白糖)」という名称から、糖尿病患者への使用を躊躇する医療従事者もいるかもしれません。過去には、イソジンシュガーの使用で糖尿病が悪化したという誤解もあったようです 。しかし、ユーパスタやイソジンシュガーに含まれる白糖(ショ糖)は、分子量が大きく、創傷面から体内に吸収されることはほとんどありません 。したがって、血糖値に直接影響を与えることはないと考えられており、糖尿病患者さんにも安全に使用できるとされています 。この点は、患者さんやそのご家族へ説明する際にも重要なポイントとなります。

参考リンク:医薬品の副作用情報

医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、医療用医薬品の副作用に関する情報を公開しています。具体的な症例報告などを確認する際に有用です。

https://www.info.pmda.go.jp/

ユーパスタとイソジンシュガーの薬価やコストパフォーマンスの違い

医療現場において、薬剤の選択は効果や安全性だけでなく、経済性、つまり薬価も非常に重要な要素となります。ユーパスタとイソジンシュガーは、有効成分が同じでありながら薬価が異なるため、コストパフォーマンスを比較検討する上で格好の事例と言えます。

薬価の比較

2025年時点の薬価を見てみると、その差は明確です。

  • ユーパスタ軟膏(先発品): 1gあたり約11.4円
  • イソジンシュガーパスタ軟膏(後発品): 1gあたり約7.5円

後発医薬品であるイソジンシュガーは、先発品のユーパスタに比べて約35%も薬価が安く設定されています。他にも、スクロードパスタ(約9.7円/g) など、複数の後発医薬品が存在し、それぞれ薬価が異なります。

コストパフォーマンスの観点

この薬価の違いは、特に長期間にわたって大量の軟膏を使用する褥瘡治療において、医療費に大きな影響を与えます。例えば、1日に20gの軟膏を使用する患者さんの場合を考えてみましょう。

表:1日あたりの薬剤費シミュレーション (20g使用時)

薬剤名 1gあたりの薬価 1日あたりの薬剤費 30日間の薬剤費 ユーパスタとの差額 (30日)
ユーパスタ軟膏 11.4円 228円 6,840円
イソジンシュガーパスタ軟膏 7.5円 150円 4,500円 -2,340円

このように、1ヶ月単位で見ると2,000円以上の差額が生じます。これが複数の患者さん、あるいは年単位の治療となれば、その差はさらに拡大します。国の医療費抑制策の一環として後発医薬品の使用が推進されている背景もあり、多くの医療機関ではコストパフォーマンスに優れたイソジンシュガーをはじめとする後発医薬品を積極的に採用しています 。

ただし、2024年10月から導入された選定療養の制度により、医療上の必要性なく患者さんの希望で先発品(長期収載品)を選択する場合には、後発品との差額の一部が患者負担となる場合があります 。ユーパスタもこの対象品目に含まれており 、薬剤選択の際には、こうした制度も踏まえた上で、患者さんへの丁寧な説明が求められます。

ユーパスタ開発秘話と今後の褥瘡治療薬の展望【独自視点】

現在、褥瘡治療に当たり前に使われているユーパスタですが、その開発の歴史は、臨床現場の知恵と工夫から生まれたものでした。もともとユーパスタは、市販される以前は各病院で独自に調製される「院内製剤」として存在していました 。1981年にKnutsonらが臨床応用を報告して以降 、砂糖(白糖)の浸透圧作用とポビドンヨードの殺菌作用を組み合わせた治療法が、特に感染を伴う創傷に対して有効であると認識され始めたのです。

当時、院内製剤は各施設で調製方法が微妙に異なり、品質の均一性や安定性に課題がありました。そこで、この優れた治療法を誰もが安定した品質で使えるようにと、興和株式会社が製品化に乗り出し、「ユーパスタコーワ軟膏」として開発されました 。まさに、臨床現場のニーズから生まれた医薬品と言えるでしょう。ちなみに、「ユーパスタ」という名前は、潰瘍(Ulcer)を治療するパスタ剤(PASTA)という由来を持っています 。

褥瘡治療の歴史とパラダイムシフト

褥瘡治療の歴史を振り返ると、大きなパラダイムシフトがありました。かつては創傷を「乾燥させる」ことが良いとされ、ガーゼで覆い、乾燥を促す治療が主流でした。しかし、1962年にWinter博士が「湿潤環境下の方が創傷治癒が早い」ことを発見し、「湿潤環境療法(モイストヒーリング)」の概念が提唱されました。この考え方は、日本の褥瘡ケアにも大きな影響を与え、創傷を適度な湿潤状態に保つためのドレッシング材や外用薬の開発へと繋がっていきます 。

ユーパスタやイソジンシュガーは、白糖が過剰な滲出液を吸収しつつも創傷面を極度に乾燥させず、ポビドンヨードで感染を制御するという点で、この湿潤環境療法の考え方を体現した薬剤と位置づけることができます。

今後の褥瘡治療薬の展望

現在、褥瘡治療はさらに進化を続けています。再生医療技術の応用もその一つです。例えば、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を有効成分とするスプレー製剤(フィブラストスプレーなど)は、細胞増殖を直接促進し、肉芽形成や血管新生を強力にサポートします。また、創傷の状態に合わせて最適な湿潤環境を維持する高機能なドレッシング材も多数開発されています 。

将来的には、患者個々の創傷の状態(滲出液の量、感染の有無、深さなど)をセンサーでモニタリングし、最適な量の薬剤を自動的に放出する「スマートドラッグデリバリーシステム」を搭載したドレッシング材が登場するかもしれません。また、iPS細胞などを用いた再生医療技術がさらに発展すれば、重度の褥瘡であっても、より早く、きれいに治癒させることが可能になるでしょう。ユーパスタのような伝統的な薬剤の知恵と、最先端のバイオテクノロジーが融合することで、褥瘡治療は新たなステージへ向かうことが期待されます。

参考論文

白糖・ポビドンヨード配合軟膏の効果に関する臨床研究は数多く報告されています。CiNiiなどで検索すると、その有用性を検証した論文を閲覧できます。

https://ci.nii.ac.jp/naid/130004045543


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