ヨウ素-131による内用療法の基礎知識と実践

ヨウ素-131による内用療法

治療後6ヶ月間は妊娠も授乳も男性の避妊も必須です

この記事の3つのポイント
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甲状腺に選択的に集積

ヨウ素-131は甲状腺組織が持つヨウ素取り込み特性を利用し、β線で内部から病変を破壊する放射線治療法です

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退出基準と外来治療の可能性

投与量500MBq未満は外来可能、1110MBqまでは条件付き外来治療が認められ入院期間は4~7日程度に短縮されました

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医療従事者の放射線防護

患者からの外部被ばくと呼気に含まれるヨウ素-131の吸入による内部被ばくに対する適切な距離と時間の管理が必要です

ヨウ素-131の物理学的特性と治療メカニズム

 

ヨウ素-131は、核分裂によって生成される人工放射性核種で、医療分野で広く活用されています。物理学的半減期は約8.02日で、β線(最大エネルギー0.61 MeV)とγ線(主要エネルギー364 keV)を放出しながらキセノン-131へと崩壊していきます。

この核種が治療に適している理由は、β線の組織内飛程が約2mmと短いことです。これはどういうことかというと、放射線が病変部にピンポイントで作用し、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えられるということですね。甲状腺組織や甲状腺癌細胞は、生理的にヨウ素を取り込む性質を持っているため、ヨウ素-131を経口投与すると、自動的に標的組織に集積します。取り込まれたヨウ素-131から放出されるβ線が、甲状腺細胞のDNAを損傷させ、細胞死を誘導するのが基本的な治療メカニズムです。

生物学的半減期については、甲状腺からの排泄は年齢依存的で、成人では約80日、5歳児で23日、乳児では11日とされています。実効半減期は物理学的半減期と生物学的半減期の両方を考慮したもので、ヨウ素-131の場合は約7.6日です。つまり体内から放射線が減少するスピードは比較的速いということです。

投与されたヨウ素-131は、消化管から速やかに吸収され、血中に入ります。甲状腺組織以外にも、唾液腺胃粘膜、乳腺などにも取り込まれますが、最も高い集積を示すのは甲状腺です。投与後24時間以内に、取り込まれなかったヨウ素-131の大部分は尿中に排泄されます。

環境省の放射線に関する基礎知識ページでは、半減期の詳細な解説と図解が掲載されており、ヨウ素-131の減衰過程を理解する上で参考になります

ヨウ素-131による甲状腺疾患の治療適応

ヨウ素-131内用療法は、主に分化型甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)とバセドウ病(甲状腺機能亢進症)に対して行われます。甲状腺癌の場合、手術で甲状腺全摘または準全摘を行った後の残存甲状腺組織の破壊(アブレーション)や、遠隔転移巣の治療が適応となります。

バセドウ病に対しては、抗甲状腺薬で重篤な副作用(無顆粒球症、重症肝障害など)が出現した場合や、長期間の薬物療法でも寛解が得られない場合、手術を希望しない場合などが適応です。投与量は甲状腺癌の場合、残存甲状腺破壊目的で1110MBq、転移巣治療では3700~7400MBq程度が用いられます。バセドウ病では、甲状腺の大きさやヨウ素摂取率に応じて200~600MBq程度を投与するのが一般的です。

絶対的禁忌は、妊娠中の女性、妊娠している可能性のある女性、6ヶ月以内に妊娠する可能性のある女性、そして授乳婦です。胎児や乳児の甲状腺がヨウ素-131を取り込むと、放射線による甲状腺機能障害のリスクが極めて高くなるためです。

相対的禁忌には、原則として18歳以下の小児(6歳から18歳は薬物療法・外科手術が困難な場合のみ容認、5歳未満は禁忌)、重度の甲状腺眼症を有するバセドウ病患者(放射線治療により眼症が悪化する可能性がある)などがあります。

注意が必要ですね。

治療前には、TSH(甲状腺刺激ホルモン)による刺激が必要です。これは何のためかというと、甲状腺組織や癌細胞のヨウ素取り込み能を高めるためです。TSH刺激には、甲状腺ホルモン剤を4~6週間中止する方法と、遺伝子組換えヒトTSH(rhTSH、商品名:タイロゲン)を投与2日前と1日前に筋肉内注射する方法があります。rhTSHを使用すると、甲状腺ホルモン剤を中止せずに済むため、患者の生活の質が保たれるというメリットがあります。

日本核医学会の放射性ヨウ素内用療法に関するガイドラインには、詳細な適応基準と投与量の決定方法が記載されており、実臨床での判断に有用です

ヨウ素-131治療における食事制限の実際

ヨウ素-131治療の効果を最大化するには、治療前の適切な食事制限が不可欠です。体内のヨウ素が欠乏状態にあると、投与したヨウ素-131の甲状腺への取り込みが高まるためです。ヨウ素制限は通常、カプセル投与2週間前から開始し、投与2日後まで継続します。

制限すべき食品は、海藻類(昆布、わかめ、のり、ひじきなど)が最も重要です。昆布だしを使った料理、昆布を含むインスタント食品も避ける必要があります。魚介類では、特に海産魚、いくら、たらこ、明太子、うに、いか、たこ、えび、かになどがヨウ素含有量が多いとされています。卵は1日1個までなら問題ありませんが、ヨウ素強化卵は避けてください。

乳製品についても、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどはヨウ素含有量が比較的多いため制限対象です。調味料では、ヨウ素添加塩(食卓塩など)の使用を避け、無添加の自然塩を使用します。また、うがい薬(ヨードうがい液)、ヨード造影剤を使用した検査後は一定期間空ける必要があります。

食べてもかまわない食品は、ごはん、パン、麺類などの穀類(昆布だしを使っていないもの)、牛肉、豚肉、鶏肉(内臓部分を除く)、野菜類全般、大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)、果物類です。だし汁は、しいたけ、鶏がらスープ、肉のだし汁、コンソメ、ブイヨンを使用すれば大丈夫です。

外食時の注意点として、和食の多くは昆布だしを使用しているため避けるのが基本です。うどん、そば、お寿司、丼物、味噌汁、漬物なども昆布だしが使われている可能性が高いですね。洋食でも、定食のみそ汁や漬物には注意が必要です。中華料理や洋食のメイン料理は比較的安全ですが、使用食材を確認することをお勧めします。

この制限期間中は、患者が食べられるものが限られストレスを感じやすいため、医療従事者は具体的な食品リストを提供し、代替食品の提案を行うことが重要です。

隈病院の甲状腺ナビには、ヨウ素制限の詳細な食品リストと外食時の注意点がわかりやすくまとめられており、患者指導に活用できます

ヨウ素-131治療における放射線防護と退出基準

ヨウ素-131を投与された患者からは、体内に残存する放射線が外部に放出されるため、医療従事者や公衆の被ばく防護が必要です。医療法施行規則では、放射性医薬品を投与された患者の退出基準が定められており、ヨウ素-131の場合は以下の2つの基準のいずれかを満たす必要があります。

投与量に基づく基準では、投与量が500MBq未満の場合に患者の退出・帰宅が認められます。測定線量率に基づく基準では、患者の体表面から1メートルの距離で測定した線量率が30μSv/h以下であることが条件です。

平成22年の規制緩和により、一定の条件を満たせば投与量1110MBqまでは外来でのアブレーション治療が可能になりました。これは「残存甲状腺破壊を目的としたI-131(1110MBq)による外来治療実施要綱」に従って実施する場合に限られます。具体的には、測定線量率に基づく基準を用い、介護者の積算線量が5mSv以下になるよう患者指導を徹底することが条件です。

患者への指導内容として、退院後または帰宅後の一定期間(通常7~14日間)は、小児や妊婦との距離を1メートル以上保ち、接触時間を15分以内に制限する必要があります。排泄物には放射性ヨウ素が含まれるため、トイレの水は2回流す、男性でも便座に座って排尿するなどの指導が重要です。治療後1週間程度は、洗濯物を他の家族のものと分けて洗う、寝室を別にする、食器を別にするなどの生活上の注意も必要になります。

医療従事者の被ばく管理では、患者の体表面から1~2メートルの距離を保つことを基本とし、接触時間を最小限にします。ベッドサイドでの処置時間は15分以内を目安とするのが原則です。患者の排泄物や使用したリネン類の取り扱いには特に注意が必要で、専用の保管場所で減衰を待ってから一般廃棄物として処理します。

病室の管理では、専用の放射線治療病室(RI病室)を使用し、出入口付近には放射線測定器(サーベイメータ)、除染器材、洗浄設備を設置します。病室からの退出時には、手足の表面汚染検査を実施し、基準値以下であることを確認してから退出させる必要があります。

これが基本です。

日本甲状腺外科学会の外来治療実施要綱には、具体的な線量測定方法と患者指導のチェックリストが掲載されており、実務上の参考になります

ヨウ素-131治療の副作用と長期的な影響

ヨウ素-131内用療法では、投与後数日以内に出現する急性期の副作用と、数ヶ月から数年後に現れる晩期の副作用があります。急性期の副作用として最も頻度が高いのは、唾液腺障害です。耳下腺や顎下腺の腫脹と疼痛が投与翌日から数日以内に30~50%の患者で認められます。

これは、唾液腺もヨウ素を取り込む性質があるためです。症状の軽減には、レモンキャンディーを舐める、酸味のある飲料を摂取するなど、唾液分泌を促す方法が有効とされています。重症例では、ステロイド投与が必要になることもあります。味覚障害も10~20%程度の患者で出現しますが、多くは数週間から数ヶ月で回復します。

消化器症状として、嘔気、嘔吐、食欲低下が20~30%の患者で認められます。これは胃粘膜がヨウ素-131を取り込むためと考えられており、制吐剤の予防的投与が有効です。まれに、頸部の腫脹や疼痛(放射線甲状腺炎)が出現することがあります。

骨髄抑制は、投与量が大きい場合(3700MBq以上)に注意が必要です。一過性の白血球減少、血小板減少が投与後4~8週間で出現することがありますが、多くは自然に回復しますね。

晩期の副作用として最も重要なのは、甲状腺機能低下症です。バセドウ病に対する治療では、治療後1年以内に50~70%の患者で永続的な甲状腺機能低下症が発生します。これは治療効果の裏返しとも言え、甲状腺ホルモン剤レボチロキシン)の補充療法により管理可能です。さらに、晩発性機能低下症として、治療後5年以降も年率2~3%の割合で新たに機能低下が出現するため、長期的な甲状腺機能検査のフォローアップが必要です。

生殖機能への影響については、一時的な精子数減少や月経不順が報告されていますが、投与量が1110MBq程度では永続的な不妊の報告はほとんどありません。ただし、治療後6ヶ月間は妊娠を避ける必要があり、男性も同期間の避妊が推奨されます。これは、性細胞の放射線感受性が高く、遺伝的影響のリスクを最小限にするためです。

二次性悪性腫瘍のリスクについては、大規模な疫学研究で若干の上昇が報告されていますが、投与量が3700MBq以下の場合はほとんど増加しないとされています。白血病骨髄異形成症候群のリスクは、総投与量が37000MBqを超える場合に若干上昇する可能性があるという報告もあります。

医療従事者は、これらの副作用について患者に事前に十分説明し、出現時の対処法を指導しておくことが重要です。特に、唾液腺障害や味覚障害は患者のQOLに大きく影響するため、予防的対策と早期の症状管理が求められます。

駒込病院の放射線治療科ページには、副作用の詳細と対処法が患者向けにわかりやすく解説されており、説明資料として活用できます

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