予後不良一覧と疾患について【医療従事者向け解説】

予後不良疾患の一覧と特徴

主要な予後不良疾患
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悪性腫瘍

膵臓がん、悪性黒色腫、脳腫瘍などの予後不良がん

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神経変性疾患

ALS、アルツハイマー病などの進行性神経疾患

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血液疾患

急性白血病、悪性リンパ腫などの血液がん

予後不良がんの代表的疾患

悪性腫瘍の中でも特に予後不良とされる疾患には、膵臓がん悪性黒色腫、脳腫瘍などがあります 。膵臓がんの5年相対生存率は男性8.9%、女性8.1%と極めて低く、全てのがんの中で最も予後不良の悪性腫瘍とされています 。膵臓がんが予後不良である原因として、①生物学的悪性度が高い(進行速度が速い)こと ②症状が出にくく早期発見が困難なこと ③周囲臓器・血管に浸潤しやすく根治切除が困難なことが挙げられています 。

参考)https://www.twmu.ac.jp/university/pathology/wp-content/uploads/2024/07/%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0009.pdf

悪性黒色腫(メラノーマ)も予後不良な疾患の一つで、早期(I~II期)では比較的予後は良いものの、III期での5年生存率は50~60%、IV期では10%以下となっています 。悪性黒色腫は術後の早い時期に転移や再発が発見され、予後不良となることがしばしば起こります 。粘膜黒色腫(特に肛門直腸黒色腫)は、発見時にはかなり限局しているように見えることが多いが、予後は不良であることが知られています 。

参考)悪性黒色腫の治療について教えてください

原発不明がんも予後不良群では生存期間中央値が3〜10ヶ月程度であることが報告されており、80%以上の原発不明がんの患者様は予後不良群に分類され、平均生存期間は約7ヶ月とされています 。

参考)原発不明がん(CUP)とは。初期症状や原因はなに?どうすれば…

予後不良血液疾患の特徴

血液悪性疾患においても予後不良とされる疾患が存在します 。成人の急性リンパ性白血病は予後が不良とされ、35歳未満の若年者では予後が良好であるものの、高齢者では予後が不良であることが知られています 。フィラデルフィア染色体(Ph)が陽性の患者は予後が不良で、成人患者の約30%にPh陽性の患者が認められるとされています 。

参考)急性リンパ性白血病が治る確率はどのくらいですか? |急性リン…

小児の急性リンパ性白血病では80%以上が長期生存する一方で、成人での予後は不良とされており、これらの違いを理解することが重要です 。若年層で最も多いがんである「白血病」には、現行の治療法では治癒をもたらすことが難しい予後不良タイプが存在することも報告されています 。

参考)「予後不良なタイプの白血病」発症メカニズムの一端が明らかに、…

予後不良脳腫瘍の病型分類

脳腫瘍の中でも悪性のものは一部の腫瘍を除いて一般に予後不良とされています 。神経膠芽腫(グリオブラストーマ)の場合、術後の生命予後平均は17週間、放射線化学免疫療法を駆使しても、1年生存率60.5%、2年生存率17%、5年生存率数%という極めて厳しい予後を示します 。

参考)脳腫瘍 href=”https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/brain/” target=”_blank”>https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/brain/amp;#8211; 愛知県がんセンター

膠芽腫の場合、約半年から1年で再発し、平均的な生存期間は1年半から2年、5年後の生存率は15%であることが報告されています 。悪性脳腫瘍は腫瘍の場所によっては、急速に認知機能障害や麻痺などが進む可能性が高いことも特徴の一つです 。

参考)脳腫瘍になった場合、余命宣告はされますか?また、どのタイミン…

一方で、10才代の日本人男子に発生しやすいとされる胚芽腫は放射線化学療法に奏功し、5年生存率95%、10年生存率80%以上とされており、同じ悪性脳腫瘍でも予後が大きく異なることがあります 。

予後不良神経変性疾患の進行パターン

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性で予後不良とされる神経変性疾患の代表例です 。海外の既報告では、孤発性ALSの生存期間中央値は20-48ヶ月で、本邦での統計では、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月であったと報告されています 。

参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E7%AD%8B%E8%90%8E%E7%B8%AE%E6%80%A7%E5%81%B4%E7%B4%A2%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87amp;mobileaction=toggle_view_desktop

予後因子として、高齢発症、発症部位(呼吸障害、球麻痺で発症するケース)、低栄養は生存期間が短くなる予後不良因子としてほぼ確立しています 。発症から1年以内に呼吸不全となる例もある一方で、呼吸補助なく10数年の経過を示す例もあり、個別性を考慮した細やかな対応が必要となります 。

参考)筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/214″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/214amp;#8211; …

遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)も進行性で予後不良の疾患として知られており、日本の非集積地における調査では、死亡した患者21例における発症から死亡までの期間平均値は7.3年であったことが報告されています 。

参考)遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)の予後

予後不良疾患における治療戦略の変遷

予後不良疾患の治療戦略は近年大きく変化しており、分子標的治療や免疫療法の導入により生存期間の延長が期待されています 。肺がんにおいても、非小細胞肺がんが47.5%、小細胞肺がんが11.5%の5年生存率を示しており、治療方法の進歩により予後の改善が見込まれています 。

参考)肺がんの統計と予後-ステージや年齢などによる生存率の違い-

悪性黒色腫においても、新しい治療法として遺伝子変異に直接効果を発揮する遺伝子治療が注目されており、特に原発不明がんの主な原因である遺伝子変異に対する治療法として期待されています 。
肺がんの予後は、治療を受けたか否かによって異なり、治療を受けたのであれば、どのような治療を受けたか、いつから治療を開始したかによっても変わることが知られており、早期診断・早期治療の重要性が強調されています 。
日本人の悪性黒色腫患者では、高年齢や結節型、粘膜型がTNMとは独立した予後不良因子であることが明らかになっており、これらの知見が治療選択に活用されています 。各疾患の予後因子を正確に把握し、個々の患者に最適な治療戦略を立てることが、予後改善につながる重要なアプローチとなります 。

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192021/201908039A_upload/201908039A0011.pdf