薬剤情報提供料 算定要件
薬剤情報提供料 算定要件の基本:文書提供と対象患者
薬剤情報提供料は、入院中の患者以外の患者に対し、処方した薬剤について「薬剤名、用法、用量、効能・効果、副作用、相互作用に関する主な情報」を文書で提供した場合に算定します。
ここで重要なのは「当該処方に係る全ての薬剤について」情報提供する点で、一部薬剤だけの説明文書では要件を満たしにくい、という実務上のリスクがあります。
また、保険薬局で調剤を受けるために処方箋を交付した患者については算定しない(院外処方では算定しない)と明記されています。
現場の運用としては、次の“チェックリスト化”が返戻・査定の予防に効きます。
- 文書の体裁は、薬袋等への記載も含まれる(=印字された薬袋運用でも成立し得る)。
- 「主な情報」は患者が理解しやすい表現であることが必要(専門用語の羅列だけだと弱い)。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_1_1%2Fb011-3.html
- 算定した場合は、薬剤情報を提供した旨を診療録等に記載する(監査で問われやすい)。
あまり知られていない実務ポイントとして、「薬剤名を提供できないやむを得ない理由」がある場合、薬剤の形状(色、剤形等)情報の提供で代替できる旨が示されています。
たとえば、患者の理解度や状況に応じて「この白い錠剤が血圧、こちらのカプセルが胃」などの補助説明を文書側にも落とし込むと、要件の“代替規定”とも整合しやすくなります。
薬剤情報提供料 算定要件の回数:月1回と「処方の内容に変更」
薬剤情報提供料は月1回に限り算定でき、処方の内容に変更があった場合はその都度算定できる、とされています。
一方で、処方日数のみの変更の場合は算定できない、と明確に否定されているため、「変更=何でも算定」ではありません。
さらに、複数診療科を標榜する医療機関で同日に複数科から処方が出ても算定は1回のみ、という制限もあります。
この“回数ルール”の理解を揃えるには、変更の具体例を院内で共有するのが効果的です。
- 算定しやすい例:薬剤追加、薬剤中止、用法変更、用量変更、剤形変更など「内容」変更。
- 算定できない例:同じ薬で日数だけ延長・短縮(内容変更ではない扱い)。
- 迷いやすい例:同一薬剤でも投与目的(効能・効果)が異なる場合は、目的に応じた情報提供を行えば算定できる。
“意外な落とし穴”として、類似する効能・効果を有する薬剤への変更の場合でも算定できる旨が示されており、単純な銘柄変更だけでなく、治療意図の近い薬剤変更でも情報提供の価値がある、という評価設計になっています。
この規定を活かすなら、文書の「効能・効果」欄を、単なる添付文書コピペではなく“今回なぜこの薬に変わったか”を患者向けに短く補足する運用が、監査対応と患者安全の両面で有利です。
薬剤情報提供料 算定要件と手帳記載加算:算定できる条件・できない条件
注1の算定を満たしたうえで、患者の求めに応じて「手帳(お薬手帳等)」に薬剤名、保険医療機関名、処方年月日を記載した場合、手帳記載加算(3点)を月1回に限り算定できるとされています。
ただし、手帳は“経時的な薬剤記録”ができ、患者情報(氏名・生年月日等)、アレルギー歴・副作用歴、主な既往歴等を記録する欄があるもの、という要件が示されています。
そして重要なのが、手帳を持参しなかった患者に対し、薬剤名が記載された簡潔な文書(シール等)を交付しただけでは、手帳記載加算を算定できない、という点です。
電子版の手帳についても、一定の留意事項を満たすものを患者が保有している場合の取扱いが示されており、医療機関側で一元的に閲覧できる仕組みが使えない場合は、患者の端末画面を見せてもらうなどで確認する、という運用が言及されています。
当面の間の対応として、限定条件下で文書(シール等)交付により手帳記載加算を算定できる取扱いも示されているため、「電子手帳は可否が不明だから算定しない」とゼロ運用にせず、院内ルール化(確認方法・記録方法)をしておくと取りこぼしを減らせます。
実務でのおすすめは、受付〜診察室〜会計のどこで手帳対応を担保するかを決め、行動に落とすことです。
- 受付:手帳(紙/電子)の有無を確認し、持参なしなら次回持参を促す。
- 診察室:患者の求めがあったときに記載(求めがないのに一律記載すると運用が崩れる)。
- 記録:手帳記載・文書提供を診療録等に残す(算定根拠の防衛線)。
薬剤情報提供料 算定要件の文書:必須項目と“患者が理解しやすい表現”
通知では、薬剤情報提供料の文書に含めるべき項目として、薬剤名(一般名または商品名)、用法、用量、効能・効果、副作用、相互作用に関する主な情報が示されています。
また、効能・効果、副作用、相互作用に関する情報は「患者が理解しやすい表現」であることが必要、とされ、単なる専門語の列挙では制度趣旨から外れやすい点に注意が必要です。
薬袋等に記載されている場合も「文書」に含まれるため、薬袋の印字設計を整えると、説明資材の作成負担を下げつつ要件に寄せられます。
文書を“監査にも患者にも強い”形にするための工夫例です(意味のある絵文字のみ使用)。
- ⚠️副作用:頻度は低いが受診が必要なサイン(例:発疹、息苦しさ等)を、患者向けに短文で。※個別薬に合わせて調整。
- 🔁相互作用:併用注意の典型(例:アルコール、OTC、サプリ)を「相談してほしい行動」に変換。
- ✅用法用量:飲み忘れ時の対応は、医療機関の方針に沿う範囲で「自己判断で2回分まとめ飲みしない」等の事故予防を明記(患者理解に資する表現の一部)。
“意外な情報”として、薬剤名が出せない場合の代替として、形状(色、剤形等)情報の提供が認められているため、文書には錠剤の外観を言語化した欄を設けると、制度上のバックアップにもなります。
もちろん常用すべきではありませんが、患者背景(視覚・言語・理解度)により情報提供の最適解が変わる現実を、制度が一定程度織り込んでいる点は知っておくと運用設計がしやすくなります。
薬剤情報提供料 算定要件の独自視点:診療録記載を“監査で勝てる”形にする
薬剤情報提供料を算定した場合は、薬剤情報を提供した旨を診療録等に記載する、とされています。
この「記載」は、単に“渡した”の一文だけだと、月1回制限や変更時算定の妥当性を説明できず、返戻時に追記が増えて現場負担が跳ね上がりがちです。
そこで、監査対応の観点では「いつ・何を・なぜ(変更があれば変更点)」が一目で分かるミニテンプレ化が効きます。
テンプレ例(院内のカルテ様式に合わせて改変してください)。
- 📌実施日:YYYY/MM/DD(同月内の重複算定の説明に直結)。
- 📄提供媒体:薬袋印字/説明文書/手帳(紙/電子)など(文書提供の根拠)。
- 🔄変更点:追加・中止・用法変更・用量変更・剤形変更・投与目的変更など(都度算定の根拠)。
- 🧾手帳記載:患者の求めあり/記載項目(薬剤名・医療機関名・処方年月日)(加算根拠)。
また、同日に複数診療科から処方があっても算定1回というルールがあるため、複数科処方が多い施設ほど「どの科の処方を代表して算定したか」を補足しておくと、後日の突合で混乱が減ります。
このように、制度文言(算定要件)を“運用と記録の形”に落とすところまで設計すると、算定漏れよりも深刻な「算定はしたが根拠が残っていない」事故を減らせます。
参考:算定要件(告示・通知)と、月1回・変更時・手帳記載加算・院外処方は算定不可などの根拠がまとまっています。