膿性鼻漏と副鼻腔炎
膿性鼻漏の特徴と副鼻腔炎の関係
膿性鼻漏とは、黄色や緑色の粘り気のある鼻水のことで、副鼻腔炎の代表的な症状の一つです。通常の風邪やアレルギー性鼻炎の鼻水は透明でサラサラしていますが、副鼻腔に炎症が及ぶと、鼻水の性状が変化します。この変化は副鼻腔内で細菌感染が起きていることを示す重要なサインです。
副鼻腔炎は、鼻腔に隣接した骨内の空洞である副鼻腔(前頭洞、篩骨洞、蝶形骨洞、上顎洞の4つ)を覆っている粘膜が炎症を起こす病気です。風邪などのウイルス感染から細菌感染へと進行することで発症するケースが多く、炎症が続くと副鼻腔内に膿がたまり、粘膜も炎症性の変化を起こします。
膿性鼻漏が発生するメカニズムは、副鼻腔内の線毛機能の低下に関係しています。通常、副鼻腔の粘膜には線毛という構造があり、細菌やウイルスなどの異物を捕らえて体外へ排出する働きをしています。しかし、粘膜の炎症によって線毛の機能が低下すると、副鼻腔内の異物や粘液が正常に排出できなくなり、膿性の分泌物がたまってしまうのです。
最近の研究では、副鼻腔炎の患者の約80%に膿性鼻漏の症状が見られるという報告もあり、この症状は診断の重要な手がかりとなっています。
膿性鼻漏を伴う副鼻腔炎の症状と種類
膿性鼻漏を伴う副鼻腔炎には、主に急性と慢性の2種類があります。急性副鼻腔炎は突然発症して短期間で治りますが、慢性副鼻腔炎は3か月以上症状が続く状態を指します。それぞれの特徴的な症状を見ていきましょう。
急性副鼻腔炎の主な症状:
- 黄色や緑色の粘り気のある鼻水(膿性鼻漏)
- 鼻づまり
- 後鼻漏(鼻水が喉に落ちる症状)
- 顔面の痛みや圧迫感
- 頭重感
- 嗅覚障害
- 場合によっては発熱や咳
慢性副鼻腔炎の主な症状:
炎症が起きている副鼻腔の部位によって痛みの場所も異なります。上顎洞の炎症では頬部の痛み、篩骨洞では鼻根部の痛み、前頭洞ではおでこの痛み、蝶形骨洞では頭痛や頭重感が特徴的です。
また、意外なことに副鼻腔炎は口臭の原因にもなります。副鼻腔に溜まった膿はやがて悪臭を放ち、それが吐息と混ざって呼吸時に放出されるため、口臭として感じられます。そのニオイは魚や生ゴミのような生臭いニオイに近いと言われています。
さらに、近年増加している「好酸球性副鼻腔炎」は、両側の多発性鼻茸と粘調な鼻汁により高度の鼻閉と嗅覚障害を示す、成人発症の難治性副鼻腔炎です。通常の慢性副鼻腔炎に比べて治療が困難で、手術をしても再発しやすいという特徴があります。
膿性鼻漏の原因と発症メカニズム
膿性鼻漏が発生する主な原因は、副鼻腔内での細菌感染です。しかし、その感染に至るまでには様々な要因が関わっています。
主な原因要素:
- 風邪やウイルス感染。
最も一般的な引き金となるのが、風邪などのウイルス感染です。ウイルス感染により鼻腔の粘膜が炎症を起こし、その後に細菌感染が続発することで副鼻腔炎へと進展します。
- アレルギー性鼻炎。
花粉症などのアレルギー性鼻炎が長期間続くと、鼻腔の粘膜が慢性的に炎症を起こし、副鼻腔の開口部が狭くなることで換気や排泄が妨げられます。
- 解剖学的な異常。
鼻中隔湾曲症や鼻甲介肥大などの解剖学的な異常があると、鼻腔の通気性が悪くなり、副鼻腔の換気不全を引き起こしやすくなります。
- 環境要因。
乾燥した環境、大気汚染、タバコの煙などの刺激物質も粘膜の炎症を悪化させる要因となります。
- カビや真菌感染。
特に免疫機能が低下している人では、カビや真菌による感染が副鼻腔炎の原因となることがあります。
発症メカニズム:
膿性鼻漏の発症メカニズムは以下のような段階を経ます。
- 何らかの原因(ウイルス感染やアレルギーなど)で鼻腔の粘膜に炎症が起こる
- 炎症により副鼻腔の開口部(自然口)が狭くなる
- 副鼻腔内の換気が悪くなり、酸素濃度が低下する
- 線毛機能が低下し、粘液の排出が妨げられる
- 細菌が増殖しやすい環境が形成される
- 細菌感染が起こり、白血球が集まって膿を形成する
- 形成された膿が鼻腔へと流れ出し、膿性鼻漏として現れる
副鼻腔炎の原因となる主な細菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどです。慢性副鼻腔炎では、黄色ブドウ球菌や嫌気性菌も関与することがあります。
また、最近の研究では、バイオフィルムと呼ばれる細菌の集合体が慢性副鼻腔炎の難治化に関わっていることも明らかになっています。バイオフィルムは抗生物質が効きにくく、長期間の炎症の原因となります。
膿性鼻漏の診断方法と検査
膿性鼻漏を伴う副鼻腔炎の診断は、症状の確認、視診、そして各種検査によって行われます。正確な診断は適切な治療につながるため、以下のような診断方法が用いられます。
問診と視診:
医師はまず、症状の種類や持続期間、過去の副鼻腔炎の既往歴、アレルギーの有無などについて詳しく聞き取りを行います。その後、前鼻鏡や内視鏡を用いて鼻腔内を観察し、膿性鼻漏の有無や鼻粘膜の状態、鼻茸の有無などを確認します。
画像検査:
- レントゲン検査。
副鼻腔に液体成分がたまっているかどうかを確認することができます。比較的簡便で放射線被曝も少ないため、スクリーニング検査として用いられることがあります。
- CT検査(コンピュータ断層撮影)。
副鼻腔の状態をより詳細に観察することができ、副鼻腔以外の病変や解剖学的な異常も評価できます。慢性副鼻腔炎の診断や手術前の評価に特に有用です。
- MRI検査(磁気共鳴画像)。
たまっている液体成分が膿なのか真菌(カビ)なのか、あるいは腫瘍性病変なのかを診断することが可能です。特に腫瘍が疑われる場合や合併症の評価に用いられます。
内視鏡検査:
内視鏡を鼻腔から挿入して、鼻腔の状態や副鼻腔からの膿の流出、ポリープの有無などを直接観察します。この検査は外来で簡便に行うことができ、治療効果の判定にも用いられます。ただし、慢性副鼻腔炎では鼻腔内に明らかな異常が見られないこともあり、内視鏡検査だけで診断することが困難な場合もあります。
血液検査:
炎症の程度を確認するために、白血球数やCRP(C反応性タンパク)などの炎症マーカーを測定します。細菌性の副鼻腔炎では白血球やCRPの値が高くなるため、治療効果を判断するための定期検査としても行われます。また、アレルギー性の副鼻腔炎では、白血球の中で好酸球が多く見られるのが特徴です。
細菌培養検査:
膿性鼻漏の原因となっている細菌を特定するために、鼻汁の培養検査を行うことがあります。特に抗生物質による治療に反応が悪い場合や、再発を繰り返す場合に有用です。培養結果に基づいて、効果的な抗生物質を選択することができます。
これらの検査結果を総合的に判断して、副鼻腔炎の種類(急性か慢性か)、重症度、合併症の有無などを評価し、適切な治療方針を決定します。
膿性鼻漏を伴う副鼻腔炎の治療法と予防
膿性鼻漏を伴う副鼻腔炎の治療は、症状の種類や重症度によって異なりますが、基本的には保存的治療から始め、必要に応じて手術療法を検討します。
保存的治療:
- 抗菌薬治療。
急性副鼻腔炎で膿性鼻漏を認める場合、細菌感染に対して抗菌薬が処方されます。一般的にはアモキシシリンなどのペニシリン系抗生物質が第一選択となりますが、症状や重症度に応じて適切な薬剤が選択されます。
- マクロライド療法。
慢性副鼻腔炎に対しては、炎症を抑える作用のあるマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)を少量長期投与する治療法が効果的です。通常は2〜3ヶ月かけて投与しますが、アレルギー素因のある場合には効果が限定的なこともあります。
- ステロイド点鼻薬。
鼻粘膜の炎症を抑えるために、ステロイド点鼻薬が用いられます。特にアレルギー要素が関与している場合に効果的です。
- 鼻洗浄。
生理食塩水による鼻腔洗浄は、鼻腔内の膿や粘液、アレルゲンなどを物理的に洗い流す効果があります。市販の鼻洗浄キットを用いて自宅でも簡単に行うことができ、症状の緩和に役立ちます。
- 去痰薬。
鼻汁の多い患者さんには、去痰薬を投与して粘液の排出を促進することもあります。
- 抗アレルギー薬。
アレルギー性の要素がある場合には、抗ヒスタミン薬やロイコトリエン受容体拮抗薬などの抗アレルギー薬が処方されることがあります。
手術療法:
保存的治療を数ヶ月行っても効果がない場合や、重症例、合併症がある場合には手術療法が検討されます。
- 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)。
現在の副鼻腔炎手術の主流です。内視鏡を用いて、副鼻腔内の異常がある粘膜の除去や、各副鼻腔の隔壁を開放して換気と排泄を改善します。低侵襲で回復も早いのが特徴です。
- バルーン拡張術。
比較的新しい治療法で、カテーテルの先端に付いたバルーンを副鼻腔の開口部に挿入し、拡張することで通気性を改善します。適応は限られますが、従来の手術よりも侵襲が少ないのが特徴です。
- 鼻茸切除術。
鼻茸(鼻ポリープ)が著しい場合には、これを切除する手術が行われます。
予防法:
副鼻腔炎と膿性鼻漏の再発を防ぐためには、以下のような予防策が重要です。
- 適切な鼻腔ケア。
定期的な鼻洗浄を行い、鼻腔内を清