上斜筋不全麻痺と複視と診断と治療

上斜筋不全麻痺と診断と治療

上斜筋不全麻痺:医療従事者向け要点
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症状の核は「上下+回旋の複視」と「代償性頭位」

上斜筋の下転・内方回旋が障害され、上下斜視と回旋偏位を伴う複視や頭位異常が出ます(先天では小児期に複視を訴えにくい点が重要)。

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診断は「頭部傾斜試験+眼球運動+回旋評価」

頭位で偏位が変化する所見(Bielschowsky頭部傾斜試験など)と、内転時の下転障害・回旋の評価を組み合わせて病型を詰めます。

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治療は「原因治療+プリズム+手術(時期の判断)」

後天性では自然軽快の可能性を見ながらプリズムで生活を支え、一定期間(目安として6か月)遷延する場合に手術を検討します。


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上斜筋不全麻痺の複視と回旋偏位

上斜筋不全麻痺(臨床的には上斜筋麻痺/滑車神経麻痺として扱われることが多い)は、上斜筋の「下転」と「内方回旋」の作用が障害されることで、上下斜視に加えて回旋偏位が重なりやすい病態です。

その結果、患者訴えとしては「上下に二重に見える(上下複視)」が中心になりますが、像がねじれて見える「回旋複視」が同時に前景化することもあります。

後天性で典型的なのは、下方視で複視が強くなり、階段を降りる場面で困難を訴えるパターンで、問診では“いつ・どの視方向で・どんな二重像か”を具体化すると鑑別が進みます。

臨床の落とし穴として、患者が「見え方の不快感」を“めまい”“眼精疲労”“頭痛”として言語化して受診することがあり、複視の自覚が曖昧でも、頭位や写真(免許証・家族撮影)に手掛かりが残っている場合があります。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0905ed6942f29ad4e4be0a30fab41da710704d2c

また先天性や小児期発症では、複視を自覚しにくい(抑制・融像で回避)一方で、頭位異常が主症状になり得るため、成人になってから「最近二重に感じる」と出てきた場合に“代償が破綻した”シナリオも想定します。meisha+1​

上斜筋不全麻痺の診断と頭部傾斜試験

診断の骨格は、眼球運動の観察(特に麻痺筋が働く方向で偏位が最大になるという麻痺性斜視の原則)に、頭位で変化する偏位を重ねて判断することです。

先天上斜筋麻痺では、頭位異常に対して「反対側(麻痺眼側)に頭を傾けると上下斜視が増加する」ことが診断の助けになる、と整理されています。

いわゆるBielschowsky頭部傾斜試験は、頭部傾斜に伴う回旋反射と外眼筋の代償収縮の結果として偏位が強まる所見を利用しており、斜頸を伴う症例のスクリーニングにも有用です。

実務上は、正面視だけで完結させず、少なくとも「下方視」「側方視」「内転位」「頭部傾斜」をセットで観察し、患者が“どの姿勢で楽になるか”を言語化してもらうと、代償性頭位の方向と整合しやすくなります。yamamotoclinic+1​

さらに、単なる垂直偏位の量だけでなく、回旋の自覚(像の傾き)や、回旋が残るとプリズムだけでは症状が取り切れない点も、治療計画に直結するため初期から確認します。

参考)プリズム眼鏡の処方と複視治療:視能訓練士が解説 – 静岡県島…

上斜筋不全麻痺のMRIとCTと低形成

先天上斜筋麻痺では、画像で上斜筋の低形成を認めると診断がより確実になる、と日本弱視斜視学会の解説にも明記されています。

また、先天例で上斜筋の欠損・萎縮があり、さらに高精度MRIで滑車神経の欠損が報告されている、という臨床的な指摘もあります。

したがって、臨床所見が典型でも、病型(先天/後天)や手術戦略の見通しを立てたい場面では、眼窩冠状断など“外眼筋が評価できるプロトコル”でのMRIが意思決定の補助になります。

一方、後天性の滑車神経麻痺では、原因として頭部外傷や血管障害が多いとされ、突然発症の複視は生命に関わる疾患が潜む可能性もあるため、原因検索としてのCT/MRIの位置づけも重要です。

特に外傷後は両眼性の滑車神経麻痺が起こり得る点が述べられており、上下複視より回旋複視が前面に出るケースを想定して問診・診察のフォーカスを調整します。meisha+1​

上斜筋不全麻痺のプリズムと斜視手術

後天性の滑車神経麻痺では、外傷・血管性・ウイルス性などで自然治癒の傾向があるとされ、まずは原因疾患の治療を行いながら、プリズム眼鏡で複視を回避して経過を見る、という流れが基本になります。

同解説では「6か月待っても複視が続く場合は斜視手術を考える」とされており、急性期に手術を急がない“時間軸の設計”が医療者側の説明ポイントです。

プリズムで調整しても像がまとまりにくい場合、回旋が残っている可能性に注意する、という臨床上の注意も共有されており、上下・水平だけでなく回旋要素の評価を治療前に行う意味が強調されます。

手術の詳細(どの筋をどう操作するか)は施設・術者の方針で差がありますが、少なくとも現場運用としては「正面での複視をどこまで消すか」「下方視(階段)をどこまで改善させるか」「回旋症状を主訴に置くか」を、プリズム試験や患者の生活課題と結びつけて“治療目標の合意”を作ることが重要です。orurieye+1​

また、麻痺性斜視は一般に正面での複視をゼロにしても側方視・下方視で残存しやすい、と説明されており、患者満足度のためには術前に到達可能性を具体的に共有する必要があります。

上斜筋不全麻痺の代償不全と融像機能(独自視点)

“代償不全型上斜筋麻痺”という見立ては、先天性上斜筋麻痺が頭部傾斜や広い融像機能によって両眼視を保っていたのに、加齢や何らかの要因で融像機能が低下し、眼位ずれを代償できなくなって後天的に複視が顕在化する、という臨床経過の説明と相性が良い概念です。

この視点を持つと、画像で「先天要素(低形成など)」が疑われる一方、患者訴えは“最近急に二重”という一見後天性に見える組み合わせでも、病歴の整合が取りやすくなります。

さらに、生活指導としては「複視が出る場面(疲労時、長時間の下方視、暗所)」を具体化し、短期的にはプリズムや遮閉で安全を確保しつつ、中長期的には手術を含む選択肢を“代償が戻らない可能性”も踏まえて提示する、といった説明設計が可能になります。

この文脈で意外に効くのが、患者自身に「代償性頭位は“癖”ではなく、両眼視を成立させるための戦略」であると理解してもらうことです。yamamotoclinic+1​

頭位異常が長期間続くと、首肩こり等の訴えが主訴化して眼科に辿り着きにくくなることもあるため、整形外科・耳鼻科・脳神経内科との連携導線(複視の確認、頭部外傷歴の確認)を院内で定型化しておくと、拾い上げの質が上がります。kuwana-sc+1​

原因・症状・診断・治療の公的まとめ(患者説明にも転用しやすい)。

日本弱視斜視学会「麻痺性斜視(滑車神経麻痺・上斜筋麻痺)」