上顆炎とは
上顆炎の基本的な定義
上顆炎とは、肘の骨である上腕骨の突起部分(上顆)に付着している筋肉や腱に炎症が起こる疾患です。上顆は肘の外側と内側にあり、それぞれに付着する筋肉群が異なるため、炎症が起こる部位によって「上腕骨外側上顆炎」と「上腕骨内側上顆炎」に分類されます。
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外側上顆炎は一般的に「テニス肘」と呼ばれ、手首を反らす筋肉(短橈側手根伸筋など)が障害される病気です。一方、内側上顆炎は「ゴルフ肘」として知られ、手首を曲げる筋肉(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋など)が影響を受けます。これらの疾患は、スポーツだけでなく、日常生活での繰り返し動作によっても発症する可能性があります。
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上顆炎の外側と内側の違い
上腕骨外側上顆炎と上腕骨内側上顆炎は、発症する部位と関与する筋肉が異なります。外側上顆炎では、手首を背屈(手の甲側に反らす)させる筋肉群が上腕骨の外側に付着している部位で炎症を起こします。この状態は、テニスのバックハンドストロークやパソコンのキーボード操作など、手首を反らす動作を繰り返すことで発症しやすくなります。
対照的に、内側上顆炎は手首を掌屈(手のひら側に曲げる)させる筋肉群が障害される疾患です。ゴルフのスイングやテニスのフォアハンド、重いものを持ち上げる作業などで発症しやすいとされています。外側上顆炎の方が発症頻度は高く、中高年のテニス愛好家に多く見られる傾向があります。
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| 項目 | 外側上顆炎(テニス肘) | 内側上顆炎(ゴルフ肘) | 
|---|---|---|
| 痛みの部位 | 肘の外側 | 肘の内側 | 
| 障害される筋肉 | 短橈側手根伸筋など伸筋群 | 橈側手根屈筋、尺側手根屈筋など屈筋群 | 
| 代表的なスポーツ | テニス、バドミントン | ゴルフ、野球 | 
| 日常生活での誘因 | パソコン作業、重い物を持ち上げる | 重い物を引っ張る作業 | 
上顆炎の診断方法と検査
上顆炎の診断には、主に理学的検査と画像検査が用いられます。外側上顆炎の代表的な診断テストとして、Thomsenテスト(手関節背屈テスト)があります。この検査では、検者の抵抗に抗して手首を反らす動作を行わせ、肘の外側に痛みが生じれば陽性と判断されます。他にもChairテスト(椅子を持ち上げる動作)や中指伸展テストなど、複数の誘発試験が診断に活用されます。
参考)上腕骨外側上顆炎(テニス肘)|ぶろぐ|整形外科井上病院・井上…
超音波検査では、腱の肥厚や炎症所見を直接確認することができます。レントゲン検査も関節の状態や骨の異常を把握するために実施されますが、腱や筋肉の状態を詳細に評価するにはMRI検査が有効です。触診では、上顆部の圧痛や腫れを確認し、肘の曲げ伸ばし動作時の痛みの有無もチェックします。これらの検査結果を総合的に評価することで、正確な診断が可能になります。
上顆炎の症状の進行段階
上顆炎の症状は段階的に進行します。初期段階では、特定の動作をした時にのみ軽い痛みを感じる程度です。例えば、物を持ち上げる時や手首をひねる動作をした時に、肘の外側や内側にジワッとした痛みが生じます。この段階で適切な対処をすれば、比較的早期に症状が改善する可能性があります。
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しかし、痛みを我慢して使い続けると症状は慢性化し、日常生活のささいな動作でも強い痛みを感じるようになります。さらに重症化すると、腱付着部の微小断裂や骨膜の刺激により、夜間痛や安静時痛を伴うほどになることもあります。この段階まで進行すると、保存療法の効果が出にくくなり、完治までに長期間を要する可能性が高まります。早期発見と適切な治療が、重症化を防ぐ重要なポイントです。
上顆炎の原因となる動作と職業
上顆炎は、手首や指を繰り返し使う動作によって発症します。スポーツでは、テニスのラケットを振る動作、ゴルフのスイング、野球の投球動作などが代表的な原因です。テニスではボールを打つ際にラケットに加わる衝撃が、ひじから手首にかけての筋肉にダメージを与えます。
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職業上のリスク要因も重要です。調理師、レジ打ち、長時間のパソコン操作を行う事務職、肉体労働で重い物を運ぶ作業をする人などが上顆炎を発症しやすいとされています。特に、手の甲を上に向けて物を持ち上げる動作は外側上顆炎のリスクを高めます。
参考)上腕骨外側上顆炎
また、加齢に伴う筋肉の質の低下も重要な要因です。年齢とともに筋肉の柔軟性が失われ、繰り返しの刺激に弱くなっていくため、中高年層での発症が多くなります。これらの要因を理解し、日常生活や仕事での動作に注意を払うことが予防につながります。
上顆炎の保存療法と治療法
上顆炎の治療は、まず保存療法が基本となります。痛みを誘発する動作を制限し、患部を安静に保つことが最も重要です。急性期にはアイシングが効果的で、1回15〜20分、1日数回アイスパックで患部を冷やします。炎症が落ち着いてきたら、逆に温めることで血流を改善し、回復を促進できます。
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薬物療法としては、湿布や内服薬の使用、症状が強い場合にはステロイド注射やヒアルロン酸注射が選択されます。また、前腕への負荷を軽減するために、テニス肘用のバンドやサポーターの装着が推奨されます。
参考)https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/sports-chronic-pain/lateral-epicondylitis/
理学療法も重要な治療法です。前腕の筋肉のストレッチング、筋力強化運動、超音波や体外衝撃波を用いた物理療法などが行われます。保存療法で効果が見られない場合は、腱付着部を剥がす手術やデブリドマンなどの手術療法が検討されることもあります。治療の選択は、症状の程度や患者の生活状況に応じて個別に決定されます。
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上顆炎のストレッチとリハビリ方法
上顆炎の症状改善と予防には、適切なストレッチが非常に効果的です。外側上顆炎に対するストレッチでは、腕を前方に伸ばし、肘を外側に回して手のひらを後ろ側に向けた状態から、手首を手のひら側に曲げます。この時、反対の手で中指の先を軽くつまみ、手首がより深く曲がる位置まで引っ張ります。痛みを感じたら無理をせず、1回30秒を1日3回程度行うのが目安です。
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内側上顆炎のストレッチでは、伸ばしたい側の肘を地面と水平に伸ばし、手のひらを外に向けて指先を下に向けます。次に反対の手で手のひらと指を押さえ、手前に引きます。肘を完全に伸ばし、手首を完全に曲げることがポイントです。
参考)肘ストレッチ
リハビリテーションでは、前腕屈筋・回内筋群の柔軟性と滑走性の改善を目指します。筋間を押しながら肘関節の屈伸、前腕回内外、手関節掌屈を行うことで、滑走性の改善を図ります。また、ゴムバンドを使った抵抗エクササイズで筋力を回復させ、上顆への負担を減らすことも重要です。これらのリハビリは理学療法士の指導のもとで行うとより効果的です。
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上顆炎の日常生活での注意点と予防策
上顆炎の予防には、日常生活での工夫が欠かせません。まず、手首や肘の使い過ぎを避けることが基本です。特に手の甲を上に向けて物を持ち上げる動作は外側上顆炎のリスクを高めるため、注意が必要です。重い物を運ぶ際は、手のひらを上に向けて持つか、両手で持つようにしましょう。
パソコン作業が多い場合は、適切なキーボードやマウスの使い方を心がけることが大切です。椅子やデスクの高さを調整し、良好な姿勢を保つことで肘や腕への負担を軽減できます。長時間の作業では、こまめに休憩を取り、手首や肘のストレッチを行うことが推奨されます。
スポーツを行う際は、正しいフォームとテクニックを身につけることが重要です。ゴルフやテニスでは、腕だけでなく全身を使った動きを意識し、肘への負担を分散させましょう。また、テーピングやサポーターの装着により、手首や肘にかかる衝撃を吸収することも効果的です。筋力トレーニングで筋力を高めることも予防に役立ちますが、症状が出た後の過度な筋トレは症状の悪化を招くため注意が必要です。
日本整形外科学会の上腕骨外側上顆炎に関する情報はこちらの参考ページに詳細が記載されています。
済生会の上腕骨外側上顆炎の解説ページでは、病態や治療法について詳しく説明されています。