つつが虫病とは
つつが虫病のリケッチア病原体
つつが虫病は、オリエンチア・ツツガムシ(Orientia tsutsugamushi)という細胞内寄生性グラム陰性細菌によって引き起こされる感染症です 。この病原体はリケッチア科に属する微生物で、マダニやツツガムシなどの節足動物を自然宿主とする特徴があります 。日本では感染症法上の四類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る義務があります 。
つつが虫病リケッチアは、複数の血清型が存在し、日本ではKarp型、Kato型、Gilliam型、Shimokoshi型などが確認されています 。これらの血清型の違いは地域分布や季節性発生パターンに関連しており、診断や疫学調査において重要な情報となります。病原体は宿主細胞内でのみ増殖可能で、人工培地での培養が困難なため、診断には血清学的検査や遺伝子検査が用いられます。
参考)https://id-info.jihs.go.jp/idsc/niid/images/idsc/iasr/38/448.pdf
つつが虫病の媒介ダニと感染機序
つつが虫病の媒介者は、ダニ目ツツガムシ科に属するツツガムシの幼虫です 。主要な媒介種には、フトゲツツガムシ、タテツツガムシ、アカツツガムシなどがあり、これらの種類によって活動時期や生息地域が異なります 。ツツガムシは林、草むら、河川敷などの土中に生息し、幼虫期にのみ温血動物に寄生します。
参考)『 つつが虫病 』に注意しましょう – 岡山県ホームページ(…
感染機序は、リケッチアを保有するツツガムシ幼虫が人間の皮膚に吸着し、6~10時間程度をかけて体液を吸引する際に病原体が体内に侵入することで成立します 。重要な点は、すべてのツツガムシが病原体を保有しているわけではないため、刺咬されても必ずしも感染するとは限らないことです 。人から人への感染は起こらず、必ず媒介ダニを通じた感染となります。
つつが虫病の症状と診断
つつが虫病の臨床症状は、潜伏期間5~14日を経て、発熱、発疹、刺し口の3主徴で特徴づけられます 。発熱は38~40℃の段階的な高熱となり、全身倦怠感、悪寒戦慄、頭痛、関節痛を伴います。第3~4病日頃に胸部、腹部、背部を中心とした米粒大から小豆大の紅斑が出現し、四肢や顔面にも拡がります 。
参考)つつが虫病について
診断において最も重要な所見は刺し口で、中央に黒色痂皮を伴う特徴的な病変が皮膚の柔らかい隠れた部分に形成されます 。刺し口の大きさは通常1~2cm程度で、脇の下、鼠径部、臀部などに多く見られます 。診断は病原体遺伝子検出、血清抗体検査、培養検査などによって確定されますが、臨床診断では刺し口の確認が決定的な手がかりとなります 。
参考)つつが虫病 Tsutsugamushi disease (S…
つつが虫病の治療と抗菌薬
つつが虫病の治療にはテトラサイクリン系抗菌薬が極めて有効で、適切な治療開始により2~3日で解熱し、症状の劇的な改善が期待できます 。第一選択薬はドキシサイクリンで、成人では通常100mgを1日2回経口投与します。ペニシリン系やセフェム系抗菌薬は無効であり、これらの薬剤への反応性の欠如も診断の手がかりとなります 。
参考)https://www.eiken.yamagata.yamagata.jp/pdf/tsutsu-pamh-2013.pdf
早期診断・早期治療が極めて重要で、治療開始から48時間以内であれば良好な予後が期待できます 。しかし、治療が遅れると重症化のリスクが高まり、肺炎、脳炎、心筋炎、多臓器不全などの合併症を引き起こす可能性があります。適切な治療が行われない場合の致死率は3~60%と報告されており、速やかな医療機関受診が必要です 。
参考)ツツガムシ病(Scrub typhus)|症状からアプローチ…
つつが虫病の予防と公衆衛生対策
つつが虫病には予防接種が存在しないため、ツツガムシの刺咬を防ぐことが唯一の予防法となります 。野山、河川敷、田畑での作業時には長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を最小限に抑えることが重要です。帰宅後は速やかに着替え、衣服は室内に持ち込まず、すぐに洗濯または密閉保管します 。
入浴時の念入りな身体洗浄も効果的で、ツツガムシが吸着に要する6~10時間以内に除去することで感染を防げます 。虫よけスプレーの使用も一定の効果がありますが、効果は塗布部分に限定されるため、他の対策と併用することが推奨されます。日本では年間400~500名の患者が報告されており、春~初夏と晩秋~冬の2つのピークを示すため、これらの時期の野外活動では特に注意が必要です 。