椎骨動脈と脳底動脈の関係と役割

椎骨動脈と脳底動脈の関係と役割
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椎骨動脈と脳底動脈とは何か

脳への血液供給を担う重要な血管系で、脳幹や小脳への栄養動脈として機能する後方循環系の中核を成します。

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椎骨動脈から脳底動脈への形成過程

左右の椎骨動脈が頭蓋内で合流し、単一の脳底動脈を形成する生理学的機序の詳細。

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椎骨脳底動脈系の臨床的病態

解離や閉塞による神経学的症候群など、医療現場で遭遇する主要な病態と対応。

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側副循環の役割と血管異常

ウィリス動脈輪における椎骨動脈と内頸動脈の連結と、血管破格による臨床的影響。

椎骨動脈と脳底動脈の構造と機能

椎骨動脈の解剖学的特徴と起始部

 

椎骨動脈は左右一対の血管で、各々の鎖骨下動脈から起始します。頸部の深部を上行しながら頸椎の横突孔を貫いて進行していく点が、この動脈に「椎骨」という名前が付与された理由です。頭蓋内に入る直前まで、脊椎の骨性構造に完全に守られているため、外的損傷から保護されています。この独特な解剖学的位置は、同名の椎骨(脊椎)の中を通ることから命名された経緯を示しています。

椎骨動脈は一般に内頸動脈よりも細く、直径が小さいという特徴を有しています。超音波検査では健常者の椎骨動脈に左右差が認められることが多く、左側が右側よりも太いという傾向が報告されています。この左右差は個体差が大きく、臨床診断において重要な参考情報となります。

頭蓋内への進入時には、椎骨動脈はV3(頸部セグメント)からV4(頭蓋内セグメント)へと移行します。この移行部では硬膜を貫通する過程で複雑な走行を示し、急なカーブを形成します。

椎骨動脈の分枝と脳脊髄への血液供給

椎骨動脈が頭蓋内に入ると直後に、脊髄の栄養血管の一つである前脊髄動脈を分岐させます。この前脊髄動脈は脊髄への重要な血流を確保する役割を担っています。さらに重要な分枝として、後下小脳動脈(PICA)を出します。

後下小脳動脈は小脳の下1/3の血流を担当し、解剖学的には椎骨動脈から出される3本の小脳動脈のうち最初に分岐する血管です。この血管領域の虚血は、古典的なWallenberg症候群を引き起こすことが知られており、めまい、嘔吐、嚥下障害、感覚障害などの多彩な神経症状を呈します。

椎骨動脈の直径が細いため、単一の椎骨動脈が完全に閉塞した場合でも、対側の椎骨動脈からの血液供給により脳幹や小脳への血流が部分的には維持される可能性があります。しかし、両側同時の閉塞や重度の狭窄は極めて危険な状態をもたらします。

脳底動脈の形成と構造的特異性

左右の椎骨動脈は頭蓋内で合流し、単一の脳底動脈を形成します。この合流点は、延髄と橋の移行部付近であり、脳幹の下部領域に位置しています。脳底動脈は中線上を上行しながら、橋の正中部を走行して進みます。

脳底動脈の最大の特徴は、その物理的な一意性です。すなわち脳底動脈は人体にただ1本存在する血管であり、椎骨動脈のように左右一対ではありません。このため、脳底動脈が完全に閉塞した場合の臨床的な影響は極めて深刻です。脳幹全体への血流が途絶え、意識障害、四肢麻痺、または致命的な状態に至る可能性が高く、一刻の争う医療的緊急事態となります。

脳底動脈の直径は約3~5mmであり、体の主要動脈としては比較的細い血管です。にもかかわらず、脳幹という最も重要な神経構造への単一の主要血流供給路として機能しています。

脳底動脈からの分枝と脳幹・小脳支配領域

脳底動脈から分岐する主要な動脈には、前下小脳動脈(AICA)、上小脳動脈(SCA)、後大脳動脈(PCA)が含まれます。これら3本の小脳動脈は、小脳を3つの領域に分けて血液を供給します。

前下小脳動脈は小脳の中1/3の血流を担当し、特に小脳前葉と小脳片葉の栄養動脈として機能します。上小脳動脈は小脳の上1/3の領域に血液を供給し、小脳上面と小脳核への主要血流を担います。これら小脳血管の虚血は、平衡感覚障害、運動失調、眼振などの小脳症状を呈します。

脳底動脈からは多数の細小な穿通枝が直接橋へ分岐します。これらの穿通枝は橋の内部深部へ貫入し、橋腹側面における重要な神経核を栄養します。橋には三叉神経核、顔面神経核、外転神経核など多くの脳神経核が存在するため、これらの穿通枝の虚血は多様な脳神経症状を引き起こします。

後大脳動脈は脳底動脈の末梢で左右の2本に分岐し、主に大脳後部の内側面と後頭葉の血流を担当します。特に視覚中枢である一次視覚野はこの血管領域に位置し、後大脳動脈の虚血は対側半盲などの視覚障害を引き起こします。

椎骨脳底動脈系の異常と臨床的病態

椎骨脳底動脈系の解剖学的破格や異常は臨床的に重要です。従来、後下小脳動脈(PICA)は椎骨動脈のV4セグメントから分岐するとされてきましたが、近年の詳細な解剖学的検討により、V3セグメント(頭蓋外セグメント)から分岐する変異例や、硬膜輪内から分岐する例が報告されています。

椎骨動脈解離は日本においてとりわけ一般的な病態です。動脈解離により動脈内膜が裂傷し、血栓形成や動脈瘤を生じることで、脳梗塞くも膜下出血の原因となります。椎骨脳底動脈系の解離性動脈瘤は全頭蓋内解離性動脈瘤の大多数を占め、その中でも頭蓋内椎骨動脈に最も頻繁に発生します。若年から中年の患者における突然の後頸部痛や後頭部痛に続く脳梗塞発症は、椎骨動脈解離を強く示唆する臨床提示です。

椎骨動脈の頭蓋外部分における機械的閉塞は、脊髄や後下小脳動脈領域への虚血を招きます。一部の症例では、保存的治療により側副循環の発達が生じ、症状の軽減が見られることもあります。しかし、急性期の完全閉塞では神経学的焦点症状が急速に進行するため、速やかな医学的介入が必須です。

参考資料:椎骨脳底動脈系頭蓋内動脈解離についての全国調査は、日本脳神経外科学会により定期的に実施されており、本邦における解離性動脈瘤の疫学的特徴の理解に重要な役割を果たしています。

椎骨脳底動脈系頭蓋内動脈解離の全国調査結果
脳血管の解剖と動脈系の詳細解説は、脳神経外科の専門的資料として参考になります。

それでは、調査結果に基づいて医療従事者向けのブログ記事を作成します。


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