透析関連:人工透析液
透析関連:人工透析液の組成と重炭酸
人工透析液は「血液から除去したい溶質」と「補正したい電解質・酸塩基」を、拡散と限外濾過が成立する濃度設計で支える灌流液であり、電解質・ブドウ糖・アルカリ化剤(重炭酸など)から構成されます。
特に重炭酸は、腎不全で進行しやすい代謝性アシドーシスを是正し、生理的な弱アルカリ性に戻す狙いで透析液へ組み込まれます。
臨床では重炭酸濃度が製剤により段階的に用意され(例:25、27.5、30、35 mEq/Lなど)、患者背景(栄養・呼吸状態・透析条件)と採血推移を見て「過補正(アルカローシス)や補正不足」を避ける調整が要点になります。
あまり語られない落とし穴として、重炭酸を透析液に加える設計は、カルシウム等との反応で炭酸カルシウム沈殿を生じうるため、後述するA液・B液分離や酸成分(酢酸/クエン酸)併用という“製剤学的な妥協”が背景にあります。
透析関連:人工透析液の電解質(Na・K・Ca・Mg・Cl)
透析液中の電解質は、患者血中濃度との勾配で「除去にも補充にも働く」ため、処方は単なる規格選択ではなくリスク管理そのものです。
Kは典型例で、高K血症傾向なら低K透析液(例:2.0mEq/L)、摂取不足や低Kリスクなら高め(例:3.0mEq/L)を使うなど、心筋興奮性と食事/薬剤の影響も含めて判断します。
Caは骨ミネラル代謝(PTH、活性型ビタミンD製剤、カルシミメティクス等)と絡み、透析液Ca濃度の選択が慢性の高Ca/低Caを固定化しないように“時間軸で”見直される点が重要です。
透析液の設計上、リン(P)は「透析液には含まれない」ことが多く、拡散で血液から透析液へ移動させて除去する前提なので、P管理は食事・薬剤・透析条件の総合戦になります。
透析関連:人工透析液のブドウ糖と血糖変動
透析液のブドウ糖は、透析中の血糖変動(特に低血糖)を抑える目的で添加され、濃度として0、100、125、150 mg/dLなどの選択肢が整理されています。
濃度勾配の観点では、血液側血糖が透析液ブドウ糖より低い状況では透析中に血糖が下がりやすく、逆に高い状況では“下げる方向”に働くため、糖尿病の治療内容や透析中の補食・インスリン使用の有無も含めて設定します。
現場的には「透析前血糖だけで決めない」ことが大切で、透析中の症状(冷汗、眠気、いらだち等)や透析後の反跳高血糖の有無、連続測定(CGM)データがある場合のトレンドまで見て、ブドウ糖濃度と栄養指導をセットで最適化します。
透析関連:人工透析液の水質基準と透析液清浄化(ET・生菌数)
透析液は薬理学的には“体内に注入しない液”でも、ダイアライザ膜を介した逆濾過などにより、透析液側の汚染が炎症や合併症リスクに関わり得るため、水質管理が必須です。
日本透析医学会の枠組みでは、少なくとも「標準透析液」として透析液ET 0.05 EU/mL未満かつ生菌数100 cfu/mL未満が定義され、さらに「超純粋透析液(UPD)」としてET 0.001 EU/mL未満(測定感度未満)かつ生菌数0.1 cfu/mL未満が示されています。
測定頻度についても、ETと生菌数はいずれも月1回以上、コンソールも年1回以上は全台を検査するなど、運用要件が“数字で”定められています。
加えて2016年版の考え方では、生物学的汚染だけでなく化学的汚染(例:アルミニウム、総塩素等)と装置管理が水質基準に組み込まれ、総残留塩素は総塩素として0.1 mg/L未満を確認することが推奨されています。
透析液水質基準(生物学的・化学的汚染、総塩素0.1 mg/L未満、装置管理の考え方)を確認できる。
透析液ET・生菌数の達成率や測定頻度など、全国調査に基づく水質管理の実態を確認できる。
日本透析医学会 統計(2018)「第4章 透析液水質管理」(PDF)
透析関連:人工透析液の調製(A液・B液)と沈殿リスク(独自視点)
人工透析液は多くがA液(電解質・ブドウ糖など)とB液(炭酸水素ナトリウム)に分かれ、透析供給装置で規定比率に希釈・混合して使用されます。
ここで最重要の安全項目は、A液・B液を各々単独で使わないこと、そして濃厚液の状態でA液とB液を直接混合しないことで、理由はA液に含まれる塩化カルシウム水和物や塩化マグネシウム等と、B液の炭酸水素ナトリウムが反応して沈殿を生じ得るためです。
「沈殿=異物」は回路閉塞やフィルタ負荷だけでなく、気づかないまま使用すれば患者側リスクにもなり得るため、“調製エラーを起こしにくい導線”を部署で作ることが実務上の肝になります(例:コネクタ形状、色分け、手順書、ダブルチェック、教育、監査)。
意外に盲点になりやすいのが「残液の扱い」で、炭酸水素ナトリウム溶液の残液は使用しない注意が明記されている製剤もあり、当直帯・緊急透析・装置トラブル時ほど“例外運用”が起きない設計が必要です。
もう一段踏み込むと、沈殿を起こさないためのA/B分離・酸成分設計は、単なる製造上の都合ではなく「透析液の化学的安定性」と「水質管理(清浄化)」が同時に求められる現場で、ヒューマンエラーを増幅させやすいポイントでもあります。
【現場で使えるチェック(例)】
- 🧴 薬剤・透析液原液は「単独使用しない」「濃厚液同士を混ぜない」を最上段に掲示する(新人が最初に見る場所)。
- 🔎 調製後の透析液に不溶性異物(白濁・微粒子)を認めた場合は使用しない運用を徹底する(“気のせい”で流さない)。
- 🧫 水質はETと生菌数の両方で評価し、基準だけでなくアクションレベル(上限値の50%など)で早期介入する。
- 🚰 災害時・緊急時は原水の塩素濃度が上がり得る前提で、総塩素測定と装置の注視を強化する。
【人工透析液の用語ミニ表(復習)】
| 用語 | 現場での意味 | ミスが起きやすい点 |
|---|---|---|
| 標準透析液 | ET 0.05 EU/mL未満・生菌数100 cfu/mL未満の最低限基準。 | 「達成しているはず」で測定頻度が落ちる(基準は運用も含む)。 |
| 超純粋透析液(UPD) | ET 0.001 EU/mL未満・生菌数0.1 cfu/mL未満で、全透析治療で使用推奨。 | 装置・配管・フィルタ管理が連動し、どこか1点の破綻で全体が崩れる。 |
| A液・B液 | A=電解質/ブドウ糖、B=炭酸水素ナトリウムを分離し、規定比率で調製する。 | 濃厚液の直接混合で沈殿、残液使用、手順逸脱。 |