凍結療法と保険適応
凍結療法の保険適応となる主な疾患
凍結療法で保険適応となる代表的な疾患は、4cm以下の小径腎細胞がんです。2011年に保険収載されて以降、腎機能が低下している患者や高齢者、単腎の方、遺伝性疾患で両側に腫瘍がある方などに対して実施されています。治療成績は5年生存率が95%以上と手術とほぼ同等でありながら、初回治療成功率83.3%、再治療を含めた総治療成功率は96.5%と高い有効性が報告されています。
参考)放射線科|小径腎細胞がんに対する凍結療法|順天堂大学医学部附…
皮膚科領域では、液体窒素を用いた冷凍凝固療法が尋常性疣贅(ウイルス性いぼ)、日光角化症、脂漏性角化症の一部などに保険適用されています。マイナス196℃の液体窒素で患部を凍結させることで、感染した皮膚ごと壊死させて除去する方法です。週に1回の治療が保険適応で可能であり、3割負担の場合、3個以下のいぼで約630円、4個以下で約810円程度の費用となります。
参考)冷凍凝固療法(液体窒素)
骨転移腫瘍に対する凍結療法は、現在保険適用となっており、がんの骨転移や骨軟部の再発腫瘍が対象です。1.5mm程度の細い針を皮膚から刺し、針を超低温にして腫瘍を破壊する治療法で、局所麻酔で行えるため高齢者や他の病気で治療中の方にも適用しやすい特徴があります。
参考)https://radiology.hsc.okayama-u.ac.jp/medical/ivr/medical03/
凍結療法で保険適応外となる疾患と費用
肺がんに対する凍結療法は、現時点では保険適応外の自費診療となります。柏厚生総合病院では治療費と入院費を含めて消費税込みで60万円、針を2本使用する場合は75万円の費用がかかります。慶應義塾大学病院では患者申出療養として実施しており、計画・管理費用として830,560円、1回の治療実施に445,960円(針2本使用時)が必要です。
乳がんに対する凍結療法も、現在は保険適応外です。一部の早期乳がんに対して切除手術の代わりに行う整容性の高い治療法ですが、非浸潤がんの方の場合、日帰り手術で38万5000円の自費負担が発生します。メリットとして切除傷がほぼ残らない(3mm程度)、痛みが少ない、日帰り可能という点がありますが、費用面での負担は大きくなります。
参考)乳がん凍結療法
前立腺がんや肝がん、子宮筋腫などへの凍結療法は、2016年に凍結治療機が医療ニーズの高い医療機器として承認されたため、今後保険適用拡大が期待されている段階です。現時点では臨床研究として実施されているケースが多く、各施設で適応基準や費用が異なります。
参考)凍結療法 – 独立行政法人国立病院機構 熊本医療センター
日本IVR学会による腎臓がん凍結療法のQ&A(保険適応や費用についての詳細情報)
凍結療法の治療の流れと入院期間
腎がんに対する凍結療法は、CTで病巣部をモニターしながら直径約2mmのプローブを皮膚から病巣部へ刺入します。局所麻酔を用いるため全身麻酔は不要で、治療時間は約2時間~2時間半です。治療中は血圧・脈拍・体温などのバイタルサイン、心電図、自覚症状を観察しながら進めます。
参考)小径腎がん
入院期間は施設によって異なりますが、最短で1泊2日、通常は3~4日程度で退院可能です。治療翌日に血液・尿検査、CT検査を行い、出血がないことを確認してから退院となります。一般的な入院日数の中央値は4日(範囲4-52日)と報告されており、早期社会復帰が可能な低侵襲治療として位置づけられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsejje/29/1/29_131/_pdf
治療効果の確認は、術後4週間目と術後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月目に造影CTを行います。平均観察期間16.3ヶ月のデータでは、合併症は8.1%に認められましたが、輸血を要する出血は1.6%と安全性も高いことが示されています。
参考)画像ガイド下凍結療法:現況と将来展望 浅山 良樹(九州大学大…
凍結療法と他の治療法の違い
凍結療法とラジオ波焼灼療法は、いずれも穿刺針を病巣に直接刺入して治療を行う点で共通していますが、作用機序が異なります。凍結治療はマイナス40℃以下に冷却することで直接的な細胞壊死を得る方法です。一方、ラジオ波焼灼療法は高周波電流による加熱で腫瘍を壊死させる技術で、それぞれ適応となる腫瘍の大きさや位置が異なります。
参考)アブレーション治療 | 三重大学大学院医学系研究科 腎泌尿器…
外科手術と比較した場合、凍結療法の最大のメリットは低侵襲性です。全身麻酔が不要で局所麻酔のみで実施でき、手術時間や入院期間が短く、腎機能を保持できる点が優れています。しかし、デメリットとして手術よりもやや再発率が高いことが報告されており、治療後の経過観察が重要です。再発した場合でも再治療が可能であり、再凍結療法を含めた総治療成功率は96.6%と高い水準を維持しています。
化学療法や放射線療法と異なり、凍結療法は局所治療であるため全身への影響が少なく、他の治療と併用することも可能です。標準的ながん治療(手術、化学療法、放射線療法)を受けられない患者に対する選択肢として、特に胸部悪性腫瘍の分野で患者申出療養として活用されています。
参考)胸部悪性腫瘍に対する経皮的凍結融解壊死療法(患者申出療養) …
順天堂大学医学部附属順天堂医院の小径腎細胞がんに対する凍結療法の詳細
凍結療法のメリットと合併症のリスク
凍結療法の主なメリットは以下の通りです。まず、麻酔をかけずに実施できる、または局所麻酔のみで済むため、全身麻酔のリスクを回避できます。次に、治療時間が短く(約2時間程度)、入院期間も数日と短いため、患者の身体的・経済的負担が軽減されます。さらに、傷は針の孔だけなので術後の痛みがほとんどなく、整容性に優れている点も大きな利点です。
皮膚科領域では、液体窒素による凍結療法は日本皮膚科学会の治療ガイドラインで推奨度Aに指定されている標準的な治療法です。においも痛みもほとんどなく、週1回のペースで保険適用で治療を受けられる手軽さが特徴です。
参考)痛みの少ないいぼ治療とは?液体窒素スプレーとモノクロロ酢酸 …
一方で、合併症のリスクも存在します。腎がんに対する凍結療法では、合併症が8.1%の症例で報告されており、主なものは軽度の出血や血尿です。治療後は軽い発熱や血尿が見られることがありますが、ほとんどの患者が1週間以内に退院しています。経験豊富な施設で行えば重い合併症はほとんどありませんが、腫瘍の位置によっては治療が難しい場合もあります。
皮膚科領域の液体窒素療法では、炎症後色素沈着を起こすことがあるため、患者の状態に合わせたアフターケアが重要です。また、足の裏や爪の周りのいぼは治りにくく、複数回の治療が必要になることがあります。
参考)首イボは自分で取れる?軟性線維腫の原因や皮膚科での治療・治療…
凍結療法を受ける際の患者選択基準
腎がんに対する凍結療法の対象となるのは、主に以下のような患者です。腎機能が低下している方、遺伝性疾患などで複数または両側に腎腫瘍がある方、腎臓が片方しかない単腎の方、高齢や合併症により手術リスクが高い方、または凍結治療を希望される方が適応となります。腫瘍の大きさは4cm以下が保険適応の条件であり、発生場所によっては治療が難しい場合もあります。
胸部悪性腫瘍(肺腫瘍・縦隔腫瘍・胸膜腫瘍・胸壁腫瘍)に対する凍結療法では、標準的ながん治療を受けられない患者が対象です。具体的には、治療標的病変数が3個以内、肺悪性腫瘍の場合は最大径3.5cm以下、その他の胸部悪性腫瘍は10cm以下、年齢18歳以上79歳以下、全身状態がある程度保たれているという条件があります。
皮膚科領域では、ウイルス性いぼ(尋常性疣贅)、日光角化症、脂漏性角化症の一部、尖圭コンジローマなどが対象疾患となります。単なる整容目的の小隆起や、悪性が否定できない病変は自由診療になりやすく、まず診察で最適な治療ルートを提案されます。
治療を希望される方は、各施設の専門外来を受診し、適応の可否を判断してもらう必要があります。治療成績や合併症のリスク、費用について十分に説明を受けた上で、インフォームドコンセントを得て治療が実施されます。