トリーチャーコリンズ症候群の整形できない理由と治療限界

トリーチャーコリンズ症候群の整形できない背景

記事のポイント
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治療の複雑性

骨形成不全による構造的問題で一般的な美容整形は適応外

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多段階の手術

成長に合わせた複数回の形成外科手術が必要

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遺伝学的背景

TCOF1遺伝子変異が原因で根本的治癒は不可能

トリーチャーコリンズ症候群の病態と遺伝学的特徴

トリーチャーコリンズ症候群は約5万人に1人の割合で発生する先天性疾患で、胎生期における顎骨や頬骨の一部欠損・形成不全が特徴です。この症候群は遺伝子レベルの問題に起因しており、TCOF1遺伝子の変異が全体の81~93%を占めています。

参考)トリーチャー・コリンズ症候群 – 遺伝性疾患プラス


TCOF1遺伝子を設計図として産生されるタンパク質は、顔の骨および組織が形成される初期段階で働いており、リボソームRNA(rRNA)の産生にも関与しています。このrRNAはタンパク質を合成する過程で必須となる物質であり、細胞の機能と生存に不可欠なんです。遺伝子変異によってrRNAの産生が低下することが、顔の骨や組織の発達に影響を与えていると考えられています。​
POLR1C、POLR1D、POLR1B遺伝子もrRNAの合成に関わる酵素(RNAポリメラーゼI)の産生に関与しており、これらの遺伝子変異も約2%程度の症例で確認されています。遺伝形式は常染色体優性遺伝が多く、患者さんの約60%は家族歴のない新生変異による発症です。​

トリーチャーコリンズ症候群で美容整形が困難な理由

トリーチャーコリンズ症候群に対して一般的な美容整形が適応できない主な理由は、骨の構造的欠損という根本的な問題にあります。美容整形は通常、正常な骨格構造の上で軟部組織を調整する施術ですが、この症候群では頬骨や下顎骨自体がほとんど形成されていない、または著しく低形成であるケースが多いのです。

参考)https://www.orpha.net/pdfs/data/patho/Pro/other/TreacherCollinsshokogun_JP_ja_PRO_ORPHA861.pdf


頬骨の部分的な欠損や小さな下顎が特徴的で、これらは単純な軟部組織の操作では改善できません。ほとんど頬骨がない小さな顔に合うマスクすら少ないという実例からも、その構造的異常の深刻さがわかります。耳朶がなくマスクのひもを掛けられない、耳穴が生まれつきないなど、顔面の複数の構造が同時に欠損している点も、治療を複雑にしています。

参考)トリーチャーコリンズ症候群(症状・原因・治療など)|ドクター…


外耳道閉塞については穴を開けることは可能ですが、CTなどでしっかり診察しないといけません。開ける部位に静脈が通っていることがあり、その場合は施術できないという制約もあります。この症候群は遺伝病なので、症状を完璧に治療するには無理があり、再建や美容整形を通じてある程度の機能的な部分と外観を改善するのが限界なんです。

参考)https://ameblo.jp/chihiromen/entry-12613263442.html


参考:トリーチャー・コリンズ症候群の治療と診断 – 遺伝性疾患プラス

このリンクでは、トリーチャー・コリンズ症候群の遺伝学的背景と治療法の詳細が解説されています。

トリーチャーコリンズ症候群における形成外科手術の限界と課題

形成外科的治療は多段階かつ長期的なアプローチが必要です。口蓋裂の修復は1~2歳、頬骨と眼窩の再建は5~7歳まで、下顎矯正術は16歳までの実施が推奨されています。しかし、これらの手術には複数の課題が存在します。

参考)GRJ トリーチャー・コリンズ症候群


手術時の麻酔導入では、下顎低形成による挿管困難も念頭におく必要があります。直達喉頭鏡検査以外の挿管手技が必要になることもあり、気道管理自体が高リスクなんです。開口制限の治療は非常に困難で、中耳の異常(機能改善手術)および外耳の異常(外耳再建)に対しては、専門の耳鼻科手術が必要です。

参考)トリーチャーコリンズ(Treacher Collins)症候…


一般に、軟組織の修正に先立って骨の再建が行われますが、再建術を行うことで顔の非対称の進行を予防できる可能性があるものの、完全な対称性の獲得は困難です。頭蓋顔面再建術はしばしば必要となり、頬骨・眼窩の再建はおおむね5歳から7歳、両側の小耳症や外耳道狭窄の再建は6歳以降に行われます。​
ある症例報告では「治療に苦慮しているトリーチャーコリンズ症候群の1例」というタイトルが示すように、経験豊富な医療機関でも治療の困難性が認識されています。この症候群の治療は単一の診療科では完結せず、形成外科、耳鼻科、歯科、小児科などの多科の連携が必須なのです。

参考)治療に苦慮しているトリーチャーコリンズ症候群の1例

トリーチャーコリンズ症候群の骨移植と再建術の実際

骨移植は成長に合わせて繰り返し行う必要があります。呼吸や噛み合わせなどの機能改善を目的に、骨移植するなどの形成外科手術を成長段階ごとに実施していくのが標準的なアプローチです。

参考)トリーチャー・コリンズ症候群


骨再建には軟部組織の修正を先に行い、再建は顔面不対称の進行を予防する目的があります。上下顎の再建時期は重症度によりますが、下顎矯正は通常16歳以前に行います。鼻の再建が必要な場合は、顎矯正手術の後に実施されます。

参考)GRJトリーチャー・コリンズ症候群2015.1.6


従来の骨移植手術では、自家骨採取時の侵襲や、他家骨使用による感染症のリスクがあります。既存の人工骨では患部への形状適合性、自分の骨に置き換わる骨吸収置換性、機械的強度などの点で満足のいく製品がない状況でした。カスタムメイド型人工骨の開発が進められていますが、複雑な形状を再現でき、かつ生体骨への骨吸収置換が期待される人工骨の普及はまだ限定的です。

参考)記者会見「カスタムメイド型人工骨 、全国10施設にて実用化に…


仮骨延長法という手法も用いられており、骨の垂直水平方向への延長および骨トランスポート法を用いた再建術など、様々な形で実施されています。通常、手術から延長開始まで7-10日間程度の待機期間をおき、その後段階的に骨を延長していく方法です。

参考)仮骨延長法 – 東京都文京区の矯正歯科


参考:トリーチャー・コリンズ症候群の臨床マネジメント – GeneReviews

このリンクでは、骨再建術を含む包括的な治療アプローチが詳述されています。

トリーチャーコリンズ症候群患者の呼吸管理とリスク

生後、顔の下半分が小さいまま成長するため気道が狭くなり、口呼吸になりやすく、乳幼児には突然の呼吸停止のおそれがあります。後鼻孔閉鎖・狭窄や、舌沈下を伴う重度の小下顎症により、分娩時に気道閉塞をきたす例がみられます。​
出生時に重篤な気道閉塞をきたすリスクを有する胎児に関しては、出生前超音波検査により、小下顎症と胎児の嚥下異常の状況を評価することで事前の把握が可能です。妊娠中にトリーチャー・コリンズ症候群と診断された場合には出生時からの小児科医による呼吸管理が考慮されます。​
重症のトリーチャーコリンズ症候群をもつ新生児の気道管理には、胎児に対して分娩中に経口挿管や気管切開を行うことを目的としたEXIT(ex utero intrapartum treatment)法の施行が行われることがあります。分娩チームは、生命を脅かすような気道障害が生じる可能性について常に頭に入れておく必要があるのです。​
閉塞性睡眠時無呼吸が疑われる場合は睡眠検査を検討し、必要であれば気道確保のための外科処置が標準的に行われます。適切な気道管理さえ行われれば、一般集団と大差ない寿命が得られますが、気道管理の失敗は致命的な結果につながる可能性があります。​

トリーチャーコリンズ症候群の長期的管理と多職種連携

治療は罹患者個人個人の必要に合わせた形で進める必要があり、臨床遺伝医、形成外科医、頭頸部外科医、耳鼻咽喉科医、口腔外科医、矯正歯科医、聴覚士、言語治療士、心理士などから成る多職種共同の頭蓋顔面医療チームによって行われるのが望ましいです。​
定期的追跡評価として、眼科的・耳科的評価を年に1度、睡眠時無呼吸の症候・成長・カロリー摂取に関する評価を来院ごと、歯の診査を6ヵ月ごとと矯正歯科的診査を必要に応じて実施します。言語発達と教育の進行状況の評価も年に1度あるいは必要に応じて行われます。​
耳朶や耳道がないため聴覚障害を伴う場合も多く、骨伝導補聴器が不可欠です。難聴に対しては骨導型補聴器、言語療法、教育的介入などがあり、正常な発達を助けるために聴覚障害の管理は早期に行うことが良いとされています。カチューシャ型の骨伝導補聴器を使用する患者さんもいます。​
気道障害と哺乳障害の治療は生後2歳までに実施することが推奨され、3歳から12歳では言語療法を含む教育システムが考慮されます。適切な管理を行っていれば、トリーチャー・コリンズの患者さんの寿命は一般集団と変わりません。​
幼少期から大学生まで、夏休みなどのたびに手術を受けるという長期にわたる治療が一般的で、患者さん自身の精神的負担も大きいことが報告されています。「病気を知ってもらえたら生きやすくなる」という患者さんの声があるように、医療従事者側の理解と適切な情報提供が重要なんです。

参考)「人と見た目が違っても、私は私を生きるから」 トリーチャー・…


参考:トリーチャーコリンズ症候群の診断と管理 – 小児慢性特定疾病情報センター

このリンクでは、小児期から成人期までの長期的な管理指針が示されています。