トレプロスチニル間質性肺炎における肺高血圧症治療効果と副作用

トレプロスチニル間質性肺炎の治療

国内臨床試験では副作用発現率が70%でした。

この記事の3ポイント
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本邦初のILD-PH治療薬

トレプロスチニル吸入液は2024年9月に間質性肺疾患に伴う肺高血圧症の治療薬として国内承認を取得した専用ネブライザを用いる吸入製剤です

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運動耐容能の改善効果

海外INCREASE試験では6分間歩行距離がプラセボ群と比較して21m延長し臨床的悪化のリスクを39%低下させました

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高頻度の副作用発現

国内試験では70%の患者で副作用が発現し咳嗽が最も多く薬剤性肺炎の報告もあるため慎重な経過観察が必要です

トレプロスチニル間質性肺疾患の適応と作用機序

トレプロスチニルはプロスタサイクリン誘導体であり、間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対して本邦初の承認を得た治療薬です。化学的に安定化されたプロスタグランジンI2類似体として、血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を併せ持つことが特徴となります。

間質性肺疾患患者の約20%に肺動脈圧上昇が認められ、特に重症患者では合併率が30~60%に達することが知られています。肺高血圧症の合併は独立した予後不良因子であり、特発性肺線維症に伴う肺高血圧症患者の1年死亡率は28.0%と、非合併例の5.5%と比較して著しく高値です。

つまり予後改善が重要です。

本剤の作用機序は、IP受容体のみならずEP2受容体やDP1受容体にも高い親和性を示す点にあります。これらの受容体は細胞内cAMP上昇を介して血管平滑筋の弛緩や細胞増殖抑制に作用し、肺血管リモデリングの改善に寄与すると考えられています。特にEP2受容体を介した細胞増殖抑制作用は、肺動脈性肺高血圧症患者から採取した肺動脈平滑筋細胞を用いた検討で活性化されることが示唆されました。

トレプロスチニルの薬理作用と臨床成績に関する詳細なレビュー(診療と新薬)

トレプロスチニル吸入の投与方法と用量調整

トレプロスト吸入液の投与には専用のTD-300/Jネブライザが必須となります。この超音波振動ネブライザから霧化されたトレプロスチニルの空気力学的粒子径中央値は2.0±0.3μmであり、肺胞に到達し沈着する至適サイズである0.5~3μmの範囲に収まっています。

間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対する用法は、1日4回、1回3吸入(18μg)から開始し、忍容性を確認しながら3日以上の間隔で1回1吸入ずつ漸増します。

最大投与量は1回12吸入(72μg)です。

吸入間隔は約4時間あけることが推奨されており、患者の日常生活リズムに合わせた投与スケジュール設定が重要となります。

肝障害のある患者では重症度に応じて1回1または2吸入から慎重に開始し、より緩徐に増量する必要があります。忍容性がない場合は減量し、1回最小量は1吸入とすることができます。用量調整時は副作用の出現と肺高血圧症状の改善を指標とし、患者ごとに最適投与速度を決定していくことが求められます。

吸入治療の利点として、全身曝露が少なく副作用を軽減できる一方で標的臓器である肺の薬物濃度を高めることが可能です。また肺の換気領域に送達され血管拡張作用を示すため、換気血流比を均衡化させ、ガス交換への悪影響が少ないとされています。

肺への直接送達が原則です。

トレプロスト吸入液の用法用量と投与時の注意事項(持田製薬医療関係者向けサイト)

トレプロスチニル間質性肺炎のINCREASE試験結果

海外第Ⅱ/Ⅲ相INCREASE試験は、間質性肺疾患に伴う肺高血圧症患者326例を対象とした16週間の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。対象患者は右心カテーテル法で肺血管抵抗3 Wood単位超、肺動脈楔入圧15mmHg以下、平均肺動脈圧25mmHg以上と規定されました。

主要評価項目である16週時におけるピーク時6分間歩行距離のベースラインからの変化量の中央値は、トレプロスチニル群で6.0m、プラセボ群で-9.0mであり、Hodges-Lehmann法に基づく両群間の差は21.0m(95%信頼区間:7.0~37.0m)でした。

これは統計学的に有意な改善です。

副次評価項目であるNT-proBNPは、トレプロスチニル吸入によりベースラインから15%低下した一方、プラセボ群では46%上昇しました(治療比0.58、95%信頼区間:0.47~0.72、p<0.001)。臨床症状悪化までの時間はプラセボ群と比較してトレプロスチニル群で延長し、臨床症状悪化の発現リスクは39%低下したことが示されました。

間質性肺疾患のサブカテゴリー別では、特発性肺線維症が最も多く(トレプロスチニル群37例、プラセボ群55例)、結合組織病に伴う間質性肺疾患、気腫合併肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎などが含まれました。背景抗線維化療法としてピルフェニドンまたはニンテダニブを受けている患者も登録されており、これらの薬剤との併用下でも有効性が確認されたことになります。どういうことなのか?

既存治療との併用が可能ということですね。

INCREASE試験の詳細な解説(日経メディカル)

トレプロスチニル副作用の発現頻度と対策

国内第Ⅱ/Ⅲ相試験では副作用発現頻度が70.0%(14/20例)と高率でした。最も頻度の高い副作用は咳嗽で50.0%(10/20例)に認められ、倦怠感と血圧低下が各10.0%(2/20例)でした。重篤な副作用として薬剤性肺炎が5.0%(1/20例)に発現しましたが、投与中止により回復しています。

海外INCREASE試験における副作用発現頻度は76.7%(125/163例)で、主な副作用は咳嗽41.1%、頭痛22.7%、呼吸困難16.6%、浮動性めまい13.5%、咽喉刺激感12.3%、下痢10.4%でした。これらの事象のほとんどは軽度から中等度のものであり、重篤な有害事象はトレプロスチニル群23.3%、プラセボ群25.8%と両群で大きな差は認められませんでした。

吸入治療特有の副作用として、気道に対する薬液の感作または刺激による咳嗽や咽喉頭刺激感が引き起こされることがあります。これらの症状が出現した場合の対応として、吸入前の気管支拡張薬の使用や吸入速度の調整が有効な場合があります。また投与中止が必要な重篤な副作用の早期発見のため、定期的な胸部画像検査や呼吸機能検査による評価が推奨されます。

副作用発現時の用量調整では、忍容性がない場合に1回1吸入ずつ減量し、症状改善後に再度慎重に増量するアプローチが取られます。患者教育として、吸入時の姿勢や呼吸方法の指導、副作用出現時の早期報告の重要性を説明することが、長期的な治療継続において重要となります。

慎重な観察が必要です。

トレプロスチニル間質性肺炎の長期予後への影響

間質性肺疾患に肺高血圧症が合併すると、予後は著しく悪化することが複数の研究で示されています。本邦からの報告では、特発性肺線維症に伴う肺高血圧症患者(平均肺動脈圧>20mmHg)の生存期間中央値は20.8カ月であり、非合併例の37.5カ月と比較して有意に短縮していました。

INCREASE試験の非盲検継続試験では、最長2年間の長期投与におけるトレプロスチニルの効果が評価されています。6分間歩行距離の改善は投与継続に伴い維持される傾向が認められ、WHO機能分類の維持または改善も確認されました。長期投与時の安全性プロファイルは16週間の主試験と概ね一致しており、新たな安全性上の懸念は特定されていません。

肺高血圧症治療による生存率改善のエビデンスについては、今後のさらなる長期観察研究が必要とされています。現時点では運動耐容能の改善や臨床的悪化の抑制が示されており、これらの改善が最終的な予後改善につながることが期待されます。特に間質性肺疾患の拘束性換気障害進展を抑制する可能性も示唆されており、基礎疾患の進行に対する影響についても注目が集まっています。

治療開始のタイミングとしては、肺高血圧症の合併が確認された時点での早期介入が重要と考えられます。右心カテーテル検査による正確な血行動態評価を行い、適応基準を満たす患者に対して速やかに治療を開始することで、より大きな臨床的ベネフィットが得られる可能性があります。心エコー検査でのスクリーニングと右心カテーテル検査での確定診断という診断プロセスの確立が、適切な治療導入において不可欠です。

早期発見が重要です。

肺病変を有する肺高血圧症診療ガイドライン2025(日本呼吸器学会)

トレプロスチニル投与時の専用器具管理と患者指導

TD-300/Jネブライザは本剤専用の医療機器であり、適切な管理と使用方法の習得が治療効果を左右します。ガンマシンチグラフィを用いた検討では、TD-300/Jから吸入した薬剤量の79.4±9.6%が肺に送達されることが示されており、高い肺到達率を実現するためには正確な吸入手技が求められます。

吸入セットの構成部品には薬液カップ、メッシュキャップ、マウスピースが含まれ、これらは使用後に毎回洗浄し、定期的に交換する必要があります。薬液カップとメッシュキャップは1日1回洗浄し、週に1回は消毒液に浸漬することが推奨されます。マウスピースは毎使用後に水洗いし、完全に乾燥させてから次回使用することが重要です。

患者への指導内容としては、1日4回の吸入スケジュールの設定方法、吸入時の正しい姿勢(座位で背筋を伸ばす)、マウスピースを口にくわえて普通に呼吸しながら吸入する方法などがあります。吸入終了のサインは器械の振動が停止することで、無理に深呼吸をする必要はありません。どういうことでしょうか?

自然な呼吸で十分ということですね。

アドヒアランス向上のためには、吸入スケジュールを日常生活に組み込む工夫が有効です。例えば起床時、朝食後、夕食後、就寝前といった生活リズムに合わせた時間帯を設定し、吸入忘れを防ぐためのリマインダー設定を推奨することが考えられます。また外出時の携帯方法や旅行時の準備について、事前に具体的な指導を行うことで、治療中断を防ぐことができます。

デバイストラブルへの対応として、霧が出ない場合の確認項目(電源接続、薬液量、メッシュの目詰まり)や、異常音が聞こえる場合の点検方法についても患者教育に含める必要があります。トラブル発生時の連絡先を明確にし、早期に問題解決できる体制を整えることが、長期的な治療継続において重要となります。

定期的な確認が基本です。

トレプロスト吸入液と専用ネブライザの使い方や工夫(セコム医療システム)