トランスフェクションがうまくいかない原因と効率改善法
トランスフェクション効率低下の主要な細胞要因
トランスフェクション実験における最も重要な要因は細胞の状態です 。細胞の生存率が90%未満の場合、導入効率は著しく低下し、実験の成功確率が大幅に減少します 。
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継代数の管理も重要で、過度な継代を重ねた細胞では導入効率が低下する傾向があります 。新鮮な凍結ストックから起こした細胞を使用し、継代後24時間以上経過した細胞を用いることで、継代操作による損傷から回復した状態でトランスフェクションが実施できます 。
コンフルエンシー(細胞密度)の調整は特に重要です 。過密培養(オーバーコンフルエント)では増殖が抑制され導入効率が低下し、逆に過疎培養では細胞へのダメージが大きくなります 。最適な細胞密度は70-80%のサブコンフルエント状態で、細胞が活発に分裂している状態を維持することが重要です 。
微生物汚染は導入効率を大幅に変化させるため、汚染検査を日常的に実施し、汚染が認められた培養は決して使用してはいけません 。
トランスフェクション手法別の効率改善戦略
リポフェクション法は最も汎用的な化学的導入法で、導入効率と細胞毒性のバランスが良好な特徴があります 。しかし血清存在下では脂質複合体の形成が阻害されるため、無血清培地での実施が推奨されます 。抗生物質の添加は細胞への著しいダメージを引き起こすため、トランスフェクション期間中は除去する必要があります 。
エレクトロポレーション法は全ての細胞タイプに適用可能で、リポフェクション法で導入困難な細胞でも高効率を実現できます 。主要な利点は短時間で多数のサンプル処理が可能な点ですが、高電圧パルスにより相当数の細胞死が発生するため、十分な細胞数の確保と電圧・パルス条件の最適化が必要です 。
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DEAE-デキストラン法は操作が簡単で50個以上のサンプルを扱え、結果のばらつきが少ない利点がありますが、導入効率は他の手法より低く、DMSO使用時の細胞毒性に注意が必要です 。
参考)http://akif2.tara.tsukuba.ac.jp/old/protocol_iweb/baiyousaibouhenoidennshidounyu.html
マイクロインジェクション法は1個の細胞レベルでの精密導入が可能ですが、高度な技術と専用機器が必要で、スループットが低い制約があります 。
トランスフェクション用核酸の品質管理と最適化
導入する核酸の品質は効率に直結する重要な要素です 。プラスミドDNAではスーパーコイル構造の維持が重要で、直鎖状DNAと比較して導入効率が高くなります 。ただし安定的トランスフェクションでは直鎖状DNAの方が宿主ゲノムへの組み込み効率が高い特徴があります。
核酸溶液中の混入物は導入効率低下の主要原因となります 。高塩濃度、フェノール、エンドトキシンなどの夾雑物は細胞にダメージを与え、導入効率を著しく低下させます 。特にsiRNAやmRNA導入時はRNaseフリー環境の維持が必須です 。
核酸の量と長さも重要な要因で、多量または長鎖になるほど導入効率が低下します 。適切なDNA量の設定と、必要に応じた断片化による分子サイズの調整が効果的です。
純度確認のため、分光光度計での260/280比測定やアガロース電気泳動による品質評価を実施し、良質な核酸のみを使用することが成功への鍵となります 。
培地組成と培養環境の最適化による効率向上
培地中の血清濃度は細胞増殖を促進し導入効率を向上させますが、リポフェクション法では脂質複合体形成を阻害するため、実験デザインに応じた調整が必要です 。DNA導入時は血清存在下で細胞培養することで効率が向上し、RNA導入時は無血清培地使用により混入RNaseによる分解を最小限に抑制できます 。
抗生物質の使用は細胞毒性と導入効率の両面を考慮する必要があります 。一過性トランスフェクションでは抗生物質添加により効率向上が期待できる一方、細胞への有害影響も発生するため、実験条件に応じた最適化が重要です 。
培養温度や CO2濃度などの環境因子も影響を与えます。細胞株に適した標準的な培養条件(通常37°C、5% CO2)を維持し、トランスフェクション期間中の環境変化を最小限に抑制することが重要です。
pH緩衝能力の高い培地の使用や、培地交換のタイミング調整により、細胞へのストレスを軽減し、導入効率の向上が期待できます 。
トランスフェクション失敗時の体系的トラブルシューティング
効率が低い場合の第一チェックポイントは試薬と核酸の量的関係です 。トランスフェクション試薬と導入物質の量を段階的に増加させ、最適比率を探索します。試薬付属バッファーでの核酸希釈確認も基本的な確認事項です 。
ポジティブコントロールとしてルシフェラーゼやGFPなどのレポーター遺伝子導入を並行実施し、システム全体の機能を確認します 。この際、蛍光顕微鏡での観察倍率を上げ、限局した発現や低発現を見落とさないよう注意が必要です 。
参考)http://www.kenkyuu2.net/cgi-biotech2012/biotechforum.cgi?mode=view%3BCode%3D12345
細胞毒性が高い場合は、使用試薬量の減量、導入物質量の調整、観察時点の早期化(48時間後から24時間後へ)により改善を図ります 。
発現ベクターの場合、細胞内取り込みは成功しているがタンパク質発現に問題がある可能性も考慮し、RT-PCRによるmRNAレベルでの確認や、異なる細胞株での検証を実施します 。
継続的な失敗の場合は、細胞株の取り違えや変質、ベクターDNAの品質劣化の可能性を検討し、新しいストックからの再実験を検討します 。
参考)http://www.kenkyuu2.net/cgi-biotech2012/biotechforum.cgi?mode=view%3BCode%3D2520