特発性肺線維症と間質性肺炎の違い

特発性肺線維症と間質性肺炎の違い

この記事でわかること
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包含関係の理解

特発性肺線維症は間質性肺炎の一種であり、原因不明の特発性間質性肺炎の中で最も頻度の高い病型です

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診断基準の相違点

高分解能CT画像でのUIPパターンの有無や病理組織検査の所見により診断が分けられます

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治療方針の違い

特発性肺線維症には抗線維化薬、その他の間質性肺炎にはステロイド薬など病型により治療法が異なります

特発性肺線維症は間質性肺炎の一病型

間質性肺炎は、肺の間質(肺胞と肺胞の間の壁)に炎症や線維化が起こる疾患群の総称なんです。肺胞壁が厚く硬くなることでガス交換がうまくできなくなり、息切れや乾いた咳といった症状が現れます。

参考)特発性肺線維症と間質性肺炎や器質性肺炎の違いを教えてください…


特発性肺線維症(IPF)は、この間質性肺炎の中でも「原因が特定できない間質性肺炎(特発性間質性肺炎)」に分類され、その中で最も頻度が高い病型です。特発性間質性肺炎全体の約62%を占めているとされています。

参考)https://hai-senishou.jp/ipf/about/disease


間質性肺炎には原因がわかっている二次性間質性肺炎と、原因不明の特発性間質性肺炎があります。二次性間質性肺炎の原因としては、膠原病、薬剤、じん肺、過敏性肺炎などが知られています。

参考)特発性間質性肺炎(指定難病85) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/156″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/156amp;#8211; 難病情報セ…


原因がわかっている間質性肺炎の場合、治療では原因を除去することが最優先になります。例えば薬剤性なら原因薬剤の中止、過敏性肺炎なら抗原暴露の回避が基本です。

参考)間質性肺炎


難病情報センター:特発性間質性肺炎(指定難病85)

特発性肺線維症の診断に必要なUIPパターン

特発性肺線維症の診断では、高分解能CT(HRCT)検査における通常型間質性肺炎(UIP)パターンの確認が中心となります。UIPパターンの特徴的な所見としては、蜂巣肺、牽引性気管支拡張を伴う網状影、そして病変の胸膜直下・肺底部優位の分布が挙げられます。

参考)https://www.aichi.med.or.jp/webcms/wp-content/uploads/2023/06/70_1_p41_special2-Fujita.pdf


蜂巣肺は、UIPパターン診断に必須の所見です。CT画像では、集簇する嚢胞性陰影として描出され、境界明瞭で薄い壁を持ち、数mm~1cm大の大きさで胸膜直下に分布します。嚢胞が2列以上連なり、隣り合う嚢胞と壁を共有している様子が、蜂の巣に似ていることからこの名前がついています。

参考)通常型間質性肺炎(UIP/IPF)のCT画像診断のポイントは…


UIPパターンが明確でない場合は、Probable UIPパターンと判断されることもあります。これは蜂巣肺を伴わず、牽引性気管支拡張もしくは細気管支拡張を伴う網状影を認める場合に該当します。​
病理組織検査では、線維芽細胞の増生巣(fibroblast foci)や密な瘢痕と正常肺組織が混在する不均一性、胸膜直下の線維化などがUIPの特徴的所見とされています。判断が難しい症例では、気管支鏡検査や外科的肺生検が追加されることもあります。

参考)特発性肺線維症 – 05. 肺疾患 – MSDマニュアル プ…


愛知県医師会:肺線維症の画像診断

特発性間質性肺炎の主要病型と特徴

特発性間質性肺炎には、病態や治療法が異なる複数の病型が存在します。主要な特発性間質性肺炎として、特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)の3つが頻度の高い病型として知られています。

参考)M-Review|特発性非特異性間質性肺炎と特発性器質化肺炎…


特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)は、亜急性から慢性の経過で咳嗽呼吸困難を主症状として発症します。IPFと比較して非喫煙者や女性が多く、平均年齢は50歳前後です。画像所見では、両側下肺野優位のすりガラス影、細かい網状影、牽引性気管支拡張を認め、気管支血管束周囲優位の分布が特徴的です。

参考)高齢者特発性間質性肺炎の治療


特発性器質化肺炎(COP)は、NSIPと比較してより局所性の陰影を呈し、陰影の移動を認めることがあります。気管支肺胞洗浄液ではリンパ球の増多を認め、ステロイドへの反応性および予後は比較的良好とされています。​
NSIPには、細胞浸潤が主体のcellular NSIPと線維化が目立つfibrotic NSIPに分けられます。cellular NSIPではリンパ球浸潤を認め肺構造が保たれていますが、fibrotic NSIPでは線維化病変が目立ち一部に肺構造の改築も認められます。​
これらの病型診断は、詳細な問診、肺機能検査、血液検査、高分解能CT画像、必要に応じた肺生検の病理組織情報から総合的に行われます。​

特発性肺線維症と他の間質性肺炎の治療法の違い

特発性肺線維症(IPF)の治療では、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が中心となります。これらの薬剤は、進行(肺活量の経年的低下)を約半分に抑える効果が臨床試験で示されており、急性増悪の抑制効果も報告されています。​
抗線維化薬は治癒を目的とするのではなく、進行抑制が現実的な目標とされています。ごく軽症で息切れなどの自覚症状がない場合は、禁煙を行い病態進行の程度を数ヶ月観察することもあります。​
一方、IPF以外の特発性間質性肺炎、例えばNSIPやCOPでは、ステロイド薬などの抗炎症薬がまず使用されます。これらの病型では炎症が主体であるため、ステロイドが有効なケースが多いんです。​
NSIPにおいてステロイド薬を使っても病気が進行する場合は、抗線維化薬の投与が考慮されることもあります。また、免疫抑制薬シクロホスファミドアザチオプリンタクロリムスなど)の併用も検討されます。

参考)D-05 膠原病肺 – D. 間質性肺疾患|一般社団法人日本…


最近の研究では、IPFに対する抗線維化薬2剤併用療法の有効性や安全性を評価する臨床研究も進められています。1剤では十分な治療効果が得られなかった症例に対して、ピレスパとオフェブの併用療法への期待が高まっているようです。

参考)臨床研究のお知らせ「特発性肺線維症における抗線維化薬2剤併用…


複十字病院:間質性肺炎

特発性肺線維症の予後と急性増悪のリスク

特発性肺線維症(IPF)は、他の特発性間質性肺炎と比較して予後不良な疾患として知られています。診断からの中央値生存期間は約3~5年とされ、欧米の報告では診断確定から28~52ヶ月、日本の報告では初診時から61~69ヶ月と報告されています。

参考)特発性肺線維症に対する新たな治療標的PAK2を発見|国立がん…


IPFの経過は個々の患者により大きく異なり、予測が困難なのが特徴です。慢性経過で肺の線維化が徐々に進行するケースもあれば、風邪のような症状の後、数日以内に急激に呼吸困難が進行する「急性増悪」を起こすケースもあります。​
急性増悪は特発性間質性肺炎の経過を大きく悪化させる要因で、発症時には約50%以上が死亡に至るとされています。上気道感染(風邪のような症状)が急性増悪のきっかけとなることも多いため、感染予防が極めて重要です。​
一方、NSIPやCOPは一般的に治療に良く反応し、予後も比較的良好とされています。ただし、中には軽快と増悪を繰り返し、徐々に悪化していくケースもあるため、定期的な経過観察が必要です。​
喫煙歴のある間質性肺炎患者、特に肺気腫を合併した肺線維症患者には肺がんのリスクが高いことも知られています。間質性肺炎の病状が安定していても、定期的な検査を受けることが推奨されています。​

項目 特発性肺線維症(IPF) 特発性非特異性間質性肺炎(NSIP) 特発性器質化肺炎(COP)
発症年齢 50歳以上が多い 平均50歳前後 幅広い年齢層
性別 男性に多い 女性に多い 性差は少ない
喫煙との関連 喫煙者が多い 非喫煙者が多い 喫煙との関連は少ない
CT画像の特徴 蜂巣肺、胸膜直下優位 すりガラス影、気管支血管束周囲優位 局所性陰影、陰影の移動あり
主な治療薬 抗線維化薬 ステロイド薬
予後 中央値生存期間3~5年 比較的良好

日常生活では、禁煙とともに過労・睡眠不足など体への負担を減らすことが重要です。感染予防のため、冬季の外出時にはマスク着用や手洗い・うがいの励行、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナなどの予防接種を受けることも推奨されています。​
国立がん研究センター:特発性肺線維症に対する新たな治療標的PAK2を発見