テノホビルの副作用と発現機序
テノホビルの腎機能障害と発現メカニズム
テノホビルの最も重要な副作用の一つは腎機能障害で、特に重度の腎機能障害、腎不全、急性腎障害、近位腎尿細管機能障害が報告されています 。テノホビルは腎臓で濃縮され、近位尿細管に蓄積することで尿細管上皮細胞の障害を引き起こします 。この機序により、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症、腎炎などの多様な腎機能障害が発現します 。
参考)https://medical.itp.ne.jp/kusuri/shohou-20120000003395/
テノホビルの血中濃度は腎機能低下に伴って著しく上昇し、重度腎機能障害患者ではテノホビルのAUCとCmaxがそれぞれ5.7倍と2.8倍に増加します 。維持血液透析患者では、テノホビルのAUCとCmaxがそれぞれ49倍と37倍という極めて高い値まで上昇することが報告されています 。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000270718.pdf
テノホビルの消化器系副作用と頻度
消化器系の副作用は高頻度で発現し、主要なものには悪心11.0%、下痢8.7%、腹痛が含まれます 。これらの症状は薬剤の直接的な胃腸刺激作用によるもので、テノホビル製剤に共通して認められる特徴的な副作用です 。食欲不振、消化不良、放屁、上腹部痛、便秘といった消化器症状も報告されており 、患者の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/antivirals/6250111F1022
また、重大な消化器系副作用として膵炎が報告されており、激しい腹痛、背部痛、嘔吐といった症状が現れた場合には直ちに投与中止と適切な処置が必要です 。
参考)https://www.qlife.jp/meds/rx38900.html
テノホビルによる骨代謝異常とファンコニー症候群
テノホビルは骨軟化症を引き起こすことが知られており、これはファンコニー症候群に伴う低リン血症が主要な機序です 。ファンコニー症候群では近位尿細管の再吸収機能が障害され、低リン酸血症、低カリウム血症、尿糖、蛋白尿が生じます 。この病態により骨痛や病的骨折のリスクが増加し、長期的な骨密度低下につながります 。
参考)https://researchmap.jp/7000016943/presentations/32606045
Tc-99mヒドロキシメチレンジホスホネート骨シンチグラフィーでは、ファンコニー症候群による骨軟化症で特徴的な集積パターンが観察されます 。テノホビル投与患者では定期的な骨密度検査とリン酸値のモニタリングが重要です。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/58_7/1088-1094.pdf
テノホビルの肝機能への影響と脂肪肝
テノホビルは乳酸アシドーシスと脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)を引き起こす可能性があります 。この副作用は核酸系逆転写酵素阻害薬に特徴的なもので、ミトコンドリア毒性による代謝異常が原因とされています 。肝腫大による右季肋部の圧迫感や過呼吸、意識障害、手足の震えといった症状が現れる場合があります 。
肝機能障害患者では、テノホビルアラフェナミドの血中濃度が変化し、軽度から中等度の肝機能障害では軽微な変動にとどまりますが、重度肝機能障害では濃度が著しく低下することが報告されています 。
テノホビルの薬物動態と安全性モニタリングの重要性
テノホビルは細胞内でリン酸化を受けてテノホビル二リン酸となり、HIV逆転写酵素を阻害します 。テノホビルアラフェナミドは血漿中での安定性が高く、細胞内透過性に優れたプロドラッグとして開発されました 。末梢血単核細胞やマクロファージ中のカテプシンAにより加水分解を受けて細胞内でテノホビルを放出する機序を持ちます 。
参考)https://www.g-station-plus.com/ta/hiv/descovy/mechanism
テノホビル治療中の安全性モニタリングでは、血清クレアチニン、BUN、血清リン、尿蛋白、尿糖の定期的な検査が必要です 。また、肝機能検査(AST、ALT)、末梢血検査、乳酸値の監視も重要で、投与開始後6カ月程度は2-4週ごと、その後は8週間ごとの検査が推奨されています 。
参考)https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00109_chapter6.pdf