炭酸脱水酵素阻害薬の一覧と薬価・作用機序・使い分け解説

炭酸脱水酵素阻害薬一覧と特徴

炭酸脱水酵素阻害薬の分類と特徴
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全身投与薬

アセタゾラミド(ダイアモックス)が代表的で、利尿作用と眼圧下降作用を持つ

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点眼薬

ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど局所作用により全身への影響を軽減

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配合剤

β遮断薬との配合により相乗効果を発揮し、点眼回数の軽減が可能

炭酸脱水酵素阻害薬の全身投与薬一覧

全身投与される炭酸脱水酵素阻害薬の代表格は、アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)です。この薬剤は利尿薬として分類されており、以下の剤形で販売されています。

ダイアモックス製剤一覧:

  • ダイアモックス末:81.7円/g
  • ダイアモックス錠250mg:18円/錠
  • ダイアモックス注射用500mg:462円/瓶

アセタゾラミドは1952年に開発された歴史の長い薬剤で、当初は利尿薬として使用されていました。しかし、その後の研究により眼圧下降作用が発見され、現在では緑内障治療にも広く使用されています。特に急性緑内障発作時の緊急処置や、他の治療法で十分な効果が得られない場合の追加治療として重要な役割を果たしています。

全身投与薬の特徴として、強力な利尿作用と眼圧下降作用がありますが、一方で全身への影響も大きく、電解質異常や代謝性アシドーシスなどの副作用に注意が必要です。そのため、長期使用時には定期的な血液検査による監視が推奨されています。

炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬一覧

点眼薬として使用される炭酸脱水酵素阻害薬は、全身への影響を最小限に抑えながら局所的に眼圧下降効果を発揮します。主要な製剤は以下の通りです。

ドルゾラミド系製剤:

  • トルソプト点眼液0.5%(先発品):120.3円/mL
  • トルソプト点眼液1%(先発品):155.1円/mL

ブリンゾラミド系製剤:

  • エイゾプト懸濁性点眼液1%(先発品):170.3円/mL
  • ブリンゾラミド懸濁性点眼液1%「センジュ」(後発品):89.7円/mL
  • ブリンゾラミド懸濁性点眼液1%「ニットー」(後発品):89.7円/mL
  • ブリンゾラミド懸濁性点眼液1%「サンド」(後発品):89.7円/mL

ドルゾラミドは1995年に日本で承認された最初の点眼用炭酸脱水酵素阻害薬で、毛様体に存在する炭酸脱水酵素アイソザイムⅡを特異的に阻害します。一方、ブリンゾラミドは2001年に承認され、ドルゾラミドと比較してより選択性が高く、角膜への蓄積性が少ないという特徴があります。

点眼薬の利点は、全身への影響が少ないことです。しかし、局所的な副作用として結膜充血、角膜障害、苦味感などが報告されており、特に苦味感は患者のコンプライアンスに影響を与える要因の一つとなっています。

炭酸脱水酵素阻害薬の配合剤一覧

炭酸脱水酵素阻害薬とβ遮断薬の配合剤は、異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで、相乗的な眼圧下降効果を得ることができます。現在使用可能な主要な配合剤は以下の通りです。

ドルゾラミド・チモロール配合剤:

  • コソプト配合点眼液(先発品):326円/mL
  • コソプトミニ配合点眼液(先発品):40.4円/個
  • ドルモロール配合点眼液「センジュ」(後発品):107円/mL
  • ドルモロール配合点眼液「ニットー」(後発品):107円/mL
  • ドルモロール配合点眼液「わかもと」(後発品):107円/mL
  • ドルモロール配合点眼液「日点」(後発品):107円/mL
  • ドルモロール配合点眼液「TS」(後発品):107円/mL

その他の配合剤:

  • アイベータ配合点眼液(先発品):386.5円/mL
  • アゾルガ配合懸濁性点眼液(先発品):247.1円/mL

配合剤の最大の利点は、患者の点眼回数を減らすことができることです。単剤では1日2〜3回の点眼が必要ですが、配合剤では1日2回の点眼で同等以上の効果が期待できます。これにより患者のQOL向上とコンプライアンス改善が図れます。

また、配合剤使用により薬剤コストの削減も期待できます。例えば、コソプト配合点眼液の後発品は先発品の約3分の1の薬価となっており、医療経済的な観点からも有用です。

炭酸脱水酵素阻害薬の作用機序と適応症

炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase:CA)は、眼を含む多くの生体組織に存在し、二酸化炭素の水和と炭酸の脱水反応(CO₂+H₂O⇔H₂CO₃⇔H⁺+HCO₃⁻)を可逆的に転換する酵素です。

作用機序の詳細:

炭酸脱水酵素には数種類のアイソザイムが存在し、角膜、毛様体、水晶体、網膜、脈絡膜にそれぞれ局在しています。眼圧調整には特に毛様体突起の無色素上皮細胞と色素上皮細胞に存在するCA-Ⅱが重要な役割を果たしています。

炭酸脱水酵素阻害薬は毛様体でこの酵素を阻害することにより。

  1. 炭酸水素イオンの生成と後房への輸送を遅延
  2. ナトリウムイオンとそれに伴う水の輸送を低下
  3. 房水産生を抑制し眼圧を下降

適応症:

  • 緑内障(原発開放隅角緑内障、続発緑内障)
  • 高眼圧症
  • 急性緑内障発作時の眼圧下降(全身投与薬)
  • 利尿(全身投与薬のみ)

興味深いことに、炭酸脱水酵素阻害薬の眼圧下降効果は、房水産生の約30〜50%を抑制することで発揮されます。これは他の眼圧下降薬と比較して中程度の効果ですが、作用機序が異なるため他の薬剤との併用により相乗効果が期待できます。

炭酸脱水酵素阻害薬の副作用と相互作用

炭酸脱水酵素阻害薬使用時には、全身投与薬と点眼薬で異なる副作用プロファイルを示すため、適切な監視と管理が重要です。

全身投与薬(アセタゾラミド)の主要副作用:

  • 電解質異常(低カリウム血症、低ナトリウム血症)
  • 代謝性アシドーシス
  • 尿路結石
  • 食欲不振、悪心、嘔吐
  • 四肢のしびれ感
  • 腎機能障害

点眼薬の主要副作用:

  • 結膜充血
  • 角膜障害
  • 苦味感
  • 眼瞼炎
  • かすみ目

重要な相互作用:

アスピリンとの併用には特に注意が必要です。大量のアスピリンと併用すると、双方または一方の薬剤の副作用が増強される可能性があります。これは以下のメカニズムによるものです。

  • アスピリンが炭酸脱水酵素阻害剤の血漿蛋白結合と腎からの排泄を抑制
  • 炭酸脱水酵素阻害剤が血液のpHを低下させ、サリチル酸の血漿から組織への移行を高める

このため、アスピリン大量服用患者では、炭酸脱水酵素阻害薬の血中濃度上昇とサリチル酸中毒のリスクが高まります。

監視と管理のポイント:

  • 定期的な血液検査(電解質、腎機能、血液ガス分析)
  • 患者の自覚症状の確認
  • 点眼薬使用時の局所反応の観察
  • 併用薬の慎重な確認

特に高齢者では腎機能低下により副作用のリスクが高まるため、より慎重な監視が必要です。また、糖尿病患者では血糖コントロールへの影響も考慮する必要があります。

炭酸脱水酵素阻害薬は緑内障治療において重要な役割を果たす薬剤群ですが、その選択と使用には患者の状態、他の治療薬との相互作用、副作用プロファイルを総合的に考慮した個別化医療が求められます。定期的な効果判定と副作用監視を行いながら、患者にとって最適な治療選択肢を提供することが重要です。