タンパク尿とは原因と検査方法
タンパク尿の定義と基準値
タンパク尿とは、尿中に基準値以上のタンパク質が排泄されている状態のことです。健康な人でも1日に40~80mg程度の微量なタンパクは尿中に出ていますが、正常範囲は150mg/日未満とされています。腎臓の糸球体というバリアーがダメージを受けると、本来は分子が大きいため尿まで出ていかないタンパクが尿中に漏れ出てしまいます。
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一般的な健康診断で行われる尿タンパクの検査は「尿中一般物質定性半定量検査」で、試験紙を尿に浸して色の変わり具合で判定します。結果は「-」「±」「1+」「2+」「3+」の5段階または「4+」を加えた6段階で表され、「±」以上がタンパク尿とされます。日本腎臓学会の基準では「±」を軽度タンパク尿、「1+」以上を高度タンパク尿としており、「2+」や「3+」は尿中に排泄されているタンパク質がかなり多い状態を示します。
| 判定 | タンパク濃度(mg/dL) | 重症度 |
|---|---|---|
| (-) | 15未満 | 正常 |
| (±) | 15-29 | 軽度タンパク尿 |
| (1+) | 30 | 高度タンパク尿 |
| (2+) | 100 | 高度タンパク尿(要注意) |
| (3+) | 300 | 高度タンパク尿(要注意) |
| (4+) | 1000 | 高度タンパク尿(要注意) |
沖縄で行われた研究では、タンパク尿「2+」「3+」の人は正常な住民と比較して、17年後に透析が必要になる確率が高いことが明らかになっています。このため、タンパク尿が「2+」「3+」の場合は、症状がなくても医療機関で精密検査を受けることが重要です。
タンパク尿の検査方法と定性と定量の違い
タンパク尿を調べる方法には、大きく分けて定性検査と定量検査の2種類があります。定性検査は健診などで広く行われる簡便な方法で、試験紙を尿に浸してタンパクの有無を「±」「1+」「2+」「3+」といった形で判定します。簡単で迅速に結果が分かりますが、あくまで目安にすぎず、運動後や発熱時にも一時的にタンパク尿が出ることがあります。
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定量検査は定性検査で陽性が出た場合に行われる、より詳しい検査です。24時間尿を集めて「1日あたり何グラムのタンパクが出ているか」を測る24時間蓄尿検査や、スポット尿を使い尿タンパク/尿クレアチニン比(UPCR)を計算する簡便法があります。基準値は0.15g/gCr未満が正常とされ、0.3g/gCr以上が持続すると慢性腎臓病(CKD)の可能性が高まります。
参考)尿タンパク
| 検査方法 | 特徴 | 判定基準 |
|---|---|---|
| 定性検査 | 試験紙法による簡易検査 | 「-」「±」「1+」「2+」「3+」「4+」 |
| 定量検査(24時間蓄尿) | 1日のタンパク排泄量を測定 | 正常: 150mg/日未満、軽度: 150-500mg/日、高度: 500mg/日以上 |
| 定量検査(UPCR) | スポット尿での簡便法 | 正常: 0.15g/gCr未満、CKD疑い: 0.3g/gCr以上 |
1日1g以上のタンパク尿が認められた場合は、器質的障害(腎臓自体の障害)が疑われるため、腎臓内科での詳しい検査が必要になります。定量検査は腎臓病の重症度を判定する上で重要な検査であり、治療効果の判定や経過観察にも使用されます。
タンパク尿の原因となる病気と病態
タンパク尿が出る原因は、大まかに一過性タンパク尿、起立性タンパク尿、持続性タンパク尿の3種類に分類されます。一過性タンパク尿は発熱や運動、脱水、ストレス、疲労などによって一時的に起こるもので、尿タンパクの中でも最も多く見られるケースです。特に治療は必要なく、安静にすることで自然に改善します。
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起立性タンパク尿は、10代の2~5%に見られる生理的なタンパク尿で、立った状態では尿にタンパク質が出るが横になると出なくなる状態です。体位の変化(起立)により腎臓の静脈が圧迫されることでうっ血が起こり、糸球体に負担がかかるため発生すると考えられています。30歳以上ではほとんど見られなくなり、予後は良好で特に治療の必要はありません。
参考)起立性タンパク尿(生理的タンパク尿)|こどもの国、玉川学園前…
持続性タンパク尿の場合は、検診等の尿検査で毎回のようにタンパク尿が陽性となる状態で、腎臓病や生活習慣病が原因の可能性があります。主な原因疾患には以下のようなものがあります。
参考)タンパク尿・蛋白尿
- 糖尿病性腎症: 高血糖が腎臓の血管を傷つけ、タンパクが漏れ出す
- 高血圧性腎硬化症: 長期間の高血圧により動脈硬化が起こり、腎臓に負担がかかる
- 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など): 免疫タンパクが糸球体に沈着し炎症を起こす
- ネフローゼ症候群: 大量のタンパク尿と低タンパク血症、浮腫を特徴とする
女性の場合は膣の分泌物などのおりものが混じることでも陽性になることがあるため、中間尿(途中の尿)で提出することが推奨されます。また、妊娠中は血液量が増えるため過剰濾過となりタンパク尿が出やすくなりますが、妊娠高血圧症候群との鑑別が重要です。
タンパク尿と糖尿病性腎症の関係
糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症の一つで、タンパク尿の主要な原因疾患です。高血糖の状態が続くと、腎臓の血管が傷つけられ、本来であれば腎臓で保持できるはずのタンパクが尿中に漏れ出てしまいます。糖尿病性腎症では、血糖値をきちんとコントロールすることで腎臓病の発症を予防し、発症しても進行を防ぐことができます。
糖尿病による腎障害は段階的に進行し、初期にはタンパク尿が微量(微量アルブミン尿)しか出ませんが、進行すると顕性タンパク尿が出現します。この段階で適切な治療を開始しないと、さらに腎機能が低下し、最終的には透析が必要になる可能性があります。
糖尿病性腎症の治療では、血糖コントロールに加えて血圧管理も重要です。特にRAS系阻害薬(ACE阻害薬やARB)は、血圧を下げるだけでなく腎保護作用を持つため、タンパク尿の減少に効果的です。近年では、SGLT-2阻害薬という新しい糖尿病治療薬が腎保護効果を持つことが明らかになり、糖尿病性腎症の治療成績向上が期待されています。
参考)腎臓が発するSOS信号、それが“タンパク尿”|赤垣クリニック…
| 糖尿病性腎症の進行段階 | タンパク尿の状態 | 治療のポイント |
|---|---|---|
| 第1期(腎症前期) | タンパク尿なし | 血糖コントロール |
| 第2期(早期腎症期) | 微量アルブミン尿 | 血糖・血圧管理、RAS系阻害薬 |
| 第3期(顕性腎症期) | 顕性タンパク尿 | 血糖・血圧管理、タンパク制限、腎保護薬 |
| 第4期(腎不全期) | タンパク尿減少 | 透析準備、厳格な食事療法 |
| 第5期(透析療法期) | – | 透析療法 |
糖尿病患者は定期的に尿検査を受け、タンパク尿の早期発見に努めることが重要です。特に糖尿病の罹病期間が長い方、血糖コントロールが不良な方、高血圧を合併している方は、糖尿病性腎症のリスクが高いため、より頻繁な検査が推奨されます。
タンパク尿とIgA腎症などの慢性糸球体腎炎
慢性糸球体腎炎は、腎臓の糸球体の炎症によってタンパク尿や血尿が長期間(1年以上)持続する病気です。その中で最も多い原因がIgA腎症で、日本では慢性糸球体腎炎の約40%を占めています。IgA腎症では、体を守る免疫機構の一つであるIgAが糸球体に沈着することで炎症を起こし、タンパク尿や血尿が出現します。
参考)IgA腎症
IgA腎症の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、以下のようなプロセスが考えられています。
- のどの扁桃腺や鼻の奥への感染などの刺激によって、形の変なIgAが血液中に増える
- このIgAに対して別のIgAやIgGなどのタンパク質が作られる
- 形の変なIgAと、これに反応するIgGやIgAが大きなタンパク質の塊をつくる
- この塊が腎臓の糸球体にへばりついて炎症などの悪さをする
病気の初期は炎症が軽度のため血尿のみが見られますが、炎症がひどくなって糸球体の全体に広がるとタンパク尿も出現します。さらに進行すると糸球体自体が機能しなくなり、働ける糸球体の数が減っていき、腎臓の機能がだんだんと低下してしまいます。
IgA腎症は通常無症状で、健康診断や学校検尿により尿所見異常(タンパク尿・血尿)で発見されることが多い疾患です。早期発見と継続的なフォローアップが非常に重要で、重症度に応じてステロイド剤や免疫抑制薬、血圧を下げる薬(RAS系阻害薬)などを併用して治療します。また、喉の扁桃からIgAが産生されることがわかっており、状況によっては扁桃を摘出する手術を行う場合もあります。
参考)慢性腎臓病・腎疾患|やまぎし腎クリニック|富士宮市の泌尿器科…
| 慢性糸球体腎炎の種類 | 特徴 | 主な治療法 |
|---|---|---|
| IgA腎症 | 日本で最も多い、血尿とタンパク尿が特徴 | RAS系阻害薬、ステロイド、扁桃摘出術 |
| 膜性腎症 | 中高年に多い、タンパク尿が主体 | 免疫抑制薬、RAS系阻害薬 |
| 膜性増殖性糸球体腎炎 | 若年者に多い、血尿とタンパク尿 | ステロイド、免疫抑制薬 |
| 巣状分節性糸球体硬化症 | ネフローゼ症候群を呈しやすい | ステロイド、免疫抑制薬 |
IgA腎症の診断には腎生検(腎臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査)が必要で、治療方針の決定にも重要な情報を提供します。タンパク尿が持続し、血尿を伴う場合はIgA腎症の可能性があるため、早めに腎臓内科を受診することが推奨されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7966701/
タンパク尿とネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群は、大量のタンパク尿(3.5g/日以上)、低タンパク血症(血清アルブミン3.0g/dL以下)、浮腫を特徴とする疾患群です。尿中に大量のタンパクが失われることで血液中のタンパク質濃度が低下し、水分が血管外に漏れ出て全身にむくみが生じます。
参考)ネフローゼ症候群の症状・原因・治療|京都腎臓病相談室|べっぷ…
ネフローゼ症候群の初期症状としては以下のようなものがあります。
参考)ネフローゼ症候群の概要 – 03. 泌尿器疾患 – MSDマ…
- 食欲不振と全身のだるさ(けん怠感)
- まぶたや足のすね、手足などの浮腫(むくみ)
- 尿の泡立ち(高濃度のタンパク質に起因)
- 尿量の減少と体重の著しい増加
浮腫は重力の影響を受けるため体内のあちこちに移動します。夜間にはまぶたなどの体の上の方に貯まる一方、日中に座っているか立っているときには足首などの体の下の方に貯まります。症状が進行すると、腹腔に多量の体液がたまって(腹水)腹部が膨張したり、肺の周囲の隙間に体液が貯まって(胸水)息切れを起こすこともあります。
参考)ネフローゼ症候群 – 05. 腎臓と尿路の病気 – MSDマ…
ネフローゼ症候群では、間質に血液中の水分が漏れるため、体全体の体液量は増えているのに体を循環する血液量は減少します。その結果、腎臓に流入流出する血液量が減り、腎前性腎不全の状態になることがあります。これは大量の発汗の後、水分の補給が不十分なときに腎不全を起こすのと同じような状態で、糸球体に流れ込む血液が不足して濾過ができなくなります。
参考)https://www.minamitohoku.or.jp/kenkokanri/201201/nephrosis.html
尿タンパクが「3+」の方は、ネフローゼ症候群である可能性があるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。ネフローゼ症候群の治療では、原因疾患に応じてステロイド薬や免疫抑制薬が使用され、浮腫に対しては利尿薬が用いられます。また、塩分制限やタンパク質の適切な摂取など、食事療法も重要な治療の一環となります。
タンパク尿の治療方法と生活習慣の改善
タンパク尿の治療は原因によって異なりますが、減塩(1日6g未満)がほぼ共通した重要な対策です。摂りすぎた塩分を体の外に排泄するのは腎臓の仕事ですから、減塩により腎臓にかかる負担を減らすことでタンパク尿の減少が期待できます。腎臓は一度機能が落ちてしまうと改善させることは困難ですが、タンパク尿を減らすことができれば、その後の腎臓のダメージを減らし、将来の透析リスクを軽減できる可能性があります。
参考)タンパク尿|仙台エールクリニック内科・腎臓内科|広瀬通駅すぐ
タンパク尿の治療方法は、大きく分けて食事療法、運動療法、薬物療法の3つに分類されます。
参考)尿蛋白とは、陽性と言われたら?原因と治療方法|NOBUヘルシ…
食事療法では、塩分制限を中心にタンパク質や野菜・果物などを適切な量で摂取していくことが重要です。栄養バランスの調整では、野菜や果物、タンパク質の摂取量を適切に管理します。タンパク質制限は筋肉量が落ちるリスクもあるため、高齢の患者さんではあえて行われないこともあります。過度なタンパク質制限は栄養状態の悪化によりフレイル(虚弱)の原因となるため、腎機能の状態により摂取の許容量を調整することが大切です。
運動療法としては、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されます。近年注目されている「腎臓リハビリテーション」という運動療法も選択肢の一つで、適度な運動により腎機能の維持や改善が期待されています。ただし、過度な運動はタンパク尿を増やす可能性があるため、医師と相談しながら適切な運動量を設定することが重要です。
薬物療法では、血圧や血糖値を管理する薬が使用されます。特にRAS系阻害薬(ACE阻害薬やARB)やSGLT-2阻害薬、MR拮抗薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)が腎保護作用を持つとされています。これらの新しい腎保護薬が最近保険適用になり、治療成績の向上が期待されています。
| 治療方法 | 具体的な内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 食事療法 | 減塩(1日6g未満)、適切なタンパク質摂取、栄養バランス調整 | 腎臓への負担軽減、タンパク尿減少 |
| 運動療法 | 有酸素運動、筋力トレーニング、腎臓リハビリテーション | 腎機能維持、生活習慣病改善 |
| 薬物療法 | RAS系阻害薬、SGLT-2阻害薬、MR拮抗薬 | 血圧・血糖管理、腎保護作用 |
原疾患の治療も重要で、例えば糖尿病の人でも血糖値をきちんとコントロールすれば、腎臓の病気を起こさず、起きても進行を防ぐことができます。腎炎などの場合は副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤を用いて治療する場合もあります。健康診断で尿タンパクの指摘を受けたら、自宅で市販の尿タンパク試験紙を使用して測定し、朝一番の尿で検査するのが理想的です。何度か測定して「2+」以上の結果が出た場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。