タナドーパ 心不全における位置づけと安全な使い方

タナドーパと心不全治療の基礎

タナドーパと心不全治療のポイント
💊

経口ドパミンプロドラッグの特徴

タナドーパはドパミンのプロドラッグとして心収縮力と腎血流を増加させる心不全治療薬であり、静注カテコラミンからの離脱目的で用いられる。

❤️

心不全回復期での役割

急性循環不全回復期におけるカテコラミン少量持続点滴からの早期離脱とリハビリ早期化、入院期間短縮に寄与することが報告されている。

⚠️

安全性と現在の立ち位置

不整脈や肝機能障害といった副作用リスクに留意しつつ、出荷停止後は他の心不全薬との役割分担と代替選択が重要になっている。

タナドーパ 心不全治療薬としての基本プロファイル

 

タナドーパ(一般名ドカルパミン)は、世界初の循環器系に作用する経口ドパミンプロドラッグとして開発された心不全関連薬であり、1g中にドカルパミン750mgを含有するフィルムコーティング顆粒剤として供給されてきた。

効能・効果は「ドパミン塩酸塩注射液、ドブタミン塩酸塩注射液等の少量静脈内持続点滴療法(5μg/kg/min未満)からの離脱が困難な循環不全で、少量静脈内持続点滴療法から経口剤への早期離脱を必要とする場合」と限定されており、一般的な慢性心不全の維持薬ではない点が重要である。

通常成人用量はドカルパミンとして1日量2250mg(タナドーパ顆粒75%として3g)を3回に分割経口投与とされ、年齢や症状に応じて増減可能だが、長期維持療法には用いないことが望ましいとされる。

タナドーパは、体内で加水分解されてドパミンに変換されることで作用を発揮し、心筋β1受容体や腎血管DA1受容体の刺激を通じて心収縮力増強と腎血流量増加、尿量増加をもたらす。

参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se21/se2119007.html

動物実験では、麻酔犬への十二指腸内投与で左室dP/dtmaxの増加、腎血流量24%増加、尿量2.9倍増加、Na排泄2.6倍増加などが示されており、ヒトでも腎血漿流量と糸球体濾過率の増加が確認されている。

一方で、血圧や心拍数への影響は治療域では比較的軽微とされるが、用量増加や基礎心疾患によっては不整脈や血圧変動が問題となる可能性があり、慎重なモニタリングが必要である。

タナドーパ 心不全回復期での臨床成績とリハビリへの影響

急性循環不全回復期の心不全患者を対象とした国内第Ⅲ相二重盲検比較試験では、タナドーパ(ドカルパミン750mgを1日3回、3日間経口投与)の有用性が検証され、有効率73.3%と、持続ドパミン注射継続群の81.4%に近い成績を示している。

この試験では離脱困難な循環不全患者を対象としており、5μg/kg/min未満のドパミンまたはドブタミンから経口剤に切り替えた試験群でも、対照群と同等に循環動態の維持が可能であることが示された。

一般臨床試験では、心筋症、虚血性心疾患、弁膜症などを背景とする循環不全患者128例におけるタナドーパの有用率は全体で74.2%であり、基礎疾患別でも虚血性心疾患78.2%、弁膜症78.6%と比較的良好な成績が報告されている。

製造販売後の使用成績調査では、ドパミン・ドブタミン注射からの離脱不可症例率は5.02%とされ、多くの症例で点滴からの離脱に成功していることから、退院促進と医療資源の効率的利用に寄与しうる薬剤と評価されてきた。

臨床上興味深いのは、「リハビリテーションの早期開始化および早期退院」をエンドポイントとした群間比較試験で、タナドーパ群では点滴持続群に比べ、入浴可能まで7日、500m歩行可能まで6日、退院まで8日、それぞれ中央値で短縮したという報告である。

この結果は、タナドーパを用いることで点滴管理から解放され、早期に離床や歩行訓練を開始できることが、ADL・QOLの改善およびベッドリソースの有効活用に結びつく可能性を示すユニークなエビデンスといえる。

タナドーパ 心不全患者における薬物動態と腎機能の視点

健康成人にタナドーパ1g(ドカルパミン750mg)を単回経口投与した試験では、遊離型ドパミンは投与後約1.5時間でCmax約63ng/mLに達し、5時間後にはほとんど消失しており、食後投与でも比較的一貫した血中濃度推移が得られている。

循環不全患者では、ドカルパミン750mgを1日3回投与することで、静注ドパミン1〜5μg/kg/minに相当する血漿遊離ドパミン濃度が維持されると推察されており、静注から経口へのシームレスなドパミン負荷が可能である。

糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの腎障害を有する循環不全患者を対象にした単回投与試験では、腎機能正常群と軽度〜中等度腎機能低下群で、血漿遊離ドパミン濃度の時間推移に顕著な差は認められず、RPFとGFR、尿中Na排泄量の増加も3群で保たれていた。

この試験では、腎機能障害群でも血圧・脈拍数への大きな影響や明らかな副作用はみられず、少なくとも短期使用においては腎機能低下そのものがタナドーパ投与の絶対的制限因子ではない可能性を示唆している。

一方で、添付文書上は腎機能障害患者に対する具体的な用量調節指針は「設定されていない」とされており、長期蓄積や代謝産物の影響については十分なデータがない。

したがって、慢性心不全患者で高度腎障害を合併する症例では、短期的な離脱目的に限定しつつ、尿量や電解質、腎機能指標をこまめにチェックしながら最小限の期間・用量で用いることが実臨床上の落としどころとなる。

タナドーパ 心不全患者で注意すべき安全性と意外な落とし穴

タナドーパの重大な副作用としては、心室頻拍などの不整脈および肝機能障害・黄疸が挙げられ、心室頻拍の発現頻度は1%未満、肝機能障害・黄疸も1%未満〜0.1%未満と報告されている。

製造販売後調査を含めた副作用発現率は約3%であり、頻度としては高くないものの、循環不全患者というハイリスク集団で起こる不整脈は、致命的イベントにつながりうるため、導入時の心電図モニタリングが重要である。

禁忌として、褐色細胞腫やパラガングリオーマが明記されており、もともとカテコールアミン過剰の状態にドパミン生成薬を投与すると、重篤な高血圧発作や不整脈を誘発するおそれがある。

肥大型閉塞性心筋症では、心収縮力増強により左室流出路狭窄が悪化する可能性があるため、タナドーパの使用は慎重投与の対象とされ、場合によっては他の血行動態改善策を優先すべきとされる。

意外な注意点として、長期維持療法には用いないことが望ましいと明記されており、これはドパミン作動薬のb1刺激による心筋への負荷が、慢性期の予後改善という現代の心不全治療ゴールと相反する可能性があるためである。

参考)https://jspccs.jp/wp-content/uploads/31-S2-1.pdf

また、タナドーパは経管投与に不向きであり、簡易懸濁法による検討では速やかに沈殿し、8Fr・12Frチューブの閉塞が生じたと報告されているため、経口摂取困難な患者で無理に経管投与するとチューブ閉塞によるトラブルを招く点は、あまり知られていない落とし穴である。

さらに、タナドーパはフェノチアジン系・ブチロフェノン系抗精神病薬との併用で腎血流量増加作用が減弱することがあり、MAO阻害薬との併用では作用(血圧上昇など)が増強・延長する可能性があるため、心不全患者で精神疾患やパーキンソン病治療薬を併用しているケースでは薬物相互作用のチェックが不可欠である。

ドパミン作動薬であることから、ラットでの動物実験では血清プロラクチン低下や乳汁移行が報告されており、授乳婦では「母乳栄養の有益性と治療上の有益性を勘案したうえで授乳継続の可否を検討」とされている点も、心不全妊産婦・周産期症例のコンサルト時には意識しておきたい。

タナドーパ 心不全治療における現在の位置づけと代替薬をどう考えるか

日本循環器学会は2022年12月、製造販売元からの情報に基づき、心不全治療薬タナドーパ顆粒75%の出荷停止が通知されたことを公表しており、多くの医療機関で代替薬選択を迫られた。

もともとタナドーパは「静注ドパミン・ドブタミン少量持続からの離脱」が主な役割であり、現代の心不全治療ガイドラインでは、予後改善を目的としたACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬などの心保護薬が中心となっているため、慢性心不全の標準薬とは位置づけが異なる。

出荷停止後の代替アプローチとしては、急性期のカテコラミン離脱を急ぎすぎず、利尿薬や血管拡張薬、非ドパミン系経口強心薬(デノパミンなど)を組み合わせつつ、可能な限り早期に予後改善薬の導入・増量へシフトする戦略が現実的である。

特に小児心不全ガイドラインなどでは、タナドーパは「ドパミン・ドブタミンからの離脱困難例に選択肢として検討されうる薬剤」として触れられるにとどまり、予後改善エビデンスは乏しいことから、出荷停止に伴う治療戦略の大転換よりも「本来のエビデンスに沿った薬物療法への回帰」と捉える見方もできる。

参考)https://www.jeccs.org/wp-content/uploads/2019/05/NL24.pdf

一方で、高齢者の慢性心不全で長期にわたり少量ドパミン静注が漫然と続けられている症例では、タナドーパによる経口置換を介して離脱に成功した症例報告もあり、今後はこうした症例でARNIやSGLT2阻害薬への切り替え・併用により「静注カテコラミン依存からの脱却」を図る必要がある。

参考)https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=ai6kisocamp;ye=1996amp;vo=30amp;issue=3

この意味で、タナドーパが提示した「経口カテコラミンでリハビリ早期化・退院短縮」というコンセプトは、現在では「エビデンスに基づく心不全包括治療で早期離床と在宅復帰を支える」という形で引き継がれていくべきテーマといえる。

心不全診療チームとしては、タナドーパを使用している(いた)患者の背景をあらためて棚卸しし、「本剤がなぜ選択されたのか」「どの血行動態目標をどの期間サポートしていたのか」を整理したうえで、カテコラミン依存を減らしつつ予後改善薬を最大限活用するプロトコルへアップデートすることが求められる。

その過程で、腎機能・肝機能・不整脈リスク、経管栄養の可否など、タナドーパ特有の細かな制約事項を見直すことは、単に「代替薬を選ぶ」だけでなく、心不全薬物療法全体の質を高めるきっかけにもなりうる。

参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/670.pdf

心不全薬物療法の全体像・ガイドライン上の位置づけ

小児心不全薬物治療ガイドライン(日本小児循環器学会)

タナドーパ顆粒 インタビューフォーム(薬理・臨床成績・安全性)

タナドーパ顆粒75% 医薬品インタビューフォーム

タナドーパ製品情報・効能効果・用法用量(添付文書要約)

タナドーパ顆粒75% 製品情報(KEGG MEDICUS)

タナドーパ出荷停止に関する学会からの情報提供

タナドーパ顆粒75%の出荷停止に関する日本循環器学会のお知らせ

ドカルパミンの薬理学的特徴を解説した論文

Yamaguchi I, et al. J Cardiovasc Pharmacol. 1989;13(6):879-886.

Ambety ティーバッグ・コーヒー収納ラック お茶・お菓子・給湯室置物棚 ドーパミンドロワー式仕切り収納架 デスクトップ分類整理神器 (A)