高カルシウム血症の症状と治療薬で知る副甲状腺機能亢進症

高カルシウム血症の症状と治療薬

高カルシウム血症の基本情報
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定義

血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回る、または血清イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回った状態

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主な原因

副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、ビタミンD中毒など

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重要性

放置すると重篤な症状を引き起こし、致死的になる可能性がある代謝性疾患

高カルシウム血症は血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる状態を指します。正常値は8.5~10.4mg/dLとされており、これを超えると様々な症状が現れます。本記事では高カルシウム血症の症状と治療薬について詳しく解説し、医療現場での対応について理解を深めていきます。

高カルシウム血症の初期症状と消化器系への影響

高カルシウム血症の初期症状として最も頻度が高いのは消化器症状です。具体的には以下のような症状が現れます。

  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • 便秘
  • 腹部不快感

これらの症状は血中カルシウム濃度が軽度に上昇した段階から現れ始めます。特に便秘は高カルシウム血症の特徴的な症状の一つで、カルシウムイオンが腸管平滑筋の収縮力を低下させることが原因です。また、多くの場合、これらの消化器症状に伴って脱水症状も見られます。

脱水は高カルシウム血症をさらに悪化させる要因となるため、初期段階での適切な水分補給が重要です。消化器症状は他の疾患でも見られる非特異的なものが多いため、高カルシウム血症を見逃さないためには血液検査による確認が必須となります。

高カルシウム血症の神経・筋症状と副甲状腺機能亢進症

高カルシウム血症が進行すると、神経系や筋肉系に影響を及ぼし、以下のような症状が現れます。

  • 倦怠感や易疲労感
  • 筋力低下
  • 集中力の低下
  • 頭痛
  • 気分の変動(抑うつやイライラ)
  • 認知機能の低下
  • 錯乱

特に副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症では、これらの神経・筋症状が顕著に現れることがあります。副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症の最も一般的な原因の一つで、副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰になることで骨からのカルシウム放出が促進され、血中カルシウム濃度が上昇します。

副甲状腺機能亢進症には以下の種類があります。

  1. 原発性副甲状腺機能亢進症:副甲状腺自体の異常(腺腫など)によるもの
  2. 二次性副甲状腺機能亢進症:慢性腎不全などによる低カルシウム血症に対する代償反応
  3. 副甲状腺癌:稀ですが、副甲状腺の悪性腫瘍によるもの

診断には血清カルシウム値とともに、インタクトPTHの測定が重要です。インタクトPTHが上昇し、PTH-rP(PTH関連ペプチド)が正常である場合は原発性副甲状腺機能亢進症が疑われます。

高カルシウム血症の腎症状と尿路系への影響

高カルシウム血症は腎臓や尿路系にも大きな影響を与えます。主な腎症状には以下のようなものがあります。

血中カルシウム濃度が上昇すると、腎臓の集合管でのADH(抗利尿ホルモン)の作用が阻害され、水の再吸収が妨げられます。その結果、多尿となり、それに伴う脱水症状として口渇が生じます。

また、尿中へのカルシウム排泄量が増加することで高カルシウム尿症となり、腎結石のリスクが高まります。長期間にわたる高カルシウム血症は腎臓に石灰化をもたらし、腎機能障害を引き起こす可能性があります。

腎機能障害が進行すると、カルシウムの排泄能力がさらに低下し、高カルシウム血症が悪化するという悪循環に陥ることがあります。そのため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。

高カルシウム血症の治療薬とビスホスホネート製剤の役割

高カルシウム血症の治療は、原因疾患の治療と並行して行われます。治療の基本は以下の4つのアプローチです。

  1. 腸管からのカルシウム吸収の抑制
  2. 尿中カルシウム排泄量の増加
  3. 骨吸収の抑制
  4. 透析による過剰なカルシウムの除去

これらのアプローチに基づいた主な治療薬は以下の通りです。

1. ビスホスホネート製剤

高カルシウム血症治療の第一選択薬として広く使用されています。骨吸収を抑制することで血中カルシウム濃度を低下させます。

  • ゾレドロン酸(ゾメタ):4mgを15分以上かけて点滴静注します。投与後2〜3日で効果が現れ、数週間持続します。
  • パミドロン酸:30〜90mgを2〜4時間かけて点滴静注します。

ビスホスホネート製剤は即効性がないため、有症状の場合は生理食塩水やカルシトニンと併用することが多いです。また、長期投与により顎骨壊死のリスクがあるため、定期的な歯科検診が推奨されます。

2. カルシトニン(エルカトニン)

カルシウムを骨に戻す作用があり、比較的速やかに効果が現れます。症状のある高カルシウム血症では、80IU+生食100mLを静注し、5〜10日間ビスホスホネートと併用することがあります。ただし、長期投与ではエスケープ現象(効果の減弱)が生じるため、短期間の使用に限られます。

3. 生理食塩水による補液

脱水の改善とカルシウムの尿中排泄を促進するために用いられます。通常、1000〜2000mL/日の生理食塩水を静脈内または皮下に点滴します。ただし、終末期患者では浮腫や心不全のリスクがあるため、単独での大量投与は推奨されず、他の治療薬と組み合わせて使用されます。

4. ループ利尿薬フロセミドなど)

生理食塩水による補液後に使用し、カルシウムの尿中排泄を促進します。ただし、脱水を悪化させる可能性があるため、十分な補液を行った上で使用する必要があります。

5. コルチコステロイド(プレドニゾンなど)

ビタミンD中毒、サルコイドーシス、一部の悪性腫瘍による高カルシウム血症に効果があります。カルシトリオールの産生を抑制し、腸管からのカルシウム吸収を減少させます。プレドニゾン20〜60mg/日を経口投与しますが、効果が現れるまでに数日を要するため、急性期の治療には適していません。

6. その他の治療薬

  • リン酸クロロキン:サルコイドーシスによる高カルシウム血症に有効
  • プリカマイシン:がんによる高カルシウム血症に効果的だが、安全性の問題から使用頻度は低い
  • 硝酸ガリウム:腎毒性があり、臨床使用経験が限られているため、まれにしか使用されない

重度の高カルシウム血症(血清カルシウム値が18mg/dL以上)では、血液透析が必要になることもあります。

高カルシウム血症と悪性腫瘍の関連性と予後への影響

高カルシウム血症は悪性腫瘍に高頻度に合併する代謝異常であり、特に進行がんの患者さんでは重要な合併症の一つです。悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(MAH: Malignancy-Associated Hypercalcemia)は主に以下のメカニズムで発生します。

  1. 腫瘍からのPTH関連ペプチド(PTH-rP)の産生:最も一般的なメカニズムで、肺がん、乳がん、腎臓がんなどで見られます。
  2. 骨転移による局所的な骨吸収の促進:多発性骨髄腫、乳がんの骨転移などで見られます。
  3. 腫瘍細胞によるビタミンD活性化:リンパ腫などで見られます。
  4. サイトカインの産生:IL-1、IL-6、TNF-αなどが骨吸収を促進します。

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は予後不良のサインとされています。標準的治療薬での初回投与では70%以上の有効性が見られますが、60〜80%は1〜3週間後に再発し、2回目の治療での有効率は60%に低下します。さらに、2回目の高カルシウム血症を経験した患者さんの80%以上が3回目を発症し、その際の治療有効率は30%以下に低下します。

つまり、高カルシウム血症の存在自体が予後が数カ月以内である可能性を示唆しています。興味深いことに、骨転移がある患者さんの方が、内分泌要因(PTH-rPなど)による高カルシウム血症の患者さんよりも予後が良いとされています。

悪性腫瘍患者さんの高カルシウム血症の症状は、オピオイドの副作用や全身衰弱と紛らわしいことが多いため、「オピオイドを始めてはきけがする」「ボーっとする」といった症状の背景に高カルシウム血症が隠れていることがしばしばあります。そのため、がん患者さんでは定期的な血清カルシウム値のモニタリングが重要です。

診断には、PTH-rPとインタクトPTHの測定が有用です。インタクトPTHが低下し、PTH-rPが上昇している場合は腫瘍関連性高カルシウム血症が疑われます。

治療抵抗性の高カルシウム血症に対しては、ビスホスホネート製剤の変更や増量、プレドニゾン30〜40mgの併用などが試みられますが、明確なエビデンスは限られています。特に高サイトカイン血症(IL-6高値、CRP高値)の場合はコルチコステロイドが有効とされています。

終末期患者さんでは、生理食塩水の大量投与による心不全リスクを考慮し、やや少なめの投与量(1000mL/日程度)が適切かもしれません。また、症状緩和と患者さんのQOL向上を最優先に考えた治療方針の決定が重要です。

高カルシウム血症は適切な治療により改善が期待できますが、特に悪性腫瘍に伴う場合は再発リスクが高く、予後不良因子となることを認識しておく必要があります。

MSDマニュアル – 高カルシウム血症の詳細な解説と治療ガイドライン

高カルシウム血症の重症度別治療アプローチと薬剤選択

高カルシウム血症の治療は、血清カルシウム値の程度や症状の重症度に応じて異なるアプローチが必要です。ここでは重症度別の治療戦略について解説します。

軽度の高カルシウム血症(血清カルシウム値が11.5mg/dL未満)

軽度で症状が軽微、かつ腎機能障害がない場合は、以下の治療が考慮されます。

  • リンの経口投与:腸管でのカルシウム吸収を抑制します
  • 十分な水分摂取の奨励:尿中カルシウム排泄を促進します
  • 原因疾患の治療:副甲状腺機能亢進症であれば、カルシウム制限食などの食事療法も併用します

中等度の高カルシウム血症(血清カルシウム値が11.5〜18mg/dL)

中等度の症状がある場合や、より迅速な是正が必要な場合は、以下の治療が行われます。

  1. 生理食塩水とループ利尿薬の併用
    • 生理食塩水:脱水を改善し、尿中カルシウム排泄を促進
    • フロセミドなどのループ利尿薬:カルシウムの尿中排泄をさらに促進
  2. ビスホスホネート製剤
    • ゾレドロン酸(4mg、15分以上かけて点滴静注)
    • パミドロン酸(30〜90mg、2〜4時間かけて点滴静注)
  3. カルシトニン
    • 症状が強い場合に併用(80IU+生食100mL静注)
    • 効果発現が比較的早いが、5〜10日程度の短期間使用に限定

重度の高カルシウム血症(血清カルシウム値が18mg/dL超)

生命を脅かす重度の高カルシウム血症では、より積極的な介入が必要です。

  • 血液透析:最も効果的にカルシウムを除去できる方法
  • 上記の治療法の組み合わせ:生理食塩水、ビスホスホネート、カルシトニンなどを併用

原因疾患別の追加治療

  1. 副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症
    • 原発性副甲状腺機能亢進症:副甲状腺の外科的切除(特に中等度以上の症例)
    • 二次性副甲状腺機能亢進症:リンの制限および吸着剤、カルシトリオールの投与
  2. ビタミンD中毒による高カルシウム血症
    • コルチコステロイド(プレドニゾン20〜40mg/日)
    • ビタミンD摂取の中止
  3. サルコイドーシスによる高カルシウム血症
    • コルチコステロイド
    • リン酸クロロキン(500mg/日、経口)
  4. 悪性腫瘍による高カルシウム血症
    • 原発腫瘍に対する治療(化学療法、放射線療法など)
    • ビスホスホネート製剤が第一選択
    • 治療抵抗性の場合はコルチコステロイドの併用を検討

治療効果の判定には、定期的な血清カルシウム値の測定が必要です。また、腎機能障害患者では低カルシウム血症のリスクが高まるため、特にデノスマブなどの骨吸収抑制薬を使用する際は注意が必要です。治療中は血清補正カルシウム値を定期的に測定し、腎機能も併せてモニタリングすることが推奨されます。

高カルシウム血症の治療では、単に血清カルシウム値を正常化するだけでなく、原因疾患の特定と治療、症状の緩和、合併症の予防という総合的なアプローチが重要です。特に悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症では、再発リスクが高いため、継続的なモニタリングと適切な治療介入が必要となります。

聖隷三方原病院 – 症状緩和ガイド:高カルシウム血症の治療アプローチ