多汗症チェックと診断基準
多汗症の診断基準における6つのチェック項目
多汗症の診断において最も重要なのは、原発性局所多汗症の診断基準です。この基準は日本皮膚科学会の診療ガイドラインで定められており、明らかな原因がないまま局所的な過剰発汗が6ヶ月以上認められることが前提となります。
参考)一般皮膚科:多汗症(たかんしょう)|平岡皮膚科スキンケアクリ…
診断基準となる6つのチェック項目は次の通りです。
参考)多汗症の治療【くろかわ皮フ科】尼崎市南武庫之荘の皮膚科 アレ…
- 最初に症状が出たのが25歳以下である
- 左右対称的に発汗が見られる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 週に1回以上多汗のエピソードがある
- 家族に多汗症の方がいる
- 日常生活に支障をきたしている
これらのうち2項目以上に該当する場合、原発性局所多汗症と診断されます。医療従事者はこの基準を用いて、患者が単なる「汗っかき」なのか、治療が必要な多汗症なのかを適切に判断する必要があります。
参考)多汗症についての原因や診断方法について解説|渋谷・大手町・み…
原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(日本皮膚科学会)には、詳細な診断基準と治療アルゴリズムが記載されています。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/takansho2023.pdf
多汗症の重症度レベル判定方法
多汗症の重症度判定には、HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)という評価尺度が広く用いられています。これは患者の自覚症状に基づいて4段階で重症度を分類する方法です。
スコア | 自覚症状 | 治療の必要性 |
---|---|---|
1 | 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない | 経過観察 |
2 | 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある | 必要に応じて治療 |
3 | 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある | 治療推奨 |
4 | 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある | 治療推奨 |
HDSSスコア3以上を重症の指標としており、積極的な治療介入が推奨されます。医療従事者はこのスコアリングを用いることで、患者の症状を客観的に評価し、治療方針を決定できます。
参考)多汗症疾患重症度評価度(Hyperhidrosis dis…
ある研究では、多汗症患者のQOLは重度の乾癬患者と同等レベルまで低下していることが報告されており、適切な重症度評価と治療介入の重要性が示されています。
参考)多汗症患者さんの実態
多汗症における原発性と続発性の鑑別
多汗症は原因によって「原発性多汗症」と「続発性多汗症」に分類されます。医療従事者にとって、この鑑別は治療方針を決定する上で極めて重要です。
原発性多汗症は、明らかな原因疾患がなく、特定の部位(手掌、足底、腋窩、頭部・顔面)に過剰な発汗が生じる状態です。一方、続発性多汗症には必ず原因となる基礎疾患や薬剤が存在します。
参考)多汗症
続発性多汗症の原因として注意すべき疾患には以下があります。
参考)多汗症の症状チェック!|原因と治療・予防や対策|奈良なかの皮…
また、解熱剤、向精神薬、ステロイド剤などの薬剤の副作用でも多汗が生じることがあります。初診時には必ずこれらの疾患との鑑別を行い、原因不明の場合のみ原発性多汗症と診断します。
続発性多汗症の鑑別に関する研究論文では、基礎疾患の同定が治療の鍵となることが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9455328/
多汗症チェックにおける部位別の特徴
多汗症は発汗部位によって症状の現れ方が異なるため、部位別のチェックポイントを理解することが重要です。医療従事者は患者の主訴だけでなく、他の部位の発汗状況も詳しく聴取する必要があります。
参考)多汗症はセルフチェックで早期発見!顔・手・脇の症状チェック方…
腋窩多汗症では、運動や暑さに関係なく両脇に多量の汗をかき、衣服に目立つ汗ジミができることが特徴的です。左右で同量の汗をかくことも診断のポイントになります。
参考)【医師監修】自分で出来る多汗症セルフチェック診断!※頭、顔面…
手掌多汗症の患者では、紙が濡れて書類に記入できない、スマートフォンの操作に支障が出る、人と握手することをためらうといった訴えがよく聞かれます。重症例では汗が滴り落ちることもあります。
参考)手汗・多汗症の自己チェック方法!検査方法や重症度の判定は?
足底多汗症は靴の中が常に湿った状態になり、足のニオイの原因にもなります。頭部・顔面多汗症は社会生活への影響が特に大きく、患者のQOL低下が顕著です。
ある疫学研究では、複数の部位に多汗症を併発している患者が多いことが報告されており、全身的な評価の必要性が示唆されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5674693/
多汗症における医療従事者の観察ポイント
医療従事者が多汗症患者を評価する際には、単に発汗量だけでなく、日常生活への影響や心理社会的な側面も総合的に観察することが求められます。
参考)【発汗異常の看護】発汗異常の原因とアセスメント・ケアのポイン…
問診では、発症時期、発汗のきっかけ(温熱性、精神性、味覚性のいずれか)、随伴症状の有無を詳しく聴取します。特に緊張時に発汗が増強する場合は精神性発汗の要素が強く、不安障害との関連も考慮する必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9884722/
視診では、実際の発汗状態を観察します。手掌や腋窩が常に湿っている状態か、汗が水滴として付着しているか、滴り落ちるほどの量かを評価します。
参考)多汗症レベル・症状チェック-自力で治せる?|富田るり子皮膚科…
さらに、患者の心理状態にも注意を払う必要があります。多汗症患者は症状を隠そうとして社会的な場面で自分を偽る「インポスター現象」を示すことが多く、精神的負担が大きいことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10822058/
発汗異常の看護におけるアセスメントとケアのポイントには、医療従事者向けの詳細な観察指標が記載されています。
医療機関を受診する患者は多汗症で悩む人のごく一部に過ぎず、多くの患者が適切な治療を受けられていない現状があります。医療従事者が積極的に症状を聴取し、適切な診断と治療につなげることが、患者のQOL向上に大きく貢献します。