スマトリプタンコハク酸塩 注射の基礎から実践まで
心疾患のない患者でも、スマトリプタン注射後に心筋梗塞が起きた報告があります。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00045948.pdf)
スマトリプタンコハク酸塩 注射の作用機序と適応疾患
スマトリプタンコハク酸塩は、5-HT1B/1D受容体に選択的に作用するトリプタン系薬剤です。 頭蓋血管平滑筋の5-HT1B受容体に結合して血管収縮を引き起こし、同時に三叉神経終末からのニューロペプチド(CGRP・サブスタンスPなど)の放出を抑制します。 この二重作用が片頭痛・群発頭痛の急性期痛を鎮める核心です。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00005795.pdf)
適応は「片頭痛・群発頭痛」の2疾患に限られます。 重要なのは、診断が確定していない段階での投与は認められないという点です。保険診療上も、片頭痛の確定診断が行われた場合にのみ投与することが明記されています。 「頭痛だから打っておこう」は認められません。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/gl2013/305-317_furoku1.pdf)
| 剤形 | 1回用量 | 1日上限 | 適応 |
|---|---|---|---|
| 注射液(皮下注) | 3mg | 6mg(2回) | 片頭痛・群発頭痛 |
| 錠剤(経口) | 50mg | 200mg | 片頭痛のみ |
| 点鼻液 | 20mg | 40mg | 片頭痛のみ |
点鼻・内服剤は群発頭痛に対して保険適応がない点が重要です。 群発頭痛の急性期で保険適応を持つのは、日本ではスマトリプタン皮下注射だけです。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/4/4-5.htm)
スマトリプタンコハク酸塩 注射の禁忌と慎重投与の判断基準
絶対禁忌を正確に把握することが、安全な使用の第一歩です。 uchikara-clinic(https://uchikara-clinic.com/prescription/sumatriptan/)
以下が絶対禁忌の一覧です。
- 本剤成分への過敏症の既往歴
- 心筋梗塞の既往歴、虚血性心疾患またはその症状・兆候がある患者
- 異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者
- 脳血管障害・一過性脳虚血発作(TIA)の既往のある患者
- 末梢血管障害を有する患者
- コントロールされていない高血圧症
- 重度の肝機能障害または腎機能障害
- MAO阻害薬投与中または投与中止後2週間以内
- エルゴタミン含有製剤・他のトリプタン系薬剤との併用(24時間以内)
- 家族性片麻痺性片頭痛・孤発性片麻痺性片頭痛・脳底型片頭痛・眼筋麻痺性片頭痛
慎重投与が必要な患者層も見逃せません。 「閉経後の女性」「40歳以上の男性」「冠動脈疾患の危険因子(高血圧・高コレステロール・糖尿病・肥満・喫煙・家族歴)を持つ患者」は、虚血性心疾患の潜在リスクがあるため、初回は医療機関での投与と経過観察が推奨されます。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400278_2160003F1081_1_05)
てんかんの既往または危険因子がある患者にも注意が必要です。 てんかん様発作の副作用報告があるため、投与前に既往歴を必ず確認することが基本です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400278_2160003F1081_1_05)
参考:PMDAによるスマトリプタンコハク酸塩(注射剤)使用上の注意改訂について
スマトリプタンコハク酸塩 注射の副作用と重篤事象への対応
副作用は「よくある軽微なもの」と「まれだが重篤なもの」を分けて把握しましょう。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/gl2013/305-317_furoku1.pdf)
主な副作用(頻度が高いもの)
jhsnet(https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/gl2013/305-317_furoku1.pdf)
特に注意すべきは「チェスト・シンプトム」です。 投与後に胸部圧迫感・締め付け感が現れた場合、まず虚血性心疾患との鑑別を行う必要があります。この症状が心疾患由来と疑われる場合は、以後の投与を中止し、適切な検査を実施します。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00045948.pdf)
重大な副作用
- アナフィラキシーショック・アナフィラキシー(頻度不明)
- 虚血性心疾患様症状(1%未満):狭心症・心筋梗塞を含む
- てんかん様発作
- 失神・血管浮腫・呼吸困難
medical.itp.ne(https://medical.itp.ne.jp/kusuri/shohou-20120000000847/)
注目すべきは「心疾患がない患者にも重篤な心疾患が極めてまれに発生する」という添付文書の記載です。 これは頻度がきわめて低いとはいえ、全患者において事前の心血管リスク評価が必要であることを示しています。頻度が低いから安心、ではありません。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00045948.pdf)
参考:日本頭痛学会 スマトリプタン在宅自己注射ガイドライン
日本頭痛学会|スマトリプタン在宅自己注射ガイドライン(PDF)
スマトリプタンコハク酸塩 注射の在宅自己注射指導のポイント
在宅自己注射の処方は、すべての片頭痛患者に行えるわけではありません。 「医師が患者自らが適切に使用可能と判断した場合にのみ」処方するという大原則があります。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/information/080425guideline.htm)
自己注射指導で伝えるべき必須事項
- 注射部位:太もも前面または上腕外側の皮下(腹部可)に皮下注射する
- 1回3mg・1日2回(6mg)まで・2回使用する場合は1時間以上あけること
- 他のトリプタン系薬剤・エルゴタミン製剤との間隔は24時間以上あけること
- 発症後できるだけ早期(頭痛が始まってから)に投与する
- 前兆期(頭痛発現前)への投与は効果が不確かで推奨されない
- 胸部圧迫感・動悸・息切れが出た場合はすぐに医療機関へ連絡する
urayasu-yanagi(https://urayasu-yanagi.com/blog/%E7%BE%A4%E7%99%BA%E9%A0%AD%E7%97%9B%E3%81%AE%E7%99%BA%E4%BD%9C%E6%99%82%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%97%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%9A%AE%E4%B8%8B/)
「初めてスマトリプタン在宅自己注射を行う際は医療機関内で実施すること」というガイドラインの推奨も重要です。 これは初回投与時のアナフィラキシーや心血管イベントに備えるためです。できる限り医療機関でスマトリプタン皮下注射を受け、効果と副作用を確認した患者への処方が望ましい、というガイドラインの推奨を指導に反映しましょう。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/information/080425guideline.htm)
群発頭痛患者への自己注射指導では「1日3回以上の発作がある場合、2回を超えた使用はできない」ことを明確に伝える必要があります。 その場合は酸素療法など他の手段との組み合わせを検討します。これが原則です。 urayasu-yanagi(https://urayasu-yanagi.com/blog/%E7%BE%A4%E7%99%BA%E9%A0%AD%E7%97%9B%E3%81%AE%E7%99%BA%E4%BD%9C%E6%99%82%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%97%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%9A%AE%E4%B8%8B/)
参考:イミグランキット皮下注3mg 患者用ガイド
スマトリプタンコハク酸塩 注射の群発頭痛への有効性データ
群発頭痛に対するスマトリプタン皮下注射の有効性は、片頭痛以上に際立っています。 国内外のデータで群発頭痛に対する頭痛消失率は88%という高い数字が報告されています。 内服薬では到底届かない効果を、この注射剤は実現しています。 tsujido-brain(https://tsujido-brain.website/disease/disease-cluster/)
発現時間の早さも重要な特徴です。 皮下投与後、10分以内にすでに頭痛抑制効果が現れ始め、15分後には74%の患者で頭痛が弱まり、30分後には77%が完全寛解したと報告されています。 内服薬では同様の効果に1時間以上かかることと比べると、群発頭痛のような急激な発作への対応では「10分」の違いは患者に大きな差をもたらします。 kuwana-sc(https://kuwana-sc.com/brain/374/)
意外ですね。
また、長期間使用しても有効性が減弱しないことが報告されており、群発期を繰り返す患者に対しても安定した薬効を期待できます。 耐性が生じにくいという点が、反復使用が前提となる群発頭痛治療において強みになります。耐性リスクが低いのは大きなメリットです。 kuwana-sc(https://kuwana-sc.com/brain/374/)
日本の保険制度における重要な注意点として、群発頭痛に対してはスマトリプタン皮下注射のみが保険適応を持ちます。 海外ではトリプタン内服・点鼻による有効性も示されていますが、日本ではこれらは群発頭痛に対して保険外です。 診療録や処方時に適応外となる剤形・疾患の組み合わせを誤って記載しないよう、医療従事者として把握しておく必要があります。 jhsnet(https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/4/4-5.htm)
参考:日本頭痛学会「群発頭痛急性期治療薬」ガイドライン