水酸化アルミニウムの組成式と基本構造
水酸化アルミニウムの基本組成式と分子構造
水酸化アルミニウムの組成式はAl(OH)₃で表され、分子量は78.00である 。この化合物は白色の無機化合物で、比重は2.42〜2.50程度であり、水やアルコールには不溶だが、酸やアルカリには溶解する特性を持つ 。
化学的には、1個のアルミニウムイオン(Al³⁺)と3個の水酸化物イオン(OH⁻)が結合した構造となっている 。この基本構造は、各アルミニウム原子が6個の水酸化物基に結合し、八面体配位構造を形成している 。
参考)https://www.fujikasei.net/product/detail_148.php
興味深いことに、水酸化アルミニウムは化学式Al₂O₃·3H₂Oとしても表記される場合があり、これは3分子の水を含有することを示している 。この表記方法は、水酸化アルミニウムが加熱によって脱水反応を起こし、最終的に酸化アルミニウム(Al₂O₃)に変化する過程を理解するうえで重要である。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery12/853gibbsite.html
水酸化アルミニウムのギブス石結晶構造と特性
水酸化アルミニウムの最も一般的な結晶形態はギブス石(gibbsite)で、γ-Al(OH)₃として知られている 。この結晶は単斜晶系に属し、格子定数はa=8.675Å、b=5.0690Å、c=9.726Åで、β角は94.55°である 。
ギブス石の結晶構造は、リンクされた八面体の積み重ねられたシートを形成しており、各八面体は6つの水酸化物基に結合したアルミニウムイオンで構成されている 。この層状構造により、ギブス石は特定の方向に劈開しやすく、薄い板状の結晶として産出することが多い 。
参考)https://www.tennenseki-akuse.com/?mode=f65
天然においては、ギブス石はボーキサイト(アルミニウム鉱石)の主要構成鉱物として存在し、アルミニウムの工業的製造において重要な原料となっている 。実験室レベルでは、アルミン酸ナトリウム水溶液に二酸化炭素を通じることで人工的に合成することも可能である 。
参考)水酸化アルミニウム(スイサンカアルミニウム)とは? 意味や使…
水酸化アルミニウムのバイヤー法による合成方法
工業的に水酸化アルミニウムを製造する主要な方法がバイヤー法である 。この方法では、まずボーキサイトを水酸化ナトリウム(NaOH)の高温水溶液(約175℃〜250℃)に溶解させる 。
第一段階では、ボーキサイト中のアルミナが水酸化アルミニウムに変換され、以下の化学反応によって溶液中に溶解する。
Al₂O₃ + 2OH⁻ + 3H₂O → 2[Al(OH)₄]⁻
その後、不純物を濾過により除去し、溶液を冷却することで水酸化アルミニウムが白色の綿毛状固体として析出する 。この沈殿反応は以下のように表される:
[Al(OH)₄]⁻ → Al(OH)₃ + OH⁻
バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムは高純度であり、医薬品や工業材料として広く利用されている 。特に医療用途では、この方法で製造された水酸化アルミニウムが制酸剤として使用されている。
水酸化アルミニウムの制酸剤としての医療用組成
医療用水酸化アルミニウムは、主に「乾燥水酸化アルミニウムゲル」として製剤化されている 。この製剤は白色の無晶性の粉末で、においや味がなく、水、エタノール、ジエチルエーテルにはほとんど溶解しない 。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=0155h000000eczq
制酸作用のメカニズムは、胃酸を中和することにより発現する 。重要な点は、炭酸水素ナトリウムのように炭酸ガスを発生せず、二次的な胃酸分泌が少ないことである 。また、胃内でゲル状となり、胃粘膜に対して被覆保護・吸着作用を示す 。
参考)医療用医薬品 : 乾燥水酸化アルミニウムゲル (乾燥水酸化ア…
用法・用量としては、通常成人1日1〜3gを数回に分割経口投与する 。ただし、透析療法を受けている患者には投与禁忌であり、長期投与によりアルミニウム脳症、アルミニウム骨症、貧血等が現れることがあるため注意が必要である 。
水酸化アルミニウムの両性化合物としての特殊反応
水酸化アルミニウムの最も特徴的な性質は、両性化合物であることである 。これは、酸性溶液と塩基性溶液の両方に溶解する特性を意味している。
参考)第6454号 アルミニウムの反応 [ブログ] 川口液化ケ…
酸性条件下では、プロトンの付加により以下の反応が進行する。
Al(OH)₃ + 3HCl → AlCl₃ + 3H₂O
この反応により、アルミニウムイオン(Al³⁺)が生成し、無色の溶液となる 。
一方、塩基性条件下では、水酸化物イオンとの配位結合により錯イオンが形成される。
Al(OH)₃ + NaOH → Na[Al(OH)₄]
この反応で生成されるテトラヒドロキシドアルミン酸イオン[Al(OH)₄]⁻は無色であり、アルミン酸ナトリウムとして知られている 。
この両性的性質により、水酸化アルミニウムは様々な化学工程で中間体として利用されており、特に医療分野では胃酸過多症の治療において重要な役割を果たしている 。