水平性注視麻痺と診断
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水平性注視麻痺の診断とPPRFとMLFの基本
水平性注視麻痺は、左右注視のいずれか(または両方)で「両眼が同方向へ共同して動く」ことができない状態を指し、病変は脳幹(特に橋)に局在することが多い。
水平方向の共同注視は、大脳皮質の前頭眼野(FEF)から橋の傍正中橋網様体(PPRF)へ入力が入り、PPRFから外転神経核を介して同側外直筋と、内側縦束(MLF)を介して対側動眼神経核(内直筋)へ連絡して成立する。
したがって、PPRF・外転神経核・MLFのどこが障害されるかで、共同注視麻痺、核間性眼筋麻痺(INO)、その複合(後述のone-and-a-halfなど)のパターンが生じ、診察所見から病巣をかなり具体的に推定できる。
診断の最初の一手は、眼球運動を「指標追従(smooth pursuit)」と「急速眼球運動(saccade)」で観察し、左右差と再現性を確認することにある。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4141156/
共同注視麻痺は「意識的に見ようとしても両眼が一緒に動かない」所見として現れる一方、核間性眼筋麻痺は「内転障害+外転眼の眼振」といった組み合わせが手掛かりになることがある。msdmanuals+1
また、同じ“動かない”でも、眼筋・神経筋接合部・末梢神経の障害と、中枢(脳幹)障害では随伴所見(複視の訴え方、神経学的随伴症候、眼振の質)が異なるため、眼球運動以外の神経所見を同時に拾う設計が重要になる。
表にすると、臨床で迷いやすい「どこを見れば切り分けられるか」が整理しやすい。
| 所見の型 | 目で見えるポイント | 疑う部位 |
|---|---|---|
| 共同注視麻痺 | 左右いずれかの注視で両眼が同方向へ動けない | PPRF または 外転神経核(橋) |
| 核間性眼筋麻痺(INO) | 内転障害(+外転眼の眼振が手掛かりになること) | MLF(内側縦束) |
| 複合パターン | 「片側は水平に全く動かない+反対眼は外転のみ」など | PPRF/外転神経核+MLFの合併 |
水平性注視麻痺の原因と橋と脳梗塞
水平性注視麻痺を急性に認めた場合、まずは脳血管障害(脳幹梗塞・脳幹出血)を優先して疑うのが実務的で、特に橋の背側〜傍正中部が責任病巣になりやすい。
橋病変ではPPRF・MLF・外転神経核が近接しているため、単独障害よりも「複数の眼球運動経路がセットで巻き込まれる」ことで特徴的な症候群を形成しやすい点が、水平性注視麻痺が病巣推定に強い理由になる。
日本語文献でも、PPRFやMLFを含む病巣が水平性注視麻痺(さらに顔面神経麻痺など)と並んで論じられており、眼球運動所見が脳幹局在のサインになりうることが示唆される。
画像評価では、後頭蓋窩はアーチファクトやスライス条件で見落としが起き得るため、神経所見(眼球運動)と画像の“つじつま”が合わないときは、時間を置いた再撮像や撮像条件の調整を含めて検討する価値がある。
特に救急外来では、めまい・複視・ふらつきのような非特異的訴えの中に、水平注視の破綻が埋もれやすいので、「目標物を左右に振って両眼の共同性をみる」ルーチン化が安全性に寄与する。
一方で、変性疾患や代謝性疾患などでも中枢性眼球運動障害は起こりうるため、時間経過(超急性か、亜急性か、慢性進行か)の情報は、原因の優先順位付けに直結する。pmc.ncbi.nlm.nih+1
水平性注視麻痺とone-and-a-halfと核間性眼筋麻痺
one-and-a-half症候群は、水平注視中枢(PPRF)と同側MLFが同時に障害されることで生じる「まれな」眼球運動障害のパターンとして説明され、臨床的には“1眼は水平に全く動かない+反対眼は外転だけ可能”という形をとる。
このとき輻輳が保たれる(とされる)点は、末梢の動眼神経麻痺や外眼筋麻痺と鑑別する際の重要なヒントになり、所見の取り方で診断精度が大きく変わる。
臨床向けの解説でも、PPRF(または外転神経核)障害とMLF障害が合併するとone-and-a-halfとしてまとめられることが示され、経路理解がそのまま症候学に直結する。
核間性眼筋麻痺(INO)そのものはMLF障害により生じ、MLFが外転神経核・水平注視中枢・対側動眼神経核を連絡するという“配線図”を押さえると、なぜ内転が障害されるのかが説明しやすくなる。
参考)核間性眼筋麻痺 – 07. 神経疾患 – MSDマニュアル …
中枢性眼球運動障害の総論では、眼位、可動域、追従、サッケード、注視保持、OKNなどを系統立てて評価する重要性が述べられており、INOやone-and-a-halfの拾い上げにもこの枠組みが有効である。
意外に見落とされがちなのは、患者が「動かない」と訴える方向と、診察者が「共同性が破綻している」と判断する方向が一致しないことがある点で、必ず左右それぞれの注視を同じ条件(速度・距離・頭位)で繰り返して確認したい。
水平性注視麻痺の眼球運動と鑑別と複視
臨床での鑑別は、(1)共同注視の破綻(中枢)か、(2)単眼の運動制限(末梢神経・筋)か、(3)疲労で変動するか(神経筋接合部)という三分岐で組み立てると、見逃しが減る。
中枢性の眼球運動障害では、眼振や注視保持障害など他の眼球運動異常が同時に観察されることがあり、こうした“セット所見”が末梢性の外眼筋麻痺と異なる判断材料になる。
複視は患者の訴えとして重要だが、脳幹病変では複視以外に構音障害・運動失調・感覚障害などが併存することもあるため、眼球運動所見だけで完結させず神経診察の流れに組み込む。
診察のコツとして、ベッドサイドでは「頭位を固定して眼だけで追わせる」「サッケードを左右で同速度にする」「正面視での眼位(斜位)を先に確認する」を徹底すると、所見の解釈が安定する。
さらに、眼球運動の評価は“できる・できない”の二値ではなく、速度低下、遅れ(latency)、過少/過大、眼振の付随などの質的変化まで記載できると、経過観察や他科コンサルト時の情報価値が上がる。
リハビリテーションの観点では、橋背側にPPRF・MLF・外転神経核を含む病変がある場合に眼球運動障害が残存し得ることが報告されており、急性期だけでなく回復期の説明にも役立つ。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jotr/40/6/40_713/_pdf/-char/en
水平性注視麻痺の独自視点と診断の言語化
独自視点として強調したいのは、水平性注視麻痺を「病名」ではなく「配線障害の説明文」に翻訳してカルテに残すと、チーム医療の速度が上がる点である(例:「右注視で両眼共同運動不能→右PPRF/右外転神経核系を疑う」など)。
PPRF・外転神経核・MLFという“部品名”を所見とセットで短文化しておくと、画像読影依頼や脳卒中チームへの連絡時に「どの断面でどこを見るべきか」が共有されやすくなる。
さらに、one-and-a-halfのようなパターン認識は、病変が橋の傍正中〜背側に寄っている可能性を一気に高めるため、検査前確率を上げる“臨床アルゴリズムのスイッチ”として機能する。
現場で再現しやすいテンプレとして、次のように記載すると抜けが少ない。
- 眼位:正面視での偏位の有無(斜視/斜位)
- 可動域:左右注視で両眼が共同して動くか(共同注視麻痺の有無)
- サッケード:内転/外転の速度低下、遅れ、外転眼の眼振の有無(INOの示唆)
- 追従:滑動性追従の左右差(中枢性障害の拾い上げ)
- 随伴:めまい、失調、構音、顔面神経徴候など脳幹症候の有無
病棟運用としては、眼球運動所見が“揺れる”場合(検者差・患者疲労・意識状態の変動)を想定し、短時間で繰り返し評価できる形に落とし込むことが安全策になる。
そして、患者・家族説明では「目そのものの病気ではなく、脳幹の視線を動かす回路の問題で起こりうる」という整理が、検査(MRIなど)の必要性の理解につながりやすい。kuwana-sc+1
(参考:水平眼球運動の回路、PPRF・MLFの説明、one-and-a-halfの概念)
(参考:核間性眼筋麻痺、MLFが連絡する構造、one-and-a-half症候群の要点)
(参考:中枢性眼球運動障害の系統的診察(追従、サッケード、注視保持、OKN、眼振の整理))
Central ocular motor disorders, including gaze palsy and nystagmus (review)