羞明の原因と脳疾患の関連性について

羞明の原因と脳の関連

羞明と脳疾患の関連メカニズム
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中枢性羞明の発現

視覚関連高次脳機能障害による光過敏症状

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神経回路の異常

視床を経由する光感受性神経回路の障害

三叉神経系の関与

メラノプシン細胞から三叉神経への伝達異常

羞明と脳疾患の基本的なメカニズム

羞明は従来、眼球の疾患による症状と考えられてきましたが、近年の研究により脳の異常が原因となる「中枢性羞明」の存在が明らかになってきています 。眼球に異常がないにも関わらず日常生活に支障をきたすほどの強い光過敏症状を呈する患者が存在し、これらの症状は視覚関連の高次脳機能障害に起因する可能性が指摘されています。

参考)高次脳機能の関与が疑われる羞明・眼痛

中枢性羞明の発現には、内因性光感受性網膜神経節細胞(メラノプシン細胞)から三叉神経を通じた脳への神経回路が深く関与していることが分かっています 。このメラノプシン細胞は視覚よりも概日リズムなどの生体リズムに関わる細胞で、光の明るさを刺激として捉え、それを三叉神経(眼神経)を通じて脳に伝達する役割を担っています。この経路の異常により、通常では苦痛とならない程度の光に対して過剰に反応してしまう現象が起こります。

参考)https://hiyorido.jp/free/syumei3

羞明の原因となる脳疾患の種類

脳疾患による羞明の原因として、最も代表的なものは片頭痛です 。片頭痛患者の80%以上に羞明が認められ、これは片頭痛の診断基準の重要な所見の一つとされています 。片頭痛における羞明は、非画像形成性の網膜経路および硬膜からのシグナルが関与していることが最新の研究で示されており、視床後部領域の特定のニューロンが硬膜と網膜神経節細胞の両方からの入力に反応することが明らかになっています。

参考)羞明と脳

その他の脳疾患として、髄膜炎下垂体腫瘍、頭部外傷脳卒中などの頭蓋内病変も羞明を引き起こすことが知られています 。特に下垂体腺腫では、腫瘍が視神経や視交叉を圧迫することにより、視野障害と併せて羞明症状が現れることがあります 。また、脳の深部白質のびまん性損傷や両側被殻損傷なども中枢性羞明の原因として報告されています。

参考)両側被殻損傷例に生じた中枢性羞明の発現機序とそのリハビリテー…

羞明における脳の神経回路と病変部位

羞明と最も関連の深い脳領域は視床であることが、これまでの研究により明らかになっています 。視床損傷や視床を経由する羞明の神経回路の損傷が、中枢性羞明を引き起こす主要な機序と考えられています。具体的には、内因性光感受性網膜神経節細胞から視床へ投射するニューロンが存在し、「光信号―網膜―視神経―視床―視覚野」の回路が羞明の発現に重要な役割を果たしています。
脳イメージング研究においては、羞明患者で視床、三叉神経核、上丘に有意な活動が認められることが報告されています 。また、ポジトロンCTを用いた研究では、羞明時に視床と中脳背側の糖代謝が亢進していることも確認されています。これらの知見から、視交叉近傍、視床枕、後頭葉底部などの領域が羞明の発現に密接に関連していることが示唆されています 。
興味深いことに、両側被殻損傷例では、視床を経由する羞明の神経回路の近傍を損傷することによって中枢性羞明を呈する可能性があることも報告されており、脳の特定の部位だけでなく、神経回路のネットワーク全体の異常が羞明の発現に関与していることが理解されています 。

羞明の診断と脳疾患の鑑別

羞明を呈する患者の診断には、まず眼科的検査による眼球疾患の除外が重要です 。眼球に明らかな異常がないにも関わらず持続的な羞明を認める場合は、中枢性羞明を疑い、神経学的精査が必要となります。特に片頭痛の既往がある患者では、羞明が片頭痛の随伴症状である可能性を考慮する必要があります 。

参考)片頭痛 – 07. 神経疾患 – MSDマニュアル プロフェ…

脳疾患による羞明の特徴として、対象物を見続けると症状が増悪し、眼痛や頭痛、悪心、めまいなどの随伴症状を伴うことが挙げられます 。また、時に眼球疾患ではみられないほど症状が高度に持続することもあるため、これらの臨床的特徴を把握することが診断の手がかりとなります。
診断には頭部MRIやCTなどの画像検査が有用で、脳腫瘍や脳血管障害、頭部外傷による器質的病変の有無を評価します。また、機能的画像検査であるPETやSPECTにより、脳の代謝や血流の異常を検出することも可能です 。特に視床や脳幹部の異常は羞明の原因として重要であるため、これらの部位に注目した詳細な画像評価が求められます。

羞明に対する脳疾患を考慮した治療アプローチ

羞明の治療は原因疾患に対する根本的治療が最も重要です 。脳疾患が原因の場合、その疾患に応じた特異的治療を行うことで羞明の改善が期待できます。片頭痛による羞明に対しては、最近では抗CGRP関連抗体薬やラスミジタンコハク酸塩などの新しい治療薬が有効性を示しており、片頭痛の改善とともに羞明症状も軽減することが報告されています 。

参考)羞明:光過敏の症状と原因

脳腫瘍による視交叉圧迫が原因の場合は、外科的治療による腫瘍摘出や放射線治療が検討されます 。特に下垂体腺腫では、経鼻的下垂体腫瘍摘出術により圧迫を解除することで、視野障害とともに羞明症状の改善が期待できます。ただし、症状の改善には時間を要する場合があり、術後の経過観察が重要となります。

参考)https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis07/

対症療法としては、遮光対策が基本となります 。調光レンズや偏光レンズのサングラス、つばの広い帽子の着用により、日常生活における光刺激を軽減することができます。室内では照明の調整や遮光カーテンの使用も有効です。また、脳疾患による中枢性羞明では、症状が重篤で日常生活に著しい支障をきたす場合があるため、適切な社会保障制度の活用や職場環境の調整も必要となることがあります 。