周期交代性眼振と病態
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周期交代性眼振の病態と周期
周期交代性眼振(PAN)は、正面視など同一条件下でも眼振の方向が周期的に反転する、稀だが臨床上重要な眼振です。特に後天性PANは「正面視でみられる自発性の水平性眼振が周期的に反転する」という形で記載され、背景に小脳病変が関わることが多いとされています。
周期の長さは典型的には約90〜120秒程度が言及されますが、実臨床では「周期が一定でない」「方向交代が不規則」という表現で現れることもあります。
また、先天PANでは静止位(null point)が左右へ移動するため、患者は「見やすい位置」を探して顔向き(face turn)を変化させることがあり、これが診察室での最大の手がかりになります。
医療従事者として押さえるべきは、「周期」そのものよりも、①同一条件で方向が変わる、②その結果として患者行動(face turnや視力変動)が生まれる、の2点です。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/107_265.pdf
この2点を押さえると、末梢性の頭位性眼振(頭位で方向が変わる)と、中枢性のPAN(同一条件でも時間で変わる)の切り分けが一気に明瞭になります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/82/4/82_261/_pdf/-char/ja
周期交代性眼振と先天性の静止位とface turn
先天周期交代性眼振では、乳児期から眼振自体は存在していても、顔向きの周期的変化(face turnの変化)が「顕性化」するのは3〜9歳に多かった、というまとまった報告があります。
この「顕性化」という概念は診断に有用で、3歳以降に顔向きが周期的に変わり、矯正視力が比較的良好な先天性眼振では先天PANを疑うべき、と結論づけられています。
見落としやすいポイントは、先天PANの周期が左右対称ではなく、左右どちらかに長く偏る「周期の非対称性」が多い点です。
この非対称性のため、短い診察では「いつも右(または左)を向いている=眼位性眼振」と誤認しやすく、結果としてPANを見逃す構造が生まれます。
さらに、視力測定でも「いつも同じ視方向が良い」とならず、時間差で同一方向の視力が変動することがあるため、屈折や視標条件のせいと早合点せず、静止位移動を疑う視点が重要です。
臨床で使える観察のコツとしては、🧩「診察時と家庭で顔向きが違う」🧩「前回と逆を向いている」🧩「どこが見やすいか聞くと回答が一定しない」といった情報は、先天PANを疑う強いシグナルになり得ます。
眼科だけでなく耳鼻科・神経内科でも、問診で生活場面(テレビ・読書・運転など)を絡めて聞くと、face turnの変化が言語化されやすくなります。
参考:先天PANの顕性化時期、周期の非対称性、診断でのビデオ撮影・ENGの具体的方法がまとまっています(診断の落とし穴の部分)。
周期交代性眼振の診断とENG
診断の核心は、「正面など同一注視方向で、jerk型眼振の急速相の向きが時間経過で変わる」ことを、記録として押さえることです。
そのために、ビデオ撮影やENGで90秒以上(症例によってはさらに長時間)記録し、同一条件での方向交代を確認する手順が推奨されています。
後天性PANが疑われる状況では、ENG所見としてsmooth pursuit(視標追跡)や視運動性眼振(OKN)の障害が示されることがあり、中枢性の裏付けとして扱われます。
さらに、後天例の報告では「MRIで明らかな異常がない」段階でも中枢性を疑い、経過の中で背景疾患が見つかるケースが提示されており、画像正常=否定ではない点が重要です。
ここで意外に重要なのが、検査室の設計思想です。
PANは「時間で変わる」ため、検査担当者が“いま見えている方向”を固定の診断名に結びつけると誤診が起きます。
検査記録には、📌記録開始からの経過時間、📌注視条件(正面・左右30°など)、📌固視の有無(非注視下か)、をセットで残すと、後からレビューした時にPANの構造が読みやすくなります。jstage.jst+1
参考:後天性PANの臨床像(小脳・脳幹関与、ENGの追跡/OKNの障害、画像正常でも疑う点)と、傍腫瘍症候群で腫瘍発見が遅れて判明した経過が詳しいです(中枢性PANを疑うセクションの参考)。
Equilibrium Research:周期性方向交代性眼振を呈した傍腫瘍症候群の1例(PDF)
周期交代性眼振の治療とバクロフェン
治療方針は、先天PANと後天PANで分けて考える必要があります。後天性PANは小脳病変など中枢疾患の一症候であることが多く、背景疾患の精査・治療が主軸になります。
一方、先天PANでは「静止位移動に伴うface turn」や「一時的な動揺視」が生活の質を左右し、視能矯正・プリズム・手術などを含む個別対応が議論されます(ただし短絡的な介入は危険です)。
薬物治療に関して医療者が知っておきたいキーワードが、バクロフェンです。周期性交代性眼振に対するバクロフェン療法の効果を扱う文献が存在することが示されており、PAN治療の選択肢として語られることがあります。
ただし、PANの原因が腫瘍随伴や自己免疫、変性疾患など多様である以上、「PANだからバクロフェン」と単純化せず、症候(めまい・運動失調など)と病態(小脳炎、傍腫瘍、脊髄小脳変性症など)を先に確定させる姿勢が安全です。
後天例の報告では、自己免疫性小脳失調症や急性小脳炎を疑ってステロイド治療が行われ、PAN自体は残存しても症状が改善した経過が述べられており、治療評価は「眼振の消失」だけで行わない視点も必要です。
現場で役立つ実務ポイントを、表で整理します。
| 臨床場面 | まず確認 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 正面視で水平眼振が右↔左に変わる | 同一条件で時間経過により方向交代するか(周期性) | ビデオ/ENGで長時間記録し、方向交代を証明する |
| 画像が正常だが、運動失調や中枢所見がある | MRI正常でも中枢性を否定しない | 経過観察+背景疾患(自己免疫・腫瘍など)を再検索 |
| 先天眼振でface turnが変わる | 3〜9歳で顕性化しやすい、周期の非対称性が多い | 家庭での様子の動画/写真、同一注視方向でのENG確認 |
周期交代性眼振と独自視点の観察設計
検索上位の解説は「病態」「診断」「治療」に集約されがちですが、医療現場では“観察設計の失敗”が診断遅延の主因になります。先天PANの報告でも、短時間診察では気づかれず、ENGで初めて確定する例があると述べられています。
この構造を逆手に取ると、PANを疑った時点で「時間を味方につける」設計ができます。
具体的には、以下のような小さな工夫が、診断の再現性を上げます。
- 🎥 外来で“正面視の固定”を保ったまま、60〜180秒の動画を1本撮る(途中で顔が動くなら、それ自体が所見)。
- ⏱️ 方向が変わった瞬間の時刻(例:開始から85秒で反転)をカルテに残し、次回も同条件で再現を狙う。
- 👪 家族から「普段の顔向き」を聞くのではなく、「前回と逆を向く日があるか」「読書とテレビで違うか」と場面で聞く(変動を拾う質問)。
- 🧠 後天PANでは、画像正常でも“中枢を疑う行動”を止めない(経過で腫瘍が見つかった例がある)。
意外性のある重要点として、後天性PANの背景疾患は「脊髄小脳変性症」や「腫瘍」だけでなく、傍腫瘍症候群(PNS)のように、神経症状が腫瘍発見に先行し得る枠組みでも語られています。
つまりPANは、めまい外来の“眼振所見”であると同時に、全身疾患の早期シグナルにもなり得る、という位置づけで診療設計を組むと取りこぼしが減ります。