シュードモナス 緑膿菌
シュードモナス 緑膿菌の特徴と色素と臭気
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、環境中に広く存在し、水回りなど湿潤環境にも定着しやすい一方、健常者には通常強い病原性を示しにくい「典型的な日和見病原体」と整理されます。
ただし、いったん血流に侵入して菌血症・敗血症に進展すると、グラム陰性菌としての内毒素(エンドトキシン)により重篤化しうるため、「弱毒=安全」ではありません。
現場で視覚的な手がかりになるのが色素です。膿が青緑色に見えることがあるのは、緑膿菌がピオシアニンなどの色素を産生するためで、ピオシアニンは細胞毒性を持つことも知られています。
加えて、緑膿菌は複数の色素(ピオシアニン、ピオベルジン等)を産生し、独特の強い臭気(o-アセトアミノフェノン由来)が語られることがあります。
一方で注意点もあります。「緑色の膿=緑膿菌」と短絡しないことです。臨床分離株では色素を産生しない株も一定数あるとされ、見た目だけでの推定は誤診につながります。
したがって、同定は培養・同定(必要なら選択培地)と、臨床像(侵襲性、宿主免疫、感染巣)を必ずセットで評価します。
【関連論文・資料(色素・鑑別の背景)】
色素産生(ピオシアニン等)を強調して鑑別を容易にする培地の考え方。
https://www.jalas.jp/files/infection/kan_64-2.pdf
シュードモナス 緑膿菌の感染症とハイリスク患者
緑膿菌が問題になる典型シナリオは「宿主防御が落ちたとき」です。重度熱傷、外科手術後、がん治療、移植、長期入院などでバリア機能・免疫が損なわれると、肺炎・尿路感染・術創感染・菌血症などを起こしやすくなります。
この文脈では、緑膿菌は“原因菌”というより「状況が整うと一気に優勢化する菌」と捉えると、介入点が見えやすくなります。
また、慢性呼吸器疾患や高齢者では、気道分泌物への定着が背景にあり、急性増悪や全身状態の悪化を契機に感染症として表面化することがあります。
褥瘡やドレーン不良など「菌量が増えやすい・排膿できない・異物がある」環境は、緑膿菌にとって有利で、治療が長期化しがちです。
臨床で重要なのは、「分離=治療」ではない点です。喀痰や便などから少量に検出されても、症状がなく主起因菌でないなら、除菌目的の抗菌薬投与を避けるべきだという整理が公的解説にもあります。
逆に、血液・腹水など本来無菌である検体からの分離、あるいは炎症所見と整合する喀痰(好中球貪食像など)で菌量が多い場合は、遅れずに感受性を踏まえた治療に移行します。
【権威性のある日本語参考リンク(治療適応の考え方)】
「症状がなければ除菌目的で抗菌薬を投与しない」など臨床判断の軸。
シュードモナス 緑膿菌の薬剤耐性とMDRP
緑膿菌の難しさは、薬剤耐性が「あとから獲得される」だけではなく、もともと多くの抗菌薬が効きにくい“内因性耐性”を持つ点にあります。具体的にはAmpC(セファロスポリナーゼ)、膜透過性の低さ、能動排出ポンプなどが絡み、治療選択肢を狭めます。
さらに臨床現場で問題になるのが多剤耐性緑膿菌(MDRP)です。一般的に「カルバペネム系」「フルオロキノロン系」「アミノグリコシド系」の3系統に耐性を示す場合を多剤耐性緑膿菌として扱い、感染症法の枠組みでもサーベイランス対象になっています。
ここで強調したいのは、「普通の緑膿菌と比べて感染力や病原性が飛躍的に上がる」わけではなく、“効く薬が減る”ことで予後を悪くしうる点が本質です。
耐性メカニズムは多層的です。薬剤分解酵素(例:メタロβラクタマーゼ、AmpC過剰産生)、標的変異(例:DNAジャイレース変異によるキノロン耐性)、薬剤流入低下(ポーリン変化)、排出ポンプ亢進などが、単独または複合して成立します。
現場の落とし穴として、治療圧により耐性機序が“誘導”され得る点があります。菌量が多い持続感染(デバイス、ドレナージ不良など)では、途中で感受性が変化し得るため、再検を含む戦略が必要になります。
【権威性のある日本語参考リンク(MDRPの定義・耐性機序の概説)】
多剤耐性化の代表機序(酵素、変異、排出、バイオフィルム)を平易に整理。
シュードモナス 緑膿菌のバイオフィルムとデバイス感染
緑膿菌はバイオフィルム形成能を持ち、粘性物質に守られた集団として表面に定着します。バイオフィルムを形成すると、抗菌薬が菌体へ到達しにくくなり、消毒薬への抵抗性も高まるため、治療も環境清掃も難易度が上がります。
この「到達しない」という性質は、抗菌薬の選択や投与量以前に、異物除去・ドレナージ・ソースコントロールが重要になる理由を説明します。
医療機器の表面(カテーテル、人工呼吸器関連の回路、ネブライザー、吸痰チューブなど)は、湿潤・栄養・表面の足場が揃いやすく、緑膿菌が定着しやすい環境です。
そのため、臨床的には「抗菌薬を足す」だけで解決しないケースがあり、デバイス交換、回路管理、清潔操作の再教育、手技の標準化が、薬物治療と同格の介入になります。
あまり強調されにくいポイントとして、バイオフィルムは“成熟してから”では遅いことがあります。初期形成段階での除去・清掃の最適化は、アウトブレイク抑制に直結しやすく、消毒薬の使い分けや物理的清掃の設計が課題になります。
水回りバイオフィルムの制御が「完全除去は困難」という前提で語られるのは、まさにこの性質のためで、運用では“再形成させない頻度設計”が鍵になります。
【関連論文(院内の水回り・バイオフィルム)】
水回り対策の重要性、バイオフィルム制御の考え方。
シュードモナス 緑膿菌の院内感染対策と水回りの盲点(独自視点)
検索上位でも「水回り」「標準予防策」は定番ですが、実務で抜けやすいのは“水回りを水回りとして扱わない”運用上の盲点です。たとえば、手洗いシンク周辺を「作業台化」して物品を一時置きしたり、排水由来の飛沫が届く範囲に清潔物を置いたりすると、構造的にリスクが上がります。
緑膿菌は病院環境に広く関与し得るため、清掃・動線・置き場・ルールの小さな破綻が、伝播の足がかりになり得ます。
現場で有効なのは「見える化」です。水回りを、①湿潤域(常に濡れる)②準湿潤域(飛沫が届く)③乾燥域(清潔保管)にゾーニングし、物品の置き方を写真付きで統一すると、属人的運用が減ります。
加えて、MDRPは“病院など抗菌薬を日常使用する場に分布しやすい”という整理があり、抗菌薬適正使用(AMS)と環境対策は、別部門の話ではなく同じアウトカム(耐性圧の低下・伝播抑制)につながります。
さらに「意外に効く」教育設計として、スタッフへ“シンクのぬめり=バイオフィルム”を短く腹落ちさせる説明は強力です。バイオフィルムは薬剤も消毒薬も通しにくく、完全除去が難しいという前提に立つと、「毎回きれいにする」ではなく「再増殖させない頻度と方法」に議論が移ります。
この視点は、清掃担当者の技量や努力の問題に矮小化せず、設備(排水構造、清掃しやすさ)・運用(清掃頻度、薬剤選択)・監査(ATP等の指標)まで一続きに設計する発想につながります。
【権威性のある日本語参考リンク(院内での水回り・拡散抑制の方向性)】
水回り清掃・流し台の清潔、人工呼吸器/ネブライザー等の汚染注意、手袋着用など。
- 🧠 臨床のコツ:緑膿菌が出たら「感染か定着か」「ソース(デバイス/ドレナージ/水回り)はどこか」を最初に言語化すると、抗菌薬選択がブレにくくなります。
- 🔬 検査のコツ:色(青緑)や臭気はヒントになりますが、色素非産生株もあるため、培養同定と臨床像で確定します。
- 🧼 現場のコツ:バイオフィルムは“できてから落とす”より“作らせない頻度設計”が重要で、清掃と運用設計が治療成績に影響します。
| 観点 | ポイント |
|---|---|
| 病原性 | 健常者では問題になりにくいが、免疫低下・侵襲・血流侵入で重症化しうる。 |
| 治療 | 「分離=治療」ではない。無症状・定着なら除菌目的の投与を避け、無菌検体や明確な感染なら速やかに治療。 |
| 耐性 | 内因性耐性+獲得耐性が重なりやすく、MDRPでは選択肢が狭い。菌量が多い持続感染は再感受性検査も検討。 |
| 感染対策 | 水回り・デバイス・清掃設計が重要。バイオフィルム前提で「再形成させない運用」を組む。 |
