症候性流涙症 症状原因診断治療と涙道疾患

症候性流涙症の基礎と診療の実際

症候性流涙症の診療ポイント
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症候性流涙症の病態理解

流涙症の中で症候性流涙症が占める位置付けと、分泌過多・排出障害の整理を行い、涙道疾患との関連を明確にします。

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診断プロセスと検査

問診・視診から涙液動態評価、涙道造影などを組み合わせた流涙症診断アルゴリズムを、現場で使いやすい形で解説します。

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治療選択と長期フォロー

点眼治療、涙道内視鏡、外科的治療の適応と注意点に加え、高齢患者やドライアイ合併例での意外な落とし穴を共有します。

症候性流涙症と流涙症の定義整理

症候性流涙症は、上位疾患や局所病変に伴って出現する流涙を指し、単独病名としての流涙症の一亜型として理解されます。

一般的な流涙症は「涙液分泌の増加」または「涙道からの排出障害」による過剰な涙のあふれを総称し、症候性流涙症はその中で原因が特定できる状態を強調する概念です。

ICD-10では流涙がH04.2に分類され、症候性流涙症や分泌性流涙症などが含まれており、コーディングや診療報酬上も区別を意識する必要があります。

症候性流涙症を考える際、まず涙液の「産生」と「排出」のどちらの異常が前景にあるかを整理することが重要です。

涙液産生の増加が主体の場合は分泌性流涙、排出障害が主であれば導涙性流涙として整理され、症候性流涙症は両者のメカニズムが混在することも少なくありません。

参考)涙道疾患とは

医療従事者向けの臨床記事では、流涙症という大きな枠組みの中に症候性流涙症、分泌性流涙症、導涙性流涙症といった下位分類を設けると、治療選択を考えるうえで有用です。

参考)https://j-eyebank.or.jp/doc/class/class_26-2_02.pdf

症候性流涙症の症状と流涙症の臨床像

流涙症で最も多い訴えは「涙がこぼれる」「常に目が潤んでいる」といった症状であり、症候性流涙症でも同様の主訴が前面に出ます。

視機能への影響として、涙がたまることでかすみ目や視力低下感が出たり、眼鏡をかけている患者ではレンズの曇りが生活の質を低下させます。

症候性流涙症では、原因となる疾患に由来する眼痛、異物感、充血、羞明などが併存し、単純な「なみだ目」との鑑別が必要になります。

患者背景としては、高齢者での涙道狭窄や鼻涙管閉塞、アレルギー性結膜炎や上気道感染症、ドライアイなどが代表的ですが、症候性流涙症ではこれらが複合して存在するケースも多く見られます。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/symptoms.html?catid=77

意外な点として、ドライアイ患者の中には眼表面の不安定さによる反射性流涙が強く、見かけ上は「常に涙があふれる」状態となる症候性流涙症があり、単純な乾燥感の訴えだけでは評価しきれません。

また、慢性的な涙嚢炎や鼻副鼻腔疾患を背景とした流涙では、涙嚢部の腫脹・圧痛、慢性鼻閉、鼻漏などが合併し、症候性流涙症として耳鼻咽喉科との連携が重要になることがあります。

症候性流涙症の原因と涙道疾患の関係

流涙症の原因は大きく「涙液分泌増加」と「鼻涙管からの排出低下」に分けられ、症候性流涙症ではこのいずれか、あるいは両方を招く背景疾患が明確に存在します。

分泌性流涙の代表として、結膜炎・角膜炎・角膜上皮剥離・異物・逆さまつげ(睫毛内反症)などの眼表面刺激が挙げられ、これらにより反射性の涙液産生が亢進します。

一方、導涙性流涙では涙点狭窄・閉塞、涙小管狭窄、涙嚢炎、鼻涙管閉塞などの涙道疾患が中心的な原因となり、症候性流涙症の診断ではこれらの器質的異常の評価が欠かせません。

鼻涙管狭窄は加齢性変化に伴い特発性に生じることが多く、高齢者の流涙症では最も頻度の高い原因の一つとされます。

さらに、化学療法薬や特定の点眼薬(ヨウ化エコチオフェート、アドレナリン、ピロカルピンなど)、放射線照射などが涙道狭窄・閉塞を引き起こし、症候性流涙症の誘因となる点は、薬剤歴の聴取で見落とされやすいポイントです。

稀ですが、涙嚢部や鼻涙管内の腫瘍、サルコイドーシスや多発血管炎性肉芽腫症などの炎症性疾患、結核やハンセン病などの感染症が涙道閉塞の原因となることもあり、難治性の症候性流涙症では全身疾患の検索が必要になる場合があります。

症候性流涙症の診断プロセスと検査の工夫

症候性流涙症の診断では、まず「いつから」「どのような場面で」涙が増えるか、片眼か両眼か、疼痛や視力低下、鼻症状の有無などを詳細に問診し、背景疾患を示唆する情報を集めます。

視診では、眼瞼・結膜・角膜の炎症所見、逆さまつげや眼瞼内反、涙嚢部の腫脹・圧痛、涙点の開大・変形・狭窄などを確認し、症候性流涙症を疑う手がかりとします。

基本的な検査として、涙液メニスカス高の観察、蛍光色素を用いた涙液排出テスト、涙道洗浄により、分泌過多と排出障害のどちらが主因かを評価することが推奨されます。

より詳細な評価には、涙道造影や涙道内視鏡を用いた解剖学的狭窄部位の同定が有用であり、難治性の症候性流涙症では早期に専門施設へ紹介することが望まれます。

MSDマニュアルでは、流涙の鑑別診断として、眼表面疾患、ドライアイに伴う反射性流涙、上気道感染症やアレルギー性鼻炎など鼻性疾患、涙道腫瘍まで含めた系統的なアプローチが示されており、症候性流涙症の背景検索にも応用可能です。

意外な点として、泣いた後の一過性の流涙や、寒冷刺激・向かい風・煙への曝露など環境要因による一時的流涙も、患者視点では「慢性的な症候性流涙症」と誤認されることがあり、生活環境の聞き取りや説明も診療の一部となります。

症候性流涙症の治療戦略と流涙症の長期フォロー

症候性流涙症の治療の基本は、背景となる原因疾患の是正であり、結膜炎や角膜炎には適切な抗菌薬抗炎症薬アレルギー性鼻炎には抗アレルギー薬や環境整備など、原疾患に即した治療が優先されます。

ドライアイが関与する分泌性流涙では、人工涙液やヒアルロン酸点眼、涙点プラグなどを組み合わせ、眼表面の安定化を図ることで反射性流涙を低減し、症候性流涙症の改善を目指します。

逆さまつげや眼瞼内反などの機械的刺激が原因の場合は、睫毛電気分解や眼瞼手術などの外科的介入が必要となり、単なる点眼治療だけでは不十分である点に注意が必要です。

涙道疾患に起因する導涙性の症候性流涙症では、涙道洗浄やブジー、涙道内視鏡下手術、シリコンチューブ挿入、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などが選択肢となり、狭窄部位や患者の全身状態、再発リスクを踏まえた治療戦略が求められます。

高齢者では、軽度の流涙症が日常生活に与える影響が大きい一方で、侵襲的治療のリスクも高まるため、症候性流涙症であっても「どこまで症状改善を目指すか」を患者と共有し、段階的治療を提案することが重要です。

参考)流涙症で困っている方へ

長期フォローでは、治療後の涙道再狭窄やドライアイの悪化、点眼コンプライアンスの低下などが症候性流涙症再燃の原因となるため、定期的な眼表面・涙道評価と、必要に応じた耳鼻咽喉科との連携が推奨されます。

症候性流涙症と生活要因・全身疾患の意外な関連

症候性流涙症は局所の眼疾患や涙道疾患だけでなく、全身疾患や生活要因とも関連しており、特に自己免疫疾患や慢性炎症性疾患に伴うドライアイから反射性流涙が起こるケースでは、眼科での所見が全身病変の初発サインとなることがあります。

糖尿病や甲状腺疾患に伴う眼表面の易刺激性、顔面神経麻痺による瞬目不全なども、症候性流涙症の誘因となり得るため、視診だけで完結させず全身状態の聴取をルーチン化することが望まれます。

さらに、長時間のデジタルデバイス使用や空調の強いオフィス環境、マスク装用による眼表面乾燥など、現代的な生活要因がドライアイと流涙症を同時に悪化させることがあり、症候性流涙症を「生活習慣関連症状」と捉えて介入する視点も有用です。

患者教育の場面では、「涙が多い=潤っている」と誤解されやすい点を説明し、実際にはドライアイや慢性炎症が背景にある症候性流涙症であることを理解してもらうことで、治療継続へのモチベーションが高まります。

また、季節性アレルギーや上気道感染症の流行期に流涙症が増悪する患者では、「症状が出たら市販点眼で様子を見る」のではなく、早期に眼科受診して症候性流涙症として評価を受けるよう、あらかじめ指導しておくことが重要です。

このように、症候性流涙症を単なる局所症状ではなく、生活環境・全身疾患・薬剤・加齢変化など多因子が絡み合う「システムの乱れ」として捉えることで、より包括的な介入や他科連携が可能になります。

日本眼科学会による流涙症の症状と原因の整理が参考になります(症候性流涙症の背景疾患の理解に有用)。

涙がでる(流涙) – 症状|日本眼科学会

MSDマニュアル プロフェッショナル版では、流涙の病態生理と多彩な原因疾患が詳しく解説されており、症候性流涙症の鑑別と全身疾患検索の視点を得るのに役立ちます。

流涙 – MSDマニュアル プロフェッショナル版
流涙症(日本大学医学部眼科学分野)