漿液性網膜色素上皮剥離と自然経過
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漿液性網膜色素上皮剥離の所見とOCT
漿液性網膜色素上皮剥離(serous PED)は、網膜色素上皮(RPE)がBruch膜からドーム状に持ち上がり、RPE下に液性成分が貯留した状態を指す。臨床では「OCTでPEDを確認できた=病名確定」ではなく、まず“何が原因でRPEが持ち上がったか”を同定する姿勢が重要になる。
OCTでの基本は、RPEの連続性、PED内部の反射(低反射=漿液性を示唆、充実性反射=新生血管性の可能性)、神経上皮剥離(漿液性網膜剥離)の併存、出血・線維化のサインを系統立てて拾うこと。中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)では漿液性網膜剥離をOCTで確認し、蛍光眼底造影で漏出点を特定できるとされるため、PED単独よりも“RPE障害+漏出”の流れで理解すると、現場の説明がブレにくい。蛍光眼底造影は、通常の眼底検査では見えにくい病変を詳しく調べ、異常血管や炎症で蛍光色素の漏れが出る点が臨床上の肝になる。kosugiganka+2
一方、OCTだけで“漿液性PED”に見えても、実際にはRPE下新生血管(type 1 CNV)が背景にあるケースが混じる。特に高齢者、中心窩下、PEDが大きい、漿液性網膜剥離が遷延する、といった状況では「造影で詰める」判断が安全側になる。
漿液性網膜色素上皮剥離の自然経過と危険因子
漿液性PEDの自然経過を追った報告では、経過観察中に脈絡膜新生血管(NVM)が発生した群は約24%で、初診時の有意な危険因子として「60歳以上」「PEDが1乳頭径以上」「PEDが中心窩を含む」が挙げられている。さらに経過中の所見として、神経上皮剥離が縮小せず“不変または拡大”する症例でNVM発生リスクが有意に高く、NVMが生じた群は視力予後が不良だった。
この報告ではKaplan-Meier法でNVM発生率を推定し、3か月8%、6か月16%、9か月24%と示されている。つまり「まず数か月は変化が出やすい時間帯」であり、初期フォローの密度設計(例えばOCTの間隔や造影のタイミング)に直結する知見として使える。
また実務上の落とし穴として、「NVMが出ない=安心」でもない点がある。自然消退後にRPE萎縮を残して視力が落ちた例、PED不変でも視力低下が生じた例が記載されており、“形態が静かでも機能が落ちる”パターンを患者説明に織り込む必要がある。
漿液性網膜色素上皮剥離と蛍光眼底造影とICG造影
蛍光眼底造影(FAG/FA)は、血流や漏出の評価に強い一方、RPEや出血の影響で「RPE下病変の検出が難しい」局面があるとされる。特に漿液性網膜色素上皮剥離を伴うと蛍光色素が剥離内に急速に貯留することや、RPE・出血によるブロック、window defectにマスクされることなどが、RPE下新生血管の検出を難しくする、という整理は臨床推論に役立つ。
そこでICG造影が効いてくる。近赤外域を用い脈絡膜血管病変を観察しやすい特性から、RPE下新生血管の検出率が向上するという文脈で導入されている。さらに、網膜色素上皮剥離症例の解析では、ICG造影で“瘤状(knobby)”の脈絡膜新生血管が高頻度に検出され、病型によっては黄斑部に多く、網膜下/RPE下出血を高率に伴うことが示されている。
「漿液性PEDだから出血は少ないはず」という先入観は危険で、PCV/新生血管性変化を伴うケースに寄ると、出血性・混合性PEDへ姿を変える。造影の読みどころとして、ICG後期の漏出やring-like staining、臨床的な橙赤色病変(subretinal reddish-orange lesion)といった“PCVらしさ”を拾う姿勢が、治療選択(抗VEGF中心か、PDT併用か)を左右する。
参考:蛍光眼底造影の検査原理・漏出の考え方(検査の位置づけ)
漿液性網膜色素上皮剥離と脈絡膜新生血管と治療
漿液性PEDそのものは「原因疾患にぶら下がる所見」であり、治療は“PEDを潰す”より“背景病態を制御する”発想が基本になる。自然経過の報告でも、光凝固の有効性には賛否があると述べられており、現代の実臨床ではまず新生血管の有無・タイプ、CSC/パキコロイドスペクトラムの関与、出血性変化の兆候を見極めて戦略を組む。
PCVを含む新生血管病変では、PDTに抗VEGF薬を併用すると合併症が大幅に減少し、現在はPDT使用時に抗VEGF併用が基本とされる、という総説的整理がある。さらにメタ解析の結果として、PCVに対する抗VEGF+PDT併用療法の長期(~3年)予後が抗VEGF単独より良好とされる、という点は、治療オプション提示の“根拠の置き場”になる。
参考)The Past and Present of Photod…
一方、漿液性PEDで“今は”新生血管が確定しない場合でも、リスク因子(高齢・大型・中心窩・SRD遷延)を踏まえたフォロー設計が実務的に重要になる。現場で使える目安としては、OCTで神経上皮剥離が不変/拡大、出血や硬性白斑が増える、症状(変視・中心暗点)が増悪する、といった時点で造影やOCTA追加を前倒しする運用が安全。
漿液性網膜色素上皮剥離の独自視点と説明
検索上位の一般向け解説では「病名の説明→検査→治療」が中心になりがちだが、医療従事者向けには“患者説明で揉めやすいポイント”を先回りして言語化しておく価値がある。漿液性PEDは、形態だけ見ると「水が溜まって膨らんでいる」ため、患者は“抜けば治る”“レーザーで止めれば終わり”のイメージを持ちやすい。しかし自然経過の報告では、たとえ新生血管を発生しないタイプでも、自然消退後にRPE萎縮を残して視力が低下し得ることが示されており、「治ったように見える変化が、別の形のダメージに置き換わる」ことがある。
この点を説明するコツは、視機能の構造を“二層”で話すこと。
- ①網膜(神経網膜):浮腫や剥離が引けば比較的早く視機能が戻ることがある
- ②RPE/Bruch膜/脈絡膜側:慢性化や加齢変化、新生血管の介在で不可逆な変化(萎縮・瘢痕)が残り得る
この二層で説明すると、「画像で凹凸が減った=完全に元通り」ではないことを、過度に不安を煽らずに伝えやすい。
最後に、意外と見落とされるのが「再発は同じ場所とは限らない」点である。ICG造影で瘤状血管を扱った報告では、新たな部位に瘤状血管が出現する再発例があり、遺残血管ではなく新規の再発と考えられる症例がある、と述べられている。つまり“前回と同じ部位を重点的に追う”だけだと、症状の割に所見が合わない状況が起こり得るため、wideな観察と問診(症状の方向性)をセットで運用するのが実務上合理的になる。