昇圧剤の種類と作用機序を徹底解説

昇圧剤の基礎知識と臨床応用

昇圧剤の重要ポイント
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作用機序の理解

血管収縮作用と強心作用により血圧を上昇させる循環作動薬

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使用場面

救急外来、ICU、循環器病棟での重症症例に対する治療

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安全性

適切なモニタリングと薬剤選択による副作用の最小化

昇圧剤の分類と作用機序の基本

昇圧剤循環作動薬の一種であり、血管収縮作用や強心作用により血圧を上昇させる働きを持つ薬剤です。血圧上昇のメカニズムは「血圧 = 心拍出量 × 末梢血管抵抗」の式で理解でき、心拍出量を増加させる強心薬と血管抵抗を高める血管収縮薬に大別されます。

🔍 主要な受容体と作用

  • α1受容体:血管平滑筋収縮による血圧上昇
  • β1受容体:心収縮力増強と心拍数増加
  • ドパミン受容体:腎血流増加作用

昇圧剤の選択には、患者の病態生理と目標とする循環動態を考慮した適切な判断が必要です。カテコラミン製剤は体内の副腎髄質から分泌されるホルモンを薬剤化したものであり、ドパミン、ドブタミン、アドレナリン、ノルアドレナリンが代表的です。

昇圧剤の代表的な薬剤と特徴

🏥 経口昇圧剤(外来・病棟使用)

塩酸ミドドリン(メトリジン)は動脈系のα1受容体に直接作用して血管を収縮させ、心臓や脳血管には作用しないという特徴があります。甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫患者には禁忌であり、副作用として過敏症、嘔吐、悪心、腹痛、動悸、胸部不快感、頭痛、不眠、発疹等が報告されています。

塩酸エチレフリン(エホチール)は交感神経のα1とβ受容体を刺激して血圧を上昇させますが、心不全患者には禁忌です。メチル硫酸アメジニウム(リズミック)は間接的に交感神経機能を亢進させる作用があり、高血圧症、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、狭隅角緑内障、残尿を伴う前立腺肥大患者には使用できません。

💉 注射用昇圧剤(ICU・救急使用)

ドパミンは投与量により作用が変化する特徴的な薬剤です。低用量(1-3γ)では腎のドパミン受容体による利尿作用、中等量(3-10γ)ではβ1作用による心拍数・心拍出量増加、高用量(10γ以上)ではα1作用による血圧上昇作用を示します。しかし、ROSE試験等で利尿作用と腎保護作用が否定され、現在は使用頻度が減少しています。

ノルアドレナリンは敗血症性ショックの第一選択薬として位置づけられ、SOAPⅡ試験でドパミンと比較して死亡率に差はないものの、催不整脈等の有害事象が有意に少ないことが示されています。

昇圧剤の副作用と注意点

昇圧剤の多くは過量投与により過度の昇圧、頻脈、不整脈を引き起こし、中枢神経刺激作用によって不眠や興奮状態を生じることがあります。特に注意すべき副作用として以下が挙げられます。

⚠️ 共通する副作用

  • 循環器系:頻脈、不整脈、胸部不快感、動悸
  • 中枢神経系:頭痛、不眠、興奮状態
  • 消化器系:悪心、嘔吐、腹痛
  • 皮膚:発疹、過敏症

米FDAが承認したGiapreza(アンジオテンシンII)では、深部静脈血栓など動脈および静脈血栓症のリスクが重篤な副作用として報告されており、血栓症の予防と早期発見が重要です。

薬剤選択時には患者の基礎疾患を十分に考慮する必要があります。例えば、心不全患者にはエチレフリンは禁忌であり、甲状腺機能亢進症患者にはミドドリンやアメジニウムは使用できません。

昇圧剤の臨床使用場面と選択基準

昇圧剤は主に以下の臨床場面で使用されます。

🏥 使用適応

敗血症性ショックでは、一酸化窒素(NO)やプロスタグランジン産生に伴う血管拡張による循環血液量減少性ショックが初期病態となります。このため、過剰に拡張した血管を正常化する目的でα1作用による血管収縮を期待し、ノルアドレナリンが第一選択薬として推奨されています。

興味深いケースとして、昇圧薬と降圧薬が同時処方される場合があります。高血圧の基礎疾患を持ちながら起立性低血圧を併発している高齢患者では、メトリジンとオルメサルタンの併用により血圧が安定することが報告されています。このような複雑な病態では、薬剤師による疑義照会と医師との連携が不可欠です。

昇圧剤投与時の患者モニタリング方法

昇圧剤投与時には綿密なモニタリングが必要です。血圧、心拍数、心電図の連続監視は基本であり、特に不整脈の出現に注意を払う必要があります。

📊 モニタリング項目

  • バイタルサイン:血圧、心拍数、呼吸数、体温
  • 心電図:不整脈、ST変化の監視
  • 尿量:腎機能評価と循環動態の指標
  • 末梢循環:皮膚色調、毛細血管再充満時間
  • 意識レベル:中枢神経系への影響評価

カテコラミン投与では、受容体の感受性低下や副作用の兼ね合いから、目的に応じた必要最小限量の使用が原則です。投与量の調整は段階的に行い、急激な変更は避けるべきです。

新しい昇圧剤であるアンジオテンシンIIは、従来のカテコラミンとは異なる作用機序を持ち、既存の昇圧剤に追加投与された場合でも効果的に血圧を上昇させることが321例の臨床試験で確認されています。これにより、従来の治療に抵抗性を示すショック患者に対する新たな治療選択肢が提供されています。

昇圧剤の適切な使用には、薬理学的知識と臨床経験を融合させた総合的な判断が求められます。患者の病態を正確に把握し、最適な薬剤選択とモニタリングを行うことで、安全かつ効果的な治療が可能となります。