植物胃石の診断と治療
植物胃石の定義と分類と柿胃石
植物胃石は、果物や野菜の繊維、皮、種など「消化吸収されない物質」が胃内で凝集して形成される胃石で、胃石の中で最も一般的とされます。
その植物胃石の中でも、柿の過剰摂取を契機に形成されるものが柿胃石で、柿の生産地で多いとされる点が臨床上の問診(嗜好・季節性)と結びつきます。
胃石はあらゆる年齢で起こり得ますが、形成には「胃内容排出の異常」「消化管解剖の異常」「行動症」など背景が関わるため、胃石を“所見”で終わらせず病因に踏み込む姿勢が重要です。
症状は無症状のこともありますが、症状が出る場合は食後膨満、腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振、体重減少など非特異的で、他疾患(悪性腫瘍、潰瘍、機能性)と紛れやすい点に注意します。
植物胃石のリスク因子と糖尿病と胃切除
植物胃石は、胃バイパス術や胃部分切除術(特に迷走神経切断術併施)後の術後合併症として生じ得るとされ、術後患者の上腹部症状では鑑別に入れておく価値があります。
糖尿病など、全身性疾患や薬剤による胃排出遅延は胃石形成のリスクを高めるとされ、糖尿病性胃障害(胃不全麻痺を含む)が疑われる場面では「食事内容(柿・繊維)+胃排出」の掛け算でリスク評価します。
高齢者では低酸症、胃前庭部運動能低下、不十分な咀嚼といった素因が重なりやすく、食形態(果物・野菜の摂り方)と口腔機能を含めた生活背景の聴取が再発予防にも直結します。
意外に見落とされがちなのは「よく噛めない」「義歯が合わない」などの咀嚼不全で、食材の大きな塊が胃内で“核”になり得る点は多職種介入(歯科・栄養)で改善しやすい領域です。
植物胃石の診断とCTと内視鏡
診断確定は上部消化管内視鏡で行うのが基本で、内視鏡では不整な表面を持つ塊として観察され、色調は黄緑〜灰黒色まで多様とされます。
一方、腹部CTや超音波、X線などの画像検査で腫瘤性病変として見つかることがあり、腫瘍と誤認される可能性があるため、画像所見の“胃石らしさ”を知っておくと不要な不安や検査の遠回りを減らせます。
胃石(特に落下胃石によるイレウス)では、腸管内に「含気性でモザイク状」の腫瘤影が典型的とされる報告があり、腹痛・嘔吐で来院した患者のCT読影でこのパターンを拾えるかが初動の分岐になります。
内視鏡で回収できた場合、植物性物質が確認できれば診断が裏づけられるため、可能であれば“見た目の確信”だけで終わらせず、回収・分析まで意識すると再発予防指導の説得力も上がります。
診断と治療の総論(医療者向け、画像所見・治療選択の要点)
植物胃石の治療と化学的溶解と内視鏡
胃石の至適治療を比較したランダム化比較試験は乏しく、実臨床では「症状の程度」「サイズ」「硬さ」「合併症(出血・閉塞など)」「背景(術後、胃排出遅延)」を組み合わせて方針決定し、しばしば併用療法が必要とされます。
症状が軽い場合には、コーラやセルラーゼなどを用いた化学的溶解が選択肢となり、セルラーゼは3〜5gを水300〜500mLに溶解して2〜5日かけて投与すると記載されています。
溶解に失敗した場合や、大きな胃石で中等度〜重度の症状がある場合は内視鏡的摘出術が適応となり、鉗子・スネア・ジェットスプレー・アルゴンプラズマ凝固、場合によってはレーザーなどで破砕し通過・摘出を目指します。
外科手術は、化学的溶解と内視鏡処置が不可能または不成功、合併症がある、あるいは腸石がある場合に行うとされ、最初から“手術ありき”ではなく段階的な選択が原則です。
植物胃石と柿胃石の独自視点:硬さと溶解反応
柿胃石は、柿に含まれるタンニン(シブオール)が胃内で重合するため通常硬く、治療が困難になりやすく、化学的溶解に反応しにくいので内視鏡的摘出や外科的摘出を要することが多いとされています。
ここでの臨床的な“独自視点”は、画像や内視鏡の「見た目」だけでなく、問診で柿摂取が濃厚なときは「溶解が効きにくい硬い塊」を前提に、早期から内視鏡的破砕・回収の準備(デバイス、人員、時間枠)を組むほうが安全側になりやすい点です。
また、腸閉塞を伴う場合には落下胃石が関与していることがあり、CTで含気性モザイク状の腫瘤影を見たら「胃内に残存結石がないか」まで同時に評価する視点が、再閉塞や再発の予防につながります。
治療の現場では、化学的溶解を選ぶにしても「閉塞が進行していないか」「減圧が必要ではないか」「溶解で軟化して移動し、別の部位で嵌頓しないか」などモニタリング設計が重要で、単に“飲ませる”で終わらせない運用が求められます。
落下胃石・イレウスのCT所見(含気・モザイク状)や内視鏡的治療戦略の具体例
J-STAGE「内視鏡的に根治し得た落下胃石嵌頓によるイレウスの1例(PDF)」
植物胃石の予防と再発対応
予防の中核は、原因が「植物繊維の凝集」だけでなく「胃排出遅延」「咀嚼不十分」「低酸症」など複合である点を前提に、背景の修正可能因子を拾い上げることです。
具体的には、糖尿病など胃排出遅延が疑われる場合は血糖管理や胃運動の評価を行い、術後患者では解剖学的変化・迷走神経切断の有無を踏まえて食事指導の強度を上げると、同じ季節・同じ食習慣での再発を減らしやすくなります。
生活指導では、果物や野菜を「よく噛む」、水分摂取を適切にする、短期間の大量摂取を避けるといった行動変容が要点で、咀嚼力の低下がある高齢者では食形態調整が実効性の高い介入になります。
再発時は「同じ患者が同じ条件でまた作る」ことが多いため、初回の治療後に原因の棚卸し(術後、糖尿病、薬剤、咀嚼、食習慣)を記録として残し、チームで共有できる形にしておくと次回の初動が速くなります。