舌下投与の効果と薬物吸収における医療応用

舌下投与の効果

舌下投与の効果の主な特徴

即効性のある薬物吸収

口腔粘膜からの迅速な吸収により数分以内で効果発現

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肝代謝回避

初回通過効果を受けずに全身循環に到達

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高いバイオアベイラビリティ

経口投与に比べて薬物の生物学的利用能が向上

舌下投与による薬物吸収のメカニズム

舌下投与では、薬剤を舌の下の粘膜に置くことで、口腔粘膜から薬物が直接血管に吸収されます 。舌下部位は他の口腔部位と比較して吸収が比較的速やかで、上皮細胞の下層には左右対称に太い舌静脈があるため、薬物は迅速に全身循環に移行します 。

参考)舌下投与【ナース専科】

この経路では胃・小腸を通過せず、肝臓での初回通過効果を回避できるのが大きな特徴です 。一般的な経口投与が胃・小腸→門脈→肝臓→全身循環の経路を辿るのに対し、舌下投与では口腔粘膜→血管→全身循環の直接的な経路となります 。

参考)https://jin-aikai.com/wp-content/uploads/2025/08/2db11c6c15a9511e923f202252c699a5.pdf

このメカニズムにより、舌下投与では数分から10分程度で効果が発現し、経口投与の30分から1時間程度と比較して大幅に短縮されます 。また、肝臓での代謝を受けないため、薬物の生物学的利用能が向上し、より少ない用量で同等の効果を得ることが可能です 。

参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00745.html

舌下投与の効果的な適応疾患

舌下投与が最も効果的に適用される代表的な疾患として、狭心症発作の急性期治療があります 。硝酸薬(ニトログリセリンなど)の舌下投与では、迅速な血管拡張作用により症状の軽減や緊急対応が可能となります 。浦添総合病院では、ニトロール錠やアブストラル舌下錠が舌下投与薬剤として採用されています 。
舌下免疫療法は、スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎に対する根本的治療として確立されています 。この治療法は、アレルギー症状を治したり長期間症状を抑制する効果が期待でき、症状が完全に抑制されない場合でも症状の和らぎが期待されます 。

参考)舌下免疫療法のメリット・デメリットは?効果や副作用についてま…

がん患者の疼痛管理における突出痛の鎮痛にも舌下投与が活用されており、特にアブストラル舌下錠によるフェンタニルの舌下投与が行われています 。この投与方法により、従来の経口鎮痛薬では対応困難な急性疼痛に迅速な効果が期待できます。

舌下投与における治療効果と持続期間

舌下免疫療法における治療効果は、治療期間によって大きく左右されます 。症状の改善は治療開始から8-12週間で見られ、一部では開始4週間で改善が確認されています 。国際ガイドラインでは、舌下免疫療法の治療期間は少なくとも3年間とされており、治療期間が長くなるほど効果が高まる傾向が示されています 。

参考)舌下免疫療法の費用と期間、効果とデメリットについて

治療継続期間と効果の持続性には明確な相関があり、3年間治療すると治療後7年間、4-5年間治療すると治療後8年間効果が持続すると報告されています 。さらに、3年以上の治療により新しいアレルゲンに反応する割合も減少し、3-5年の治療でそれぞれ21.4%、12.5%、11.7%と段階的に低下します 。
舌下免疫療法の効果については、症状がほとんど無症状となる例が約20%、症状が改善し抗アレルギー薬の減量・中止が可能な患者が約60%とされています 。残り約20%については残念ながら十分な効果が得られない場合もありますが、多くの患者で何らかの改善効果が期待できます 。

参考)舌下免疫療法|おかべ耳鼻咽喉科・鼻の手術クリニック|福岡市西…

舌下投与における生理学的特性と薬物動態

舌下投与における薬物の生理学的特性として、口腔粘膜の構造的特徴が重要な役割を果たしています。舌下粘膜は薄く、血管が豊富で透過性が高いため、薬物の吸収に適した環境を提供します 。特に、舌下部位の上皮細胞は比較的薄く、薬物分子が効率的に血管系に到達できる構造となっています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6848967/

薬物動態の観点から、舌下投与ではバイオアベイラビリティが著しく向上します。ペプチド医薬品のような消化管内で分解されやすい物質においては、舌下投与により分解を回避し、全体的な吸収率向上に大きく貢献すると考えられています 。しかし、消化管内で安定な薬物については、舌下投与による吸収改善効果は限定的な場合もあります 。

参考)ペプチドの経粘膜デリバリーを目的とした新規舌下適用型製剤の開…

投与後の薬物濃度推移では、ニトログリセリン舌下錠の例として、投与後4分で血漿中濃度が最高値に到達し、その後二相性で消失するパターンが確認されています 。この迅速な吸収プロファイルが、舌下投与の大きな利点となっています。

参考)医療関係者のご確認/日本化薬医療関係者向け情報サイト メディ…

舌下投与の臨床応用における独自性と将来展望

舌下投与の独自性として、嚥下困難患者への適用可能性が注目されています 。高齢者や神経疾患患者など、経口投与が困難な患者群において、舌下投与は安全で効果的な代替手段となり得ます。また、小児への適用においても、注射を必要とせず患者負担が軽減される点で有利です 。

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2019.01328/pdf

近年の技術革新により、ナノ粒子製剤技術の舌下投与への応用が進展しています 。リポソーム製剤や粘膜付着性ポリマーを用いた新規製剤開発により、薬物の滞留時間延長や吸収効率の更なる向上が期待されています 。

参考)https://www.mdpi.com/1999-4923/14/7/1497/pdf?version=1658240644

将来展望として、舌下投与はワクチン開発分野でも注目を集めています 。粘膜免疫システムの活性化により、全身性および局所性の両方の免疫応答を誘導できる可能性があり、従来の筋肉内接種とは異なる免疫学的利点が期待されています 。

参考)https://www.mdpi.com/2076-393X/9/10/1177/pdf

舌下投与技術の発展により、個別化医療への応用も視野に入ってきており、患者の遺伝的背景や病態に応じた最適な舌下投与製剤の開発が進められています 。特に舌下免疫療法においては、治療効果予測のためのバイオマーカー研究が活発化しており、より効率的で個別化された治療戦略の確立が期待されています 。

参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=9114