舌がんの治療方法
舌がんの標準治療としての手術療法
舌がんの治療において、手術療法が第一選択となるケースが多いんですよ。国立がん研究センターのデータによれば、舌がんの標準治療は手術による切除が基本とされており、がんの大きさや深達度によって術式が選択されます。
手術療法が推奨される理由は、舌がんの多くが扁平上皮がんであり、外科的切除による根治性が高いためです。T1からT2の早期がんでは舌部分切除術が適応となり、切除範囲が小さいため、摂食嚥下機能や構音機能への影響は比較的少ないとされています。
一方で、進行がんではより広範囲の切除が必要になります。舌半側切除術では、がんのある側の舌を半分切除し、舌可動部のみを切除する場合と舌根を含めて切除する場合があります。さらに進行したケースでは、舌亜全摘出術や舌全摘出術が選択されることもあるんです。
国立がん研究センター がん情報サービス – 舌がんの治療では、ステージ別の詳細な治療方針が解説されています。
治療方針を決定する際には、TNM分類に基づくステージ評価が重要です。Tカテゴリーは原発腫瘍の広がりと深さ、Nカテゴリーは頸部リンパ節転移の状態、Mカテゴリーは遠隔転移の有無を示し、これらの組み合わせでⅠ期からⅣ期までのステージが決定されます。
舌がんの手術方法と切除範囲
舌がんの手術では、切除範囲に応じて複数の術式が用意されています。舌部分切除術は、舌の可動部の一部分のみを切除する術式で、機能温存が期待できる方法なんですよ。
舌半側切除術になると、再建手術の必要性が高まります。前腕皮弁や前外側大腿皮弁といった遊離皮弁を用いた再建が一般的に行われており、これらの皮弁選択は切除範囲や患者の全身状態により決定されます。
口腔がん診療ガイドライン2019年版によれば、前腕皮弁は大胸筋皮弁や腹直筋皮弁と比較して、摂食機能、会話機能、口部舌の整容面で優れているというエビデンスがあります。また、前腕皮弁と前外側大腿皮弁を比較すると、会話機能に差はありませんが、皮弁採取部の整容性では前外側大腿皮弁が優れているとされています。
頸部郭清術も重要な手術の一つです。リンパ節転移が明らかな場合だけでなく、潜在的な転移の可能性が高いと判断された場合には予防的頸部郭清術が実施されます。早期舌がんにおいては、センチネルリンパ節生検を用いて頸部郭清術の要否を判断することもあるんです。
センチネルリンパ節生検では、99mTc標識フチン酸などのトレーサーを腫瘍周囲に注入し、ハンディタイプγ線検出器でセンチネルリンパ節を探索します。この方法により、不要な頸部郭清術を避けることができ、患者のQOL向上に貢献しています。
舌がんの放射線治療と組織内照射
放射線治療は、手術が困難な患者や早期がんの一部に適用される治療方法です。舌がんの放射線治療には、組織内照射(密封小線源治療)と外部照射の2つの方法があります。
組織内照射は、T1・T2で腫瘍の厚さが10mmを超えない場合に適応となります。放射線を放出する物質(セシウム針やイリジウム針、金グレイン)を、がん組織に直接挿入して照射する方法で、正常組織への影響を最小限に抑えながら高線量を照射できる利点があるんですよ。
岡山大学病院の報告によれば、早期口腔がんに対する密封小線源治療の局所制御率は約80-90%で、手術療法と同等の治療成績が得られています。セシウム針は直径1.65mm、長さ24.5mmまたは55mmの針状線源で、これらを5~8本程度腫瘍に刺入します。金グレインは直径0.8mm、長さ2.5mmの粒状線源で、腫瘍の大きさに応じて数個から数十個刺入します。
岡山大学病院 放射線科 – 密封小線源治療には、治療の詳細な手順と成績が掲載されています。
外部照射は、術後補助療法として用いられることが多く、再発リスクが高い場合に化学放射線療法として実施されます。術後病理診断で顕微鏡的断端陽性や節外浸潤陽性などの再発リスク因子が認められた場合、シスプラチンなどの細胞障害性抗がん薬と併用した化学放射線療法が推奨されるんです。
舌がんの薬物療法と最新治療
舌がんの薬物療法には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の3種類があります。これらは主に、手術や放射線治療の適応がない再発・遠隔転移に対して使用されます。
細胞障害性抗がん薬としては、シスプラチンが術後補助化学放射線療法で標準的に用いられています。シスプラチンは放射線療法への増感作用を持ち、併用することで再発予防効果を高めることが期待されるんですよ。
分子標的薬では、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする抗EGFR抗体が使用されています。舌がんを含む口腔がんでは、がん細胞にEGFRが過剰発現していることが多く、この受容体に結合することでがん細胞の増殖を抑制します。
免疫チェックポイント阻害薬は、近年注目されている治療法です。ニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)が、転移および再発した頭頸部がんに対して適応となっています。これらの薬剤は、がん細胞が免疫細胞にかけたブレーキを解除し、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする仕組みなんです。
PD-L1発現が高い場合、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まることが分かっており、バイオマーカー検査による患者選択が重要になっています。ただし、免疫関連副作用として間質性肺炎、甲状腺機能異常、大腸炎などが発生する可能性があり、慎重なモニタリングが必要です。
2021年からは、切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんに対して、光免疫療法(アルミノックス治療)が保険診療となりました。薬剤投与とレーザー治療を組み合わせた新しい治療法として期待されています。
舌がんの術後補助療法と再発予防
術後補助療法は、再発リスクを低減させるために実施される重要な治療です。手術で切除した検体の病理学的所見に基づいて、追加治療の必要性が判断されます。
特に再発リスクが高い因子として、顕微鏡的断端陽性(切除した端にがん細胞が認められること)と節外浸潤陽性(リンパ節の外側にがん細胞が侵入していること)があります。これら2つの所見のいずれかがある場合には、術後補助化学放射線療法が基本となるんですよ。
日本頭頸部癌学会のガイドラインによれば、術後補助化学放射線療法ではシスプラチンを併用することが標準治療とされています。放射線療法は通常1日1回、週5回、合計6~7週間にわたって実施され、シスプラチンは3週間ごとに投与されます。
日本頭頸部癌学会 – 化学療法(抗がん剤治療)では、術後補助療法の詳細なプロトコルが解説されています。
愛知医科大学病院では、手術を選択しない患者に対して、動脈注入放射線化学療法という切らない治療法を提供しています。浅側頭動脈からカテーテルを挿入し、舌動脈などの栄養動脈に直接抗がん剤を投与しながら、同時に強度変調放射線照射を行う方法です。手術療法と比べ遜色ない治療効果が得られているという報告もあるんです。
経過観察も再発予防において重要な役割を果たします。舌がんの場合、再発するケースの8~9割は2年以内に再発しており、特に治療後2年間は慎重な経過観察が必要です。最初の1年間は少なくとも1ヶ月に1回、1年目以降は2ヶ月に1回程度の診察が推奨されています。
舌がん治療後のQOLと機能回復
舌がん治療後のQOL向上には、適切なリハビリテーションと支持療法が不可欠です。舌切除による機能障害は、切除範囲によって大きく異なりますが、摂食嚥下機能、構音機能、味覚などに影響を及ぼします。
リハビリテーションは、術後早期から開始することが重要なんですよ。飲み込みのリハビリテーションでは、残っている舌の運動訓練や、舌を使わずに飲み込む動作の練習を行います。代表的な方法として「すすり飲み」があり、再建した舌のように自由に動かせない場合に適しています。
舌がん手術症例64例を対象とした研究では、術後1ヵ月で舌運動機能、構音機能、咀嚼機能が最も低下し、術後3ヵ月から6ヵ月にかけて徐々に改善し、術後6ヵ月から12ヵ月で安定化することが報告されています。構音機能の高さは、食事可能な咬度および咀嚼力との間に正の相関が認められました。
発声・発音のリハビリテーションでは、鏡などを用いながら、頬や唇、残っている舌をどのように動かせば発したい音を出せるかを練習します。言語聴覚士による専門的な指導を受けることで、より効果的なリハビリテーションが可能になります。
舌接触補助床(PAP)という装置を使用することもあります。これは舌と上あごとの間の隙間を埋める入れ歯のようなもので、嚥下や発声・発音のリハビリテーションに用いられます。機能が非常に悪い結果になった場合でも、口蓋床を作成することにより機能改善が得られるという報告があるんです。
摂食嚥下機能の評価には、専用の器具や測定器を用いて舌の筋肉を鍛える方法があります。医師や歯科医師、言語聴覚士とともに、個々の患者に適したトレーニングプログラムを実施することで、QOLの向上が期待できます。
口腔ケアも重要な支持療法の一つです。放射線治療の影響で唾液分泌が減少すると、口腔内の細菌から粘膜や歯肉を守る機能が低下し、口内炎や感染症が起こりやすくなります。粘膜に刺激のないやさしいブラッシング、うがい、こまめな水分摂取により、口腔内を清潔で潤った環境に保つことが大切なんですよ。
栄養管理の面では、食事を口からとることが難しい場合、一時的に胃ろうをつくることが推奨されます。胃ろうは、おなかの皮膚から胃へ管を通す穴で、直接栄養や薬剤をとることができます。口から十分に栄養が取れるようになったら、胃ろうは抜くことができ、抜いた後の穴は数日で閉じます。
頸部郭清術を行った場合、術後に顔のむくみ、頸部のこわばり、肩の運動障害などが起こることがあります。理学療法士の指導を受けながら、腕をあげたり、肩や首を回したりする運動を継続することで、これらの症状の軽減が期待できます。
舌がん治療は、根治性を追求するだけでなく、治療後の機能回復とQOL向上を見据えた総合的なアプローチが求められます。医療従事者は、患者の病期や全身状態、社会的背景を考慮し、最適な治療方針を提案することが重要です。多職種連携による包括的な支援体制を構築することで、患者が社会復帰し、より良い生活を送れるよう支援していくことが医療の使命なんです。
上記のリサーチ結果をもとに、医療従事者向けのブログ記事を作成します。