止瀉薬の種類と作用機序
下痢は日常生活で誰もが経験する症状であり、その原因は多岐にわたります。冷えやストレスによる急性のもの、細菌やウイルスの感染によるもの、脂っこい食事の食べ過ぎ、暴飲暴食、さらには糖尿病などの基礎疾患によるものまで様々です。このように多様な原因で発生する下痢に対応するため、止瀉薬(ししゃやく)も複数の種類が開発されています。
止瀉薬は作用機序によって大きく4つのタイプに分類されます。それぞれのタイプは下痢の原因や症状に応じて使い分けることが重要です。適切な止瀉薬を選択することで、効果的に症状を緩和し、早期回復につながります。
止瀉薬の腸管運動抑制薬とその代表例
腸管運動抑制薬は、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を抑制することで、腸内容物の通過時間を延長し、水分の吸収を促進する薬剤です。代表的な成分としてロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミン)があります。
ロペラミド塩酸塩は腸壁内のオピオイドμ(ミュー)受容体に作用し、アセチルコリンの遊離を抑制することで腸管の蠕動運動を抑えます。これにより、腸内容物と腸管粘膜との接触時間が延長され、水分吸収が増加します。同時に、腸管粘膜からの水分分泌も抑制する効果があります。
ロペラミド塩酸塩は止瀉薬の中でも特に強力な効果を発揮しますが、注意点もあります。副作用として眠気やめまいが現れることがあるため、自動車の運転や機械操作を行う際には注意が必要です。また、ウイルスや細菌による感染性の下痢の場合、病原体を体外に排出する必要があるため、使用すると症状を悪化させる可能性があります。
他の腸管運動抑制薬としては、アトロピン/ジフェノキシレート(商品名:ロモチル)があります。これもオピオイド作用により腸管運動を抑制しますが、依存性の問題から使用には注意が必要です。
止瀉薬の吸着薬の特徴と使用方法
吸着薬は、腸内の有害物質や過剰な水分、粘液などを吸着・除去することで下痢を抑える薬剤です。代表的な成分として天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)があります。
天然ケイ酸アルミニウムは胃腸内の異常有害物質や過剰な水分を吸着して除去し、有害物質が腸管から吸収されるのを防ぎます。また、腸内でゲル化して腸粘膜を保護する作用もあります。
吸着薬の特徴として、無味・無臭ですが砂のようなザラザラした感触があり、服用しにくいという欠点があります。水には溶けず、ジュースに混ぜても飲みにくいため、アイスクリームやヨーグルト、ゼリーなどに混ぜると比較的服用しやすくなります。食欲がない場合は、水やぬるま湯に混ぜて少しずつ飲むことも一つの方法です。
使用上の注意点として、天然ケイ酸アルミニウムは消化液や消化酵素も吸着してしまうため、他の薬と併用する場合は1〜2時間程度の間隔をあけることが推奨されています。また、ニューキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗生物質とはアルミニウムによるキレート形成のため「併用注意」とされています。
透析患者に長期投与するとアルミニウム脳症やアルミニウム骨症を引き起こす可能性があるため、透析患者には禁忌となっています。
止瀉薬の収斂薬の作用メカニズムと注意点
収斂薬(しゅうれんやく)は、腸管内のタンパク質と結合して保護膜を形成し、腸粘膜を保護することで炎症を抑え、刺激から守る薬剤です。代表的な成分としてタンニン酸アルブミン(商品名:タンナルビン)や次硝酸ビスマスがあります。
タンニン酸アルブミンは腸管内の膵液によって分解され、徐々にタンニン酸が遊離します。遊離したタンニン酸が腸管内のタンパク質と結合して保護膜を形成し、腸管粘膜を保護します。これにより腸管の炎症を抑え、過剰な腸の運動を抑制する効果があります。
タンニン酸アルブミンを使用する際の重要な注意点として、この薬剤は牛乳由来のアルブミン(乳性カゼイン)を使用しているため、牛乳アレルギーのある患者には禁忌となっています。また、タンニン酸は鉄と結合してタンニン酸鉄となり、互いの作用が低下するため、鉄剤との併用は避けるべきです。
次硝酸ビスマスも同様に腸内のタンパク質と結合して皮膜を形成し、腸への刺激を抑えることで二次的に蠕動を抑制します。さらに、腸内での異常発酵により生じる硫化水素に結合して無毒化する働きもあります。
ビスマス製剤の使用に関する注意点として、長期連続使用により神経障害の副作用が現れることがあるため、1ヶ月に20日程度の投与にとどめることが推奨されています。具体的には、間代性痙攣、昏迷、錯乱、運動障害などの精神神経系障害が報告されていますが、これらの症状は投与中止後、数週間から数ヶ月で回復するとされています。
止瀉薬の殺菌薬の効果と適応症例
殺菌薬は、腸内の有害細菌に対して殺菌作用を持ち、細菌性の下痢を改善する薬剤です。代表的な成分としてベルベリン塩化物水和物(商品名:キョウベリン)があります。
ベルベリンはブドウ球菌や病原性大腸菌などの腸内有害細菌に対して殺菌作用を持ちます。また、腸管のぜん動運動を抑制する作用や、腸管からの水分や電解質の分泌を抑制する作用も併せ持っています。
フェロベリン配合錠は、ベルベリンに加えて生薬であるゲンノショウコが配合されています。ゲンノショウコには収斂作用や抗菌作用があり、下痢に対してより総合的なアプローチが可能となっています。
殺菌薬は細菌性の下痢に特に効果的ですが、ウイルス性の下痢には効果が限定的である点に注意が必要です。また、長期使用により腸内細菌叢のバランスを崩す可能性があるため、使用期間には注意が必要です。
止瀉薬の選択基準と患者への適切な指導
下痢の原因は多岐にわたるため、止瀉薬の選択には慎重な判断が求められます。適切な薬剤選択のためには、下痢の原因や症状の特徴を正確に把握することが重要です。
風邪や食中毒などのウイルスや細菌による感染性の下痢の場合、下痢によって病原体を体外へ排出する必要があります。このような場合、腸管運動抑制薬を使用すると病原体が体内に留まり、かえって症状を悪化させる可能性があります。感染性の下痢には、吸着薬や殺菌薬が適しています。
ストレスや冷えによる機能性の下痢には、腸管運動抑制薬が効果的です。特にロペラミド塩酸塩は即効性があり、社会活動や旅行などで急な下痢に悩まされる場合に有用です。
慢性的な下痢や過敏性腸症候群による下痢には、症状に応じて収斂薬や腸管運動抑制薬を使い分けることが推奨されます。また、腸内細菌叢のバランスを整える整腸剤(プロバイオティクス)の併用も効果的な場合があります。
薬局での患者対応においては、下痢の原因や症状の特徴を丁寧に聞き取り、適切な薬剤を提案することが重要です。また、止瀉薬の使用だけでなく、水分・電解質の補給や食事内容の調整など、生活指導も併せて行うことが望ましいでしょう。
下痢が長期間続く場合や、血便、高熱を伴う場合、小児や高齢者、妊婦の場合などは、自己判断での薬剤使用を避け、医療機関の受診を勧めることも薬剤師の重要な役割です。
市販の止瀉薬は頭痛薬や風邪薬と同様に身近な薬品ですが、その種類や適切な使い分けについては一般的にあまり知られていません。薬局勤務の薬剤師としては、患者さんに対して下痢の原因と症状に合った医薬品を選ぶよう、適切な情報提供と指導を行うことが求められます。
日本薬学会の論文「下痢・便秘に対する薬物治療の最新の知見」では、止瀉薬の適切な選択と使用方法について詳細に解説されています
また、下痢が続く場合は脱水症状に注意が必要です。特に小児や高齢者では脱水が重症化しやすいため、経口補水液などによる水分・電解質の補給を併せて指導することも重要です。止瀉薬の使用と並行して、バナナ、リンゴ、お粥などの消化の良い食事を少量ずつ摂取することも回復を助けます。
止瀉薬の適切な選択と使用は、下痢症状の早期改善と患者のQOL向上に大きく貢献します。薬剤師は医薬品の専門家として、患者一人ひとりの状態に合わせた最適な薬剤選択と使用方法の指導を行うことが求められています。