新生児マススクリーニング費用と検査対象疾患の解説

新生児マススクリーニング費用

この記事でわかること
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公費負担と自己負担の内訳

基本20疾患の検査は公費負担で無料、採血料のみ自己負担

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拡大検査の費用

任意の追加検査は1万円程度の自己負担が発生

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検査対象疾患と治療

先天性代謝異常症や内分泌疾患など20~29疾患を早期発見

新生児マススクリーニング検査の基本費用

新生児マススクリーニング検査は、都道府県および政令指定都市が実施主体となる公的事業で、基本的な20疾患の検査費用は公費で負担されるため保護者の検査費用負担はありません。現在、日本国内ではほぼ100%の赤ちゃんがこの検査を受けており、1977年から開始された歴史ある検査制度です。検査の実施主体は全国47都道府県と政令指定都市を合わせた計67自治体となっています。

参考)新生児マス・スクリーニング検査│臨床検査(腸内細菌検査)|岐…


ただし、採血料と検体送料については保護者の自己負担となります。採血は生後4~6日目に赤ちゃんのかかとから少量の血液をろ紙に採取する方法で行われ、医療機関によって送料を含む場合もあります。この自己負担額は医療機関ごとに異なりますが、数百円から数千円程度が一般的です。

参考)https://www.osaka.med.or.jp/doctor/doctor-news-detail?no=20240417-3069-2amp;dir=2024


新生児マススクリーニングは、フェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症や先天性甲状腺機能低下症などの内分泌疾患を早期に発見し、障害の発生を予防することを目的としています。症状が出る前に治療を開始することで、多くの赤ちゃんが健康に発育できるようになります。

参考)新生児マススクリーニング検査(先天性代謝異常症等検査)

新生児マススクリーニング拡大検査の自己負担額

基本の20疾患に加えて、希望者が受けられる拡大検査は任意のため、費用は全額自己負担となります。福岡県の事例では、ライソゾーム病(ファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病、ムコ多糖症I型・II型)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、重症複合免疫不全症(SCID)の検査で1万1000円程度の費用がかかります。

参考)新生児マススクリーニングとは|福岡県の新生児マススクリーニン…


ただし、近年の政策変更により一部の拡大検査が公費化される動きがあります。こども家庭庁は令和5年度の補正予算に10億円を盛り込み、重症複合免疫不全症(SCID)と脊髄性筋萎縮症(SMA)の2疾患について実証事業を開始しました。大阪府では令和6年3月1日から、この2疾患が公費で受けられるようになっており、実証事業にかかる費用は無料です。

参考)先天性代謝異常等検査(新生児マススクリーニング検査)/大阪府…


拡大検査は新生児マススクリーニングで使用した採血ろ紙の一部を使用するため、赤ちゃんへの身体的負担がない点が特徴です。将来的には全国展開を目指してデータ収集が進められています。​

新生児マススクリーニング対象疾患と検査方法

新生児マススクリーニングの対象疾患は、大きく分けて先天性代謝異常症18疾患と内分泌疾患2疾患の計20疾患です。先天性代謝異常症には、アミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症など5疾患)、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症など7疾患)、脂肪酸代謝異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症など5疾患)、糖質代謝異常(ガラクトース血症)が含まれます。​
内分泌疾患には、先天性甲状腺機能低下症と先天性副腎過形成症の2疾患が対象となっています。先天性甲状腺機能低下症は発見頻度が約1:3000と比較的高く、甲状腺ホルモン製剤の1日1回の内服で正常な発達が得られる疾患です。

参考)https://www.ncchd.go.jp/scholar/research/section/screening/NBSinfo_CH_NCCHD.pdf


検査にはタンデムマス法が使用されており、1回の検査で多くの疾患を調べることができます。タンデムマス法とは、質量分析計を用いて血液中のアミノ酸やアシルカルニチンを高感度で検出・分析する方法で、直径3.2mmの小さな血液ディスク4枚で計20疾患の検査が可能です。

参考)新生児の未来を支える技術 先天性代謝異常症の早期発見に貢献す…

疾患カテゴリ 対象疾患数 主な疾患例 発見頻度(全国)
アミノ酸代謝異常症 5疾患 フェニルケトン尿症 1:6.6万
有機酸代謝異常症 7疾患 プロピオン酸血症 1:5.0万
脂肪酸代謝異常症 5疾患 MCAD欠損症 1:11万
内分泌疾患 2疾患 先天性甲状腺機能低下症 1:3000
糖質代謝異常 1疾患 ガラクトース血症 1:3.8万

新生児マススクリーニング検査の流れと結果通知

新生児マススクリーニング検査は、生後4~6日目に出生医療機関で採血が行われます。赤ちゃんのかかとからほんの少しの血液をろ紙に採取し、ろ紙は十分に乾燥された後、専用封筒で検査機関へ郵送されます。検査機関では採血後1週間から10日で検査結果を判定し、正常の場合は1ヶ月健診までに報告書が郵送されます。​
検査結果が「陽性」となった場合でも、必ずしも病気と決まったわけではありません。新生児マススクリーニングは病気の可能性がある赤ちゃんを拾い上げる検査であり、精査の結果「正常」と判定される「偽陽性」の場合もあります。確実に正常と判断できないときは再検査が行われ、異常が疑われる場合は専門の小児科医療機関で精密検査を受けることになります。​
タンデムマス法の導入により、検査精度と効率が大幅に向上しました。これまでは「1テスト/1疾患」でしたが、タンデムマスでは「1テスト/多疾患」となり、分析時間も短縮されています。現行の新生児マススクリーニングで年間約500~600人の子どもたちが早期発見されており、タンデムマス法によってさらに年間100人以上の患者を見つけることが可能となっています。​

新生児マススクリーニング発見後の治療と予後

新生児マススクリーニングで疾患が発見された場合、早期の治療開始により障害の発生を防ぐことができます。フェニルケトン尿症では特別な食事療法により正常に発達し、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD欠損症)では長い空腹状態を避けるだけで低血糖発作による死亡を予防できます。​
先天性甲状腺機能低下症は、1日1回の甲状腺ホルモン製剤の内服のみで、何の障害もなく正常に発育し、生活に特別な制限もなく長生きできます。マススクリーニング開始以前に比べて、知能予後は飛躍的に改善しています。早期発見・治療開始により、発達遅滞や知的障害などの重篤な合併症を未然に防ぐことが可能です。

参考)https://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/nenpo/pdf/2023/18.pdf


拡大検査の対象疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)は、2万人に1人が発症し、人工呼吸器をつけなければ多くは2歳までに死亡する疾患ですが、治療薬の開発により発症前の治療で自力歩行も可能になりました。重症複合免疫不全症(SCID)は5万人に1人が発症し、感染症への抵抗力がないため多くは1歳までに死亡しますが、臍帯血移植などでほぼ根治します。​
ライソゾーム病は新生児7,700人に1人の割合で存在し、特定疾患(難病)や小児慢性特定疾患に指定されており、疾患が確定すれば国や地方自治体の医療費助成制度の対象となります。早期診断・治療が必要な疾患であり、発見が遅れると重篤な症状を引き起こす可能性があります。​
国立成育医療研究センター「先天性甲状腺機能低下症」の詳細説明(PDF)

先天性甲状腺機能低下症の診断や治療について、ご家族向けに詳しく解説されています。

日本マススクリーニング学会

新生児マススクリーニングに関する最新情報や研究成果が公開されています。

都道府県別の新生児マススクリーニング実施状況

新生児マススクリーニングは都道府県・政令指定都市ごとに実施されているため、自治体によって対象疾患数や実施内容に違いがあります。基本の20疾患は全国共通ですが、拡大検査の公費化状況は地域によって異なります。

参考)新生児マススクリーニング検査(先天性代謝異常等検査)|沖縄県…


沖縄県では令和6年11月1日から、新たに9疾患を追加し対象となる疾患が29疾患になりました。この拡大には、重症複合免疫不全症(SCID)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、ライソゾーム病(女児5疾患、男児6疾患)、副腎白質ジストロフィー(ALD、男児のみ)が含まれています。​
大阪府では令和6年3月1日から、こども家庭庁の実証事業に参画し、20疾患に加えて重症複合免疫不全症と脊髄性筋萎縮症の2疾患が公費で受けられるようになりました。実証事業の実施要件として、保護者への説明と検査結果を国の調査研究に活用することへの同意、陽性となった場合の治療実施体制整備などが求められています。​
里帰り出産などで他県の医療機関で出産される場合は、出産予定の都道府県や政令市の申込み方法や費用について、医療機関または母子保健事業担当係に直接問い合わせる必要があります。都道府県・政令市により検査の対象となる疾患数が異なる場合があるため、事前の確認が重要です。​