神経栄養因子を食べ物で増やす方法と認知機能への効果

神経栄養因子と食べ物の関係

週4回以上カレーを食べると認知機能が有意に向上します

📊 この記事の3ポイント
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BDNFは脳の栄養素

神経細胞の発生・成長・維持・再生を促進する脳由来神経栄養因子(BDNF)は記憶や学習能力に深く関わり、加齢や認知症で減少することが明らかになっています

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食事でBDNFを増やせる

カマンベールチーズ、高カカオチョコレート、青魚、カレーなど特定の食品を継続的に摂取することで血中BDNF濃度が上昇し認知機能の維持・改善が期待できます

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生活習慣との相乗効果

有酸素運動とBDNFを増やす食品の組み合わせにより、海馬の活性化と神経新生が促進され、より高い認知機能改善効果が得られることが研究で実証されています

神経栄養因子(BDNF)の基本的な役割

BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor:脳由来神経栄養因子)は、脳内で分泌される重要なタンパク質です。この物質は神経細胞の発生、成長、維持、修復に働きかけるだけでなく、学習や記憶、情動、摂食、糖代謝などにおいて重要な役割を果たしています。

特に記憶の中枢である海馬に高濃度で存在しており、BDNFの濃度が高いと記憶力や学習能力などの認知機能が良好に保たれることが複数の研究で確認されています。

つまり「脳の肥料」とも呼ばれる存在です。

BDNFは加齢とともに自然に減少していきます。65歳以上になると血中BDNF濃度が顕著に低下し始め、この低下が認知機能の衰えと相関関係にあることが明らかになっています。

アルツハイマー型認知症患者では、健常者と比較してBDNF濃度が有意に低く、これが神経細胞死や記憶障害の進行に拍車をかけると考えられています。さらに、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階からすでにBDNF低下が始まっている可能性も示唆されています。

医療従事者として患者指導を行う際には、BDNFという物質が脳の健康維持において中心的な役割を担っていることを理解しておく必要があります。血中BDNF濃度を維持・向上させることは、加齢による認知機能の衰えに対抗する有効な手段のひとつなのです。

明治の研究サイトでは、BDNFの基礎知識と最新研究について詳しく解説されています。

神経栄養因子を増やす食べ物の科学的根拠

食事によってBDNFを増やせることが、近年の栄養学研究で次々と明らかになっています。特に注目されているのが、葉酸、DHA、ポリフェノールの一種であるフラボノイド、ペプチドなどの栄養素です。

DHAを豊富に含むサバ、サンマ、アジなどの青魚は、神経細胞膜の構成成分としても機能します。青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ3系脂肪酸は、脳の神経伝達物質の受け渡しを助ける役割を持っています。神経細胞の膜を軟らかくすることで、情報伝達がスムーズになるのです。

フラボノイドを含む大豆、ゴマ、赤ワインなども効果的な食材として知られています。大豆ペプチドの摂取は神経栄養因子の発現を上昇させることで、老化に伴う認知機能の低下を抑制することが研究で示されました。

卵黄に豊富なコリンは、記憶や学習に関わる神経伝達物質アセチルコリンの材料となります。コリンが脳内でアセチルコリンに変換されることで、記憶力の向上や情報伝達の効率化が図られます。卵は「完全栄養食」と呼ばれますが、脳機能の面でも優れた食材です。

緑茶に含まれるカテキンやテアニンもBDNF増加に寄与します。特に玉露や抹茶には100gあたり2,000mg以上のテアニンが含まれており、一般的な煎茶(1,280mg/100g)と比較して高濃度です。テアニンは日光に当たるとカテキンに変化する性質があるため、遮光栽培される玉露や抹茶で効率的に摂取できます。

これらの栄養素を意識した食事が、脳の健康維持に効果的と考えられています。

神経栄養因子を増やすカマンベールチーズの驚くべき効果

カマンベールチーズが認知機能に与える影響について、日本国内で画期的な研究成果が発表されています。桜美林大学、東京大学、キリンの共同研究により、軽度認知障害(MCI)の高齢者を対象とした臨床試験が実施されました。

この研究では、対象者を無作為に2群に分け、一方はカマンベールチーズを1日2ピース(約28g)摂取し、もう一方はプロセスチーズをそれぞれ3ヶ月間摂取しました。血中BDNF濃度を測定し比較した結果、カマンベールチーズ摂取群は対照チーズ摂取群と比較して、血中BDNF濃度が有意に高い値を示したのです。

カマンベールチーズのような白カビ発酵チーズには、製造時に使われる白カビが発酵過程で産生する成分、オレアミド(神経炎症制御因子)やWYジペプチドなどが含まれています。これらの成分が認知機能を守り改善する可能性があることが解明されています。

注目すべきは、これがヒトを対象とした初めての研究だという点です。カマンベールチーズ摂取でBDNFの血中濃度が増加したことを示す結果は、老年学・老年医学分野の国際的な科学雑誌JAMDA(Journal of the American Medical Directors Association)に2019年9月に論文掲載されました。

ただし食べ過ぎには注意が必要です。カマンベールチーズは脂質が多いため、適量なら動脈硬化の予防が期待できますが、過剰摂取するとかえって悪化させる可能性が高くなります。1日1~3切れ程度が適量だと言われています。

患者指導の際には、「毎日続けること」と「適量を守ること」の両方を強調することが重要です。継続的な摂取が血中BDNF濃度の維持につながります。

神経栄養因子を増やす高カカオチョコレートの実証研究

高カカオチョコレートに含まれるカカオポリフェノールが、BDNFを増やすことが大規模な実証研究で確認されています。愛知県蒲郡市、愛知学院大学、明治の共同研究により、45~69歳の男女347名を対象とした4週間の介入試験が実施されました。

この研究では、カカオ含有量70%以上の高カカオチョコレートを1日25g摂取することで、血圧低下、HDL(善玉)コレステロール値上昇などの効果に加え、BDNF(脳由来神経栄養因子)の上昇や、炎症指標と酸化ストレス指標の低下が新たに確認されました。

高濃度のカカオポリフェノールは、BDNFを含む血流を増加させ、認知機能を高める可能性が見つかりました。カカオポリフェノールの抗酸化作用が神経細胞に働いたことや、脳の血流を促進させたことによるものと考えられています。

チョコレートでBDNFが増えるメカニズムは、脳の信号を伝える場所であるシナプスのつながりをスムーズにする働きがあるためです。

その結果、頭の回転が良くなるわけです。

実際の摂取目安としては、カカオ含有量70%以上のチョコレートを1日25g程度が推奨されています。これはチョコレート効果などの高カカオチョコレート商品で約5枚程度に相当します。板チョコ1枚(約50g)の半分くらいというイメージです。

ただし、高カカオチョコレートは糖質や脂質も含むため、糖尿病や肥満の患者には摂取量の調整が必要です。患者の既往歴や現在の健康状態を考慮した上で、適切な量を提案することが医療従事者として求められます。

間食として取り入れやすい点も、患者指導において利点となるでしょう。

神経栄養因子を増やすカレーとターメリックの力

カレーに使われるターメリック(日本名:ウコン)に含まれるクルクミンというポリフェノールが、脳由来の神経栄養因子を増やすことが研究で明らかになっています。クルクミンは強力な抗酸化作用と抗炎症作用を持ち、脳の健康維持に役立つと考えられています。

日本人の中高齢者を対象にした研究では、カレーを月に4回以上(週1回以上)の頻度で食べる群と、月に1回未満の頻度で食べる群とを比較しました。その結果、頻繁にカレーを食べる群の方が、認知機能が有意に良好であることが確認されたのです。

クルクミンが「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という重要なタンパク質のレベルを上昇させることが、最近の研究で示されています。2008年に中国の北京大学の研究では、クルクミンが脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを増加させ、脳由来神経栄養因子受容体(TrkB)を活性化することにより、神経保護効果を発揮することが報告されました。

クルクミンはアミロイドβというタンパク質の蓄積を抑制する働きもあります。アルツハイマー病の原因とされるこの物質の蓄積を防ぐことで、認知症予防にも効果があるとされています。

実際の摂取目安ですが、研究で使用されたクルクミンの量は1日あたり1~8gと幅があります。一般的なカレー1食分に含まれるターメリックは約2~3g程度ですので、週に1~2回カレーを楽しむことで健康効果が期待できる範囲と言えるでしょう。

認知症専門医の中には、週4回カレーを食べるという方もいます。カレーは大衆的な人気メニューでありながら、脳の疲れを取る効果が期待できるのです。

患者指導では、カレーの具材に青魚や大豆製品を加えることで、さらに相乗効果が得られることも伝えると良いでしょう。

神経栄養因子を増やす生活習慣と運動の相乗効果

食事だけでなく、運動習慣との組み合わせがBDNFを増やす上で極めて重要です。有酸素運動はBDNFを増やす最も強力な要因の一つとされています。

有酸素運動(ジョギング・サイクリング・水泳など)、特に中強度から高強度によって、海馬でBDNFが増加し、記憶力や学習能力が向上することがわかっています。運動をすると、脳の血流が増え、記憶を司る「海馬」が活性化されます。さらに、脳内でBDNFという物質が増加するのです。

一度の運動でもBDNFレベルは一時的に上昇しますが、継続的な運動は基礎BDNFレベルを有意に上昇させます。週に2~3回、20~30分程度の運動が推奨されています。激しすぎる運動は逆効果になることもあるため、適度な強度で行うのがポイントです。

運動のメカニズムとしては、運動時に筋肉から脳細胞を保護する物質が分泌されます。これが血流に乗って脳に到達すると、BDNFなどの分泌を促すのです。運動は多様な領域で神経栄養因子の発現を増強し、神経新生や回路機能の強化、神経保護作用など、神経機能の維持や可塑性の誘導にはたらくと考えられています。

睡眠の質もBDNF濃度に影響を与えます。良質な睡眠を取ることで、脳内のBDNFが適切に機能し、記憶の定着や脳のリフレッシュが行われます。抹茶に含まれるテアニンは睡眠の質を向上させる効果も報告されており、食事と睡眠の両面からアプローチできます。

ストレス管理も重要な要素です。慢性的なストレスはBDNFの発現を低下させることが知られています。運動は、脳由来神経栄養因子(BDNF)を与えることで、脳を慢性的なストレスの悪影響から保護します。BDNFは、脳細胞の成長と機能、生存を促進するため、ストレス耐性を高める効果があるのです。

医療従事者として患者指導を行う際には、「食事」「運動」「睡眠」「ストレス管理」という4つの柱を総合的に提案することが効果的です。例えば、朝食に卵料理と緑茶、間食に高カカオチョコレート、夕食にサバやカレー、そして週に2~3回の軽いジョギングといった具体的なプランを提示すると、患者も実践しやすくなります。

生活習慣の改善は一度に全てを変える必要はありません。まずは一つの習慣から始め、徐々に広げていくアプローチが継続の鍵となります。患者の生活スタイルや好みに合わせた提案を心がけましょう。

神経内科専門医のサイトでは、運動とBDNFの関係について詳細な解説が掲載されています。