新感染症と新興感染症の違いと定義

新感染症と新興感染症の違い

新感染症と新興感染症の違い:医療従事者のための要点
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結論:法と概念が違う

「新感染症」は感染症法の用語(法的な類型)、「新興感染症」は公衆衛生・疫学の概念(Emerging Infectious Diseases)として使われます。

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判断の軸が違う

新感染症は「既知の感染症と病状や治療結果が明らかに異なる」「重篤」「国民に重大影響」など法的要件で判断されやすく、新興感染症は「新規認識」「発生増加」「地理的拡大」など疫学的な動態で語られます。

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現場は“言葉のズレ”に注意

院内の会話では、新興感染症を「新感染症」と誤って言い換えると、届出・行政対応・説明責任の想定がズレることがあります。文書では定義の根拠(感染症法/EID概念)を一言添えるのが安全です。

新感染症の定義と感染症法の位置づけ

 

医療現場で「新感染症」という語が出たとき、まず押さえるべきは“疫学用語ではなく法令用語”として扱われる場面がある点です。感染症法は、感染力や重篤性などを総合して感染症を類型化し、講じ得る措置を法定しています。これにより、同じ病原体でも社会状況や知見の蓄積に応じて、行政が取り得る対応の枠組みが整理されます。

ただし実務上は、感染症法に最初から全ての感染症が網羅的に載っているわけではありません。厚生労働省の資料では、感染症法に位置付けられていない感染症であっても、必要があれば政令で「指定感染症」として指定し、一定期間に限り規定の全部または一部を準用できることが説明されています。特に「指定感染症」は、政令により適用する措置を個別に定められ、さらに新しい知見を踏まえて政令改正で変更可能とされています(“運用で素早く追随するための仕組み”と理解すると整理しやすいです)。参考:感染症法上の指定感染症について(厚生労働省資料PDF)

ここで混乱が起きやすいのは、「新感染症」という語が日常会話だと“新しく出てきた感染症”を指すように聞こえることです。しかし法制度の文脈では、類型や措置(届出、入院勧告、就業制限、積極的疫学調査など)の話に直結します。医療機関内の記録・会議資料・患者説明文書で「新感染症」という語を使う場合は、“感染症法上の用語としての意味か、一般概念としての意味か”を必ず明確にしておくと、後で説明責任が格段に楽になります。

新感染症と新興感染症の違いが生む現場リスク

「新感染症」と「新興感染症」は、似た漢字が並ぶため混同されやすい一方で、指している“世界”が違います。新興感染症は、疫学・国際保健で使われるEmerging Infectious Diseases(EID)の枠組みに近く、「新たに認識された」「増加している」「地理的範囲が拡大している」といった“動態”を軸に語られます。例えば、国際的な文献ではEIDを「新たに認識された、または発生率や地理的範囲が急速に増加している感染症」と定義しています。参考:Emerging Infectious Diseases(PubMed Central)

一方、法制度の新感染症は、行政措置に直結しやすい言葉です。ここを混同すると、次のような現場リスクが起きます。

  • カンファレンスで「新感染症だから隔離が必要」と言ったが、実際は“新興感染症(概念)”の話で、法的に何類か・どの届出かが未整理だった。
  • 患者説明で「新感染症なので国が指定しています」と言ってしまい、のちに指定の有無や位置づけの説明が必要になった。
  • 院内文書(手順書・掲示物)で用語が揺れ、感染対策チーム、事務、検査部で指している意味がズレた。

医療従事者のブログ記事として読者に価値を出すなら、ここを“言葉遊び”にせず、実務の誤解につながるポイントとして具体例を挙げるのが重要です。特に報道やSNSは「新興感染症」を多用しますが、行政通知や法令解釈は別の言葉で動きます。現場では「新興感染症(EID概念)として増えている話」と「感染症法上の類型として何が適用される話」を分けてメモするだけでも、情報の交通整理ができます。

新興感染症の定義と例:再興感染症との対比

新興感染症を理解するうえで、セットで押さえておきたいのが「再興感染症」です。長崎大学の解説では、新興感染症を「新しい病原体による感染症」、再興感染症を「予防接種や抗微生物薬などで患者がほとんどいなくなっていたのに、病原体や環境の変化のために再び流行しはじめた感染症」と説明しています。参考:新興・再興感染症(長崎大学 高度感染症研究センターPDF)

この対比は、医療従事者が患者や家族に説明するときにも便利です。新興感染症は「初めて見えるようになった/新しく広がった」、再興感染症は「一度落ち着いたのに戻ってきた」という直観的な区別ができます。さらに長崎大学の資料では、再興感染症の怖さとして“薬が効かなくなる(耐性化)”の文脈にも触れており、結核の例が挙げられています。これは、抗菌薬適正使用や感染対策の重要性を語る際の説得力になります。

また、EIDの概念は「未知の病原体」だけを指しません。国際文献では、既知の感染症でも発生率・地理的範囲が増えていれば“emerging”として扱い得る、と整理されています。つまり新興感染症=完全に新しい病原体、ではない点が“意外に誤解されがち”です。現場では、海外渡航歴や動物接触歴がない症例でも、地域での流行状況の変化(発生増加、季節性の変化)があれば、新興感染症の枠組みで鑑別の優先順位が変わり得ます。

新感染症と新興感染症の違い:説明フレーズ集

用語の誤解を減らすには、説明の定型句(フレーズ)を院内で共有するのが有効です。ブログ記事としても、そのまま現場で使える言い回しがあると保存価値が上がります。

  • 「新興感染症は、公衆衛生・疫学の概念で“新しく認識された/増えている感染症”を指します(EIDの考え方)。」参考:Emerging Infectious Diseases(PMC)
  • 「新感染症は、(一般用語としてではなく)感染症法など“制度の枠組み”で議論される用語として注意が必要です。制度上は指定感染症などの仕組みで、必要な措置を政令で準用できる場合があります。」参考:感染症法上の指定感染症について(厚労省PDF)
  • 「“新しい”という言葉が付いても、未知の病原体とは限りません。既知でも増加・拡大すれば新興感染症の枠組みで語られます。」参考:Emerging Infectious Diseases(PMC)

さらに、患者向けに噛み砕く場合は次の一文が便利です。

  • 「新興感染症=世の中で増えたり広がったりして問題になる感染症、新感染症=法律上の扱い(行政の対応)に関わる言葉、という違いです。」

“言い切り過ぎ”を避けたいなら、「この場面では」「法令上は」「疫学的には」と枕詞を入れると、監査・苦情対応の観点でも安全です。特に感染対策の説明は、臨床の正しさだけでなく、コミュニケーションの誤解が事故の火種になります。用語の使い分けは、感染対策の一部と考えるのが現実的です。

新感染症と新興感染症の違い:独自視点の院内運用

検索上位の解説は、定義の整理で止まりがちです。医療従事者向けに一歩踏み込むなら、「言葉のラル」ではなく「院内の意思決定フロー」に落とし込むのが実用的です。ここでは“独自視点”として、感染対策チーム(ICT)や医療安全と連動させた運用のコツを提案します。

ポイントは、「新興感染症(概念)」は臨床推論と準備行動を促すトリガー、「(制度上の)新感染症/指定感染症」は届出・行政連携・制限措置を選ぶトリガーとして分けることです。例えば、院内で次のような二段階チェックを設けると混乱が減ります。

  • チェック1(臨床・感染対策):地域流行、渡航歴、動物接触、クラスター兆候、既存検査で説明不能か。→「新興感染症の可能性」としてPPE、動線、検体採取、ラボ連携を先行。
  • チェック2(制度・事務・保健所):感染症法上の類型、指定の有無、届出様式、入院勧告や就業制限の対象、院内掲示の文言。→「法制度上の扱い」として手続きを確定。

この分離は、忙しい救急外来や発熱外来で特に効きます。臨床現場は「まず守る(標準予防策+必要な追加策)」が先で、制度の確定は追いかけてもよい場面が多い一方、文書化や患者説明は制度用語の正確さが問われます。厚労省資料が示すように、感染症法は類型ごとに講じ得る措置が整理されています。参考:感染症法上の指定感染症について(厚労省PDF)
最後に、意外に見落とされるのが“教育コスト”です。新人教育では「新興感染症=新しい感染症」だけ教えると、法令文書の「新感染症」に遭遇したとき混乱します。逆に「新感染症=新しい感染症」と誤って覚えると、行政連携の会話が噛み合わなくなります。院内研修のスライドに「新興(概念)/新感染症(制度)」と2列で書き、具体例(SARS、結核、指定感染症の仕組み)を添えるだけでも、コミュニケーションの事故を減らせます。参考:新興・再興感染症(長崎大学PDF)
公的制度の参考(指定感染症の仕組み・定義が分かる):https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000664825.pdf
公衆衛生の参考(新興感染症・再興感染症の直観的整理と例が分かる):https://www.ccpid.nagasaki-u.ac.jp/wp-content/uploads/2022/07/newsletter00-5.pdf
学術の参考(EIDの定義:新規認識・増加・地理的拡大が分かる):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7096727/

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