診断病名とレセプト病名の違いと記載方法

診断病名とレセプト病名の違いと記載方法

診断病名とレセプト病名の違いと記載方法
📋

診断病名とは

医師が患者の状態を医学的に判断して電子カルテなどに記載する病名

💰

レセプト病名とは

診療報酬請求を行うため、診療内容に基づいて記載する保険診療上の病名

⚠️

両者の関係性

カルテの診断名と完全に一致する必要はないが、レセプト病名は診療報酬上で適切である必要がある

診断病名とレセプト病名が異なる理由

 

医療機関がカルテに記載する診断病名と、レセプトに記載するレセプト病名は根本的に異なる目的を持っています。診断病名は患者の全身的な医学管理の中心となる疾患を示し、治療経過や患者状態を包括的に記録するためのものです。一方、レセプト病名は保険請求という限定的で実務的な目的に特化しており、診療行為や医薬品の代金請求を正当化するために記載される病名です。

重要なのは、医療機関がレセプトを提出する動機そのものにあります。レセプトは診療報酬を請求するための書類であり、その性質上、実際に提供した診療に対応する病名が必要です。たとえ患者が複数の疾患を抱えていても、その訪問で実際に治療や検査をしなかった疾患がレセプトに記載されることはありません。例えば、癌患者が糖尿病を併発していても、その訪問で糖尿病の治療薬を処方しない場合は、レセプトには癌のみが記載されるのです。この仕組みにより、レセプトデータだけから患者の全身疾患状況を推測することは医学的に危険であることが明らかになります。

診断病名におけるカルテの役割と医学的記載基準

カルテに記載される診断病名は、患者の診療の全体像を反映する重要な医学文書です。入院患者の場合は「入院の理由となった傷病」が主傷病となり、外来患者の場合は「主として治療又は検査をした傷病」が主傷病として位置付けられます。医師は問診・視診・触診などの基本的な診察に加えて、必要に応じて検査や画像診断を実施することで確定診断に至ります。症状から複数の疾患を疑う場合、鑑別診断の過程を段階的にカルテに記録し、最終的な確定診断に至るまでの医学的根拠を示すことが求められます。

カルテは医学的な正確性を重視するため、疑い病名も積極的に記載されます。例えば「胸痛」を主訴とする患者に対して、医師が「心筋梗塞の疑い」「膵炎の疑い」などを記載し、鑑別検査を実施することは一般的な医学実践です。確定診断に至った場合、古い症状病名や疑い病名の転帰を「中止」と明記し、診療の流れが理解できる記録を維持することが医学的記載の本質です。これにより、別の医療機関が同一患者を診療する場合、診療経過を正確に把握することが可能になります。

レセプト病名における保険診療上の適切性と査定基準

レセプト病名の選択にあたって、医学的な正しさだけでは不十分であり、保険診療として認められるかどうかが最大の課題となります。審査支払機関によるレセプト審査では、医学的な正確性に加えて「被保険者から預かっている保険料から支払える内容であるか」という観点から判断されるのです。つまり、医学的には完全に正当な治療であっても、保険診療の適応外と判断されれば査定対象となることがあります。

レセプト病名と処方薬・検査・処置の関連性の明確性は、査定回避の重要なポイントです。例えば抗真菌薬のクレナフィン爪外用液は「爪白癬」が適応病名ですが、「足白癬」と記載された場合は査定対象となる可能性があります。また同じ医薬品でも規格によって適応病名が異なる場合があり、例えばアーチスト錠1.25mgは「慢性心不全」が適応ですが、別の規格では異なる適応病名を持つことがあります。長期投与の抗生剤処方の場合も、医学的根拠や検査の有無、効能・効果に基づいた適切な病名記載が求められ、不十分な場合は適応外使用として査定されることがあります。

診断病名とレセプト病名の記載における転帰管理の重要性

レセプト作成における転帰管理は、診療と病名の整合性を保つ上で極めて重要です。転帰とは「治癒」「中止」「転医」「継続」など、患者の治療経過や状態の変化を示す情報であり、病名の記載期間を適切に管理するツールです。症状が改善したにもかかわらず、漫然と同一病名を記載し続けることは査定対象となる可能性が高く、また医療機関の診療姿勢に対する疑問につながります。

鑑別検査の結果から確定診断に至った場合、主訴と疑い病名の転帰を「中止」と明記し、新たに確定診断された病名を記載することで、診療の流れがレセプトから明確に読み取れるようになります。この過程を通じて、医師がなぜその検査を実施したのか、なぜその診断に至ったのかという医学的根拠が審査支払機関にも伝わりやすくなるのです。適切な病名がなく処方する薬がない場合であっても、初診料は算定可能であり、「~疑い」と記載して当日中に「中止」で転帰することで問題を回避できます。

診断病名とレセプト病名における実務的な査定回避戦略

医療機関が査定や返戻を減らすための実務的な対策は、診断病名とレセプト病名の違いを理解した上での組織的な取り組みが必要です。第一に、電子カルテやレセプトチェックシステムを活用して、自動的に病名と薬・検査の矛盾や記載漏れを検出する仕組みを構築することが推奨されます。多くの医療機関では忙しい診療の流れの中で、レセプト病名を処方したい薬から逆算して付ける運用が行われており、この場合は信憑性の問題が生じやすいです。

月1回の定期的な病名見直しを実施し、「継続している疑い病名」「治癒した病名」「類似病名」などを医師と確認して整理することが効果的です。査定されそうなケースでは症状詳記を活用し、処方薬や検査の根拠を簡潔に説明することで、審査支払機関に対する説明責任を果たすことができます。診療所と病院では審査基準が異なることも認識する必要があり、診療所の場合は外来診療が主となるため一つひとつの項目が細かくチェックされます。過去の査定事例を分析し、院内ルールとして標準化することで、スタッフ全体の意識向上と一貫性の維持が実現されます。


厚生労働省「参考資料:レセプト病名(標準病名マスター)とは」- 標準病名マスターの位置付けと、レセプト記載に用いる病名の原則的な考え方について
「なぜレセプトデータの病名を簡単に信用してはいけないのか」- レセプト病名の作成背景と医学的信憑性の問題に関する解説
佐々木医院「Q&Aより~『主病(主傷病)』って何だろう?」- 主傷病の定義と医学管理上の実務的な位置付け

標準・傷病名事典Ver.3.0 (全診療科対応/標準病名3300の症状・診断・治療法)