子宮内膜増殖症の症状と治療方法
子宮内膜増殖症は、子宮の内側を覆う子宮内膜が異常に厚くなる疾患です。通常、子宮内膜は月経周期に合わせて増殖と剥落を繰り返していますが、この病態では正常な周期的変化が妨げられ、過剰な増殖が起こります。更年期前後の女性に多く見られますが、他の年齢層でも発症することがあります。
この疾患は、細胞に異型(細胞の形や大きさの異常)がないものを「子宮内膜増殖症」、異型がみられるものを「子宮内膜異型増殖症」と区別します。特に異型を伴う場合は子宮体がんへの進展リスクが高いため、早期発見と適切な治療が重要です。
子宮内膜増殖症の主な症状と不正出血の特徴
子宮内膜増殖症の最も特徴的な症状は不正性器出血です。これは月経期間以外に出血がみられる状態を指します。具体的には以下のような症状が現れることがあります。
- 不規則な出血:予期せぬタイミングでの出血が生じます
- 月経量の増加(過多月経):通常より多量の月経出血がみられます
- 月経周期の乱れ:規則的だった周期が不規則になります
- 月経期間の延長:通常より長く出血が続きます
- 帯下(おりもの)の変化:量や性状が変わることがあります
- 下腹部の不快感:痛みやだるさを感じることがあります
不正出血の特徴としては、頻度が予測困難なタイミングで発生し、量も微量から多量まで個人差が顕著です。持続時間も数日から数週間と幅広い範囲で変動し、色調も鮮紅色から暗赤色まで様々です。
これらの症状が長期間続くと、貧血や体のだるさ、疲れやすさ、動悸などの二次的な症状を引き起こすこともあります。症状の有無や程度は個人によって異なり、無症状の場合もあります。
子宮内膜増殖症の原因とエストロゲンの影響
子宮内膜増殖症の主な原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの過剰な作用です。エストロゲンは子宮内膜の増殖を促進する働きがありますが、このホルモンバランスが崩れると子宮内膜が過度に厚くなってしまいます。
エストロゲンの影響が過剰になる要因としては、以下のようなものが考えられます。
- ホルモンバランスの乱れ
- 月経不順による排卵障害
- 閉経前後の卵巣機能低下
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 外因性のエストロゲン摂取
- エストロゲン単独のホルモン補充療法
- 一部の不妊治療薬の使用
- 乳がんの術後ホルモン療法で用いる薬剤
- 生活習慣や体質的要因
- その他の要因
- 遺伝的素因
- 加齢による内分泌系の変化
これらの要因が単独または複合的に作用することで、子宮内膜増殖症のリスクが高まります。特に肥満は重要なリスク因子とされており、脂肪細胞からエストロゲンが産生されることで子宮内膜への刺激が増加します。
また、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌不足もエストロゲンの作用を抑制できなくなるため、子宮内膜増殖症の発症に関与していると考えられています。
子宮内膜増殖症の診断方法と異型の検査
子宮内膜増殖症の診断は、症状の確認から始まり、複数の検査を組み合わせて行われます。診断の流れと主な検査方法は以下の通りです。
1. 問診と症状の確認
医師は月経歴、不正出血の有無やパターン、その他の症状について詳しく聞き取りを行います。
2. 経腟超音波検査
最初に行われる基本的な検査です。腟からプローブを挿入し、子宮内膜の厚さを測定します。子宮内膜増殖症が疑われる基準は以下の通りです。
- 閉経前の女性:20mm以上の厚さ
- 閉経後の女性:5mm以上の厚さ
3. 子宮内膜細胞診・組織診
超音波検査で子宮内膜が厚いと判断された場合、細胞や組織を採取して顕微鏡で調べます。
- 子宮内膜生検:外来で行える簡易的な検査で、細いチューブやスプーンのような器具で子宮内膜を少量採取します。
- 子宮内膜全面掻爬(そうは):より詳細な検査が必要な場合に行われ、子宮内膜を広範囲に採取します。痛みを伴うため、麻酔(静脈麻酔)下で実施されます。
4. 病理組織検査
採取した組織を顕微鏡で詳しく調べ、以下の点を確認します。
- 子宮内膜の構造異常(単純型か複雑型か)
- 細胞異型の有無
- 悪性所見(子宮体がん)の有無
5. 鑑別診断
子宮内膜増殖症と似た症状を示す他の疾患(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮体がんなど)との区別も重要です。
特に重要なのは、細胞異型の有無を確認することです。異型を伴う子宮内膜異型増殖症は子宮体がんへの進展リスクが高く、治療方針が大きく異なるためです。また、子宮内膜異型増殖症と診断された場合、すでに子宮体がんが併存していることも少なくないため、詳細な検査が必要となります。
子宮内膜増殖症の治療法とホルモン療法の実際
子宮内膜増殖症の治療は、細胞異型の有無、患者の年齢、妊娠希望などを考慮して選択されます。主な治療法は以下の通りです。
1. 異型のない子宮内膜増殖症の治療
異型のない子宮内膜増殖症は、がん化率が低く、多くの場合(約60%以上)が自然に改善するため、基本的には経過観察が行われます。しかし、症状が持続する場合は以下の治療が検討されます。
- 黄体ホルモン療法。
- プロゲスチン製剤(メドロキシプロゲステロン酢酸エステルなど)を使用
- 一般的な投与方法:21日間内服後、1週間休薬を1クールとし、3クール程度実施
- 副作用:吐き気、嘔吐、食欲不振、むくみ、体重増加など
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(低用量ピル)。
- 若年者の無月経が原因と考えられる場合に使用
- ホルモンバランスを調整する効果がある
- 周期的黄体ホルモン療法。
- 月経周期に合わせてプロゲステロンを投与
- エストロゲンの量を抑える効果がある
2. 子宮内膜異型増殖症の治療
異型を伴う子宮内膜増殖症は、子宮体がんへの進展リスクが高いため、より積極的な治療が必要です。
- 外科的治療(子宮全摘出術)。
- 閉経後や妊娠希望のない患者に対する標準治療
- 子宮を完全に摘出することでがん化のリスクを排除
- 卵巣や卵管の摘出も同時に行われることがある
- 妊孕性温存治療(妊娠を希望する若年患者の場合)。
- 高用量黄体ホルモン療法(MPA療法):12~24週間の長期投与
- 治療効果の確認のため、3~6ヶ月ごとに組織検査を繰り返す
- 再発リスクがあるため、妊娠までの間、定期的な経過観察が必要
3. その他の治療法
- 偽閉経療法。
- レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)。
- 子宮内に装置を設置し、局所的に黄体ホルモンを放出
- 経口プロゲスチンと比較して子宮摘出率が低いという研究結果がある
治療後は定期的な経過観察が重要です。特に子宮を温存した場合は、再発や子宮体がんへの進展リスクがあるため、3~6ヶ月ごとの超音波検査や組織検査による経過観察が推奨されます。
子宮内膜増殖症と妊娠への影響と対策
子宮内膜増殖症は妊娠に様々な影響を与える可能性があり、特に妊娠を希望する女性にとっては重要な問題です。ここでは、子宮内膜増殖症と妊娠の関係、および妊孕性(妊娠能力)を維持するための対策について解説します。
子宮内膜増殖症が妊娠に与える影響
- 不妊のリスク増加
- 子宮内膜の異常な増殖により、受精卵の着床環境が悪化する可能性があります
- ホルモンバランスの乱れが排卵障害を引き起こすことがあります
- 子宮内膜の状態が不安定なため、着床しても流産のリスクが高まることがあります
- 治療による妊孕性への影響
- 子宮内膜異型増殖症の標準治療である子宮全摘出術を行うと、妊娠は不可能になります
- ホルモン療法による排卵抑制が一時的に妊孕性を低下させることがあります
妊娠希望がある場合の対策と治療アプローチ
- 妊孕性温存治療
- 若年で妊娠希望がある場合、子宮を温存する治療が検討されます
- 異型のない子宮内膜増殖症では、黄体ホルモン療法が主な選択肢となります
- 子宮内膜異型増殖症でも、高用量黄体ホルモン療法(MPA療法)による保存的治療が可能な場合があります
- 治療後の妊娠計画
- ホルモン療法後、子宮内膜の状態が正常化したことを確認してから妊娠を試みることが重要です
- 必要に応じて不妊治療や排卵誘発治療を行うことがありますが、エストロゲン依存性の疾患であるため、これらの治療がリスクを高める可能性も考慮する必要があります
- 治療後は3~6ヶ月ごとの定期検査を継続し、再発や悪化がないか確認します
- 妊娠成功後の管理
- 妊娠に成功した場合も、妊娠中や出産後の経過観察が重要です
- 出産後は子宮内膜の状態を再評価し、必要に応じて再発予防のための治療を検討します
- 長期的な計画
- 子宮内膜異型増殖症で子宮を温存した場合、妊娠・出産後に子宮全摘出術を検討することもあります
- 家族計画を含めた長期的な治療計画を医師と相談することが大切です
子宮内膜増殖症の患者が妊娠を希望する場合、婦人科医と生殖医療専門医の連携による総合的な管理が重要です。治療と妊娠のタイミングについては、疾患の状態、年齢、他の不妊因子の有無などを考慮して個別に判断する必要があります。
日本産科婦人科学会による子宮内膜増殖症の解説と妊娠への影響についての詳細情報
子宮内膜増殖症の予防と日常生活での注意点
子宮内膜増殖症は完全に予防することは難しいですが、リスクを低減するための生活習慣の改善や定期的な健康チェックが重要です。以下に予防策と日常生活での注意点をまとめます。
1. 健康的な生活習慣の維持
- 適正体重の維持。
肥満は子宮内膜増殖症の重要なリスク因子です。脂肪細胞からエストロゲンが産生されるため、適正体重の維持がホルモンバランスの安定につながります。BMI(体格指数)が25未満を目標にしましょう。
- バランスの良い食事。
野菜や果物、全粒穀物を多く含む食事を心がけましょう。特に以下の食品が推奨されます。
- 定期的な運動。
週に150分程度の中等度の有酸素運動は、ホルモンバランスの改善、体重管理、全身の健康維持に効果的です。
- ストレス管理。
慢性的なストレスはホルモンバランスに悪影響を与えることがあります。瞑想、ヨガ、十分な睡眠など、ストレス軽減のための習慣を取り入れましょう。
2. 定期的な健康チェック
- 婦人科検診の定期受診。
年に1回の婦人科検診を受けることで、子宮内膜の異常を早期に発見できる可能性が高まります。特に40代以降の女性や、子宮内膜増殖症のリスク因子を持つ女性は定期検診が重要です。
- 不正出血への注意。
月経期間以外の出血や、月経パターンの変化(量の増加、期間の延長など)があれば、早めに婦人科を受診しましょう。
- 既往歴・家族歴の把握。
子宮内膜増殖症や子宮体がんの家族歴がある場合は、医師に伝え、より注意深い経過観察を受けることが大切です。
3. ホルモン剤使用時の注意点
- ホルモン補充療法(HRT)。
閉経後のHRTを受ける場合は、エストロゲン単独ではなく、プロゲステロンとの併用療法が推奨されます。
- 低用量ピル。
エストロゲンとプロゲステロンを適切に配合した低用量ピルは、子宮内膜増殖症のリスクを低減する可能性があります。
- 処方薬の定期的な見直し。
ホルモン剤を使用している場合は、定期的に医師と相談し、用量や種類の見直しを行いましょう。
4. 症状出現時の対応
- 不正出血や月経過多などの症状が現れた場合は、自己判断せずに早めに婦人科を受診しましょう。
- 診察時には、症状の詳細(出血の量、タイミング、持続期間など)を医師に正確に伝えることが重要です。
- 検査や治療の必要性について医師と十分に相談し、適切な対応を心がけましょう。
予防と早期発見が最も重要です。特にリスク因子を持つ女性は、定期的な健康チェックと生活習慣の改善に努めることで、子宮内膜増殖症のリスクを低減できる可能性があります。