止血パウダー送達カテーテルと非吸収性局所止血材
止血パウダー送達カテーテルの原理とバリア形成
止血パウダー送達カテーテルで扱う代表的な非吸収性局所止血材は、粉末をガス圧(例:CO2)でカテーテルから出血部位へ送達し、粉末が水分を急速に吸収して膨張・自己粘着性を示すことで、血液など体液を遮断する物理的(機械的)バリアを形成します。
この「面で覆って止める」発想は、クリップで“点”をつかめない、熱凝固で“狙って焼けない”状況、つまり出血点の同定が難しい視野不良や、がん出血のような広い滲出に強みがあります。
一方で、粉末は凝固因子を直接活性化する薬剤ではなく、あくまでバリアにより止血環境を作る機序が中心なので、原因治療(潰瘍底の血管処理、腫瘍の追加治療、抗血栓薬調整など)とセットで考える姿勢が重要です。
意外と見落とされがちな点として、製品により「粉末の性状」と「駆動方式」が異なります。例えばHemosprayはCO2カートリッジを用いるデリバリーシステムで、粉末(ナトリウムベントナイト)を送達します。
一方、別製品では空気圧・振動運動を用いてカテーテルから散布する設計で、散布後にゲル化して機械的バリアを形成し、体内に吸収されず一定期間内に体外へ排泄される旨が記載されています。
この違いは「準備の手順」「トラブル時の対処」「最大使用量」「院内の保管・管理(電源や予備カテの考え方)」に直結するため、導入時は“似たデバイスだから同じ”とみなさず、添付文書ベースで手順を作り込む必要があります。
止血パウダー送達カテーテルの適応:非静脈瘤性消化管出血
止血パウダー送達カテーテルで使用される非吸収性局所止血材は、添付文書上「非静脈瘤性消化管出血」の止血を目的として内視鏡的に使用する旨が明記されています。
禁忌・適用外の整理は特に重要で、例えば消化管瘻や消化管穿孔が疑われる患者などには使用しない、という考え方が示されています。
また、特定の出血(炎症性腸疾患、虚血性腸炎、感染性腸炎など)や小児に対する安全性・有効性が確立されていない旨も添付文書に列挙されており、現場では「止血できそう」だけで選ぶと逸脱が起こり得ます。
臨床的には、非静脈瘤性上部消化管出血のガイドラインでは、止血法の特徴を理解し状況に応じて選択すること、クリップ止血法または熱凝固法を第一選択とし、局注法や散布法は単独ではなく併用を推奨する、という方向性が示されています。
参考)非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン(第2…
この文脈に沿うと、止血パウダーは「第一選択になりにくいが、視野不良・びまん性・レスキューで価値が高い」「初期止血で時間を稼ぎ、 definitive therapy に繋ぐ」役割として組み込むのが現実的です。
さらに、抗血栓薬服用中の患者では再出血リスクが高くなり得るため、内視鏡処置における抗血栓薬管理の臨床ガイドラインに従うよう警告されています。
止血パウダー送達カテーテルの使用方法:距離1~2cmと吸引回避
止血パウダー送達カテーテルの成否を分ける実務ポイントは、カテーテル先端を出血部位から常に1~2cm離す、という「距離設計」です。
近づけすぎると閉塞や塞栓リスクの観点で不利になり得るため、少し引いて“面で覆う”意識が安全にも効きます。
噴射前には血液をできる限り除去し、鉗子チャンネルを空気でフラッシュしておくといった手順が記載されており、粉末デバイス特有の「乾燥環境を維持する」思想が背景にあります。
現場で起こりやすい落とし穴が「吸引」と「粉末」の相性です。添付文書では、カテーテル閉塞を避けるため、カテーテルがチャンネル内にある間は血液を吸引しない、内視鏡チャンネル内にパウダを吸引しない、といった注意が複数箇所で明確に示されています。
このため、手技の流れを通常の止血(吸引しながら視野確保→処置)から切り替え、「吸引を止める/一時中断する」「必要なら止血の時間を置いてから吸引する」など、チーム全員で共通認識を作る必要があります。
また、手技中のガス注入で消化管内腔の体積が増えるため、過膨満がないか確認し送気量とパウダ量のバランスを取る、という注意もあり、ここは麻酔・看護側の観察が合併症予防に直結します。
実装のコツを箇条書きで整理します。根拠は添付文書に沿い、施設ごとの内視鏡システムに合わせて手順書へ落とし込みます。
- 🧭 カテ先を出血点に押し付けない(目安1~2cm離す)。
- 🧯 カテがチャンネル内の間は吸引しない/粉末の偶発吸引を避ける。
- 🌬️ 粉末は湿気で固まりやすい前提で、噴射前にチャンネルを乾いた状態に近づける。
- 🔁 閉塞したら無理に押し続けず、バルブをOffにして抜去・予備カテに交換する手順を決める。
止血パウダー送達カテーテルの有害事象:閉塞・塞栓・誤嚥
止血パウダー送達カテーテルは低侵襲に見えて、粉末ならではの有害事象が体系的に整理されています。Hemosprayの添付文書では、塞栓、パウダによる大腸の閉塞、穿孔、誤嚥、感染症、アレルギー反応などが重大な有害事象として挙げられています。
別製品でも、閉塞や塞栓、誤嚥、穿孔などが列挙されており、「粉末を送達して腔内に残す」こと自体が、他の止血デバイスと異なるリスク構造を持つと理解できます。
特に“誤嚥”は、上部食道括約筋(UES)より5cm下での使用に制限する、という形で具体的に回避策が明記されており、適応部位の判断は術者の裁量ではなくルール化が必要です。
閉塞については、製品によって上限設定があります。Hemosprayでは、1患者あたり3製品までとする(大腸閉塞の恐れ)という注意が書かれています。
別製品では、患者一人あたりの最大使用量(例:6g/日)や低体重患者の上限など、量の管理が明文化されています。
つまり「止まらないから追加」は単純ではなく、上限・交換・代替治療(クリップ、熱凝固、IVR、外科)への切り替えラインを、術前からチームで握っておくのが安全策です。
再出血の扱いも重要です。Hemosprayの臨床成績では、初回止血率や再出血率に関するデータが示され、Forrest分類によって再出血の傾向が異なる可能性も記載されています。
この点は「粉末で止めたから終わり」ではなく、原因病変・出血型に応じた再出血モニタリングを、ガイドラインに従って実施する必要がある、という添付文書の基本方針にもつながります。
止血パウダー送達カテーテルの独自視点:院内プロトコルと教育設計
検索上位では手技紹介に寄りがちですが、実装で差が出るのは「院内プロトコル」と「教育設計」です。添付文書には、吸引回避、チャンネル閉塞回避、過膨満の監視、予備カテ交換、UESより遠位での使用制限など、通常の止血と異なる注意点が多く、属人的運用だとヒヤリ・ハットが増えやすい構造です。
そこで、導入時は“術者の手技”だけでなく、“看護師・CE・麻酔(鎮静)・内視鏡室運用”まで一体で設計すると、トラブルが減りやすくなります。
特に「吸引を止める」判断は、術者が操作していなくても吸引が入る運用だと破綻するため、スコープ側の吸引設定・合図・チェック項目を明文化する価値があります。
プロトコル化の例(テンプレとして流用しやすい形)を示します。各項目は添付文書の注意点に沿って、院内の標準手技に落とし込む発想です。
- ✅ 使用前チェック:包装破損なし、カテのキンクなし、予備カテの所在確認、内視鏡チャンネル径要件を満たす。
- ✅ 手技中の役割分担:術者=距離維持と噴射、介助者=吸引オフ管理、看護=腹部膨満/バイタル監視、記録者=使用量・噴射回数の記録。
- ✅ 失敗時の分岐:初期止血が得られない場合は、代替の内視鏡治療・IVR・外科へ速やかに切替できる体制を確認する。
- ✅ 処置後管理:再出血リスクを前提に観察し、原因治療計画(追加内視鏡、薬物、IVRなど)を組む。
最後に、意外と軽視されがちな教育ポイントとして「粉末がどこに付着すると困るか」を共有しておくのが有効です。内視鏡を反転させた状態で噴射するとスコープ外側に付着し得ること、狭窄部通過時に注意が必要なことが添付文書で注意喚起されています。
つまり、止血成功の評価だけでなく、次の操作(スコープ調整、狭窄通過、観察継続)が安全に続けられるかまでを手技の一部として訓練するのが、粉末止血の“運用のコツ”です。
適正使用・手技詳細(距離、吸引回避、禁忌、臨床成績)参考:PMDA:COOK Hemospray 内視鏡的非吸収性止血材 添付文書
製品原理(空気圧・振動、排泄、最大使用量、禁忌)参考:PMDA:ネクスパウダー 添付文書
散布法の位置づけ(クリップ/熱凝固を第一選択、散布法は併用推奨)参考:J-STAGE:非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン