脂肪酸合成どこで細胞質と小胞体

脂肪酸合成どこで

脂肪酸合成「どこ」を最短で整理
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合成の主戦場は細胞質

哺乳類のde novo脂肪酸合成(パルミチン酸まで)は細胞質で進み、ACCとFASが中核です。

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仕上げは小胞体

鎖長延長や不飽和化は小胞体膜上で進み、Elovl6やSCDなどが脂肪酸の「質」を作ります。

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ミトコンドリアは材料供給

アセチルCoAはミトコンドリアで生じ、クエン酸として細胞質へ搬出→ACLYで再びアセチルCoAになります。

脂肪酸合成どこで起きるか:細胞質とミトコンドリアの分担

脂肪酸合成(de novo lipogenesis)が「どこで起きるか」を一言で言うなら、炭素鎖を伸ばしてパルミチン酸(C16:0)を作る主反応は細胞質(細胞質基質)です。これは脂肪酸合成酵素(FAS)と、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)という2つの巨大な律速要素が細胞質側で働くためです。肝臓が主要な脂肪酸合成の場になりやすい、という臨床的な「どこ」もここに重なります(過栄養時に炭水化物が脂肪酸へ流れる)【肝が中心になりやすい背景は後述】。

松坂賢, 島野仁. 脂肪酸伸長酵素Elovl6による脂肪酸の質の制御と生活習慣病(薬学雑誌 2022) に、細胞質でパルミチン酸まで合成し、その後に小胞体膜上で延長・不飽和化がある、という「場所の切り分け」が明確に書かれています。

一方で、脂肪酸合成の「材料」はミトコンドリアに強く依存します。解糖系→ピルビン酸→ミトコンドリア内でアセチルCoAが生じますが、アセチルCoA自体は内膜を自由に出られないため、クエン酸として細胞質へ運び、ATP-クエン酸リアーゼ(ACLY)がクエン酸を開裂して細胞質アセチルCoAを供給します。つまりミトコンドリアは“合成工場”というより“原料供給・交通ハブ”で、合成の場所は細胞質、と理解すると学生・研修医の誤解が減ります。ACLYが「脂肪酸合成のためのアセチルCoAを生成する」点は、大学の生化学講義資料でも端的に説明されています。

藤田医科大学 生化学資料:ATP-クエン酸リアーゼ

ここで医療従事者が押さえておくと便利なのは、「脂肪酸合成はミトコンドリアで起きる」という誤ったイメージが、β酸化(脂肪酸分解)と混線して生まれやすい点です。β酸化は主にミトコンドリアマトリクスで進みますが、合成は基本的に細胞質です(場所が逆)。“場所の対比”を最初に示すと、患者説明やチーム内教育で話が通りやすくなります。

  • 脂肪酸合成(de novo):主に細胞質でパルミチン酸まで。
  • 脂肪酸分解(β酸化):主にミトコンドリアで進む。
  • 材料のアセチルCoA:ミトコンドリア由来→クエン酸シャトル→細胞質へ。

脂肪酸合成どこで進むか:ACCとFAS(律速)を場所で覚える

脂肪酸合成の理解を一段深めるなら、「どこで」「どの酵素が」律速になるかをセットで覚えるのが早道です。細胞質でまずACCがアセチルCoAからマロニルCoAを作り、その後FASがマロニルCoAを2炭素単位として繰り返し付加し、最終的にパルミチン酸(C16:0)へ到達します。薬学雑誌の総説でも、細胞質でACCとFASが段階的に反応しパルミチン酸まで合成される、と明確に記載されています。

薬学雑誌 2022:細胞質でACC/FAS→パルミチン酸

この「マロニルCoA」が重要なのは、単なる合成中間体にとどまらず、脂肪酸のミトコンドリア取り込み(カルニチンシャトル)を抑える方向に働き、合成と分解が同時に暴走しにくいように調整する点です(臨床栄養の文脈では“飢餓・摂食でスイッチが切り替わる”説明がしやすい)。ACCが合成とβ酸化の制御点になりうることは、ACC阻害に関する研究背景としてもよく整理されています(ACCがmalonyl-CoAを合成し、脂肪酸合成とβ酸化に関与)。

Acetyl-CoA Carboxylase(ACC)の機能解明(資料)

医療従事者としては、ここを「薬理の入口」にもできます。たとえば脂肪肝(NAFLD/NASH)ではde novo脂肪酸合成が亢進し、ACCやFAS、SCD1といったリポジェニック酵素群の関与が議論されます。肝臓の脂質生合成がSREBPを中心に制御される、という構図は、肝臓領域の解説でも“司令塔”として紹介されます。

UMIN 肝臓領域解説:SREBPと脂質生合成

  • 場所:ACC・FASは“細胞質側”の主役。
  • 律速:ACC(マロニルCoA生成)+FAS(C2単位で伸長)。
  • 臨床接続:NAFLD/NASHなどでリポジェネシス亢進が問題化しやすい。

脂肪酸合成どこで仕上がるか:小胞体での鎖長延長と不飽和化(Elovl6・SCD)

「脂肪酸合成=パルミチン酸を作って終わり」と覚えると、実際の生体脂質の多様性(C18、C20、さらに不飽和化)を説明できません。重要なのは、パルミチン酸(C16)を“出発点”として、より生理的に主要なC18脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸など)へ“作り替える”工程があり、その場所が小胞体膜上であることです。薬学雑誌の総説では、細胞質でパルミチン酸まで合成した後、小胞体膜上で鎖長伸長(elongation)と不飽和化(desaturation)が進む、と二段構えの場所が示されています。

薬学雑誌 2022:小胞体膜上で伸長・不飽和化

ここで“意外と知られていないが臨床説明に効く”のが、脂肪酸の「量」だけでなく「質(鎖長・不飽和度・組成)」が病態に関与する、という観点です。Elovl6(脂肪酸伸長酵素)はミクロソーム(小胞体)局在酵素で、C16の飽和/一価不飽和脂肪酸をC18へ伸長し、脂肪酸組成を大きく動かします。Elovl6欠損マウスで“肥満でもインスリン抵抗性が改善する”という現象が報告されており、脂肪酸組成の変化がシグナル(IRS-2/AktやDAG/PKC経路など)に影響し得る点が論じられています。

薬学雑誌 2022:Elovl6と脂肪酸の質・インスリン抵抗性

患者指導の場では「脂質は悪者」だけで終わりがちですが、脂肪酸の種類の違いが細胞膜流動性や小胞体ストレス、炎症、ミトコンドリア機能に波及し得る、という話ができると説得力が上がります。もちろん栄養指導は単純化が必要ですが、医療者の頭の中に“場所と質の階層”があるだけで、薬物治療や生活指導の説明の組み立てが変わります。

  • 細胞質:C16(パルミチン酸)までの骨格づくり。
  • 小胞体:C16→C18への伸長(Elovl6)+二重結合導入(SCD)で「質」を作る。
  • 臨床の観点:脂肪酸の「量」だけでなく「質」がインスリン抵抗性などに影響し得る。

脂肪酸合成どこで還元力を得るか:NADPH供給(ペントースリン酸経路・関連酵素)

脂肪酸合成が「どこで」進むかを場所で言い切ると細胞質ですが、実際には“還元力(NADPH)がどこから来るか”まで説明できると、教育用記事として完成度が上がります。FASによる伸長反応は還元反応を繰り返すため、NADPHが必要です。SREBP1cが脂肪酸合成酵素群だけでなく、NADPH供給に関与する酵素(例:グルコース-6-リン酸脱水素酵素、リンゴ酸酵素など)の発現も誘導し得る、という点は、生化学系の総説に整理されています。

生化学(JBS)総説:SREBP1cとNADPH供給酵素の誘導

この文脈で医療現場に近い“説明のコツ”は、脂肪酸合成が「糖代謝の余剰」を脂質へ変換するプロセスであるため、解糖系→TCA→クエン酸シャトル→ACLY→ACC/FASという流れが、糖質過剰・インスリン作用・転写因子(SREBP)によって同時に押し上げられやすい、という因果の束を示すことです。肝臓領域の解説でも、SREBPが脂肪酸合成や関連酵素発現を制御する“司令塔”としてまとめられています。

UMIN 肝臓領域解説:SREBPと脂質生合成

また、NADPHは脂肪酸合成だけでなく抗酸化(還元型グルタチオン維持など)にも必要であり、代謝の偏りが酸化ストレス耐性に影響する可能性があります。研究・教育では、同じNADPHという“通貨”を脂肪酸合成とレドックス制御が奪い合う、という比喩で説明すると理解が早い場面があります。細胞内でNADPHを高く保つ必要性については、細胞代謝の解説記事でも触れられています。

同仁化学研究所:細胞内代謝とNADPH

  • 脂肪酸合成の必需品:NADPH(還元力)。
  • 供給の代表:ペントースリン酸経路(G6PDなど)+リンゴ酸酵素など。
  • 臨床の見立て:糖質過剰→SREBP活性化→脂肪酸合成+NADPH供給系の同時誘導が起こりやすい。

脂肪酸合成どこで破綻するか:医療従事者の独自視点(「場所のズレ」を病態説明に使う)

検索上位の解説は「細胞質で合成、小胞体で伸長、ミトコンドリアで分解」といった教科書整理に寄りがちです。臨床の現場で一歩役立つ独自視点として、“場所のズレ(コンパートメント間の不整合)”を意識すると、脂肪肝やインスリン抵抗性の説明が立体的になります。たとえば、ミトコンドリアは本来エネルギー産生やTCA回路の場ですが、エネルギーが余る状況ではクエン酸が細胞質へ汲み出され、ACLYが脂肪酸合成用のアセチルCoAを作ります。つまり、ミトコンドリアの代謝状態(余剰)そのものが“脂肪酸合成を細胞質で加速させるスイッチ”になり得ます。ACLYがクエン酸からアセチルCoAを作り脂肪酸生合成へつなぐ、という位置づけは、大学の講義資料・解説で明確です。

藤田医科大学:ACLYの反応と位置づけ

さらに小胞体は、脂肪酸の「仕上げ(伸長・不飽和化)」の場であると同時に、タンパク品質管理の場でもあります。脂肪酸組成の変化が小胞体ストレスや炎症へ影響し得る、という方向性は“脂肪酸の質”の議論と相性がよく、Elovl6の研究では脂肪酸組成の変化が代謝疾患の表現型に影響する可能性が示されています。ここで重要なのは、「脂肪が増えた」だけではなく、「どの場(細胞質・小胞体)で、どの種類の脂肪酸が増えたか」という問いに置き換えることです。Elovl6が脂肪酸組成を変え、病態に影響し得るという論旨は、総説としてまとまっています。

薬学雑誌 2022:脂肪酸の質と生活習慣病

医療従事者向けに言い換えるなら、「脂肪酸合成どこ?」は“細胞質”で終わりではなく、(1)ミトコンドリアの余剰が材料を押し出し、(2)細胞質で量を作り、(3)小胞体で質が決まり、(4)その質がシグナルやストレス応答に波及する――という“場所の連鎖”です。患者説明では専門用語を減らしつつも、「体が余った糖を脂として貯める流れには、体の中の複数の部屋(細胞内の場所)が関わる」と表現すると、生活指導の納得感が上がることがあります。

  • 独自の切り口:「合成の場所」ではなく「場所の連鎖」と「場所のズレ」で病態を捉える。
  • ミトコンドリア余剰→クエン酸シャトル→細胞質ACLY→脂肪酸合成が加速。
  • 小胞体の仕上げ(伸長・不飽和化)=脂肪酸の“質”が変わり、代謝シグナルへ波及し得る。

(肝臓領域でのSREBPと脂質生合成の説明が有用:どの酵素が誘導されるかの背景)

NASH進展における脂質代謝ホメオスタシスの破綻とその意義(UMIN)

(脂肪酸の「質」を小胞体膜上のElovl6が制御し、生活習慣病へ影響し得る総説)

脂肪酸伸長酵素Elovl6による脂肪酸の質の制御と生活習慣病(薬学雑誌, PDF)

(クエン酸から細胞質アセチルCoAを作り脂肪酸合成につなぐACLYの要点)

ATP-クエン酸リアーゼ(大学講義資料)