シャントの種類と透析治療の選択肢

シャントの種類と特徴

シャントの主な種類
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自己血管内シャント(AVF)

患者さん自身の動脈と静脈を直接つなぐ方法で、約90%を占める最も一般的な選択肢

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人工血管内シャント(AVG)

人工血管を介して動脈と静脈をつなぐ方法で、自己血管が使用困難な場合に選択

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透析用カテーテル

緊急時や一時的な使用、シャント作製困難な場合に頸部や鼠径部の静脈から挿入

シャント自己血管内シャントの特徴と作製方法

自己血管内シャント(AVF)は、患者さん自身の動脈と静脈を皮膚の下で直接吻合してシャント血管を作製する方法です。日本の血液透析患者さんの約89.7%がこの方法を使用しており、男性で91.5%、女性で84.6%を占めています。作製部位は手首の近くにある橈骨動脈と橈側皮静脈をつなぐことが多いですが、血管の状態によって様々な組み合わせがあります。

参考)シャントの種類


手術は通常1時間程度で、数センチメートルの皮膚切開を行い、動脈と静脈をつなぎ合わせます。動脈の血液が静脈に直接流れ込むことで、静脈が徐々に太くなり透析に必要な針が刺せるようになります。穿刺開始は術後2週間以降が推奨されますが、施設によって状況は異なります。

参考)シャントの種類 〜自己血管


自己血管内シャントの5年開存率は60~75%程度と報告されており、長期使用が可能です。開存率が高く感染に強いため、バスキュラーアクセスの第一選択として作製されます。ただし、心機能が低下している場合(左室駆出率30~40%未満)や穿刺可能な自己血管がない場合は選択されないこともあります。

参考)自己血管内シャント(AVF)を解説《吻合方法3つ・作成部位・…

シャント人工血管内シャントの利点と課題

人工血管内シャント(AVG)は、動脈と静脈を人工血管で介してつなぐ方法で、日本では男性で5.5%、女性で10.6%の割合で使用されています。患者さん自身の静脈が細い、針刺しが可能な場所に静脈がないなどの理由で自己血管内シャントが作れない場合に選択されます。

参考)知っておきたい!透析に用いるシャントの種類に関する基礎知識


人工血管は深い場所にある静脈などを利用し、針刺しが可能な浅い場所に通して透析を行います。針刺しや止血が比較的容易というメリットがありますが、自己血管内シャントと比較して閉塞や感染のリスクが高く、寿命も2~3年と短くなります。人工血管の材質はePTFE(拡張ポリテトラフルオロエチレン)またはPU(ポリウレタン)が主体で、形態はストレート型が標準となります。

参考)柏市・松戸市・我孫子市でシャント手術(バスキュラーアクセス)…


アクセス血流量は500~1,500mL/分であり心負荷であるため、患者の心予備能とアクセス血流量の相対的関係により心不全症状が出現することがあります。血清腫の発生頻度は日本では5%前後と報告されており、増大傾向や感染の恐れがある場合は治療が必要です。

参考)https://www.jsdt.or.jp/tools/file/download.cgi/22/pdf022.pdf

シャント動脈表在化とカテーテルの使用法

動脈表在化は、返血路としての表在静脈が確保できる側の上腕動脈を筋肉の間の深い場所から皮下の浅い層へ挙上させ、直接体表から動脈を穿刺しやすくする方法です。通常、上腕動脈は厚い筋膜の下の深い場所を走行しており大事な神経も近くにあるため、反復して針刺しを行うには危険が伴います。そこで上腕動脈を筋膜の上の浅い場所へ移動させる手術を行うことで、透析時の反復穿刺が可能になります。この方法は約2%の患者さんに使用されており、心不全の患者さんなどに適しています。

参考)シャントについて解説


透析用カテーテルには短期留置型と長期留置型があります。短期留置型カテーテルは頸部や大腿の付け根の静脈から挿入し、先端を大静脈や心臓の中に入れることで十分な血流を取ります。留置期間は3週間を目処としますが、発熱あるいは感染の徴候がなければ3週以上の留置も可能です。

参考)https://www.jsdt.or.jp/tools/file/download.cgi/23/pdf023.pdf


長期留置型カテーテルは数週間から数ヶ月、場合によってはそれ以上にわたり体内に留置して使用します。緊急透析導入時やシャント作製が困難な場合、シャントトラブル時の一時的利用などで選択されます。カテーテルでの透析は接続のみで治療ができるため穿刺痛がありませんが、体外にカテーテルが出ているため感染の危険性が高まり、また抗血栓性に劣るため閉塞しやすい欠点があります。

参考)透析用長期留置カテーテルとは?種類・メリット・デメリットと管…

シャント合併症の種類と対処法

シャントには複数の合併症が発生する可能性があります。最も多い合併症はシャント狭窄で、血管が徐々に細くなっていく状態です。静脈弁による狭窄、内膜肥厚による狭窄、血栓による狭窄、シャント吻合部の狭窄、人工血管と自己静脈の吻合部の狭窄などがあります。内膜肥厚とは動脈の高い圧力の血液が静脈に流れ込むことにより、静脈内側の膜が傷つき厚みが増して内腔が細くなる現象です。

参考)バスキュラーアクセスについて解説|渋谷・大手町・みなとみらい…


シャント閉塞は血管が完全に詰まってしまう状態で、緊急の治療が必要となります。狭窄や動脈硬化のような病変がなくても、大量の除水による血圧の低下、下痢等の脱水、長時間の圧迫が原因となって閉塞します。早期閉塞であればエコーでPTA(経皮的血管形成術)を行い、シャント血流を戻すことも可能です。

参考)シャントの合併症 – 阿佐谷すずき診療所


感染はシャントの手術時の傷や針を刺した傷から細菌感染を起こすもので、特に人工血管シャントで注意が必要です。穿刺する箇所が赤い、痛い、腫れる、熱感がある、膿が出るなどの症状がみられます。治療としては抗生剤の投与を行いますが、細菌が全身に回って敗血症を起こすと命に関わるため、シャントを閉じる必要があります。

参考)【必読】シャントの合併症の種類と対処法


シャント瘤には穿刺部瘤と吻合部瘤の2種類があります。急速に大きくなった場合、青紫色に変色した場合、あるいは感染した場合は止血が困難となり破裂することがあります。スチール症候群はシャント血流が多くなると指先に血液が流れず、冷たく白くなり痛みを感じる状態で、進行した場合指先が腐ってくることがあります。静脈高血圧はシャント側の腕全体または一部が腫れてくる状態で、シャントより遠く心臓に近い場所が狭窄してシャントの流れが心臓に戻らず逆流しうっ血している状態です。​

シャント管理と日常生活の注意点

シャントを長持ちさせるためには日常的な管理が重要です。シャント部分を毎日観察し、朝夕2回は耳を当てて音を確認し、シャント部分に触れて拍動が正常に感じられるかの確認をしましょう。血管が急に硬くなったり音が聞こえなくなったりすると、血液の流れが止まっている可能性があるため、かかりつけの施設に問い合わせてください。

参考)日常生活で気をつけること


術後に患者さんが気をつけるべきことは、手術した側の上肢が締まるようなことは避けることです。腕時計やブレスレットなどは手術をした側の腕には巻かないようにし、冬場で長袖を着る場合も袖口で手首が締まるようなセーターは避けます。どうしても着用する場合は袖口のゴムの部分を伸ばすかゴムを切ってください。​
内シャントの術後に手の運動をすると血流が増加し、シャント化した静脈が太くなるといわれています。ゴムボールや硬めのスポンジなどを使って、握る→離すの動作を繰り返すことが推奨されます。シャント部は清潔に保ち、穿刺する前に穿刺する腕を石鹸で洗うことも予防になります。また透析日の入浴は避けるなど感染を引き起こさないように気を付けることが必要です。​
穿刺部位を透析のたびに少しずつ(毎回5mm)ずらしてもらうことがシャントを長持ちさせる最大のポイントとも言われています。透析がない日、1日1回はシャントを自分の手で触れて確かめる習慣をつけましょう。​

参考リンク。

日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」

バスキュラーアクセスの作製基準や管理方法について詳細な指針が示されています。

MediPress透析「シャントの種類~自己血管」

自己血管内シャントの作製手術や術後の注意点について詳しく解説されています。